一つの物語〜疑惑編3〜
「ミソラが現れただと?」
『ああ、理由はまだ調査中なんだが、突然現れて街を破壊しまくって消えて行ったよ。俺も何が狙いだったのか調査してるんだが、未だ分からずだ……すまない、留守を任されたのに……』
「そう自分を責めるな、ユキタカや他の隊員たちにもそう伝えてくれ。こっちこそそんな時に現場に居なくて悪かったな」
素直に謝ると、カイは首を振って否定した。
『お前たちは悪くないさ、留守を任されたのは俺たちだからな。お前の期待を裏切るような結果になっちまって……本当にすまないと思っているよ』
カイの表情は暗い……ついこの前までの明るさは完全に消えてしまっていた。
『それと、ミソラと戦闘してて思ったんだが、あいつ、朧月の渓谷事件の時のユリナたちと似たような動きをしていた。まるでこちらの動きを完全に読まれてるような……そんな感じだった』
なんだって?
こちらでもガラドだけじゃなく、モンスター達までも似たような動きをしていた……そうなるとやはりバックにいる奴はヨルの様に千里眼を持ってて、尚且つその能力を共有できるような能力を持ってるということになる……
『……どうした?何か、心当たりでもあるのか?』
「カイ……僕達も先日似たような動きをする敵と戦闘したんだ。もしも奴らの親玉が、他の者達にも同じ能力を共有できるような技を使う奴だと考えると……どう思う?」
『……そんな筈はないだろ?アイツはもう死んだんだぞ!』
そうだ、確かに死んだ筈……でももし違うとしたら……
『リュウイチ、俺はもう少しこの事について調べてみる。お前の方も何か分かったらすぐ知らせてくれないか?』
「ああ、分かってる。お前の方もな」
了解、と言ってカイとの通話を終えた
有り得ない……だが、能力の共有に能力の強化、そして憑依……こんな事しでかせる奴なんて一人しか思い浮かばない……!
コンコン
っ!?
「リュウイチー起きてるー?みんな揃ってるわよー」
みぃ姉か……少し変な事を考え過ぎたな。でも頭には入れておくか、あくまで仮説だがな。
「ああ、今行く」
とりあえず、先ずは紅より先にイレギュラーの粛正からだ。
「おはよう、リュウイチ」
「おはよ、お前らも……あんだけ騒いで疲労溜まってないか?」
「逆ぎゃく!元気いっぱいだよ!♪」
まあこいつならそうだろうな
「ユマリたちは?大丈夫か?」
「兄さんと寝れなくて寂しかったわ……」
はいはい!はいはい!
「僕も大丈夫です、いつでも行けます!」
「右に同じく、リュウイチ様こそ大丈夫ですか?」
ふん、誰にものを言ってるんだ
「大丈夫みたいだな。さあ、行くぞ」
僕たちはここの内部にある空港まで歩み始めた
、フュームはそこで待っているらしい。
本当に付いてくる気なのだろうか、これほどの支部を留守にできるとなると、相応に信頼できる部下が居ない限り成り立たないんじゃないか?
まさか、ライザがそうなのだろうか?
「来たな……待ちかねていたぞ」
「女を待たせてすまないな、少々遅れてしまったようだ」
「ふふ、仮にも女王陛下である我に媚びるでもなく、敬語も使わず、良く言えば平等に接するとは……中々の根性だな」
薄笑いを浮かべながら責めるでもなく、疎むでもなく、どこか珍しいものを見るような視線で僕を見つめるフューム。
「気に入らないなら悪いな、自分より上だと思うもの以外にはフランクに接するタイプでね……お気に召さないか?」
「いや、構わない。お前は我を負かした唯一の存在だ、それくらい許してやる」
寛大な女王陛下だな。
僕は少々フュームに感心しながらイクシラーに視線を向けた。これが新型機か……ってここ新型が多いな
「わぁー!見てください、最新鋭のエンジンですよ!それにこのデザイン、流石だぁ!」
「……ネストまでどれくらいで着く?」
「この機体だと大体一、二時間だろうな」
それはすごい。キラが興味を示す理由が何となくわかる気がする……が、あそこまではいかないな……
「では、すぐに乗り込め」
「誰が操縦を?」
「我だ」
一同は……キリザト兄妹と僕を除いた者達が『えぇ!?』と驚愕した。こいつ操縦もできるのか
「兄さん、隣よ?隣だからね?」
ユマリ……?少し怖いぞ……?
「ま、まあ、フューム様なら安心……よね?さあさあ、リュウイチ、乗りましょのりましょ!」
みぃ姉は僕の背中を押しながらイクシラーの中へ乗り込んだ。流石に他の飛空挺とは違って内部は狭いな。
「最小限に且つ乗組員が多く乗れるよう設計されているんです!それで最新鋭のエンジンを使っても、スタビライザーが安定して素早く移動できるんです!凄いなぁ!ははは!」
……どうやらそういう事らしい。
こいつここまで機械マニアだったのか、詳細情報を記憶してるとは中々やるな。
「はい!リュウイチはここっ!私はここね!」
イッ!
ほぼ無理矢理座席に座らせられ、みぃ姉はその隣へ腰を下ろした。ユマリはその光景を見てすぐさま反対側の隣の席へと座り、何か言いたげな表情で僕を見つめている……だから少し怖いぞ?
「人気者で辛そうだな、リュウイチ」
ああ、よく言われるよ……。
軽くため息をつき、はいはいと、頷いた。
「あ〜あ、特等席取られちゃった……じゃあみぃ姉で良いから手握っててね??ねっ??」
「なんか、言い方にトゲがあるような気がするけど……まあ良いわよ」
まだエンジンもかけていないのに、サツキはみぃ姉の手を握りしめている。こいつにとっては少し災難かもしれないな、この機体は。
「全員席に着いたな?発進するぞ!」
フュームはそう言ってイクシラーを起動させた。
エンジン音も小音なんだな、防音設備も備えているのだろうか?僕はそう思いながら、少し遠くに見える操縦席の窓を見た。
かなり速いな、これなら予想通り数時間で着きそうだ。
「ははは!凄いですよ!!この速さはこの機体でないと味わえないです!ははは!」
「かなり嬉しそうですねぇ、キラさんは」
「だな……」
キラのあのテンションは、ネストに着くまで続いた……
ーー数時間後、ネスト・トライモンド空港ーー
「もうヤダ!この飛行艇好きくない!!」
サツキは着陸してすぐさま外に出て我慢していたものを吐き出すように大声で怒鳴った。
確かにあの速さは凄かった、サツキにとっては地獄だったんだろうな。
「確かにこの国に高レベルの時空間魔法が発動されているみたいだな、ここは……ベルストか?」
「ん?リュウイチ、この国の事も調べてたの?」
「ああ、前に少しな」
ふーん、と言って僕の見ていたSPDを覗きこんでくるみぃ姉。また迂闊な発言をしてしまったが、まあ良いか。
「ベルストはここから南西の方角にある。急ぐぞ」
「ああ、分かった。さあ皆の者行くぞ!」
「フューム様、皆様、ネスト支部所属のカトウと申します。どうぞお乗り下さい」
予めここの支部に連絡を入れていたのか、送迎車が来ていた。ここの支部長は確か……リョウマだったか?後で念の為礼を言っておこう。
僕は車に乗りながらSPDでネスト支部へ連絡した。
呼び出し音が鳴りやがて、通話対応の者が出た。
「こちらセントラル・ホーリーヘヴン所属特務執政官リュウイチ、認証コード00724034016だ、支部長と話がしたいんだが」
『コードを確認致しました……リュウイチ隊長、申し訳ございませんが支部長はミッション中でございまして、現在お留守でございます』
ミッション?支部長自ら行ってるのか、行動力があるな……どっかの王女様みたいに。
「分かった、また後ほどかけ直す。じゃあ失礼する」
「ミッション中で支部長自ら行ってるって相当な事じゃない?厳しいミッションなのかなぁ?」
あるいは僕達が向かってる場所へ行っているとか……有り得なくはない、レベル8のイレギュラーだからな、相応の者が行かないと危険度が高い。
「まあいずれ会えるだろう、とにかく今は当初のミッションに集中しよう、その後まだ向こうのミッションが終わっていないようなら僕たちもそこへ向かおう」
「……」
ん?
「何か気にかかるような事でもあるのか?」
バックミラー越しに見ていた運転手と目が合った、その目は真剣そのものだったので、何となく気になり声をかけた。
「いえ、なんでもございません。ベルストへ着くにはまだ時間があります、少しお休みになっては如何ですか?」
「大丈夫だ、その必要はない、気遣い感謝する」
少し変わったここの風景を見ておきたいしな。
僕はカトウの気遣いを断り、窓の外に目を向ける。
やはりだいぶ変わっているな……だいぶ発展している。あそこなんて前は何も無いさら地だったのにあんな物が建ったのか
「……興味深々のようだな」
「ああ、少しだけな」
フュームの発言に僕は軽く返事をして再び視線を戻す……が、窓ガラスに写り込むフュームの視線に気づき、振り返る。
「別に観光目当てではないぞ?」
「知っている、ただお前を見ていただけだ。気にするな」
無理があるだろ、それは
「なになに?フューム様もりゅうくんの事好きなんですかぁ?」
「ふふ、まあ気になる存在ではあるな」
「えぇ!?あ、あのフューム様……リュウイチは私と……!」
「なんだ?許嫁か?」
フュームの淡々とした返答に四苦八苦しながら受け答えをするみぃ姉、しかし譲れないという感じで白熱している……そういうの本人がいないところでしてくれないか?
「皆様、到着致しました!ここからは徒歩でご移動願います。幸運を!」
「分かった、世話になったな。お前たちの支部長にも到着した事を伝えておいてくれ」
「了解致しました!」
「……随分派手に暴れてるようね、あいつら……」
ユマリが、辺りを見渡しそう呟く。
確かにユマリの言う通りだ、街はほとんど壊滅状態じゃないか、どれだけ派手に暴れてるんだ奴らは!
「おい!あんたたち援軍か?!」
一人の隊員が話しかけてきた。
「セントラル所属のリュウイチだ、お前たちのボスに話は通ってるはずだが?」
「やっぱりあんた達か!俺はキムラだ、すぐに奥で戦闘している方の援護に向かってくれ!」
?
「ああ、そのつもりだ。お前たちは住民たちの避難と手当てに総力を上げろ、僕たちが奴らを何とかする!」
「了解だ!頼んだぞ!」
「こちらリュウイチ、目標ポイントに到達したこれよりイレギュラーの粛正に入る!」
『こちら本部、了解致しました!ミッションスタート!幸運を!』
「さあ、行くぞ!」
一同が了解と返答し、全員で奥へと駆け抜けて行った。
ーーベルスト第2区域ーー
リュウイチ達は現場に到着し、街の被害状況に驚愕した。建物の原型を留めていない瓦礫の山と市民や隊員たちの遺体が無造作に散らばっていた。
「酷い……」
ミツキが震えた声をもらし、口元を手で塞ぐ。
「これは……早く大元を叩かないと被害が増す一方ですね……ジュン、何をしているんだ!」
遺体の一人に触れたレイが怒りを露わにする。
「許せない……リュウイチ隊長、急ぎましょう!」
キラもレイ同様、怒りの表情を浮かべながらリュウイチに話しかけると、リュウイチは短くああ、と言って足を早める。
そして……
「っ!?こぉれはこれはリュウイチ様ではありませんか!!この様な汚らわしい場所でお会いする事になるとは……キラ……キラ!キラ!キラァ!!」
完全に破錠した言動でジュンはキラ目がけて攻撃を開始した。キラはそれに応戦し、レイもその戦闘に介入する。
「おにぃ様ぁ!邪魔しないで頂きたい!これは私とキラの問題ですのでねぇぇぇ!!」
「勝手にほざいていなさい、僕は僕でお前を粛正する!」
激しい攻撃のし合いをする三人、リュウイチはジュンをレイたちに任し、彼らはもう少し奥の方で戦闘を行っている男とイレギュラーの方へ向かった。
「ウオラァッ!!!」
男は凄まじいパンチをくりだし、槍を持つイレギュラーと交戦している。
「バカ力め、いつぞやの出来損ないのバーサーカーを思い出す……!」
「それは、誰の事だ?」
リュウイチは瞬時にイレギュラーの背後へ周り、憎悪の表情をして空中回し蹴りをくらわした。
「ぐあぁっ!!り、リュウ……イチ!?」
「貴様は僕の目の前でかけがえのないものを罵倒した。これだけで十分に耐え難い苦痛を与えてやる……以前のように生半可なものではないぞ!」
リュウイチは左手に握りしめている黒百合に意識を集中させ、青いオーラを纏わせる。
「リュウイチ・ナルミ、イレギュラーを粛正する!!」
ミナト
「一つの物語小話劇場、お仕事お疲れ様ですお兄ちゃん
!」
リュウイチ
「ありがとう、ミナト。お前も留守番とユキタカの面倒お疲れさん……ユキタカの調子はどうだ?」
ミナト
「はい!ユキタカお兄さんは毎日帰ってからお夕飯食べ終わるまで、永遠とトモカさんとのラブラブ生活を語っています!」
リュウイチ
「……それかなり疲れそうだな……本当によく頑張ってる、偉いぞ」
ミナト
「ありがとうございます!でもそこまで辛くないですよ、お話の9割は自慢話なので、そこをある程度流して聞いていれば、残りの1割は最後にミナトを応援してくれる所なのでそこさえ真面目に聞けば、対して苦ではありません!」
リュウイチ
「……成長してるな……次回一つの物語〜再会と再開編〜……と言うかあいつ、まだミナトを恋愛の道を歩かせようとしているのか、それは許し難い」
ミナト
「ミナトに恋愛は早すぎるのでしょうか?」
リュウイチ
「ミナトはまだその辺の奴らにはやらん!!」
次回掲載日8月31日




