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一つの物語  作者: 世界の一つ
一つの物語〜旅立ち編〜
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一つの物語〜旅立ち編2〜

ーーバーネル出発当日・早朝・ナルミ家前ーー


「いってらっしゃいお兄ちゃん!道中お気を付けて!」


「リュウ兄、気をつけてな。留守の間は俺に任せてくれ!」


「いってきます、ミナトは家の事頼んだぞ。ユキタカ、お前はミナトの事を頼む」


普段はまだ寝静まっているそんな時間、僕は荷物を持って玄関先で二人と挨拶を交わしていた。

ミナトは気丈に振舞っているがそれは態度だけでその可愛げのある瞳には涙を浮かべていた。僕はそんなミナトを慰めるように頭を撫で、ユキタカに視線を向ける。


分かってる。


そう言いたげな雰囲気で力強く頷くユキタカ。僕はその意志を察し、頷き返した。

ミナトの頭から手を離し、その手で二人に向けてサムズアップして見せた。


「二人とも、またな」


僕はミナトとユキタカ二人にそう一言述べ、家の前に泊まっているカイが運転する車に乗り込んだ。


「おし、じゃあ行くぞ!」


発進する車、僕は助手席に座りサイドミラーを見ると、ミナトが家の門から出て手を大きく振りながら見送りをしてくれていた。


僕はそれに応えるように窓から手を少しだけ出し短く手を振る。


「しばらくミナトとはお別れね……兄さん、私を妹だと思って甘えて良いのよ?」


「あからさまに何かの企みを感じるので却下だ、それにお前はお前だ、ミナトとは思えん」


「……兄さん」


「なんだ?」


「キスしていい?」


ユマリさ〜ん?ユマリさ〜ん?ユーマーリーさーん??


「却下だ、ダメに決まってるだろ」


「残念……」


「ユマリ!早朝から変な事言わないの!」


ユマリの隣に座っていたみぃ姉が会話に割って入って来た、ここまでは常識人だな。


「リュウイチ様、ではユマリと結婚してはいかがでしょうか?」


レイ……お前、今の僕とユマリのやりとり聞いてたか?


「それも却下だ!まったく、兄妹揃ってなんてやつらだ……」


「はは、けどこのやりとりもしばらく見れなくなるのか、こういうところを見ると、やっぱりちょい寂しい気がするな」


ふん、こんなやり取りを見て寂しさに浸るな。


「お前こそ、僕たちがいない間にハクと手を繋げるくらいは進展させておけよ」


「ば、ばばばばばか言うなよ!何を言い出すんだお前は!?」


「ちょ、ちょっとブレーキ、ブレーキ!信号赤だよ!?」


カイが動揺のあまりアクセルをベタ踏みし、慌ててブレーキを踏み直した……ちょっとしたアトラクションだな


「うわっと!!す、すまん……けど今のはリュウイチも悪いぞ!変な事言いやがって!」


「僕はお前がクリアすべき試練を述べただけだ、あれしきで動揺するお前が悪い。少しは慣れろ」


こいつもハクも、似たような性格してるみたいだし、互いを高め合えたら良いんだが……


「ど、努力は……する」


カイは顔を真っ赤にして照れながら答えた。

その勇気が実る事を願ってやるか


「そうだ、カイさん、発信機の方はどうなったんですか?」


「ん?あぁ、昨日の内にバーネル付近で信号が途絶えたよ。多分バレたんだろうけど、短時間で移動する事はできないはずだ。時空間魔法を使えたとしても、探知されるはずだしな」


とすると、向こうに着いたら諜報員に情報を訊いた後に、やはり付近を探索する必要があるな。イレギュラーじゃないとなると、捜索が難航するだろうし……面倒な奴らだな。


「まあ、ニュースで取り上げられるくらいだから、捜すのに苦労しないかも!ね、りゅうくん♪」


「どうだろうな、事故とはいえ本部やその付近を騒がした奴らだ、あれだけの大事をおかしてすぐ活動を再開するか怪しいものだ。だが、それを契機に活動を活性化させる可能性も無くはない」


後部座席から話しかけて来たサツキに、僕は自分の中で考えている事をそのまま言葉にして発した。


「彼らの言う思想故にあえて大きく立ち回り、自分達の在り方を示す可能性がある……という事ですね?」


ああ、と僕はレイの考えに同意した。良くも悪くも奴らの存在を世に知らしめるきっかけになったのは事実だろう、その後どういう行動をとるか……


「なあリュウイチ、奴らと対峙したらどうする?やっはり粛正するのか?」


「いや、とりあえず対談を試みるつもりだ。僕自身奴らの考え方に同感できる部分もあるしな」


「え!?リュウイチそれじゃあ!」


カイの質問に答えた僕に、みぃ姉がかなり驚いている、それはそうだよな、僕が奴らの肩を持つ様な事を言っているのだから、おそらく他の三人も驚いているだろう。


「心配するな、紅に入るつもりは毛頭ない。ただ同感できる部分があるというだけで、奴らを危険視している事に変わりない」


「そ、そう……なら良いけど……」


そう、僕は別に奴らの組織……紅に属するつもりはない。そこに属すれば、それはそれで今より多少自分のやりたい事をやれるかもしれないが、それだけではダメだという事も重々承知している。それに僕の信念に基づいた事ではないという事も理解している。


「もしリュウイチ様が紅に属してしまったら、一日で世界を支配してしまいそうですね」


「レイ、滅多な事言わないで……不愉快だわ」


ユマリはレイの発言に不快感を露わにした。当の本人はこれは失礼と謝罪したが、更に話を続けた


「しかし、ここにいる皆様も同じような事を考えているのではないですか?もしもリュウイチ様が紅側に回ってしまったら……そう考えてしまっているのは僕だけでしょうか?」


そう言うレイの発言に皆んな重たい表情をしている。図星だったらしい、サツキでさえ明るさが消えていた。


……はぁ、まあこうなってしまうのは仕方ないか。


「さっきも言ったが、僕はどちらかと言うと奴らを危険視しているくらいだ。対談しても僕は紅に属するつもりはない、奴らの思想は僕の信念には合わないからな……それに……」


「それに……?」


「それに……208歩譲って僕が紅についたら、お前らが僕を全力で止めるだろ?だったら……大丈夫だろ」


くそ、我ながらなんて恥ずかしい事を口にしているんだ僕は!!


「りゅうくん……!そうだよ!あたしたちが全力の愛でりゅうくんを虜にしちゃうから安心あんしん♪」


「だな!リュウイチがそんな事しでかしたら、世の女性陣がラブアタックしてくるかもしれないぜ!それが嫌なら判断には気をつけた方が良いぞ!なっ?」


サツキのおかしな戯言にカイが悪ノリし、爽やかなウィンクをかましてきやがった……男にされても嬉しくないって言ってるだろ!天然爽やかな男め!


「(……お兄ちゃんなら大丈夫だよ……)」


「(彼とユリコの言う通り、心配する必要は無さそうよ。むしろ場合によっては自分が壊滅させようと思ってるくらいだもの)」


!?

ユリナのやつ、余計な事を……!


「あ、ユリコちゃんとユリナの声……うふ、やっぱりそんな事考えてたのね、リュウイチらしいわ」


「確かに、リュウイチ隊長が言いそうな事ですね」


「お喋りがすぎるぞ!それに壊滅じゃない、根絶やしだ!」


「(あら怖い……ふふ、これは退散した方が良さそうね)」


ユリナはそう言うと、二人の声は聞こえなくなった。

まったく……これはもっと鍛錬を重ねる必要がありそうだな。


「イイなぁ、りゅうくんと繋がってるユリナちゃんたち……あたしも繋がりたいなぁ、色んな意味でねぇ♪」


「サツキ、そんな事私が許さないわ。私の兄さんだもの」


「二人とも間違ってるわよ!リュウイチは私と……な、なんだから!!」


もう良いからその事で騒ぐな、こっちが恥ずかしくなる……





ーーフレーメル空港入口前ーー



あの後ずっと言い合いをし続け、空港に到着した……心労が……


「あ、きたきた!りゅういちお兄ちゃーん!!」


この聞き覚えのある声は……


「なんでこんな所にプチデビルがいるんだ?」


「ア・カ・リ!!もう、せっかくお見送りしに来たのに初っ端からその態度なんてヒドーイ!!」


「おっはよぉアカリ!わざわざありがとねんっ♪」


「おはようございます、サツキ先輩!お待ちしてました!♪」


サツキとアカリがデビル同士、同調している……これ以上心労を増やさないでほしいものだ。


「はは!やっぱり人気者ですね、リュウイチ隊長!」


「なにも僕だけの為に来た訳では無いだろう、十中八九サツキの見送りに来たついでなんじゃないか?」


そうでしょうか?と、キラは疑問を浮かべながらサツキとじゃれ合っているアカリちゃんたちの方を向いた。僕も何となくキラと同じ方を向く、僕たちの視線に気づいたアカリちゃんは無邪気な表情のまま再びこちらへ近づいて来た。


「りゅういちお兄ちゃん、どれくらい向こうにいるの??」


「そんなに長くいるつもりはない。遅くても二週間くらいで戻ってくるつもりだ。それよりこんな所に来て大丈夫なのか?この後学校だろ?」


「少しだけでも良いからここに来たかったんだって、だからあたしからカイ君に帰りは送ってあげるようお願いしておいたの♪」


なるほど、ここから学校まで車だと約二、三十分だからギリギリ遅刻にはならいって寸法か。電車だと大回りになって返って遅くなってしまうからな。


「セトさん、ありがとうございます!お世話になります!」


「どういたしましてっ!俺もだけどアカリちゃんもリュウイチ達としばらくお別れたがら寂しいんだよな」


アカリちゃんはどちらかと言うとサツキと離れる方が寂しいんだろうに……


「はい、もう涙が止まらないほど寂しいです……ぐすん!」


「はいはい……そうだアカリちゃん、たまにミナトにも会いに行ってくれ。トモカちゃんとも一緒にな」


僕はミナトを宥める様にアカリちゃんの頭を軽く撫でた、涙が止まらないと言っていたが、よく見ると僅かに目が潤んでいるように見える……案外嘘ではなかったみたいだ。


「う、うん!ミナトお姉ちゃんに会いに行くね!その代わり、なるべく早く帰って来てね、りゅういちお兄ちゃん!」


「ふっ、善処しよう」


「うわーん、サツキせんぱーい!やっぱり私寂しいですー!!」


再びサツキに飛びつくとポロポロと涙を流してしがみついた。そんなアカリちゃんをサツキはよしよしと言いながら頭を撫でたり背中をぽんぽんとしながら慰めている。


「リュウイチ、そろそろ時間よ……カイ、アカリ、わざわざありがとう。助かったし嬉しかったわ」


「ああ。二人とも、わざわざすまなかったな。せいぜい体調を崩したり怪我をしないよう、気をつけて過ごせよ……カイ、あとは任せた」


「おう!お前たちこそ、無理しすぎて怪我とかしないように気をつけろよ……リュウイチ、またな」


僕とカイは互いにサムズアップを交わした


「りゅういちお兄ちゃん、サツキ先輩、皆さん、お気をつけて!いってらっしゃーい!!」


アカリちゃんが元気よく手を振り、カイも同じく手を振って二人は笑顔で僕たちを見送ってくれた。

サツキは大きく、ミツキとキラは小さく手を振り返し、レイは軽く会釈をして僕たちは空港内に入って行った。



「えっと……私たちの乗る便は……」


空港に入ってすぐ、みぃ姉は案内板を確認し始めた。空港内はかなり多くの人々で混雑している、上ばかり見ていたら人にぶつかりそうだな……僕はみぃ姉が誰かにぶつからないよう、肩に軽く手を伸ばし誘導する様に引き寄せた。


「あ……ありがとう……」


少し触れただけなのに、みぃ姉は頬を赤らめながら笑顔で僕を見つめた。


「兄さん……私も肩を抱いて誘導して」


お前は僕とレイ並にスラスラと人を避けているじゃないか……


「必要性を感じない……向こうだな、行くぞ」


「みぃ姉だけずる〜い!!あたしもりゅうくんにくっつく〜♪」


ぐいっ!


いっ!サツキは強引に僕の腕に絡みついて来た。本当に加減を知らないやつだな、こいつは……


「おぉ、なるほど!固まった方が逸れずに済むという対策ですね!では僕も☆」


ドン!


こ、この野郎僕の背中にわざと間隔を空けずにくっついてきやがった!しかもキラを道連れに!


「うわっ!……す、すみませんリュウイチ隊長」


「兄さんには私が密着するのよ。レイ、放れなさい……不愉快だわ」


ドン!


人の背後で何をしてるんだこいつらは……と言うかこの状態……


「くすくす……」

「ねぇ……あれ……」


凄まじく情けない!!


「いくらなんでもくっつき過ぎだ!お前らもう少し離れろ!」


「兄さん……分かったわ……」


はぁ……


「私が兄さんの前に行くから私から離れないでね」


ピタ!


はあ!?ゆーーーーまーーーーりーーーー!?




「…………」


結局あいつらは飛空挺に乗るまで、ずぅっと離れずにくっついてきやがった……その間僕たちはいい笑いものになったにも関わらず、女性陣は自分の位置を言い争いながら移動してきた。


こいつらに羞恥心というものは無いのだろうか?


「うぅ……ね、ねぇりゅうくん。手握ってていい?」


「既に握っているので、それを行う前にそう述べろ」


隣の座席に座っているサツキがビクビクしながら僕の手を握りしめている。席に着いてからずっとだ


「だから付いて来なければ良かっただろ?お前は高所恐怖症なのだから、大人しく残っていれば良かったのに……」


「それはイヤだ!!だから、ね?握ってて良いでしょ??!」


なんだその接続詞は、僕が納得したとでも思ってるのか?それともお前の中の僕が納得したのか?いずれにしても"僕"は納得してないぞ


「兄さん、私たちも繋ぐ?」


ん?なに自然なノリで質問してきてるんだ?


「僕は映画を観る、だから邪魔するな」


僕は仕方なくサツキに握りしめられている手をそのままにして、もう片方の手でミニモニターを操作した。

作品は……まあ機内作品だから声優が違うのは仕方ないか……


僕はなるべく知ってる俳優が演じている作品を選び、ヘッドホンを装着し視聴を始めた。


つんつん


ん?

映画を観ていると、頭をつつかれた……後ろに座っていたみぃ姉だ。


「これ、良かったら食べる?」


そう言って差し出されたのは昨日買ったのか、袋に入ったパンだった。自分で作るのは無理だから予め買っておいたようだ、しかも僕の好きなピーナツサンドだ。


「助かる、頂こう……みぃ姉の分もあるのか?」


「ええ、私も……ほら、あなたと同じピーナツサンドよ」


みぃ姉も甘いの好きだからな。ニッコリと笑ってもう一つのピーナツサンドを見せてきた。僕はそれを見てふと思いついた。


「そう言えばレイ達は?お前たちは朝食食べてきたのか?」


僕は両隣にいるサツキとユマリ、それと僕達の前に座席に座っているレイとキラに訪ねると、前にいた二人は顔を覗かせた。


「はい、僕は自宅で済ませてきました」


「僕もです、来る前に少し食べてきました」


「あたしは手作りサンド作ってきたんだ〜!りゅうくんのもあるよ♪」


「私も兄さんの分もお弁当作ってきたのだけれど……」


うっ……視線が痛い


「……分かった、じゃあサツキとユマリが作ってくれた分も頂こう……助かる」


朝食にしては少し多いが、まあ食べきれないほどではないから支障はないだろう。

僕は三人に手渡された弁当とサンドイッチを食べ始める。


「……うむ、美味い」


「わ〜い!りゅうくんにほめられたぁ♪」


「もっと美味しいお弁当作るわね、兄さん」


「むぅ……私も作れたらなぁ……」


後ろからみぃ姉のボヤきが聞こえてきた……そんなに気にする必要無いのに、個性は大切だし、料理が絶対的なスキルという訳でもないのだが……


「みぃ姉、あまり気にするな。お前の心遣いだけでも十分他者をおもう気持ちは伝わってる。だから大丈夫だ」


「ほ、本当に!?……リュウイチが、そう言うなら……!」


顔を見なくても分かる、きっと空港の時みたいに頬を赤らめているのだろう。


「さすが、リュウイチ様!お心遣いの仕方がお上手ですね☆」


「リュウイチ隊長がみんなに慕われる理由、ですね!」


「ふん、やかましい……」


僕は弁当とサンドイッチを完食し終え、再びヘッドホンを耳に付け、外界との接触を遮断し自分の世界に没頭した。


……この声優さん良いな。
















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