一つの物語〜悲劇編6〜
登場人物
・リュウイチ
特務執政官、リュウイチ・ナルミ部隊隊長で"自分のため"を信念に戦う成年。戦闘時は基本、2本の剣と二丁の魔銃を使う戦闘スタイルだが、基本的に右手だけで剣を扱っている。冷静沈着で頭脳明快であり、戦場に行ってもその性格を活かし、的確な指示を出し的確な行動をとる。そのため部下や仲間達から厚い信頼を寄せられている。ミツキ達を始め、多くの女性に想いを寄せられているが、本人はそれを全て躱しており相手にもその気は無い事を断言している。家族関係は兄が一人、弟と妹が一人ずついる。
・ユマリ
リュウイチ直属の一等粛正官で彼の部下兼護衛を務めている。物静かであまり多くを語らない、幼馴染のリュウイチを兄と呼んで彼を慕っているが、その想いは兄としてではなく、一人の男として彼に好意を抱いている。ミツキと同じく少々独占欲が強い。
兄のレイとジュンの事は名前で呼んでいる。彼女曰く、自分の兄はリュウイチだけとの事。
兄に似て魔法も使えるが、基本的に短刀を使い、まるでニンジャのような動きをする。
・ミツキ
幼馴染のリュウイチと同じ特務執政官でミツキ・アサギリ部隊隊長である。リュウイチに惚れており、彼の実の妹にすら嫉妬や警戒心を抱くほど彼を想っている。しっかりしてるがここぞと言う時に詰めが甘い時があり、私生活でもどこか抜けている。容姿端麗、頭脳明快、長く綺麗なポニーテイルが特徴。その容姿と優しさからヘヴンの隊員達には人気が高い、しかし当の本人はリュウイチにしか興味が無い。ちなみに妹であるサツキに劣らないくらいの怪力を有しているが、それを使う事はあまりない。
・サツキ
リュウイチの幼馴染でミツキとは3歳離れた姉妹。一等粛正官サツキ部隊の隊長。並外れた怪力の持ち主で、それが災いして被害を拡大させてしまう事がしばしばある。本人は一応気をつけて行動したいるもののなかなかそれが実らない。
姉のミツキ同様リュウイチに好意を寄せているが、時にミツキ達を応援するそぶりを見せたり、リュウイチに迫ってからかったりする事が多く、何を考えているのが分からない時がある。姉に似て顔はかなり綺麗に整っていて、サラッとした茶髪のセミロングが特徴
・カイ
リュウイチのガード兼親友であり、彼の護衛で彼の良き友でもある。リュウイチと同様剣の使い手で腕前は超一流であり、素早さに特化した戦闘スタイルである。極度の緊張症で女の事になると右往左往してしまい、言葉がたどたどしくなる。が、男女関係なく気さくな性格なので、女は勿論男にも人気がある。
・レイ
カイと同じくリュウイチのガード兼親友。いつも笑顔を崩さない明るい成年で妹にユマリ、弟にジュンがいる。魔法を得意としており、時空間魔法や上級魔法も短い詠唱で発動する事ができる所謂天才であり、本人はそれを誇示したりしない。たまにサツキと一緒になって悪ノリをしてリュウイチに叱られることがあるが、反省はしていない様子。
・キラ
リュウイチ部隊の一等粛清官であり、ユマリとサツキ達の同期。穏やかで優しい性格で、部下などにも分け隔てなく接する好青年。潜在能力が高く、単体で大物イレギュラーやギガントモンスターを粛清できるくらいの実力があるが、本人はそれを謙遜している。
モンスターよりイレギュラーの粛清を主に行っており、戦闘スタイルは魔銃を駆使して戦う。その射撃の腕前は極めて高く、狙撃も難なくこなす。
「……この中に沢山本がある……」
他とは装飾が違う扉の前に着くと、ユリコちゃんがそう発言する。本が沢山か……マップで確認してみるとここは書斎のようだな。
「あなたのおかげで迷わず来れたわ、ありがとうユリコちゃん」
みぃ姉と繋がっているユリコちゃんの手を片方の手で優しく握り、笑顔を向けた。
当のユリコちゃんはいつも通り無表情で何も言わず、みぃ姉の優しい瞳をユリコちゃんの純真な瞳で見つめ返している。
「ユリコちゃんは良い子だな。扉を開けるからみぃ姉と一緒に少し離れておけ」
二人が少し離れたのを確認すると、僕はゆっくりドア開け中の様子を除く。何の気配も感じられないが、万が一の確率で侵入者用のトラップが仕掛けているかもしれない。
一通り確認してみたが、大丈夫そうだな。
僕は皆んなに合図し全員で部屋へと入っていく。
「うっわー……めちゃくちゃ本があるなぁ、これを調べるとなると頭痛くなりそうだ……」
「お前も僕の痛みを体験できて良かったじゃないか、あれの頭痛は相当なものだぞ」
ため息をつくカイに僕は皮肉を言って追い詰める。勘弁してくれと言って、本棚にあった本を適当に選び読み始めた。
ピピピ
突如、静まり返っていた部屋にSPDの通知音が鳴り響いた。僕は端末を取り出し、画面を操作する……これはちょうどいい、本部から連絡か
「なかなかいいタイミングだな、本部からだ。仕事が早くて助かる」
本部から送られてきたここの詳細情報に目を通す、周りに居たカイたちが、僕のSPDの浮かび上がるスクリーン画面を見るため集まってきた。
「……おい、押すなっ!まったく……この屋敷の設計者及び当主の名は、アント・ヤナミ……アント……?どっかで聞いた事ある名前だな、もう少し先を見てみるか……」
おしくらまんじゅうをしているように僕を巻き添いにして、SPDのスクリーンを覗き込んでいたカイ達。そんな中、どさくさに紛れて僕の顔に無駄に顔をくっつけてくるサツキを押しのけながら本部から送られてきた情報を読み続ける。
「……ん?あぁ、これか、千年以上前にヤナミ一族の当主で、ヤナミ家の正当後継者。1400年前に、当時住んでいた鴉村の住人567名の内560名が突如謎の神隠しに遭い、村人のほぼ全員が消えるという怪事件が発生、その影響で鴉村は廃村となり、現在の拠点地である朧月の渓谷に移り住んだ」
神隠しか……まさか、先遣隊達が見つからないのはこの神隠しにあったという事か?にわかには信じられないが、事実あいつらは生命エネルギーを吸収されて、未だに行方不明……昔鴉村で消えた住人達が消えたという事件はもしかしてユリナと何か関係があるのか?
「そのヤナミ一族達が暮らしているのがこの屋敷だとしても、人の気配が無さ過ぎますね、それともまた何処かに移り住んでいるのでしょうか……おや?これは……神棚でしょうか?ここの人たちのは独特ですね、なんだか見ていて少々不気味な印象を感じますが……一体どういう意味合いがあるのでしょうか」
レイが見ている神棚に目を向けると、確かに神聖と言うより邪悪な雰囲気を醸し出している。両端に木のようなもがあり、そこから伸びてる複数の赤い紐みたいな物が真ん中の華を縛り付けているものだった。
「……あれは紫炎華神様だよ……」
僕たちが薄気味悪い神棚を見ているとユリコちゃんがあの神棚について助言をくれた。しかし紫炎華神なんて聞いたことが無い、それについて何か書いてないだろうか。
僕は再びSPDを操作して画面を操作する。
「紫炎華神は……ヤナミ一族の中で選ばれた黒華を奉り華を完成させて、神棚に祀ることでヤナミ一族を大いなる災いから守護しているとの事……その華は普通の華なんだろうか、まさか……」
ヤナミ一族で生まれる黒華……まさか生贄として捧げるつもりか?あいつも……ユリナもその一人なんだろうか?
「なんだがムズカシイねぇ……あたし頭使うの苦手なんだよなぁ……あれ?ねぇ、りゅうくん、この写真に写ってるのってユリコちゃんじゃない?」
サツキがそう言うと、古い写真縦に入っていた写真を僕たちに見せてくる。
確かにこの子に似ている……それにこの隣にいるのはユリナ、か?
「あー!リュウイチー!これ見て!」
古びた写真を見ていると、今度はみぃ姉が僕の名前を呼びだしてきた。本当に姉妹だな……仕方なくみぃ姉の元に歩み寄る。
「どうした?何か分かったのか?」
「これこれ、誰かの日記みたいよ。読んでみるわね……えっと……今回もヤナミ家に伝わる例の異能の力……千里眼などを有した"黒華"を継承した幼女が誕生した、名前はユリナと名付ける」
黒華に……千里眼だと……?
「ユリナは我々が思っていたより強力な潜在能力を宿しているようだ。本来、黒華の才を持つ者は常人と比べるとかなり高い魔力を有するのだが、ユリナは僅か4歳にもかかわらず超級魔法を短い詠唱で発動させ、あの子が嫌っている祭壇を一瞬の内に粉々にしてしまった。本人もそれに驚き、恐怖のあまり泣き喚いていた……一刻も早く祭壇を修復しなければ、我々の命が更に危険に晒されてしまう」
「なんという事だ……私の娘であるレンゲとその夫ソウタがヤナミ家の戒律を破り、二人目の娘を出産してしまった。いつの間にか二人のお目付け役を味方につけていたとの事だ。その者達と夫であるソウタもレンゲ達の目の前で八つ裂きにし、憎悪と悲しみの糧にした」
「なんて事を……」
キラがたまらず声を漏らす、確かに虫唾が走る話だ。
「本来ならその娘も処分する筈だったのだが、娘がユリナと酷く共鳴し依存し合い、娘を殺そうとした神官の四肢を彼女の力により引きちぎられてしまった。しかし今回も彼女の無意識による発動だったらしく、その光景を目の当たりにしたユリナは困惑しながら涙を流していた。憎しみが増幅するのは願ったり叶ったりだが、このままでは儀式をする前に皆殺しにされるのではないかと懸念し、娘(ユリコと名付ける)をこのまま儀式終了まで生かす事にした。そして……うーん、ダメね、この先は所々破れてたり掠れていてよく読めないわ……」
日記を読み終えたみぃ姉は悲しい表情をしながらユリコちゃんに近寄り、その小さな頭を優しく撫でた。
「じゃあ、ユリコちゃんとユリナは血の繋がった本当の姉妹って事か……にしても、とてつもなく胸糞悪い話だな……!」
カイが憤慨しながら拳を握りしめている。キラも同感の様で握りしめている手が震えている。
「……ね、ねぇ、そのセンリガンってなんなの?なんとな〜く聞いたことはあるんだけど、意味は全然しらないんだよねぇ」
不穏な雰囲気を無理矢理破く様にいつもと違う声質で明るく振る舞うサツキ……僕はお前のそういうところも嫌いじゃないぞ。
「千里眼というのは一種の超能力だ。相手の思っている事が読めたり、明日の天気やこの先何が起こるかとか、先の事を予知する事ができる正に神業ってやつだな」
「へぇ〜さすがりゅうくん♪ だからユリナちゃんは私達の行動を先読みする事ができたんだねぇ」
ユリナちゃんって……早速ちゃん付けかよ
「ああ、そうだ。でも良い事ばかりじゃない、その能力ゆえ相手に不気味に思われたり疎ましく思われる事もある。その力を悪用されたりする事だってあり得る、並大抵の精神じゃ耐えられない代物だ」
サツキに対する講釈を短めに終えると、ユリコちゃんがゆっくり僕に近づいて来た。
「……ユリコを嫌いになる……?」
……?
「……ユリコやお姉ちゃんの事、怖い……?」
……
物心がついてきたところか、ギリついてない歳の内に精神体になってしまったのだろうか、幼いながらに不安を感じている様だ……素直で率直な問いかけを僕にしてくる。
「どれだけ自分の思っている事を読まれようが、僕はお前達を怖がったり嫌いになったりする事はない」
「……」
「それに、もしもユリコちゃん達を貶したり利用しようとする奴が僕の目の前に現れたら、必ず僕が粛正する。どんな理由があろうと、これ以上お前達を苦しませたり悲しませるような事はさせない。約束する」
「リュウイチ……」
……僕とした事が、少々子どもに熱弁し過ぎたか?幼い子には難しい事を連呼してしまったかもしれなーー
「……ありがとう……」
……案外ちゃんと伝わったみたいだな。
「ホント、りゅうくんってば優しいんだから♪ ユリコちゃん、あたし達もりゅうくんと同じ気持ちだからね、誰もユリコちゃんにひどい事させないんだから♪」
そう言いながらサツキが僕を無理矢理手繰り寄せ抱きついてくる……放せ恥ずかしい
僕はサツキを振り払い、本部から送られてきた情報をもう一度確認する。
他に何か重要な事はないだろうか?
僕はSPDをスクロールしながら、情報を読み進める……ん?
「なぁ、ユリコちゃん。さっき言っていたあの不気味な神棚……紫炎華神だったか?それってヤナミ家で代々行われ続けてる"華縛りの儀"と何か関係あるのか?」
「……」
ここでだんまりか……本当に知らないのか、それとももしかしたら口に出したくない事なのかもしれないな……仕方ない。
「ユマリ、レイ、ここにある書籍に華縛りの儀について記述されてないか調べてくれ」
「了解」
「了解致しました」
「キラ、みぃ姉、ユリコちゃんから絶対に離れるな……何が起こるか分からないからな」
そう言いながら僕は段々と嫌な予感がしてきた。このざわついた気持ちが、ただの杞憂だと思いたい……そう思いながら皆んなに指示を出し始めた。
「え……?あぁ、うん、了解……」
「了解です、必ず守りきってみせます」
この屋敷には……いや、ヤナミ家にはもっと深い闇が隠れているのかもしれない。それこそ悲劇と言わざるを得ない何かが……
「どうしたのリュウイチ?何か気づいた事でもあったの?なんだかいつもと様子が違うし……」
「正確には分かってしまいそうで苛つくんだよ。ヤナミ家が何をしていたのか、しっかり把握してユリナ達の事を何とかしなければ……」
複雑で馬鹿げた事情をさっさと解決して、ちゃんと二人を解放してやる!必ずっ!
僕の信念に誓って
「なあ、リュウイチ……俺たちにも何か出来る事は無いか?」
「そうそう、あたしだってりゅうくんのお手伝いしたいんだよぉ♪ 」
フッ……はいはい、そうだったな
「お前たちにはちょいと危険かもしれないが、外の吊り橋がある所までもう一度行ってくれ。吊り橋を繋いでいるあの妙な柱が気になるんだ。確か布みたいなものが巻きついていただろ?それをどうにか外して中身の確認をして来るんだ、できるな?」
「もち!了〜解!♪」
「おう、了解だ!」
そう返事をすると二人とも書斎からものすごい勢いで出ていった。元気だなあいつらは。
……さて、僕はと言うと
ある程度の仮定を組んでおかないとな。
まず一つ目の謎は神隠しについて、村一つが廃村になるくらい消えた者たちは一体どこへ行ったのか?
二つ目は、生命エネルギーを吸収された先遣隊達の行方。仮に生命エネルギーだけを奪われたのなら死体は残るのではないか?しかし遺体は見つからず、どこかへ消えた。ここへ来るまで僕を含め全員がそれらしいものを発見していない。
三つ目、思念体と精神体について……この違いだけでこんなにも大きく変わるものなのだろうか?ユリコちゃんはちゃんと生前の姿をしたままで存在している、でもユリナは面妖に変化してしまっている。一体何故ここまで差があるんだ?
そして最後に、華縛りの儀の詳細……僕の勘が間違っていてくれれば良いんだが……。
そう思っているとユリコちゃんが静かに歩み寄り、僕の手を握って来た。僕を見つめるその無垢な瞳がなんとなく哀しげな雰囲気を感じさせた……僕はその気持ちを振り払うようにこの子の手を握り返す。
約束は必ず守る。
「任せろ」
僕はそう短くユリコちゃんに告げ、その無垢な瞳を真っ直ぐ見つめ返した。
ミナト
「ひ、一つの物語小話劇場……ミナト・ナルミ……です……」
リュウイチ
「うむ、よく言えたなミナト、偉いぞ」
ミナト
「あ、ありがとうございます!お兄ちゃんが見守ってくれていたので頑張る事ができました!」
リュウイチ
「なんて兄想いな妹と妹想いな兄なんだ、まさに最高の兄妹愛だな……!」
ミナト
「はい!ミナトとお兄ちゃんは最高の絆で結ばれています!!それなのに……それなのにどうしてユリコちゃんとあんなに仲良くしてるんですか!?お兄ちゃんが手を繋ぐ相手はミナトと決まっているんですよ!!ズルイです!!反則です!!おぶじぇくしょんです!!」
リュウイチ
「ま、待てミナト!あれはお前と重なって見えたからと言うか、条件反射でつい手を繋いでしまったと言うか……」
ミナト
「言い訳なんか聞きたくありません!!帰って来たら三週間ピッタンコですからね!!絶対離しませんよ!!」
リュウイチ
「じ、次回一つの物語〜悲劇編7〜……なあ、せめて風呂とトイレだけは……」
ミナト
「ダメです!お風呂もおトイレもピッタンコです!」
リュウイチ
「頼むからそれだけは勘弁してくれぇ!!」




