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一つの物語  作者: 世界の一つ
一つの物語〜嵐の前編〜
66/112

嵐の前編・姉妹

ーーPM21時過ぎ、アサギリ家・自室(ミツキ)




二千年前に唯一愛した人……か……

ずるいよ……亡くなった人に敵うわけないじゃない……


リュウイチはこう言った "唯一愛した人" と……

つまり、現時点で誰も愛していないのは確定した……サツキ達は勿論、私の事も愛して……いない。分かっていた事だけど、ヒメカ……さんを引き合いに出されると、いつもより胸を締め付けられるように胸苦しくなる……


「……リュウイチ……」


彼が二千年前の人だろうが、リジェネレーションした人だろうが、史上最悪のイレギュラーの一人だろうが、関係無い……私は彼を愛してる……これは絶対的に変わらない気持ち……なのに


「あんな事言われたら、寂しくなるじゃない……」


昔から私たちを遠ざける節はあったけど、あんな事言われたら……

勝てないのかな……?どうしても越えられないのかな……?


コンコン


……?


「はーい!」


「やっほーみぃ姉!遅くにごめんねぇ、でも寝る前に少しお話したい事があってさぁ……今大丈夫?」


ん?


「ええ……どうしたの?あなたらしくない……もしかして、リュウイチの事?」


「うん……やっぱ、戦う覚悟してたみたいだよ。それでも、そうならない様に色々考えてるみたい……あたしがりゅうくんの部屋に入るの気づかなくなるくらい」


……相当ね。

サツキがまた勝手に彼の部屋に侵入してた事を咎めるよりも、彼の状態の方が気になる。

彼はいつも家族の事となるといつもより真剣に考える事がある、ミナトちゃんが体調崩した時は三日間寝ずの看病をしてあげてたし、ユキタカが遊んでて大怪我した時も、誰よりも早くメディカルルームへ駆けつけたり……


「リュウイチ、私たちが子どもの頃に、お父さんたちに黙って遠出して迷子になった時も、ずっと探し続けてくれたよね……私たちを見つけてくれた時のあの表情、今でも鮮明に覚えてる」


「あたしも……その時雪が降ってて、しかも吹雪いてたのに、りゅうくんはずっとそんな中であたしたちを探してくれてたんだよね。あたしたちを見つけてくれたりゅうくんは、すっごい安心した表情をしてて、優しさに満ち溢れた顔してたね」




"こんな所にいたのか……怪我とかしてないか……?"




"ほら、帰るぞ"




そう言って彼は私たちに手を差し伸べてくれて、家に着くまでずっと手を繋いでいてくれて……私より年上に感じたあの温もりと優しさ……私の思い違いじゃなかったんだね。リュウイチは私よりずっとしっかりしていて……私よりずっと年上で私たちのお兄ちゃんみたいな雰囲気で……


「あれ以来、何かあれば絶対に助けてくれたわよね」


「うん、でも……りゅうくんにとってあたし達は妹分みたいな、家族愛的な感じで見てたんだよね……」



……サツキも私と似たような思いをしてるのね……

そう、リュウイチにとって私たちは家族愛みたいな思いで私たちと接していたのよね。



……寂しい



こんなに近くにいるのに、一気に遠い存在になってしまったような……そんな気持ちになる。


「そうね……」


そう返答するのが精一杯だった、つい先程まで考えていた事を思い出し、同時に再び胸を締め付けられるような痛みと苦しみに襲われた。


「……あたし達、りゅうくんの負担になってるのかな?」


え……?


「りゅうくんに無理矢理くっついたり、好きだって言ったりしてるけど……やっぱ、りゅうくんにとっては迷惑だったり負担だったりするのかな……?」


っ!?


「それは……」


サツキの発言に私は言葉を失った、よくよく考えてみると、リジェネレーションする直前まで愛していた人を喪った彼にとって、私たちのしてる事は癒える前に傷口を抉るような事なのかもしれない……


そう思うと私は罪悪感と自己嫌悪に陥った……愛する人に自分の気持ちを押し付けて、苦しめていたんじゃないかと……頭の中がパンクしそうになる


「……そう……なのかもしれないわね……私達は彼の気持ちを知っていたのに、色々言ったり……色々したりして……リュウイチを傷つけていたのかもしれないわね」


「……あたし達、どうすれば良いんだろう?りゅうくんのそばにいたいけど、それすら迷惑って思われてないかな?」


サツキは完全に冷静さを失っている、こんなに困惑した顔なんて初めて見るかもしれない

でもきっと、私も同じ表情をしてしまっているかもしれない。


……ダメよね、私はサツキのお姉ちゃんなんだから、私がしっかりしないと!

彼にもこんな私達の表情を見せるわけにはいかない、それにこれ以上迷惑をかけるわけにもいかない……!


「サツキ、私達がこんな顔してたら、余計にリュウイチの負担になってしまうわ。だから彼が安心できるように、私達なりにサポートしましょう」


「それは……そうかもしれないけど、りゅうくんがあたし達を拒否したらどうするの?」


「それでもやるのよ!彼の負担を少しでも減らすためにも、私たち達がリュウイチを守るの……彼が私達を守ってくれてるように、彼が笑顔でいられるよう戦うの!」


めちゃくちゃこじつけた理由だけど、今の私にはそれくらいしか言葉が思い当たらない。それでも発言した以上責任は持つ、その言葉がでまかせじゃない事を証明する。


「そう……そうだね、いつもワガママばかり言って、りゅうくんを困らせてる分もあたし達でりゅうくんを守ろう!こんな暗い顔見せたら余計負担をかけちゃうだろうし!」


「こんな時だからこそリュウイチを支えてあげないとね!きっとヒメカさんも、同じ事するかもしれない……ヒメカさんの分も私達が彼を支えましょう」


「だね!もしかしたらヒメカさん以上にりゅうくんの支えになるかもしれないし……あぁっ!そしたらりゅうくんとのラブラブ生活も夢じゃないかも!♪」


す、すごい妄想力ね……まあ、それがこの子の良いところでもあるんだけど。

でも良かった、少しは元気になったみたい、サツキの表情に明るさが戻ってる。


「……ところで、またリュウイチの部屋に侵入したみたいね?私、何度も止めなさいって言ったわよね?」


「げっ……え、えっとぉ……ほら、情報を得るためにやむおえず……ね?♪」


それっぽい事を言えば済むと思って……でも確かにそのおかげでリュウイチの気持ちを確認できた事は確かだから、仕方ないか……


「もう……今回だけだからね!」


「は〜い♪」


分かってないわね……リュウイチが呆れるはずだわ……

なんだか気持ちが落ち着いてきて、思考が冷静になってきたわね。改めて考えると、私たちアキトさんたちの実力を知らない……修業の一環でユキタカとは何度か手合わせした事あるけど、アキトさんとはない……


「ねぇ、サツキはアキトさんと手合わせした事ある?」


「ほえ?……ううん、あたしはいつも修業する時はみぃ姉やりゅうくんと一緒にやってるから、アキトさんとはないよ……みぃ姉も?」


「ええ……リュウイチに一度聞いた事あるくらい。確か、ナルミ流格闘術の使い手でリュウイチ曰く"格闘術だけなら僕より上"だって」


いつも自信に満ち溢れてる彼が初めて他の人を認めたような事言うからよく覚えてる。


「あのりゅうくんがそんな事言ってたの!?うわ……という事はかなりの実力者ってコトだよね……あたしだってりゅうくんに勝ったことないのに……」


確かに……それもリュウイチはサツキの猛攻を軽やかに躱していたイメージがある。あらゆる面で特出してるナルミ家……そんなナルミ流格闘術の使い手のアキトさん……どんだけ強いわけ?


「でも、りゅうくんには二人の勝負には介入するなって言われちゃったんだよねぇ……一対一の勝負をしたいみたい」


「リュウイチがそんな事を……でもいざとなったら……!」


「ダメだよみぃ姉、りゅうくんは本当に真剣だったし、あたし達は見守る事だけしかできないんだよ」


「そう……でも"だけ"じゃないわ、リュウイチを精一杯応援する!だから、心を込めてリュウイチを応援しながら見守りましょう!」


「みぃ姉……うん、そうだね!りゅうくんには勝ってもらわないとあたし達のラブファイトが終わっちゃうもんね♪」


またそんな私の恋愛魂に火をつけるような事言って……宣戦布告という事かしら?

でも悔しいけど、その考え方には同感してしまった。リュウイチがいなくなる事でこの恋を終わらせるなんて絶対にイヤ!


「まあ、不本意な終わり方にしない為にも、心の底からリュウイチを応援しながら見守りましょう。彼がいない世界なんて考えられないもの」


「そうだね、あたしもそんなの考えたくないし全然想像できな〜い!だってりゅうくんだよ?今まで一度も負けたことが無くて、ハンパない実力の持ち主のりゅうくんが誰かに負けるなんて思えないもん!」


そうよね、二千年前の時がどうだったか分からないけど、少なくとも私たちが知っている範囲では負けた姿を見たことがないし、想像すらできない


そんなリュウイチが認める程の実力を持っていて、なおかつ彼より上の実力を持っているアキトさん……一体どうなるのかしら?


「う〜ん、アキトさんのコトは未知数で考えられないから、ユキタカ君との戦闘を回避する方法がないか考えてみようか?」


「ええ、そうしましょうか……ユキタカがどうしてリュウイチや私達と対立する事になりそうなのか、その理由を改めて考えてみましょう」


「は〜い♪ えっとぉ、様子がおかしくなったのはやっぱり紅との出会いだよね?多分トモカちゃんを守りたいっていう思いから、力に対する欲望?みたいな思いが強くなったようなイメージがあるけど……」


サツキの言う通り、紅の力と思想に同調してきてしまった感じがする。


「リュウイチから聞いた事があるけど、ユキタカは"良く言えば誰よりも純粋で、悪く言えば流されやすい性格だ"って言ってた。そこにトモカちゃんという何をしても守りたいと思う存在ができた事で、紅の言う、力さえあればイレギュラー達をこの世界から排除できるという考え方に賛同してしまったんでしょうね」


「最近のユキタカ君はどこかおかしいってトモカちゃんが言ってた。異変には気づいてるみたいだし、本人と話し合ったコトもあるけど、自分は大丈夫だって返答されたらしいよ……一番愛する人に指摘されても変わらないって相当だよね」


確かに……前から意固地なところがあると思っていたけど、ここまでだったなんて……


「ユキタカを一番説得できそうなのはトモカちゃんだと思っていたけど、かなりの頑固者みたいね。いっそうの事、その考え方は間違ってると話したらどうかしら……?」


「う〜ん……はっきりそう言える人がりゅうくんだけなんだろうけど、それはあえて言わないようにしてるって感じしない?」


「リュウイチ自身が紅の考え方に納得できるところがあるみたいだから、はっきり言えないのかしら。だとしたら他にそう言えそうな人は……うーん……やっぱりリュウイチしか考えられないわね」


私の発言にサツキはうん、と言って同感した。

ミナトちゃんも言う時は言う子だから説得力があるかもしれないけど、目下の人に言われてもきっと納得はしないでしょうし……


「リュウイチより上となると、アキトさんかしら……あっ! だから尚更、紅側になびいてるのかもしれない!リュウイチより説得力があって尚且つ上の立場と言ったら、形上アキトさんしかいないのかもしれないわ……私達はリュウイチを基本として考えているけど、ユキタカにとってはアキトさんが上位なのかもしれない」


「あ〜なるほど!アキトさんの考えてるコトを察したユキタカ君が更に紅が正しく、トモカちゃんを守れる最善策だって思ってるのかも!」


ユウ様からの連絡を聞いて、益々って感じかしら……アキトさんと戦う事を拒んでいるようだったけど、何を優先するかあの時に決めてしまったのかもしれない……


「仮にさ……ユキタカ君の説得ができなくて戦うコトになっちゃったら、みぃ姉は戦えそう?」


「……私は何があってもリュウイチの味方だから、戦う相手が例えユキタカでも私は戦うわ。戦えるか戦えないかじゃなく、戦うの!リュウイチを守るために」


「……やっぱりみぃ姉はすごいなぁそこまで言い切れちゃうなんて……あたしは覚悟しきれなかったのに……」


え……?


「りゅうくんを優先するあまり、その優先してる人の家族と戦うと、その優先してる人……りゅうくんが悲しむかもしれないって考えたら、少し迷っちゃった」


そういう事か……彼を想うあまりに決断する事ができなかったのね。


「今は?まだ迷ってるの?」


「りゅうくんやみぃ姉と話したら何か吹っ切れた様な気がする。あたしも戦う!りゅうくん達だけに辛い思いはさせたくないもん!」


決意した様な眼差しで私の目を見るサツキ……私もその気持ちに応えるように真っ直ぐサツキを見つめ、頷いた。


覚悟はできた、あとはリュウイチを如何に支えられるか……


「私達はいつもリュウイチに支えてもらって来た……だから今度は私達が彼を支えましょう!」


「ラブファイトは一時休戦!みんなでりゅうくんを支えよう!♪ 」


「おーー!」

「お〜〜!♪」















次回、9月15日18時掲載

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