一つの物語〜それぞれの思想編9〜
・カイ
リュウイチのガード兼親友であり、彼の護衛で彼の良き友でもある。リュウイチと同様剣の使い手で腕前は超一流であり、素早さに特化した戦闘スタイルである。極度の緊張症で女の事になると右往左往してしまい、言葉がたどたどしくなる。が、男女関係なく気さくな性格なので、女は勿論男にも人気がある。
・ハク
イレギュラー化したミソラと入れ替わりに転属された、特務執政官ハク・ミドリ部隊隊長で、おしとやかな女性隊員。アカリ曰く可憐で綺麗な顔立ちをしている、容姿端麗の美女。カイに一目惚れした様子で、彼と話す時は顔も見れない程恥ずかしがる。
・リュウイチ
特務執政官、リュウイチ・ナルミ部隊隊長で"自分のため"を信念に戦う成年。戦闘時は2本の剣と二丁の魔銃を使う戦闘スタイルだが、基本的に右手だけで剣を扱っている。冷静沈着で頭脳明快であり、戦場に行ってもその性格を活かし、的確な指示を出し的確な行動をとる。そのため部下や仲間達から厚い信頼を寄せられている。時たまにみせる優しさ故、ミツキ達を始め、多くの女性に想いを寄せられているが、本人はそれを全て躱しており相手にもその気は無い事を断言している。家族関係は兄が一人、弟と妹が一人ずついる。
・ミツキ
幼馴染のリュウイチと同じ特務執政官でミツキ・アサギリ部隊隊長である。リュウイチに惚れており、彼の実の妹にすら嫉妬や警戒心を抱くほど彼を想っている。しっかりしてるがここぞと言う時に詰めが甘い時があり、私生活でもどこか抜けている。容姿端麗、頭脳明快、長く綺麗なポニーテイルが特徴。その容姿と優しさからヘヴンの隊員達には人気が高い、しかし当の本人はリュウイチにしか興味が無い。ちなみに妹であるサツキに劣らないくらいの怪力を有しているが、それを使う事はあまりない。
・アキト
ホーリーヘヴン・セントラル本部、特殊粛正官所属であり、その任務は主にマスターの身辺警護及びイレギュラーの粛正をする。
階級的に特務執政官であるリュウイチより一段階上であるため、リュウイチたちの上司にあたる。そのためリュウイチ以外は全員敬語を使うが、リュウイチは意に介しておらず全く敬語を使わない。タイミングに拘りを持っており、それゆえマイペースな所もあるが、ナルミ流格闘術の免許皆伝者であるため、格闘技での実力はユキタカやリュウイチより上である。
「警戒は解除されたみたいだが、街はまだ騒然としてるみたいだな……リュウイチの事だから大丈夫だとは思うが」
「そうだね……ふふ、でもカイ君は本当にリュウイチ君の事信頼してるんだね!」
「まあな、あいつとは古い付き合いだし、相応の実力を間の渡りにしてきてるからわかるんだ、あいつは簡単にやられるような奴じゃないってな」
挨拶回りなどをしていた俺たちだったが、先程の揺れと警報を聞いて特務執政官ベースに戻って来ていた。その途中、リュウイチの一括連絡があり、俺とハクはゲート付近で待機していた。
「カイ君とリュウイチ君はいつからお友達なの?」
「俺とリュウイチ、あとアサギリ姉妹とキリザト兄妹は小さい頃からの幼なじみだ、ずっと前からな」
「そうなんだ、いっぱい幼なじみがいるなんてすごいね、私も何人かいるけどそんなにはいないなぁ」
笑顔を浮かべるハクの表情はとても可愛らしいものだった、俺は自分の顔が熱くなるのを感じて咄嗟に目線を逸らした。反則だろその笑顔……
「そ、そうだ、リュウイチに連絡してみるか!もう戻ってるかもしれないし……」
「?そうだね、怪我とかしてなければ良いけど……」
俺は慌ててSPDを取り出すと、ハクが不思議そうな目で俺を見つめる。それに気づいていないふりをしてリュウイチに連絡をする……が
『カイ?それにミドリさんも……どうかした?』
ウィンドウに表示されたのは予想外の人物だったので俺は思わず驚いてしまった。
「あれ、ミツキ!?リュウイチは?なんでお前が……?」
『あぁ、ごめんなさいね。リュウイチはさっきの容疑者の一人を追って下水道に入ったみたいで、今シャワールームにいるのよ。で、私はそのリュウイチの服をランドリールームでお洗濯中ってわけ』
下水道に?なるほどな、だからミツキが代わりに出たって事か
「そうか……俺たちはリュウイチの様子が気になって連絡したんだが……シャワールームにいるって事はあいつは当然無事ってことだよな?」
『ええ、怪我は無いみたい。あなた達は今どこにいるの?』
「私たちはリュウイチ君から連絡があって、今はゲート周辺です」
ミツキの質問にハクが代わりに答えてくれた。リュウイチの服をランドリールームで洗濯中って事は、ここからそう遠くないな。男子更衣室にわざわざ持って行くのも大変だろうから、俺が代わりに持って行った方が良さそうだな。
「なあ、ミツキ。洗濯物なら俺が代わりに届けてーー」
『その必要は無いは、ありがとう』
は、はい……すまん……ってなんで謝ってるんだ俺は……?ミツキの迫力に俺はたじろぐ……こいつって時々かなりおっかないよな、リュウイチが苦労してる理由がなんとなく分かるぜ……
「そ、そうか……じゃあ、俺たちはリュウイチが戻ってくるまで念の為ここで待機してるから、連絡するようあいつに言っておいてくれ」
『分かったわ、それじゃあまたね』
通信を切り、俺たちは近くにある椅子に並んで腰掛けた。俺はなんとなくSPDでこの辺りの下水道マップを表示する。
「下水道か……やっぱこの辺りは相当入り組んでるみたいだな……"容疑者の一人が"って言ってたから、複数人って事だよな」
「そうだね、もしかしたら下水道内部にも仲間がいたのかも……」
俺のSPDを覗き込んで来たハクと目が合う……
って、近っ!!?
「すすすすす、すまん!!!」
「こ、こここ、こっちこそごめんなさい!私ったらつい……!」
やべぇ、心臓が爆発しそうな勢いで激しくバクバクしてやがる!落ち着け俺!!
「な、なんか飲み物でも飲むか?俺買ってくるよ!」
「え、あ、じゃあ私も……」
俺が慌てて立ち上がると、それにつられるようにハクも立ち上がったので、俺はそれを制止する。
「い、いや、自販機近いし俺が買ってくるよ!何を飲みたい?」
「えっと……じゃあ紅茶系を……」
ハクの返答を聞いて俺は分かったと言って自販機まで走り出した…………はぁ……勘違いされちまったかな……?なんか罪悪感が込み上げて来た……後で謝っておかないとな……俺はそう思いながら自販機に小銭を入れて目的の紅茶の購入ボタンを押した。
ガコンッ!
続けてもう一つ自分の飲み物も
ガコンッ!
二缶を両手で取り出し、熱くなった顔を冷やすように自分の分の缶を額に押し当てる。キンキンに冷えた缶の筈なのに大した冷気を感じない。余程自分の顔が熱くなっているようだ。
はぁ……この緊張癖治らねぇかな、そしたらもうちょいマトモに話せそうなんだが……俺に比べてリュウイチはすげぇよな、昔からあれだけ大勢の女を相手に緊張する事が一度も無いんだからな……
俺はそんな事を考えながらハクの居る場所に戻って行った。
「お、お待たせ!ご要望通りの紅茶だぞ……ん?」
なるべく不自然に感じられないような明るさでハクに声をかけたが、どうやら通話中らしくSPDで誰かと会話していた。
「……はい、今は一緒ではありませんが後ほどもう一度合流してみます……はい……分かりました……あっ!……いえ、同僚が戻って来たのでこれで失礼致します……ごめんなさい、上司と連絡してて……ありがとう、カイ君!」
「あ、ああ、こっちこそ通話中に悪いな……ほい、紅茶!」
俺は反射的に軽く謝罪をして、持っていた紅茶の缶をハクに渡した……上司?マスターの事……じゃないよな?
「なあ、そう言えばハクは何処からここに転属になったんだ?差し支えなければ教えてくれ」
「私は西にあるビリブル支部から来たの」
ビリブル支部?それって確か……
「男性の立ち入りも入隊も禁止されている他とは珍しく、女性だけで成り立ってるホーリーヘヴンだよな?」
「そうだよ、三年くらいそこで勤めてたからここへ来た時はちょっと緊張しちゃった……でもカイ君や皆が優しくしてくれたり、丁寧に案内とかしてもらって凄く嬉しかった!改めてありがとう、カイ君」
そう言うと、ハクは再び笑顔になる。先程より凄く可愛らしく微笑んでいる、その笑顔は光ってるように見えた……やっぱり可憐なやつなんだな、ハクって……
「こ……こちらこそ、ハクが来てくれて嬉しいよ。これからもヨロシクな!」
俺はハクに握手を求め、彼女はそれに快く握手を返してくれた。
「こちらこそ宜しくね、頼りにしてるよ!カイ君!」
はは、そこまで言われたら期待を裏切る訳にはいかないな!
…………
……期待?
"お前に……期待しているぞ……必ず……あの者を……"
くっ!どうしてこんな時にこんな事を思い出すんだ!
「……?どうしたの?……カイ君?」
ハクと握手をし終えた直後、俺はあの時かけられた言葉を思い出していた
……俺の……やるべき事を……
そうだ、俺はあの時誓ったんだ。
俺は必ずやり遂げる。何があっても……
「カイ君……カイ君!」
ハクの呼びかけにハットして正気に戻ると、ハクが不安と不思議が混ざったような表情をしてこちらを見つめている……俺は慌てて返事をした
「わ、わりぃ、張り切りすぎて妄想の世界に直行しちまってた……はは、ごめんな。ハク」
「大丈夫ならいいけど……何か悩みとかあるなら私、力になるからね?」
優しさに満ちた瞳で俺の顔を覗き込むハクを俺は薄い笑顔で返す事しかできなかった……俺って笑顔つくるのこんな苦手だったか?いや違うな、意識し過ぎてるから笑顔になれないのか。
「おやおやぁ!レディの前で何やら難しい顔をしているな、カイ!オレがレディに対する対応の仕方を教えてやろうかぁ!?」
こ、この声は!?
「アキト様!?何故こんなところに!?」
「あ、アキト……様?」
困惑する俺たちに声をかけてきたのはリュウイチの兄であり特殊粛正官アキト様だった。普通ならこういう時はマスターに付きっきりになる筈なのに……
「質問に質問で返すな、男ならすらっとした対応をするべきだぞ!そういうハキハキした態度をするのも男の魅力の一つだからな!」
あ、相変わらず凄いテンションだな。とてもあのリュウイチの兄上とは思えない。
「は、はあ……申し訳ございません、以後気をつけます……あ、こちらはリュウイチの兄上であり特殊粛正官のアキト様だ。アキト様、こっちは特務執政官のハク・ミドリです」
「と、特殊粛正官……様!?は、はじめまして!ハク・ミドリと申します!」
「ふむふむ、宜しくなハク!可憐度80%、美人度20%ってとこだな……!」
いや、それって結構失礼な事を言ってるんじゃ……チラッとハクの様子を横目で見ると、彼女は苦笑していた。それはそうだよな……
「と、ところで、何故アキト様がここへ?マスターの警護をなさらなくてよろしいのですか?」
「オレがいなくても他の奴らがやるさ、それに攻撃を受けたのはたった一撃だろ?本気で畳み掛けるならもっと四方八方から連撃を受けている。だからオレが出るまでもないって事だよ」
少々自信過剰なところはあるが、筋は通ってる。この冷静な判断や思考回路はさすがナルミ家って感じだな。
「ま、相手が少数精鋭だとしてもオレの敵じゃないがな!なっはははははははは!!」
こ、こういうテンションはユキタカがしっかり受け継いでいるな……
「にしても、カイがリュウイチと離れてべっぴんさんと二人きりなんてかなりレアな出来事じゃないか?こんなタイミングで現れるオレ……くぅぅっイイタイミングだぜ!!」
なんだろう、ツッコミたいところだけど正論が半分入ってるから素直にツッコめない
「あ、それは今カイ君にベースを案内してもらいながら、皆さんに挨拶をして回っていたんです。私本日からこちらへ転属して来たものですから」
「あーーー!お前さんがマスターの言っていた新人か、良かったじゃないか可憐なレディで!なあカイ?」
うっ……またしても正論でなんとも言い難いっ!
「ま、まあハクで良かったというのは間違いではないですね……はい」
「フゥーーー!!言うようになったじゃねぇか、カイ!イイ感じだぞ!!オレがこうして会話を盛り上げてるおかげで二人の親密性が増す……うむうむ、さっすがオレ!!」
くそーーっ!!なんでリュウイチといい、アキト様といい、こう正論をふっかけて来るんだ!ツッコもうにもツッコめないぃ!!頷く事しかできねぇ!!
「あ、アキト様には恋人とかいらっしゃらないんですか……?」
ハクゥゥ!!それは……!!
「……え、恋人?!オレは……そう、オレは孤高なんだ!うむ!だからその恋人は……こいびとは……こいび………………しくしく……」
あー……始まった、アキト様は根本的な性格は申し分ないんだが、如何せん異様なテンションと拘りゆえに恋人がなかなかできないのだ……そしてその部分を軽率に触れてしまうとご本人曰くダウンアキトになってしまう……らしい。
「ご、ごめんなさい……私、踏み込んではいけないところに踏み込んでしまったみたいで……申し訳ございません……!」
「ああ……いいのいいの……オレの事は……うん……どうせオレは……孤高だから……うん……」
本当に……分かりやすい人だな。
ハクが丁寧に謝罪するが、ダウンアキト様の耳には右から左へ流れて行って聞こえてはいないようだ。
さっきまでのテンションが嘘みたいに大幅にダウンしている……なるほど確かにダウンアキト様だな……
「えっと……アキト様は根が素晴らしい方なので、きっとまたすぐに恋人できますよ!……きっと……」
「しくしくしくしく……」
ダメだ、やはり聞いてない……いや、効いてない。効果はいまひとつのようだな……
「オレ、トイレ行って顔洗って出直して来るよ……またな……お二人さん……爆ぜろ!!」
アキト様は最後の一言と脚力に力を込めて走り去ってしまった……次会う日までに直っていると良いが……
「行っちゃった……私本当に軽はずみな質問をしてしまって……」
「ま、まあ大丈夫だと思うぞ。立ち直りは良い方だから……確か……多分……そう願ってようぜ」
俺たちは去って行くアキト様の背中を見えなくなるまで見送った……ファイトですよ、アキト様!!
ピロン……ピロン……
そんな俺たちのローテンションを直すかのように俺のSPDが鳴り始めた……お、リュウイチからだ
「よう、リュウイチ!もう着替え済んだのか?」
『ああ、まあな……って、どうしたんだ二人とも、なんだか表情が暗いぞ?』
鋭いやつだな、流石の観察眼だ。リュウイチは今しがた俺たちに起こった何かを察知したようだ。まあ、アキト様と会話していた事は知らないだろうが、表情から何か良からぬ事があったというのは理解しているみたいだ。
「いや、ちょっとした台風みたいなものが通り過ぎてな……それより、容疑者……イレギュラーと対峙したんだろ?」
『あいつらはイレギュラーじゃない、僕の勝手な見解だがな。それに本部を狙っての奇襲ではなかったようだ』
リュウイチの返答に俺とハクは目を合わせ疑問を抱いた。イレギュラーじゃない上にあの攻撃は奇襲ではなかった?どういう事だ?
「リュウイチ君、イレギュラーじゃないってどういう事?」
『それについては、後ほど本人に聞かせてもらおう。とりあえずお前達は第二拘置所まで移動しろ、僕たちも一度会議室の方に顔を出してからそちらに向かう』
俺とハクは、了解と言って通信を終えた。第二拘置所か
「じゃあ、移動するか……と、その前に飲み物の残りを全部飲んじまおうぜ」
「うん、そうだね」
残りのコーヒーを飲み干し、俺はハクの持っていた空になった空き缶を手に取り、ゴミ箱へと放り込んだ。
「さて、行きますか!」
アキト
「一つの物語小話劇場ぉ!!主人公の兄貴のアキトだ、ヨロシクな!」
リュウイチ
「うわ、ウザイのが来たな……暑いのに」
アキト
「なんだ、相変わらず暑さでダウンしてんのか?情けないぞリュウイチ!男ならシャキッとしろ!」
リュウイチ
「兄貴こそ、クールな男とは程遠いぞ。無駄にうるさくしないのが、紳士な振る舞いなんじゃないのか?」
アキト
「ふっ!分かっていないな、何もオレは無作為にここへ来たんじゃない!愛する大事な弟が元気を無くしているからこそ、こうしてオレがお前にエールを送りに来たのさ!……弟がダウンしてる時にさっそうと現れる兄……くぅ!イイタイミングだぜ!」
リュウイチ
「はいはい……一つの物語〜それぞれの思想編10〜……暑苦しい、あぁ熱苦しい」
アキト
「やっぱオレがいないとダメだなぁ、お前は!よし、男がなんたるかを教えてやろう!まず男として輝くものはだなーー」
次回掲載日7月17日




