一つの物語〜対峙編3〜
「了解致しました、引き続きイレギュラーの捜索にあたります……フューム様に連絡したところ、紅たちの事はひとまず放置し、ガラドの捜索及び粛正を優先せよとの事です」
「グリムで交戦したあのイレギュラー……カイさんが言うにはサツキさんと二人で交戦してもまだまだ本気ではなかったようです」
二人がかりでも倒しきれなかったイレギュラーか、相当タフな奴だったんだな。
「今度は逃がさないんだから、あの馬鹿力男ぉ!!」
……お前の方が力強いだろうに。
「ライザ、そのイレギュラーはどこにいるのかわかる?」
「はい、詳しい情報は入っていないのですが、この辺りで目撃したと偵察班が言っていたそうです。大まかな位置だとここから少し東の辺りですね」
東か、となるとレゼロックの丘の辺りだな。確かあそこは自然にできた丘で道は整備されていなかったはず……なぜそんな所に?偵察を警戒しての行動なのだろうか
「まあいい、とりあえずレゼロックの丘まで移動して確認してこよう、この先は峠道になるから変に騒いでヘタレ混むんじゃないぞ」
「詳しいのねリュウイチ。ここへ来る前に見てた観光ガイドにそこまで書いてあったの?」
「いや、この辺りの事について調べた事があるだけだ。ライザ、先導してくれ」
はい、と言ってライザは歩みを始める。僕もその後を歩くと、みぃ姉たちもそれに続いた。
……もう少し控えなくては
この辺りは地形が複雑で、モンスターも多数いるため整備されていない。そのため車両での移動はできないため、僕たちは徒歩で移動している。
「はぁ……この坂キツイわね、帰りも同じ道を歩いて行かなきゃいけないとなるとかなり憂鬱になるわ……」
「ご安心を峠道とは言っても、距離はそれほどではありません。軽い登り道をあと数回こえれば目的地に到着致します」
その数回が結構険しいんだがな……まあ、ライザは相当タフみたいだがら軽く思えるのかもしれないな。僕もここは……
っ!?
「皆んな、固まれ!!モンスターの気配を感じる、それも相当な数だ」
「げぇ〜!こっちはクタクタなのにこんな時にモンスターぁ?!」
僕の発言を聞いて一ヶ所に固まると、サツキはゲンナリしながら文句を口にする。
サツキのボヤキが終わる直後、ウルフの遠吠えが聞こえてきた……来るっ!
峠道の中間辺りまで辿り着いたリュウイチ達の前に複数のウルフ族のモンスターたちが現れた。その数は十匹を軽く超えている、彼らはモンスターたちに完全に囲まれている。
「皆んな、円陣を組んで互いの背中を守りあえ。迫ってくるモンスターだけを迎撃しろ」
「では僕とレイさんは皆さんの援護に専念するべきでしょうか?」
「ああ、キラはミツキをレイはサツキを ライザ、お前はユマリの援護をしろ。僕は敵の親玉を叩く!良いな?」
一同は「了解!!」と返答し、迎撃を開始する。
リュウイチは仲間たちに指示を出し、モンスターを束ねているリーダーウルフ目掛けて駆け出し、白百合を抜き、斬りかかる。
(……おかしい、このモンスターたち……この種類のウルフはこの辺りには生息しないはず)
リュウイチは疑問を抱きながらリーダーウルフと交戦する。彼の中で違和感を感じていた。
一方、ミツキたちは襲い来る無数のモンスターたちを次々と迎撃しているが、数が数なだけに少々対応に四苦八苦している。
「何この数、倒しても倒してもうじゃうじゃわいてくるんだけどぉ!」
「こちらの体力がこの峠道で消耗してしまっているのも、苦戦してしまう原因の一つでしょうね……でもヘソに気合を入れて凌ぎきるのよ。兄さんは大丈夫?」
流石のサツキでも、この峠道で疲労してしまっている。ユマリは一匹ずつ確実に仕留めつつ、リュウイチの方を心配するような言動を発した。
リーダーウルフと戦闘しているリュウイチは、彼女の声を聞き、当然だろ、と言って返答する。
(早めにこいつと蹴りをつけないと、この数と移動での疲労では長くは持たないだろう……しかしこのモンスターかなり素早い、ウルフ族だからという事もあるのだろうが、少し動きが機敏すぎる。まるでこちらの動きを読んでいる様に……まさか)
リュウイチの頭のなかで一つの推測が組み上がっていった。すると、ユリナの意識がリュウイチの中に介入してきた。
「(貴方の予想どおりよ、このモンスターは意図的に何者かによって、転移、改造を施されている……どうやらガラドというイレギュラーの仕業みたいね)」
(やはりそういう事か、しかしそれで確信を持てた。奴は間違いなくこの近くにいてモンスターたちを操っている……そうじゃなければ……いや、そんなはずは……)
「(……今は戦闘に集中した方が良いわ、考え過ぎてはダメよ)」
ユリナの忠告に、そうだな、と呟き剣を逆手持ちに変え呼吸を整えた。
モンスターは警戒しながらリュウイチを睨みつけ、大きな牙を剥き出しにしながら低く唸っている。
対するリュウイチは、思考を止めてモンスターの動きを待ち構えた。
……瞬間、モンスターは素早い動きでリュウイチに飛びかかり彼を噛み砕くため大きな口を開く。
リュウイチはモンスターの動きと同時に駆り出し、お互い一気に間合いを詰め合う。
「ナルミ流……」
大きく唸りながら迫り来るモンスターに、リュウイチは慌てる事もなく、避ける事もなく真っ直ぐモンスターに向かって駆け寄り、やがて……
「竜影刃!」
リュウイチは凄まじい速さで駆け抜け、モンスターを正面から真っ二つに斬り裂いた。
そしてリュウイチはミツキたちのいる方へ向き、白百合を元の持ち方に戻した。
彼女たちに襲いかかっていたモンスターたちは、自分たちの中心核と統制を失い、その場から少しずつ去っていった。
「はぁ……はぁ……退いた?……リュウイチ!大丈夫!?」
ミツキは息を切らしながら愛する者の安否を確認する。当の本人は軽く頷き、剣を納刀した。
そんな彼を見て、ミツキやサツキたちは顔を見合わせニッコリ微笑みあった。
「お前たち、喜ぶにはまだ早いぞ、この近くにガラドがいる。引き続き警戒して行動するぞ」
「だね!りゅうくんの言う通り、油断せずに行こ〜う!♪」
「僕は主にお前に言ってるんだ……」
サツキの発言にリュウイチはため息をつきながら皆の元へ歩み寄った。
……近くにモンスターの気配は感じられない、どうやら完全に退いたようだ。リュウイチはそう思いながら周りを軽く見渡す。そして、先程戦闘していた時、一瞬思った考えが再び彼の脳内に蘇る。
(この世にはもう存在していないはずなのに、何故あのような考えが浮かんだんだ?そんなはずはないのに……あってたまるかっ!!)
「兄さん……どうかしたの……?」
ユマリの発言で、自己嫌悪と怒りが表面に滲み出してしまっていた事に気づき、すぐに落ち着きを取り戻し、なんでもない、と言って首を振った。
しかし、ユマリは無表情ながら心配が完全には消えず、彼に歩み寄り彼の手をとり顔色を伺う……が、リュウイチは平然としたいつもの表情で対応し、それを見た彼女は触れていた手を放し、一安心した。
「……リュウイチ隊長、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。そろそろ出発しよう、無駄にはしゃいでバテるんじゃないぞ」
「はーい☆」
「は〜い♪」
レイとサツキが悪ノリをして返事をすると、リュウイチはフン、とあしらい歩き始めた。
他の者達も彼に続く、サツキは少し先を歩いていたリュウイチに小走りで追いつき、腕組をした。
当然彼はそれを邪険にあしらおうとしたが、サツキは放そうとしない。今回はやたらしつこいと感じたリュウイチは致し方なく、諦めてやる事にする。
この押し問答をする事で体力の消耗をするのは馬鹿らしいと思ったのも理由の一つである。
ミツキとユマリはその様子を見て、我先にと言わんばかりの勢いでリュウイチのもう片方の腕を奪い合う。
「ユマリ!あなたは援護役でしょ!」
「あら、だからと言って後ろにいなきゃいけない訳では無いでしょう?」
「ダメよ!大人しく後方で援護しなきゃダメなの!」
「そんな事兄さんは一言も口にしていないわ、誰が決めたのかしら?」
「私よ!」
「不愉快だわ」
両者とも一歩も譲る気は無いようで、リュウイチの腕を引っ張り歩いている。本人はいつもの事だと思いつつ、歩き続け、そんな彼らを見たライザは驚愕していた。
「あ、あの……良いんですか?あのままで……」
「ええ、勿論!あれが日常なのでご心配なく☆」
レイはそう明るく答え、キラは苦笑いをしながらリュウイチたちの光景を見ている。
「リュウイチ隊長も大変だなぁ……しかしあの対戦をとても止められる気がしない……怖すぎる」
キラは昔、ミツキたちの争いに仲介した事があり、その時味わった恐怖と痛みが今でも忘れられずにいた。それどころか、それを再び鮮明に記憶が蘇り、身震いしながらミツキたちの争いから少し後ずさりする。
「私よ!」
「いいえ、私よ」
「お前たち静かにしろ、モンスターや敵に気づかれるだろうが!……ん?」
下り道を歩いていると、時空間の歪みがリュウイチの視界に入った。それと同時にライザもそれに気づき、確認するため駆け寄る。
「これは……時空間魔法……間違いない、奴はこの近くにーー」
「そうだ、ここにいるぞ!」
ライザが言い終える前に背後から何者かが巨大な斧を振り下ろした。ライザはそれを間一髪で回避し、間合いをとった……そして攻撃を繰り出したその者とは
「相変わらず暑苦しい体格してるな、ガラド」
「リュウイチ様……こうしてあなたとお会いするとは……因果なものですなぁ……クックック」
ガラドは薄気味悪い笑いを漏らしながらリュウイチに一礼をする。
「うぇ……やっぱあたし、こいつ嫌〜い、気持ち悪いんだもん」
「ふん、あの時の小娘か……そう言えば貴様には借りがあったな、きっちり返させてもらうぞ」
ガラドはサツキに巨大な斧を向け、睨みつける。しかしサツキは嫌悪感を剥き出しにし、表情を歪めてしかめっ面をした。
「……その空間、時空間魔法だな。それでウルフ族のモンスターを出現させてたのか?」
「その通りです、リュウイチ様……お楽しみ頂けましたかな?」
「やれやれ、女に対しての礼儀がなっていない上に、おもてなしも出来ないのかこいつは……どうやら教育が必要らしいな」
リュウイチはガラドの無礼さに呆れつつも、僅かな憤りを感じながら白百合を抜く。女に対し平然と刃物を向ける者に、リュウイチは凄まじい嫌悪感を感じるのだ。正確には、女を蔑ろにしたり傷つけたりする事が許せず、時には殺意がわくほど憤怒する事がある。
「ふふ……アッハッハッハッハッ!!流石の余裕ですなぁ、リュウイチ様……しかしその必要はありません、ここであなた様は死ぬのですからなぁ!!」
斧を振り上げると同時にリュウイチ達に向かって勢いよく駆け寄って行く、対するリュウイチたちも戦闘態勢に入る。
ガラドが振り落とした斧により地盤が砕け散り、ライザが驚愕した。
「なんて破壊力なんだ……!」
「安心しろ、こっちはもっと凄い怪力の持ち主たちがいるからな」
「ちょっとリュウイチ、それって私も入れて計算してるの?」
リュウイチの発言にミツキが不快感を向けると、さあな、と言ってクスクスとイタズラじみた笑いで返した。
彼の言ってる事は間違いではない、事実、以前バーサーカーになった時はサツキに劣らない程の力を見せつけた、普段もそれに近い力を持っているが、その力を使う事は滅多にない。
「こちらリュウイチ、本部聞こえるか?」
『はい、こちら本部!感度良好、リュウイチ様、聞こえます!』
「イレギュラー認定されているガラドと遭遇し交戦している。特務執政官リュウイチの判断により、ガラドを粛正する!」
『了解致しました、イレギュラーガラドを粛正ミッションスタート!幸運を!』
「了解!」
敵の攻撃を躱しつつリュウイチは本部に連絡を済ませ、本格的に攻撃態勢に入ると、ガラドは時空間の穴から複数のモンスターを出現させた。
「またぶっ潰してあげる!覚悟しろ〜イレギュラー!」
「モンスターを出して来ましたか、これは手分けした方が良さそうですね。リュウイチ様!」
「ああ、モンスターの相手はお前とユマリ、それにライザとミツキに任せる。キラは後方で僕とサツキの援護を頼む!さあ、行くぞ!!」
リュウイチたちのそれぞれ別の場所に別れ、戦闘を開始する。モンスターの数はざっと二十匹程のいる、それをミツキたち四人に退治するよう指示を出して成功だったたかもしれない。しかし、ガラドの方は前よりもパワーアップしているようで、破壊力が格段に上がっている。
「うげ、なんか前よりも強くなってる気がする……」
「僕はそれより更に格上だら安心しろ。しかし、無理に突っ込むなよ?」
「了〜解!」
リュウイチとサツキの連続攻撃を防ぎながら、キラの援護射撃を躱すガラド、その巨体に似合わない素早い動きで彼を翻弄する。
(以前より動きが良くなっている……いや、違うな。この感覚は……だったらこっちも!)
リュウイチはガラドの動き方に不信感を抱く、まるでさっきのモンスターみたいに彼らの動きが読まれているような、そんな感覚を感じるリュウイチ。
そう思いつつ、白百合に意識を集中させる。すると、青いオーラが白百合から溢れ出て来た。
「サツキ!キラ!」
「うん!」
「了解です!」
キラは魔銃をもう一丁取り出しチャージを始める。
サツキはジャンプして空中へ飛ぶ、リュウイチは単身でガラドに立ち向かい連続攻撃を打ち合う。
「ちっ!こしゃくな!!うおりぁぁぁぁ!!!」
大振りで斧を振るうガラドの攻撃を避けもせず軽々と真正面から防ぐリュウイチ、その瞬間凄まじい衝撃波が広がったが、彼は微動だにせずニヤリと僅かに口元を緩めた。それと同時にチャージを終了させたキラが二人目掛けて二発同時にチャージショットを発射する。
「ダブルストライクバースト!!」
「そのような攻撃……何!?」
躱そうとするガラドの腕を凄まじい握力で掴むリュウイチ
「バカな、貴様もマトモに食らうのだぞ!」
「フフ、アホだな……」
「アサギリ流!陽華鳳凰撃!!」
ガラドの顔面目掛けて空中飛び蹴りを打ち込み、ガラドの顔面に直撃し、態勢にが崩れたのを確認すると、リュウイチはサツキを抱え、凄まじい速さでガラドから間合いをとる。その直後、キラの放ったダブルショットがガラドに直撃した。
「ぐあああああああっ!!」
「やった〜!♪」
ガラドはその場で倒れ込んだ。キラのフルチャージにより右胸辺りから手の先まで身体が半分吹き飛び、大量な血液が流れ出す。
「ナイスタイミングだキラ、サツキ……ん?」
倒れたガラドを見たリュウイチは異変に気づいた。
凄まじい攻撃を受けたにも関わらず、ゆっくり起き上がった。
「げぇ!今の攻撃でまだ立ち上がるわけぇ?!」
「そんな……?!フルパワーで放ったのに!」
ガラドは白目を向いたまま、ゆらゆらと立ち上がった際、リュウイチはその異常の正体が分かった
(こいつは……)
「ふっふっふっ……」
ガラドは不気味な笑い声をあげながらもう片方の腕で巨大な斧を拾い上げる。サツキとキラは驚愕と不気味さに染まっているが、リュウイチはガラドを睨みつけ、ある仮説を頭の中で組み立てていた。
「……レイ!そっちのモンスターはどうだ?」
か
「先程のモンスターたちと同じような感じでしたが、今は違う感じです。先程まで我々の動きを見きっているようですが……今はそうとは思えません」
(やはりそうか……ヨルの時と似てる……あいつより微弱だが、確かに僕たちの思考を読んでいる。それにこいつは……こいつの中に何かがいる)
「ぬるいな……ぐ、がはっ!」
ガラドはそう短く呟くと、再び倒れ込んだ。
リュウイチは警戒しながらガラドの脈をはかる……息絶えているようだ。
「な、なに今の……最後の強がり?」
「……キラ、サツキ、レイたちの援護をしてやれ、残りのモンスターを殲滅しろ。僕が時空間の穴を閉じる」
「り、了〜解……」
「了解しました……」
リュウイチはガラドの屍を暫く見下ろし、レイ達のいる方を向き、時空間魔法を発動させて時空間の穴を塞いだ。
……その瞬間、ガラドの亡骸もその場から消え、リュウイチはそれを見て、彼の思考の中で一気に仮説が確信に変わっていった。
「兄さん、こっちも終わったわ……ガラドの死体は?」
「消えたよ、どうやらガラドが時空間魔法を使っていた訳ではないようだ。ガラドの遺体を転移させた者が時空間魔法を行使していたのだろう」
リュウイチはユマリにそう告げ、彼は日が暮れ始めた空を見上げ、思考を巡らせるのだった……




