一つの物語〜それぞれの思想編11〜
登場人物
・ミナト
リュウイチの妹、さらにユキタカとクウガ、二人兄が存在するが、リュウイチだけをお兄ちゃんと呼び、他の二人の兄には名前をつけてお兄さんと呼ぶ。
気配には人一倍敏感であるリュウイチにさえ気配を感じさせず、彼に接近できる特技を持つ。
基本的に家事をしないユキタカと一人暮らしをしているクウガにはあまり懐いておらず、リュウイチを溺愛している一面を見せる事がしばしばある
・リュウイチ
特務執政官、リュウイチ・ナルミ部隊隊長で"自分のため"を信念に戦う成年。戦闘時は2本の剣と二丁の魔銃を使う戦闘スタイルだが、基本的に右手だけで剣を扱っている。冷静沈着で頭脳明快であり、戦場に行ってもその性格を活かし、的確な指示を出し的確な行動をとる。そのため部下や仲間達から厚い信頼を寄せられている。時たまにみせる優しさ故、ミツキ達を始め、多くの女性に想いを寄せられているが、本人はそれを全て躱しており相手にもその気は無い事を断言している。家族関係は兄が一人、弟と妹が一人ずついる。
・ユキタカ
リュウイチの弟で二等粛清官。
お気楽極楽がモットーでいい加減な態度が多く、戦闘になるとやや好戦的になる。兄のリュウイチとは違い、砕けた物言いが特徴でそれをたまに注意される。
トモカに告白され、一度は破局の危機に陥ったがリュウイチのアドバイスにより本格的に交際するに至った。トモカに告白されただけあり内面には心優しい部分がある。その点は周りも納得しているが基本的には
ヘタレでいい加減な性格をしている。
戦闘スタイルは大剣で相手を豪快に薙ぎ払うが、一応リュウイチと同じくナルミ流を基礎としておりたまに似た技を使う事がある。
・ミツキ
幼馴染のリュウイチと同じ特務執政官でミツキ・アサギリ部隊隊長である。リュウイチに惚れており、彼の実の妹にすら嫉妬や警戒心を抱くほど彼を想っている。しっかりしてるがここぞと言う時に詰めが甘い時があり、私生活でもどこか抜けている。容姿端麗、頭脳明快、長く綺麗なポニーテイルが特徴。その容姿と優しさからヘヴンの隊員達には人気が高い、しかし当の本人はリュウイチにしか興味が無い。ちなみに妹であるサツキに劣らないくらいの怪力を有しているが、それを使う事はあまりない。
・サツキ
リュウイチの幼馴染でミツキとは3歳離れた姉妹。一等粛正官サツキ部隊の隊長。並外れた怪力の持ち主で、それが災いして被害を拡大させてしまう事がしばしばある。本人は一応気をつけて行動したいるもののなかなかそれが実らない。
姉のミツキ同様リュウイチに好意を寄せているが、時にミツキ達を応援するそぶりを見せたり、リュウイチに迫ってからかったりする事が多く、何を考えているのが分からない時がある。姉に似て顔はかなり綺麗に整っていて、サラッとした茶髪のセミロングが特徴
ーー18時45分・ナルミ家ーー
お兄ちゃん、今日も遅いのかな?最近忙しいみたいだし……ちょっと寂しいな
お兄ちゃんの事を頭の中で想像していると、段々寂しさが込み上げてきた。
でも!お兄ちゃんたちの代わりにお家を守る事はミナトの役目!弱音を吐いてたらダメだよね!
……
……ちょっとだけお兄ちゃんのお部屋にお邪魔しよう……
リビングを出て二階へと足を運び、お兄ちゃんの部屋の前まで移動した。誰も居ないのは分かりきってはいるけど、ミナトはなんとなく扉にコンコンとノックをした。
"どうぞ……ミナトか、どうした?"
お兄ちゃんはいつもミナトにそう優しく応答してくれる。お仕事中でもゲーム中でも優しく対応してくれるそんなお兄ちゃんが大好きだ!
ミナトは当然ながら返答がない事を確認し、ガチャりとお兄ちゃんのお部屋へ足を踏み入れる。
同じお家に居て、同じシャンプーなどを使っているのに、お兄ちゃんのお部屋やお兄ちゃん本人もとても良い匂いがする。
真っ暗なお部屋にカーテンの隙間から僅かに夕陽の光が射し込んでる……電気をつけなくてもその光と慣れた空間の記憶だけでお部屋を歩き回るには十分だ。
ミナトは慣れた足取りでお兄ちゃんのベッドに腰を下ろす。ふかふかしていてとても座り心地が良い、お兄ちゃんは"自分の拘り"と言って、ベッドの質感には結構気をつかっている。
ミナトはそのまま前を向きながら後ろへ倒れ込む、すると一気にお兄ちゃんの匂いが広がった。
「こんなところをお兄ちゃんに見られたら、きっと呆れた顔をしながら優しく注意してくれるよね……えへへ」
……この匂いを嗅ぐといつも凄くホッとする。このまま眠りたいところだけど、お兄ちゃんをお出迎えするという重要な役目もある。寝ちゃだめだ!
……ん?
僅かだけど、バイクのエンジン音が聞こえてきた……この音はお兄ちゃんのバイク!
ミナトは慌てて起き上がり玄関へと急いで移動した。
「ただいま、ミナト」
「おかえりなさい、お兄ちゃん!」
……?お兄ちゃんの表情がいつもより暗い気がする……どうしたんだろう?
「ミナト、夕飯を食べた後に話があるから、僕が夕飯作っている間に風呂の準備をしておいてくれるか?」
「お話ですか?わかりました」
やっぱり何かあるみたい
お兄ちゃんはそう言いながらいつも通りキッチンへ移動し、ミナトもその後をついて行った。
「ふむ、今夜はチーズインハンバーグにするか……ん?どうしたミナト?」
「あ、ごめんなさい!なんでもないです、じゃあお風呂の準備をしてきます!」
無意識にお兄ちゃんの事をずっと見てしまい、大事な任務を疎かにしてしまった……!
ミナトはお兄ちゃんに敬礼をした後、すぐにバスルームに向かって走り出した。
「おいおい、そんなに急ぐな。怪我するぞ」
「大丈夫です!すぐに終わらせちゃいますね!」
お兄ちゃんの優しい気づかいに、ミナトは走りながら返事をした。バスルームに入り、クリーナーに洗剤をつけて慣れた手つきで浴槽を洗う。
……お話ってなんだろう?
お風呂の準備が終わり、お兄ちゃんも夕飯の準備が終わっていたらしく、ミナトの目の前に美味しそうな大きなハンバーグが乗ったお皿を差し出してくれたお兄ちゃん。
いつもながらお兄ちゃんの作る料理は本当に美味そうに作ってくれる……早く食べたい♪
お兄ちゃんが席に座り、いただきますと手を合わせるのに習い、ミナトも大きな声でいただきますと手を合わせる。
パク……うん、美味しい!!とろりとしたチーズが口の中に広がり私の舌は大歓喜する。
「お兄ちゃん!お肉とチーズのジューシーな味が広がります!とても美味しいです!」
「だろ?ハンバーグは作りたてが一番だからな、そしてそんな美味いハンバーグの中にチーズを入れる事で更に美味さをます……うん、流石僕の作りたてチーズインハンバーグだな」
ミナトはうんうんと頷きながらお兄ちゃんの言葉を聞き、ハンバーグを頬張る。お兄ちゃんの妹で良かった!
お兄ちゃんのより大きなハンバーグとライスと野菜サラダを食べ終えたミナトはごちそうさまと心を込めて感謝した。するとお兄ちゃんも丁度食べ終え、ごちそうさまと小さな声で言いながら手を合わせた。
すると、真面目な顔してミナトを見つめてきた……
「ミナト、さっき言った話なんだが、実はミッションで明明後日からしばらくここを留守にする事になった。行き先はイースト方面にあるカザルタ国にあるバーネルと言う街だ、すまないがそれまで家を頼む」
「カザルタ国のバーネルですか!?それは遠いですね……」
話を聞いただけでも寂しさが込み上げてきた……でもミッションなら仕方ないよね……
「わるいな……向こうに着いて落ち着いたら連絡する、それとお土産は何が良い?」
お土産……お兄ちゃんがお家にいる事の方がミナトにとって大事な事です!
……と言いたいけど、ワガママは言えない……
「じゃ、じゃあ……バーネル特産の甘いロールパンが良いです!」
「ロールパンか、分かった。なるべく早く帰るように心がける、それまで家を頼むぞ」
はい!と明るく返事をしたけど、やはり寂しさは拭いきれない……と、お兄ちゃんが立ち上がり正面に座っていたミナトの所まで歩み寄って来た……なんだろうと思っていると、ふわっとした温もりに包まれた
「少し寂しい思いをさせてしまうがごめんな、ミナト。帰ったら好きなところに連れて行ってやるし、好きな物を作ってやる……それで許してくれるか?」
やっぱりミナトを理解してくれるのはお兄ちゃんだけだ……お兄ちゃんはミナトを後ろから抱きしめながらそう優しく言葉をかけてくれた……嬉しさと寂しさで涙が出そうになってしまった……ダメ、我慢しなきゃっ!お兄ちゃんを困らせたらダメだ!
「み、ミナトなら大丈夫です……!それより……無事に帰って来てくださいね、お兄ちゃん」
「ああ、約束する」
優しい囁き……お兄ちゃんの優しさが伝わってくる……ミナトはお兄ちゃんの手を握り、振り返るとすぐそこにはお兄ちゃんの顔があった。
私は思わず慌てて顔を正面に戻す……なんか恥ずかしい……でも嫌な感じはしない。できればもっと近くで……
「あ、そう言えばユキタカとトモカちゃんに僕の留守中にお前を頼むと言ってある。食事もあいつに作らせるから、二人のこと頼むぞ」
「あ、そう言えばユキタカお兄さん遅いですね、またトモカお姉さんとラブラブしてるのでしょうか?」
お兄ちゃんに言われるまで、ユキタカお兄さんの事をすっかり忘れてた……お兄ちゃんも同じだったのか、二人してハッとしてしまった。
「ただいまぁ!!腹減ったーリュウ兄、今日の夕飯はなに……してんだ?二人とも」
「スキンシップだ」
「スキンシップです」
「そっか、じゃあ俺もーー」
「そうだ、お兄ちゃん、お皿洗いお手伝いします!」
そう言えばお皿洗いも忘れてた、早く片付けてお風呂にゴーです!お兄ちゃんは助かると返答し、二人で皿洗いを始める……ユキタカお兄さんが両手を広げたまま動かない、どうしたんだろう?
「ユキタカお兄さん、どうかしましたか?」
「……い、いや……えっと〜……俺もミナトとスキンシップを……」
ゾワッ!
「お兄ちゃん!!なんだか身の危険を感じます!!」
「コラ、ユキタカ。お前もさっさと食べろよ、せっかくの作りたてが無駄になるぞ」
「シクシク……はい……シクシク……」
ふぅ……流石お兄ちゃん、なんだか気味の悪いユキタカお兄さんを一蹴し、その魔の手から逃れる事ができた!
「ミナト、自分の食器を洗い終わったら先に風呂にーー」
「一緒にお風呂にゴーですか!?」
「一人で入りなさいっ!」
ぶー……しばらくお留守にするからそれくらいは許してくれると思ってたんだけど……やっぱりダメか……
あ!だったら!
「じゃあ出発する日まで一緒に寝まーー」
「寝ません!一人で寝なさい!」
ぶーぶー!
入浴を済ませ、ユキタカお兄さんとゲームをした後、あっという間に就寝時間になった。私はゲームの電源を切り、自室へと向かう。
?
お兄ちゃんのお部屋の前を通りかかると、話し声が聞こえてきた。ミナトは足音を忍ばせ扉に耳を当てた……
「みぃ姉たちは寝なくて良いのか?夜更かしはお肌の天敵だろ」
「い、良いじゃない!これくらいじゃ支障は無いわよ」
「そうそう!そんなに心配してくれるなら、やっぱり一緒に寝ようよ♪」
「どうしてそこからその発想になるのか分からんし暑苦しいから断る。あと煩わしい」
……どうやらまた窓越しにミツキお姉さんたちと会話しているみたい……一緒に寝るとか聞こえたんですけど!?
「お兄ちゃん!ミナトのお誘いは断っておいて美人姉妹のミツキお姉さん達と浮気ですか!?」
「ミナト、ノックをしてから入りなさい」
ミナトはドアを閉め直し、お兄ちゃんに言われた通りコンコンとノックをしてから入室した。
コンコン!ガチャ!
「お兄ちゃん!ミナトのお誘いは断っておいて美人姉妹のミツキお姉さん達と浮気ですか!?」
「ミナトちゃん、そこからやり直すのね……」
「やっほーミナトちゃん、じゃあみんなでりゅうくんと一緒に寝ようか♪」
みんなと……!?
むー……なかなか良い提案ですね……
「僕は暑苦しいと言ったのだが?断るとも言ったのだが?」
「もぉ〜りゅうくんったら照れ屋さんっ!♪」
「理解できてないみたいだな、僕は否定文を述べたんだ」
お兄ちゃんは否定の部分を強調して言ったが、サツキお姉さんはケラケラと笑い受け流した。
一緒に寝たい!けどお兄ちゃんにイヤな思いをしてほしくない……
「お兄ちゃん、ミナトはどうすれば良いのでしょう!?」
「どうするもなにも、お前たちはそれぞれ自分の部屋で就寝しろ。僕は暑いのが嫌いなんだ、ミナトも大人しく一人で寝なさい。あと部屋に入る時はノックをしなさい」
「うぅ……分かりました、ごめんなさい……みなさんおやすみなさい……」
ミナトは素直に謝り、お部屋から出ようと歩き始めた……
「おやすみ、ミナトちゃん。また明日ね」
「ミナトちゃん、おやすみ〜♪」
「おやすみ、お前らもミナトを見習って、これくらいにしてさっさと寝ろよ」
お兄ちゃんはミナトに一声かけたのち、窓の向こうにいる二人にも就寝を促すように声をかけた。
「は〜い♪ りゅうくんもおやすみ、また明日ね!」
「おやすみ、リュウイチ!またね!」
二人は自室の窓を閉め、二人のお部屋の中へと消えていった。お兄ちゃんは窓を閉めず雨戸と網戸を閉めた。最近暑くなってきたので、窓まで締めると暑いんだろうな。
「ミナト、明日帰りに少し買物をしに行くんだが何か欲しいものとかあるか?」
「そうですか、じゃあ……チョコミントを食べたいです!」
「分かった、じゃあチョコミントを四個買って兄さんと一緒に食べるか?」
「はい!喜んで!♪ 明日を楽しみにしていますねお兄ちゃん!おやすみなさい!」
お兄ちゃんは、優しい表情でああと返事をしてミナトを見送ってくれた。
……明後日までにお兄ちゃんパワーを充電しなくては……!
ん?
「おぉ、ミナト。これから寝るところか?」
廊下でユキタカお兄さん鉢合わせした、どうやら入浴を済ませたみたいでタオルを首に巻いている。
「はい、ユキタカお兄さんもですか?」
「ああ、でもその前にトモカにおやすみコールしてからなっ!」
はっ!これは以前お兄ちゃんに教えてもらったバカップルの喜びというものでしょうか?!
「そうですか、仲良しなんですね!」
ここは相手に本心を悟られぬよう、相手の行動を何となく肯定したのち!
「へへ、まあな!ミナトにもこんな事をし合える彼氏ができると良いな!」
「はい!でもその時はユキタカお兄さんのように顔を緩めっぱなしにしないよう気をつけます!」
「へへへ……へ?緩みっぱ?!」
お兄ちゃんが呆れるのも分かる気がする……仲良しだというのは確かだけど、男の人としてもう少しクールにした方が良いと思うのも本音だ
「緩みっぱなしじゃ、カッコ悪いですよ!おやすみなさい、ユキタカお兄さん!」
「お、おやすみ……か、かっこわるい……?……俺が………?……ぐすん……」
ミナトの背後からユキタカお兄さんのすすり泣きが聞こえたけど、ミナトはそのまま自室へ移動した。
ミナトはそのままベッドへダイブし、今後の事を考えた。
お兄さんがバーネルに行ってる間はお兄ちゃんの部屋で寝れるよう頼んでおかないと、せめてそれくらいなきゃパワー不足で死んでしまう……そう、これは死活問題なのです!
今回の出来事はミナトがレベルアップするための修行だと思おう!そうすればお兄ちゃんに褒めて貰えるし、お兄ちゃんのお嫁さんになる事に一歩近づけるはず!うん、頑張ろう!!
先ずは夜中になったらお兄ちゃんの部屋に忍び込んでお兄ちゃんパワーを充電しよっと!
ユキタカ
「一つの物語小話劇場!なんか最近みんなの俺に対する扱いが雑なような気がする……」
リュウイチ
「そうか?分相応だと思うが?そもそも別に丁重に扱われるような存在ではないだろ」
ユキタカ
「一番雑に扱ってるのはリュウ兄だと思うが!?」
リュウイチ
「トモカちゃんというお前を慕う存在ができたから、余計な存在意識が働いてるだけだろう。それと、恋人が出来たことによってお前の残念な部分が露見してしまったというのも理由の一つかもしれないな」
ユキタカ
「ほらみろ!!やっぱりリュウ兄が主犯じゃねぇか!」
リュウイチ
「次回、一つの物語〜旅立ち編〜。主犯?お前自身が元凶なんだから主犯もなにも無いと思うが?」
ユキタカ
「俺は悪くない!…………はず」




