表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一つの物語  作者: 世界の一つ
一つの物語〜対峙編〜
52/112

一つの物語〜対峙編2〜

ーーバーネル近郊ーー


バーネル支部で一休みした後、僕たちは紅を追ってフュームに知らされたポイントへ移動をし始めていた。

僕は辺りの広大な風景を見渡した。


「……」


「?兄さんどうかしたの?」


僕の後ろを歩いていたユマリの声で僕は僅かにハッとした。


「いや、なんでもない。それよりこの辺りはウルフ系のモンスターが多い、周りに気を配って進め」


「さすがリュウイチ隊長ですね、事前にこの辺りに生息するモンスターについて調べていたのですか?」


「せっかくの褒め言葉だが、少し違うんだ……昔、この辺りについて詳しい奴がいてな、その受け売りさ」


僕の発言にへぇー、と言ってキラ達が辺りを見渡した。そう、この辺りのウルフは相当素早く、統制が取れた動きをするので、中々厄介なんだよな


「この辺りについて御詳しいのですね、そのお方はこの国にお住みになっていたのですか?」


「……いや、他国の者だ。ここへ初めて来た時にウルフの群れと遭遇して、かなり苦戦を強いられたんだ」


「ねぇ、リュウイチ、それって誰の事?私たちの知ってる人かしら?」


まあな、と言って僕は話を終わらせた。

みぃ姉達はその人物が誰かと思考を巡らせているようだ。


「リュウイチ様、そろそろポイント地点です。まだイレギュラーと遭遇していなければ良いんですが……」


レイはSPDを確認し、警戒しながら辺りを伺っている。確かに、イレギュラーまでいたら色々と面倒だからな。


「お前たち、奴らが戦闘を行っていたら、とりあえずイレギュラーの排除を優先するぞ。紅に手を貸す訳ではないが、あくまで紅と対話を行う事が今回の目的だ。向こうから攻撃されても、決して戦うんじゃないぞ」


一同は了解と言って僕の指示を了承した。

臨機応変に……と言ったら大雑把過ぎるし、返って混乱を招くかもしれないな。

……それに奴らがイレギュラーと認定されている訳でもないのだから、奴らを粛正する事もできない。


「あれは……紅か?」


僕たちがいる崖の下で野営している者達がいた。みぃ姉たちも僕にならって崖の下をそっと見下ろし、確認する……サツキは高所が苦手な為、僕たちとは少し距離をとりつつ、僕のジャケットの裾をつまみながら冷や汗をかいている。


……こういうところはちょい可愛いかもな。


「兄さん、向こう側から下に降りられそうよ」


ユマリが指さした方へ目を向けると、急坂と言ってもおかしくない急斜面の坂があった。恐らく奴らもそこから下に降りたのだろう、それ以外に道と言える道はないからな……移動手段はあそこのみか、まあ良いだろう。


「……レイ、ユマリ」


「了解」

「了解致しました」


二人の名前を呼び、それを聞いた二人は僕がどう指示を出すかすぐに分かった様で、移動を始めた。いつもながらこいつらは話のわかるやつらだな。楽で助かる。


「リュウイチ様、彼らはどこへ?」


「あの二人には僕たちの援護に回ってもらった。大丈夫だ、信頼できる。僕たちはあの坂から移動して紅と接触しよう」


そう指示を出し、僕たちは唯一下に降りられる坂に向かい歩き出す。



「イレギュラーはいたか?」


「いや、まだ見つからない。そっちは?不審者はいたか?」


「安心しろ、不審な奴らは見かけなかった。イレギュラーもな」


僕は見張り役であろう奴らの会話に参加し、歩み寄った。当然歓迎はされない、紅の連中は次々と僕たちに向けて武器を構え警戒した。


「な、何者だ貴様ら!?」


「ホーリーヘヴン所属のリュウイチだ。お前達の上司……かどうかは知らないが、レッカと呼ばれる女戦士と、お前たちのボスに用があって遥々やってきたのだが……まあ、とりあえず落ち着け」


「ふ、ふざけるな!誰がボスに会わせるか!」


男は武器を向けたまま下ろそうとしない、当然と言えば当然だが


「待て!お前たち武器を下ろせ、私がこいつらの相手をする」


「レッカ!しかしこいつらは……」


武装したまま警戒をしている者達の中から、見覚えのある仮面と、聞き覚えのある声の主が近づいてきて、

警戒している者達に武装を解くよう声をかけている。


「お前たちにはしてやられた、まさかあの短い間にこの私に発信機を忍ばせていたとはな。流石はナルミだ」


「お褒めの言葉どうも、ボスがいないならお前でも良い、一度お前たちと対談したいと思いここまで来たんだ。戦闘するつもりもないし殲滅するつもりもない」


僕は野営地を見渡し、レッカにそう告げた。するとレッカはクスクスと笑い始めた。


「フフ、なるほど……イレギュラーではない私たちを粛正するわけにもいかないから対話をしようということか……」


「あなた達のお仲間はセントラルの本部で拘束されているわ、あの騒ぎをおこしたあなた達を本当なら逮捕するところだけど……リュウイチが話したい事があるみたいよ。だから彼と話をして、お互いを分かり合いましょう?」


みぃ姉の提案にレッカは再び小さく笑う……少々気に入らないが……我慢してやろう。


「面白い、良いだろう。付いてこい」


レッカは僕たちに背を向け、大きなテントに向かって歩き出す。周りの者達は未だ武装を解除していないが、僕たちは構わずレッカの後について行く。


「ゼン、ホーリーヘヴンの者達が私たちと話をしたいと言っている……どうする?」


「ホーリーヘヴンの者達が?……ほお、リュウイチ・ナルミじゃないか……まさかお前程の男が我らを追ってここまで来るとは光栄だな。良いだろう、一度お前達の意見も聞いてみたかったところだ。お前達との対話を承認する。レッカ、お前も参加しろ」


「分かった。例のイレギュラーについてはどうする?」


「ハヤテたちに任せておけば大丈夫であろう」


ゼンと呼ばれる男とレッカが椅子に座ると、僕たちにも座るよう促してきた。遠慮なく近くにあった席に座り、みんなも近くの席へと座る。


「それで、話したい事というのはどんな事だ?」


「単刀直入に言うと、イレギュラー狩りをするのは止めろ。民間人が私情でイレギュラーを粛正するなど、あってはならない。それに、力で世界を統一しようとしている事も考え直せ。見たところお前たち二人はまだ話が通じそうだ。理解してもらえるとこちらも助かる」


「なるほど、予想通り我らのやっている事が間違いだと言いたいわけだな。そう言われることは想定していたよ。断言しよう、断る。私たちには理念と思想と信念がある。止める事ではできない」


やはり真っ向から否定してきたか


「何故そこまでイレギュラー狩りに固執する?慈善活動を行うならイレギュラー狩り以外にもあるだろう」


「私たちのやっている事は人々の願いだ。人々は争いの無い世界を求めている、そこにイレギュラーという存在がいるが為に人々は悲しみや憎しみを抱く。故に私たちは誰がなんと言おうとイレギュラーを狩り続ける」


人の願いを叶えていると言わんばかりだな。ゼンの言い分は何となく理解できる、こいつらの言う争いの無い世界を人々が望んでいるのは確かだ。


しかし……


「先日お前たちの仲間のせいで、セントラルに被害が出た。それだけじゃない、他の街でも似たような被害が出ていたそうだな。お前たちの行動について少し調べてみたんだが……それも人々の願いだと言い張るつもりか?」


「それは尊い犠牲だ、大義を成すには相応の犠牲が出るものだ。私たちはその者たちの為にも命をかけてイレギュラー共を排除しなければならないのだ」


「お前たちのお仲間も似たような事を言っていたよ、その時僕はこう質問した。そのいつの日かの為に傷つく事を我慢しろって言うのかってな。お前たちのせいで傷ついた者たちはどうするつもりなんだ?」


ゼンは僕の話を黙って聞き、そして口を開いた。


「大義の為だ、致し方ない」


その言葉を聞いて僕は憤りを感じた。やはりこいつらは、何かを犠牲にしないと何かをする事ができないようだ。


「……お前みたいな奴らに、世界を……人々を守る資格もなければ、それらを語る資格もない」


「なに!?なら貴様はどうするつもりだ!?イレギュラーがいるこの世界をどう平和に導くつもりだ!貴様らとて同じだろう、イレギュラーと戦う度に多少であろうと被害は出るだろう!お前たちホーリーヘヴンなら許されるとでも言うつもりか!!」


レッカは僕の発言に怒りを顕にした、しかし僕は宥めるつもりもなければ自分の発した言葉に間違えがあるとも思っていない。


「許されるだなんて思っていない、しかし、僕は犠牲を出そうとも思っていない。犠牲も出さず、イレギュラーを粛正し続ける。例えこの意志を馬鹿にされようと、僕は僕の意志を貫き通す」


「っ!?」


「ははは!そう来るとは、やはりお前は他の者たちより一線を画しているようだ……犠牲無き大義は有り得ん。お前のその信念は愚者の考え方だ、いや信念とも言えんな」


「なんですって!?」


ゼンの発した罵倒に僕ではなく、みぃ姉が反応した。整った綺麗な顔立ちが、今は怒りに染まっている。


「理想論を述べる事など誰にでもできる、リュウイチ、お前のは正にそれだ。理想を語っているだけにすぎん、現実は非情だ。それゆえに何かを成すには犠牲が伴う、それがこの世界の理だ」


「理想の何が悪いのですか?理想を語れる人こそ理想を貫き、成就する事ができる……!それを嘲笑う方がよっぽど愚かだ!」


キラまで珍しく興奮しながら反論を述べた、しかしゼンは全く意に介しておらず、淡々としている。


「やはり相容れぬか……ここから立ち去れ、お前たちと話す事はもはや何も無い」


「はあ!?まだあんたから謝罪の言葉を聞いてないんだけど!?りゅうくんをバカにした事、ちゃんと謝ってよ!」


今にも殴り掛かりそうなサツキを「やめろ」と言って制止した。確かにバカにされた事は気に入らないが、今こいつらとこれ以上話しても無駄だろう。余計に亀裂がはしる事になりそうだ、そうなっては二度と修復する事が出来なくなってしまう。それは避けなければ。


「今日のところはお前たちの拘束は見逃してやる。話は違えたが、僕たちの方にお前たちを敵視し進んで攻撃をする事はない。だが、もしもこの先お前達がイレギュラーを狩っているところを目撃した場合、その時はお前たちを拘束する」


「見逃す?それはこちらの台詞だな。お前たちは私たちのテリトリーにいるんだ、そちらの方が分が悪いのではないか?」


ゼンがそう言うと再び紅たちは武器をこちらに向ける。しかし僕にとってはなんの恐怖も劣勢感も感じない


「やってみろ」


僕は周囲を睨みつけたのち、ゼンの目を鋭く見つめた。


「……ふっ、良かろう、この場は穏便に済ませよう。そして私たちもお前たちに危害は加えぬ様にと他の者たちにも話をしておく……確約はできぬがな」


「偉そうに……ホントにムカつく!」


サツキもみぃ姉も相当イラついている様子だ、キラも不服と言った感じに表情が暗い。


「我が国で公務を妨害するというのなら、即刻拘束する……場合によってはイレギュラーとみなし粛正する。俺たちバーネル支部の隊員達を甘く見るなよ、イレギュラー候補共め」


そう言うライザの表情は鬼の形相をしている、こいつの中では紅たちを敵とみなしている様だ。


「すまないな、ライザ。僕の一存で決めてしまって」


「いえ、逆です……リュウイチさんがあの様に仰られなければ、私は刺し違えても粛正しようとしていたかもしれません……!」


……紅たちを見つける前からこいつはかなり殺気だっていたし、こいつもギリギリなんだな。

はぁ……とりあえず戻るか、これ以上ここにいたらややこしい事になるかもしれない。

僕は来た道を歩き出し、急斜面の坂道を登り始めた。


「ナルミ!」


ん?


「……確か、レッカという名前だったな。なんだ?」


「……」


……?


「ちょっと、呼び止めたくせに黙り?さっさと要件を言いなよ。あたし、あんたたちのことキライだからさっさと戻りたいんだけど」


「お前に用はない、私が呼び止めたのはナルミだけだ。お前たちまで残る必要などない」


「はあ?!!」

「はあ?!!」


「二人とも落ち着け……お前たちは先に上がれ、僕もすぐに追いつく」


飛びかからんばかりの勢いで憤怒したみぃ姉とサツキを宥めながら、僕は先に行くよう促す。

二人とも不服な表情だが、少しの間レッカを睨みつけた後、四人は坂道を登り始めた。

僕はそれを確認し、再びレッカの方へ顔を向ける。


「で?何の用だ?」


「……お前は許されずとも信念を貫くと言っていたが、あれは本心か?」


「当たり前だ、虚言を吐いてるように見えたか?あんなはったりをかますほど僕は愚かではない……約一名には愚弄されたがな」


ゼンの言っていた罵倒を思い出しながら僕はフン、と軽く鼻で笑った

しかしレッカは真剣な面持ちで僕を見つめている。


「なぜそこまで信念を貫ける?その信念の為に、お前は命を捨てられるか?」


「死ぬつもりはない、じゃないと貫く事ができないだろう。天寿を全うするまで、僕は僕の信念を貫く」



そこまで話すと、レッカは俯き再び口を閉ざした。

……こいつにも何か思う事があるのかもしれないな、迷い……とは少し違う気がするが


「……そうか、呼び止めてすまなかったな。さらばだ」


レッカは僕に背を向け野営地の奥へと消えて言った。僕はそれを最後まで見届けたのち、坂道を歩き出す。


「ユマリ、レイ、警戒解除。戻ってこい」


『了解』

『了解致しました』


坂を登りながら、僕はユマリ達に連絡を入れた。上を見上げると、みぃ姉たちが何やら会話している様だった。僅かに聞こえてくる声色から察するに、紅……ゼンの事についてボヤきあってるようだ。


「あ、リュウイチ!さっきのあの子と一体どんな話をしてたの!?」


「なんか変な事言われなかった!?例えばりゅうくんの事が好きとか!!言われてないよね?!言われたんでしょ!?」


……それ誘導尋問か?


「特に何も、簡略的に言えば人生の歩み方について訊かれただけだ……お、ユマリ、レイ。警戒ご苦労だったな、助かった」


「いえいえ、しかし案外早めに対話が終わりましたね。やはり向こうは聞く耳持たずと言ったところでしょうか?」


正解だ、僕はそう言って軽くため息をつく。しかし全てが無駄だったという訳でもない、奴らの目的がイレギュラーの排除を目的としている事が明確になった。それに、血に染まる戦闘になる事もとりあえずは避けられた。それだけでも成果はあった事だし、良しとしよう。


「兄さん、これからどうするの?」


「この国にはガラドがいるとの事だし、そいつを見つけ出して粛正しよう。とりあえず一度支部に連絡を済ませ、その後ガラドについての情報を聞く。ライザ、フュームに連絡を頼む」


「了解致しました!こちらライザ、フューム様ーー」


……紅か……奴らより先にガラドを見つけ出して粛正しなければ、無駄な血が流れないようにな……






ライザ

「一つの物語小話劇場!バーネル支部、一等粛正官ライザ部隊所属ライザです!宜しくお願い致します!」


リュウイチ

「本当にキッチリしているやつだな、キラに少し似てるな……」


ライザ

「はっ!恐縮です!」


リュウイチ「カチカチだな……もう少し砕けても良いんだぞ、僕が許す」


ライザ

「はっ!了解致しました!……あの、ここって何を言えば良いんでしょうか?」


リュウイチ

「え、そこから?……一つの物語〜対峙編3〜!んーまあ、とりあえずもう帰って良いぞ……」


ライザ

「はっ!お疲れ様でした!」


リュウイチ

「はぁ……」



次回掲載日8月16日

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ