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一つの物語  作者: 世界の一つ
一つの物語〜還らぬ存在編〜
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還らぬ存在編2

「唯一愛した人……?リュウイチが……?」


僕のそばにいたミツキが動揺する。他の皆んなも似たような反応をしていたが、僕はそのまま話を続けた。


「二人もほとんど満身創痍だったんだが、リュウガの行動を止めるべく二人は捨て身の覚悟で向かって行った……ベルクレア様もヒメカも僕とほぼ同等の実力の持ち主だった。しかし、リュウガはその力を凌駕する実力を持っていた……そしてベルクレア様を……そして最後にヒメカを僕の目の前で……殺した」


「りゅうくん……」


「兄さん……」


サツキとユマリが僕の心情を察したのか、悲愴な声で……ほぼ涙声に近い声で僕の名を呼んだ。


「そして僕は悲しみ、そして怒り狂い、擬似バーサーカーへと変貌した。その時これもリュウガと双子だったためか、今まで受けたダメージが回復していた……と言っても、再戦で大ダメージを受ける事になったんだが、どうにかリュウガを倒した……と思っていた。僕はその後身動きとれず、息をするだけでやっとの状態にまで追い込まれた……そうしてリュウガとの戦いは終わった……終わったはずだった」


「でもリュウガも負傷しただけで死んではいなかった……だよね?」


「その通りだ、ハク。ところで兄貴は何故リュウガが生きていた事を知ってたんだ?僕でさえ知らなかったのに」


「伊達に特殊執政官をやってるわけじゃないって事さ、この地位にいて尚且つナルミ家の血縁者だからな、詳細な情報が自然と入って来るんだよ」


マスターに聞いたのか?それとも賢者達か?

まあいい、兄貴の様子を見る限りこれ以上の情報は無さそうに見えるが


「リュウ兄、もう天地聖創の力は残ってないのか?」


「多分使い果たしたんだと思う、もし僕にその能力があるとすれば、リュウガが生きているなんて有り得ないからな……でも奴はまだ生きている、だから僕にはその力は無いのだろう」


ユキタカは少し残念そうな表情をしている……最近少しこいつの発言や考えてる事が変わってきているような気がする。


「……昔話は終わりだ、奴が生きていると分かった以上、こちらも相応の体制を取らなければならない。ミソラでさえ一等粛正官をあれだけの人数を殺害しているのだからな」


「そうですね、ジュンの事もありますし、団体で行動する必要があるでしょう……リュウイチ隊長、どうしますか?」


キラがそう尋ねて来ると、再び皆んなが注目してきた。


「少なくても一個小隊で行動する必要があるだろうな。ミツキはユキタカとトモカちゃん、ハクはキラとユマリとサツキと組め、カイとレイは引き続き僕のガードを務めてもらう、良いな?」


一同は『了解』と返答し、この先の一個小隊を決めた。これで事なきを得ればいいんだが……


……いつの間に僕はこんなに心配性になったんだ?自分の変化に気づき少し動揺した。リュウガの事が発覚してからだろうか。それとも、昔の事を思い出したからだろうか……いずれにしてもこのままではダメだ。昔の様に何も守れない男になってしまう!


「リュウイチ、リュウガは同じナルミ家の血縁者だ、お前は再びリュウガを殺すことができるか?」


「やるしかないだろ、この世界の理をアイツが自由にして良い筈がない。必ず止める」


「そうか……んじゃ大丈夫だな!それにしても、さっきの俺の登場の仕方、かなりきまってなかったか!?凄まじく良いタイミングだったよな!な、みんな?」


やっぱりやかましい。


「えっと……ご説明ありがとうございました……アキトお兄さん」


「トモカ、そんな気つかわなくて良いって」


「ほっほぉ、中々できた子じゃないか!ユキタカはいい恋人を持ったな、兄ちゃんは鼻高々だ!はっはっはっ!」


はいはい、一人でやってろ


「特に何も質問がなければこれで解散だ、僕は拘置所に用がある。お前たちは先に帰ってーー」


「メインゲートで待ってるわ……リュウイチ、行ってらっしゃい」


「私も。兄さん、早く戻って来てね」


ミツキが食い気味に返答してきた……まあいつもの事だが今回は様子が変だ、ミツキは目に涙を浮かばせており、ユマリはウチに来る予定だからまだ分かるが、珍しく表情が曇ったままだ。普通ならすぐに表情を押隠すのだが、今回はそうする事ができないようだ……昔話のせいだろうか


「あ、リュウ兄!俺も行く!」


こいつが、早く帰らずついてくるなんて珍しいな……まあいい。

ユキタカがついてくる事が決まると、自然とトモカちゃんもついてくる事になった。


「あたしも行く〜!」


「分かった、じゃあ行くか。二人とも、また後でな。お前たちも、またな」


僕は皆んなの反応や返答を聞いたのち、執務室を後にした。


「そう言えば、カイから聞いたんだがミソラがこの辺りに来たんだって?何をしに来たか、お前たちも分からないままなのか?」


「ああ、突然街に現れて破壊の限りを尽くしてた……自分は絶対に負けないって事を自慢して来たみたいにな」


ミソラらしくないな、いくら力を得たとしてもそれを誇張したり自慢したりするような奴じゃない、僕が知ってる範囲のミソラならだが


「カイさんとユキタカ君、それに一等粛正官の方々がいなかったら私たちもやられていたかもしれません」


「カイさんはやっぱり他のやつらより強かったよ、伊達に歴戦を重ねてないって感じにな」


カイはまともに戦えてたのに一等粛正官があんなに死亡したのか?なにかひっかかる、カイの実力が高いのは確かだが……


「そっか……でも、ユキタカ君達も無事で良かった!今度遭遇したら倍返ししてやろうね!!」


「意気込むのは勝手だが、やり過ぎて被害を拡大させるんじゃないぞ」


はーい、と言って明るく返事をしたが、本当に大丈夫かどうか怪しいものだ……精神的にもな。


そうこう会話してる内に僕たちは拘置所に到着した。



「よっ!遊びに来たぜ、紅さんよ!」


「またお前か……ん?ぬぁ!?またおめぇか!今日こそ決着をーー」


「もうついてるしお前の負けだ。それと良い知らせだ、どうやら近々お前のお仲間が助けにくるみたいだぞ。良かったな」


「何!?レッカたちが?!そんな筈はねぇ、おらたち紅はこういう状態になった時は……」


見捨てる……と言いたいのだろうな。

なのにこいつを助けに来るとは、イレギュラー狩りのついでなのか?それともこいつの救助のついでにイレギュラー狩りをするのか。さてどっちだろうな。


「いずれにしても、法に反した行為にでれば僕たちが粛正する。そうなったら今度も拘置所行きで済むと思うなよ」


「へんっ!望むところじゃ!!」


本当に、態度と体型だけはデカイやつだな。


「警備兵、近々ここで不穏な動きがあるかもしれない、警備兵を増やして警戒しろ」


「了解致しました!」


これでいい、多少だが収穫もあったしそろそろ帰るか


「なあ、紅って組織は本当に人のために行動してるのか?」


ん?ユキタカ?


「おらたちは人々の願いを叶えておる、お前たちが粛正できなかった者達を始末してな。何度もそう言っておるではないか、お前もしつこいやつじゃのぉ」


「そうか……サンキュ!」


……ユキタカのやつ、もしかして


「ユキタカ、紅に入るつもりか?」


「えっ!?いや、ただリュウ兄みたいにこいつらには同感出来ることがあるってだけさ、それが強さの秘訣なのかと思ってな」


強さの秘訣か、確かに何かを守ろうとするときは自分でも信じられない力が出る時もあるが、こいつらの場合は完全に私情でイレギュラーを始末してるだけにすぎない。


理念だの思想だの宣っているが、結局の所ただの犯罪者だ。分かり合えれば、その気持ちをヘヴンと協力体制をとれば大きな希望とはなるが……今のところこいつらは犯罪者だからな。ユキタカにそれが分かっていれば良いのだが


「帰るぞ、もう用は済んだからな」


「ほえ?もう良いの?少し会話しただけじゃん?」


僕は出入り口に向かって歩き出すと、サツキたちが不思議そうな顔で僕を見た後、慌ててついて来た。


「ああ、僕が確認したかったのは、こいつを紅が助けに来る事を知っていたかどうかだ。僕があいつにその事を話しても驚いた様だったから、少なくてもあいつはそれを知らなかったんだろう。つまり奴が知らない行動を紅はとろうとしているって事だ。それが分かればあとは興味無い」


「紅に属する人でも知らない行動……確かに少し気になりますね」


トモカちゃんは不安気な表情をしていたが、すぐに表情が明るくなった。ユキタカがこの子の肩を抱いたからだ……アホカップルめ、少しは羞恥心を持て。


「もしかしたら、ミソラの狂言かもしれないしねぇ……本当に来るのかな?」


「どうだろうな……警戒するに越したことはないが、踊らされてる感があるのも気にくわない。とりあえず、お前たちも気を抜くなよ」


「了〜解♪」


衝突はなるべく避けたいんだがな



「あ、きたきた!どう、何か新しい情報でも分かった?」


「ああ、新しい情報がなかったという情報が手に入ったよ」


え?と言って、みぃ姉は疑問視したが、僕は構わず駐車場へと向かった。


「兄さん」


僕のすぐ後ろで歩いていたユマリが僕を呼んだので、なんだ?と答えた。


「……辛い事、話してくれてありがとう」


……ヒメカたちの事か


「気にするな、必要な情報だったからな。僕が暴走したときは僕を殺す気で戦えよ、そうじゃないと僕は止まらない自信がある」


「……あたしは反対、りゅうくんを暴走させないようにすればいい事だし、大事な人を殺す気で戦うなんてあたしはしたくない!」


「そうね、私が暴走した時のように、あなたが暴走したときは決してあなたを傷つけないわ。絶対にね」


……


「私は兄さんを信じてる、だから暴走するなんて有り得ないわ。私……たちがいるのだから」


ユマリにしては珍しい言い方だな。


「はいはい分かったよ、僕が暴走しないように立ち回ってくれよ、必ずな」


「了解!」

「了解」

「了〜解!」


皆んなは一斉にそう返事をした。僕もこいつらの事を何としてでも守り抜く……もう二度と僕の目の前で大切な人たちを死なせはしない!







ーー数十分後、ナルミ家自宅前ーー



「ありがとう、兄さん。じゃあ、先に行って夕飯の準備してくるわね」


ああ、と答えるとユマリは先に僕の家へ入って行き、みぃ姉とサツキと僕はそんなユマリを目で見送る。


「……」


「……」


……何か言いたげの二人を見て僕はある提案を言う事にした。


「お前達も来るか?せっかく帰って来たんだ、特別に僕の手料理をご馳走してやるぞ」


「え、良いの……?その……辛くない?あっ!えっとそうじゃなくて!!あの……」


どうやら僕が"昔話"をしたせいで、あの時の事を思い出し、辛くなっていると勘違いしているみたいだ


「そ、そうそう!きょ、今日くらいは我慢しておこうかなぁって……その……色々あったし……色々分かったし、色々……思い出しただろうから……そのぉ……」


やはりサツキも似たような事を思っているようだ、二人とも本当に似てるな。良い女たちじゃないか、出来ることならこいつらの幸せを守ってやりたい。と、僕はつくづく思った。


「二人とも、僕は大丈夫だから夕飯食べていけ。腕によりをかけてユマリと美味い料理をご馳走してやる」


「うん!」

「うん!」


よし、良い笑顔だ!

僕はそれを確認し二人を家に招いた。ドアを開くとそこには既にミナトがおり、目をキラキラさせていた。


「おかえりなさい、お兄ちゃん!!」


そう言いながら抱きついてきたミナトを軽く抱きしめ返し、頭を撫でた。


「ただいま、ミナト。体調とか崩してないか?」


「はい!元気いっぱいです、そしてお兄ちゃんパワーでさらに元気二千倍です!」


一安心だ


「ただいまぁ!!いやぁ、トモカと話が弾んじまってさぁ!」


「あ、おかえりなさい、ユキタカお兄さん」


「……格の違いを見た気がするわね」


「あっはっは!だね♪」


ユキタカは何のことか分からないと言ったような顔をしてキョトンとしている。

……ユキタカ、知らない方が良いという時もあるんだ、それが今だぞ。弟よ!


「気にするなユキタカ、早く手洗ってこい。兄さんとユマリが美味い料理を作ってやるから。さあ、みぃ姉達も手を洗ってこい」


三人は、はーい、と元気よく返事をして一斉に洗面所へと駆け出して行った。まるで短距離走みたいな光景だ。僕はミナトと共にリビングへと向かった。


「待たせたなユマリ、野菜洗っておいてくれたか?」


「おかえりなさい、兄さん。ええ、終わらせておいたわ」


ボールやまな板の上に洗いたての野菜が置かれていた。

よし、じゃあ作るか!


「お兄ちゃん、今日のお夕飯はなんですか?」


「今日は兄さん特製ロールキャベツだ」


「キャベツでロールする料理ですね?楽しみにして待ってます!」


ミナトはウキウキしながら返答した、この子の為にも腕によりをかけないとな。






次回9月10日掲載

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