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一つの物語  作者: 世界の一つ
一つの物語〜嵐の前編〜
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嵐の前編・義妹

ーーセントラルへ帰還から数日後ーー




あれから数日経つが、紅も高レベルイレギュラーも発見されていない。やはりミソラの虚言だったのだろうか?他の国でも高レベルイレギュラーも時空間魔法の探知もされておらず、状況は切迫し続けている。

仮に虚言だったとして何のメリットがある?セントラルに注目させて、他国などを攻めている訳でもない。紅の大きな動きがあった訳でもない。紅やリュウガ達の目的は一体なんなんだ?


コンコン


「入れ」


「お兄ちゃん、どうしたんですか?今日はお昼ご飯食べる時にリビングへ居ただけで、その後からずっとお部屋にこもったままで……まさか体調でも悪いのですか?」


「いや、そんな事はない。少し考え事をしてただけだ、心配かけてごめんな。ありがとう、ミナト」


部屋に入ると僕に近寄り、僕の額に手を触れて熱が無いかどうか確認するミナトに、感謝と詫びの気持ちを込めて頭を撫でる。

そんな僕をミナトは無邪気な笑顔で見ていた。


ピピピ……ピピピ……


SPDの通知音が鳴り響き、僕は直ぐに取り出し画面に目をやる……アカリちゃん?

あぁ、そう言えば今日は試験の発表日だったな


「もしもし、結果はどうだった?」


『やったよりゅういちお兄ちゃん!結果はもちろん合格でーす!!♪』


「ほお、それは良かったじゃないか!よく頑張ったな」


「アカリさん、おめでとうございます!」


『ありがと、りゅういちお兄ちゃん!ミナトお姉ちゃん!それとですねー……実は今りゅういちお兄ちゃんの家の近くまで来てるんだけど、遊びに行っても良いぃ??』


いや、それは良い?のレベルではなく、行くからな!というレベルだぞ?


「はぁ……まあ良い、今日は特別だぞ」


『わーい!じゃあまた後でね!♪』


ピッ


プチデビルめ


ピンポーン!


近くにいるってそんな近くにいるだったのかよ!本当にそういう天真爛漫なところはサツキそっくりだな。


「もしかしてアカリさんでしょうか?」


「ああ、そうみたいだな」


僕は仕方なく立ち上がり、一階に降りてインターホンの画面を表示させた。インターホンを鳴らした人物はやはりアカリちゃんだった。


「今度からはもっと距離がある時に連絡してこい」


『えへへ、ごめんなさーい!♪』


イタズラじみた笑顔で謝るアカリちゃんを家の中へと入れさせ、リビングへ行くよう促した。

僕はその後、三人分のコップにお茶を入れて各自に配ってやった。


「いただきまーす!♪ いやぁ、おめでたい時のお茶は格別だねぇ!」


「アカリさんはどこの配属になったのですか?」


お茶を飲みながらミナトが問いかけた。


「ん?あぁ、セントラルの三等粛正官だよ!サツキ先輩には遠く及ばないけど、いつか絶対にサツキ先輩と同じ一等粛正官になってみせるんだから!♪」


三等粛正官か、アカリちゃんの実力ならまずまずの配属か、力のみなら二等粛正官でも良いが、問題は知力と判断力だろうな。それさえクリアできれば、少し早めに一等粛正官にもなれるかもしれない。


「でも良かったな、望み通りセントラルのヘヴンに配属が決まって、他国へ行かずに済んだわけだし」


「うん!でもいつか他国のヘヴンにも行ってみたいんだぁ、サツキ先輩みたいになるには、もっといろんな事にチャレンジして自分を磨きたいし!」


ほお、結構未来の事を考えてるんだな。歳の割に結構しっかりしてるじゃないか、その辺はトモカちゃんか二人の両親に似てるのかもしれないな。


「お前ならすぐに色んな事を身に付けられるかもしれないな。講習の時でも思っていたが、アカリちゃんは基本的に応用力が高い、サツキの動きに似てる所もあるしな」


「ホントに!?サツキ先輩に似てるなんてすっご嬉しいー!!でも、それよりりゅういちお兄ちゃんに褒められたのが一番嬉しい……かも♪」


まあ、僕は他人を褒めることは基本的にあまり無いからな。本当にそう思った時にしか言わないし、認めもしない。その僕が褒めてるんだから喜ばれて当たり前か


「あ、今褒めてやった的な事考えてたでしょぉ!」


鋭い


「でもなんだかアカリさんが羨ましいです。これからお兄ちゃんと同じ所で過ごせるという事ですから、ミナトのお兄ちゃんを取られてしまわれないか心配でもあります」


僕の隣に座っていたミナトはしょんぼりした表情で見つめてきた。安心しろ妹よ、僕はそう簡単には誰かに取られたりはしないぞ。


「大丈夫だ、僕の一番の妹はミナトだ、それはずっと変わらないぞ」


僕がミナトの頭を撫でながらそう言うと、少し安心したのか笑顔に戻った。


「いいなぁ……ちょっとぉ、りゅういちお兄ちゃん!私を仲間外れにしないでよぉ!」


なんだよ仲間外れって、どちらかと言うとアカリちゃんの事をメインに話してただろうが


「アカリちゃんも十分に褒めただろ?それにそもそも仲間外れにした覚えはない」


「ぶぅー……あ、そう言えばお姉ちゃんから聞いたんだけど、何かユキタカお兄ちゃんが最近どこか変だって言ってたけど、りゅういちお兄ちゃん知ってた?」


あの子もそう思うなら、やはりそうなんだろうな


「多分だが、あいつなりの成長過程の最中なんだと思う。ミソラと戦う前からそんな予兆がチラチラ見えてたけど、あいつと戦闘して実感してしまったんだろう、力の違いというやつを……そしてどう成長すれば良いか、ユキタカなりに決めてきてるんじゃないかと僕は思っている」


二人とも僕の話を真剣に聞いているようで、黙ったまま僕を見ている。


「力への渇望と言った方が分かりやすいか?ユキタカはユキタカなりに何かを守ろうとしてる。それはトモカちゃんであり、あいつを取り囲む者達であり、自分自身でもある……のかもしれない。また選択を誤らなければ良いんだがな」


「前も似たような事があって、その時はりゅういちお兄ちゃんが助けてあげたんでしょ?なら、もう一度りゅういちお兄ちゃんが導いてあげれば良いんじゃない?」


「僕は助けたつもりもないし導いたつもりもない、あいつが選ぶ選択肢を増やしてやって、その内の一つを選んだ結果があれだ。仮に僕が導いたとしても、それはユキタカの選択ではなく、僕の選択になってしまう、だから今回も選択肢を与える事しかしない」


そう言い切る僕に困惑した表情で見つめるアカリちゃん……まだこの子には分からないか?いや、僕の説明が下手なのかもしれないな。


「つまりぃ……基本的にユキタカお兄ちゃんの判断に任せて、りゅういちお兄ちゃんは見守るって事?」


なんだ、分かってるじゃないか


「その通りだ、実質的に僕はアドバイスするだけだ。あいつの生きる道なんだ、ユキタカ自身に選ばせた方があいつの為にもなるだろう。だから僕たちはユキタカが間違った決断をしないよう警告する事に専念するべきなんだ」


「それでもユキタカお兄さんが間違えてしまったらどうするんですか?」


「その時は兄さんである僕が叩き直す、家族として、一人の男として、それとトモカちゃんの為にも、な」


「おお!さすがお兄ちゃんです!」


叩き直すか……それで済めば良いが、命の取り合いにまで行かなきゃ良いんだがな。


「やっぱりりゅういちお兄ちゃんってしっかりお兄ちゃんしてるね。ユキタカお兄ちゃんと比べると凄い違いが分かる」


その前にあいつと僕を比べるな。ユキタカでは次元が違いすぎる


「まあ、あいつもあいつなりの良い部分があるのは間違いないんだが……ただ、僕を評価するのにユキタカを引き合いに出すにはレベルが低過ぎる!正当な評価にはならない」


「あっはは!出た、りゅういちお兄ちゃんの自信満々発言!でもホントに頼りになっちゃうから凄いよねぇ♪」


自信満々か……昔の僕ならこんな発言は有り得なかっただろうな。でも自信があるからと言って自分の事を好きだとは言いきれない


少なくても僕は



「ミナトはそんなお兄ちゃんも大好きです!」


「私もぉ!♪」



僕は、自分が嫌いだ。



自分の持つコップに入っているお茶が僕の姿を反射し写している。それに向かって自分の中でそう呟いた。


「……?お兄ちゃん、どうかしましたか?」


「いや、お茶のおかわりをしようと思ってな。お前たちはどうする?」


無意識に俯いていた僕の顔をミナトが覗き込み、少し不思議そうに訊いてきたので、二人の少なくなっていたお茶を見て僕はそう返答した。


「あ、じゃあ頂きます!」


「うん、ありがとう!」


机に置いておいた入れ物を取り、二人のコップお茶をつぎ足した。


「それにしても、アカリちゃんが粛正官か……そう言えばどうしてヘヴンに入隊しようと決めたんだ?」


「えー今更?それって私に興味無いから今まで訊いて来なかったって事ぉ??」


言い方に怒りを感じる


「興味が無い訳でも無い、ただトモカちゃん経由でサツキに懐いて、あいつと同じ様にヘヴンに入隊しようとしてると、勝手に思い込んでいただけだ」


「あっそ……まあ九割はりゅういちお兄ちゃんの想像通りかな?あとの一割はお父さんとお母さんが元ヘヴン隊員だったのが理由なの、お母さんは結婚と同時に引退しちゃったけど、小さい頃から他の人達のために戦ってる二人がカッコイイなぁと思ってたんだぁ」


確か、アカリちゃん達の御両親はヘヴンの元市政官だったな。


「なるほど、という事はアカリさんの御家族は全員がヘヴンの隊員さんなんですね!」


厳密に言えば御両親はもう引退してるが、ミナトの言う通りまだ二人が引退していなければ、全員ヘヴンの隊員だったんだな。


「親父さんは確か、今はヘヴンのいくつかある内の一つのスポンサー会社に就職しているんだよな?」


「おぉ!そこまで知ってたんだ!」


「前にユキタカから聞いた事がある、毎日ノロケ話をしてくるからな」


それも一時間弱も話して来るから困りものだ。平和で良いと思うべきか、平和ボケしてると言うべきか


「お兄ちゃんが国外へ出張してる時も、ユキタカお兄さんは毎日トモカさんのお話ばかりしていましたよ」


ミナトもかわいそうに。僕が居ない時もユキタカのノロケに付き合わされていたんだな。


その後しばらくの間、ユキタカ達の話で持ち切りになり、日常的な時間が過ぎていった。




ーーPM17時過ぎ、ナルミ家・リビングーー



「あ、そろそろ帰らなきゃ!お母さんがご馳走作ってくれるって言うから、夕飯前に少しシュギョーして体を動かしておきたいんだ!」


「ほお、中々殊勝な心がけだな。頑張れよ」


「ありがと!と言うか、りゅういちお兄ちゃんがシュギョーのお手伝いしてくれない?」


そう言いながら玄関近くまで移動するアカリちゃんについて行く僕とミナト。

やれやれ……


「断る、僕は元々女と手合わせするのは好きじゃないんだ。こちらから攻撃できないし、やるとなると多少痛い思いをさせてしまうからな」


「あ、そっか!そう言えばサツキ先輩から聞いた事がある。剣も拳も銃器も女の人に向けたくないんだよね……それもヒメカさんが関係してるの?」


咄嗟の発言に……いや、名前に少し呆気に取られてしまい言葉を発する事ができなかった。

それを見たアカリちゃんが、ハッとした顔をした。


「ご、ごめんなさい!私なんて事言っちゃったんだろう……!ホントにごめんなさい!」


平謝りするアカリちゃん……こんなに慌てて素直に謝るなんて、今までなかったので少し新鮮だ。

なんて思ってる場合じゃないな、ミナトもアカリちゃんも僕を心配した顔で僕を見ている。


「気にするな、もうずっと昔の話だ。僕もだいぶ慣れて来てるし、そこまで気をつかわなくて良いさ」


「……お兄ちゃん」


大丈夫だ、と言ってミナトの頭を軽く撫でた。振り返ると、アカリちゃんは未だに申し訳なさそうな表情をして落ち込んでいる。自分の不謹慎さに嫌悪していると言ったところか?


「ほら、早く帰って修行するんだろ?急がないと夕飯の時間になってしまうぞ。僕なら大丈夫だ」


「う、うん……本当にごめんなさい……じゃあお邪魔しました……」


……ダメだなこりゃ


「ミナト、アカリちゃんを家の近くまで送って来るから、先に風呂掃除しててくれるか?」


「あ、はい!分かりました!」


「え、でも……」


「なんだ?僕が送ってやる事が不服なのか?」


そうじゃないけど……と、歯切れの悪い返事をするアカリちゃん。そんなこの子を見て、僕はさっさと靴を履きドアを開けてアカリちゃんの手を握り、外まで引っ張り出した。

抵抗は感じられないが、罪悪感に陥っているという表情をしてアワアワしている。


「ほら、早く乗れ……じゃあミナト、いって来る」


「いってらっしゃい、お兄ちゃん!」


予備のヘルメットをアカリちゃんに渡しながら、ミナトとやり取りを終え、エンジンをかけた。


「アカリさん、また来て下さいね」


「え……あ、うん!またね、ミナトお姉ちゃん!」


良い子だなミナトは、アカリちゃんを気づかえるなんて、やはり自慢の妹だ。この子は本当に良い姉になるぞ、アカリちゃん。


まだ少し元気が戻っていないが、ヘルメットを被り、僕につかまって来たので、出発した。

ここからあそこまでだとバイクで約五分、僕はヘルメット内部に映っている時間を見て、少しスピードを上げた。


「……反省するなとは言わないが、反省するならそれでいい。後悔だけはするんじゃないぞ、次に繋げるためにな」


「……うん!」


よしよし、また少し元気が戻って来たな。


「でも驚いたよ、アカリちゃんって意外と空気を読めるし反省できる子だったんだな」


「な、なにその言い方!それじゃあまるで私が空気読めないただのアホな子みたいじゃん!」


「僕はそこまで思っていなかったんだが、アカリちゃんは自分の事をそんな風に評価していたんだな。更に驚いた、見た目と性格には似合わない、なかなか控えめな子なんだな」


僕が少しからかいながらイタズラっぽくそう返答すると、アカリちゃんはアホ!と言って僕の背中を軽く叩いて来た。


……うむ、元気を取り戻してきたな……少し痛いが


そうこう言い合っていると、目的地まで着いた。エンジンを止めてヘルメットを脱ぐ僕とアカリちゃん。その表情にはちゃんといつもの明るさが戻っていた。少し痛い思いをしたかいがあったな


「ありがと、りゅういちお兄ちゃん……色々と……」


「どういたしまして、でも本当に今日はアカリちゃんの事を見直したぞ。この一日でどれだけアカリちゃんが成長してきているのか知る事ができた……有意義な時間だったぞ」


アカリちゃんは少し照れ気味に視線をそらした。

ふむ、こういう表情もトモカちゃんに似てるな。


「ぶー!りゅういちお兄ちゃんのいじわるー!」


「はいはい……じゃあ気をつけて帰れよ……また遊びに来ても良い、またな」


照れ隠しで叩いてきたアカリちゃんの頭を軽く撫で、僕は予備のヘルメットを受け取り、自分のヘルメットを被り再びバイクのエンジンをかける。


「りゅういちお兄ちゃん!……またね!♪」


元気いっぱいに返事をしたアカリちゃんに向けて軽く手を振り、僕はバイクを発進させた。


サイドミラーを見ると、アカリちゃんがこっちを向いて大きく手を振って見送っている姿が写っていた。


「(……良い子じゃない、貴方に相当懐いてるわね)」


「ユリナか……ああ、悪い子ではないな。ユリコちゃんみたいにしっかりしてる面もあるし、可愛い妹が増えたみたいだ」


「(……)」


「(ふふ……貴方はあの子より少し鈍いところがあるわね)」


あん?


どういう意味だ?と聞き返したが、ユリナもユリコちゃんも気配を消して、返事をしなかった。


僕が鈍い?前にも言われた事があるような……まあよいか……
























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