一つの物語〜悲劇編2〜
・ユマリ
リュウイチ直属の一等粛正官で彼の部下兼護衛を務めている。物静かであまり多くを語らない、幼馴染のリュウイチを兄と呼んで彼を慕っているが、その想いは兄以上の想いを寄せている。ミツキと同じく少々独占欲が強い。
兄のレイとジュンの事は名前で呼んでいる。彼女曰く、自分の兄はリュウイチだけとの事。
兄達に似て魔法も使えるが、基本的に短刀を使い、まるでニンジャのような動きをする。
・ミツキ
幼馴染のリュウイチと同じ特務執政官でミツキ・アサギリ部隊隊長。リュウイチに惚れており、彼の実の妹にすら嫉妬や警戒心を抱くほど彼を想っている。しっかりしてるがここぞと言う時に詰めが甘い時があり、私生活でもどこか抜けている。容姿端麗、頭脳明快、長く綺麗なポニーテイルが特徴。その容姿と優しさからヘヴンの隊員達には人気が高い、しかし当の本人はリュウイチにしか興味が無い。ちなみに妹であるサツキに劣らないくらいの怪力を有しているが、それを使う事はあまりない。
・サツキ
リュウイチの幼馴染でミツキとは3歳離れた姉妹。一等粛正官サツキ部隊の隊長。並外れた怪力の持ち主で、それが災いして被害を拡大させてしまう事がしばしばある。本人は一応気をつけて行動したいるもののなかなかそれが実らない。
姉のミツキ同様リュウイチに好意を寄せているが、時にミツキ達を応援するそぶりを見せたり、リュウイチに迫ってからかったりする事が多く、何を考えているのが分からない時がある。姉に似て顔はかなり綺麗に整っていて、サラッとした茶髪のセミロングが特徴
・カイ
リュウイチのガード兼親友であり、彼の護衛で彼の良き友でもある。リュウイチと同様剣の使い手で腕前は超一流であり、素早さに特化した戦闘スタイルである。極度の緊張症で女の事になると右往左往してしまい、言葉がたどたどしくなる。が、男女関係なく気さくな性格なので、女は勿論男にも人気がある。
・レイ
カイと同じくリュウイチのガード兼親友。いつも笑顔を崩さない明るい成年で妹にユマリ、弟にジュンがいる。魔法を得意としており、時空間魔法や上級魔法も短い詠唱で発動する事ができる所謂天才であり、本人はそれを誇示したりしない。たまにサツキと一緒になって悪ノリをしてリュウイチに叱られることがあるが、反省はしていない様子。
・キラ
リュウイチ部隊の一等粛清官であり、ユマリとサツキ達の同期。穏やかで優しい性格で、部下などにも分け隔てなく接する好青年。潜在能力が高く、単体で大物イレギュラーやギガントモンスターを粛清できるくらいの実力があるが、本人はそれを謙遜している。
モンスターよりイレギュラーの粛清を主に行っており、戦闘スタイルは魔銃を駆使して戦う。その射撃の腕前は極めて高く、狙撃も難なくこなす。
数時間前、朧月の渓谷ー館前ー
兄さん……
私は今しがた通って来た道を振り返り、半身が離れてしまった様な不安と苦痛に苛まれていた。
致し方なかった事とはいえ、兄さんと離れてしまった事が悔しかった。
「ユマりん、どうかしたの?」
同じく後方を歩いていたサツキが声を掛けて来た。
「……何でもない」
そう短く返答しながらサツキにいちべつし、再び進行方向に顔を向け直した。
「……りゅうくんなら大丈夫だよ、ユマりんだってりゅうくんの事信じてるんでしょ?」
その通りよ……私は兄さんを信じてる
そして兄さんを苦しませている元凶を排除する、それが私の目的……正直なところ、ジュンやキョウコ達の捜索なんて二の次と思っている。
……勿論、先遣隊達の事よりも
おそらくこのメンバーの中では私が最も残酷な性格でしょうね。
「ええ、当然でしょ」
優先順位は昔から決まっている……決まっているのに私はあえてこちらを選択した。
先遣隊達が心配な訳ではない
家族の一人であるジュンの事を気に病んでいる訳でもない
長く共に共闘してきたキョウコが裏切った事に心を痛めている訳でもない
こちらを選択した理由は兄さんの苦しみを取り除くため、兄さんと共に過ごしていたいため
そして兄さんの意思を尊重したためである。
「……兄さん、帰ったら抱きしめてくれるかしら」
「あっはは!りゅうくんがそんな事するとは思えないけど、あたしもそれを期待してよっかなぁ♪」
……一瞬、兄さんがサツキを抱擁している場面を想像してしまい、嫌悪感が駆け巡る。
「……不愉快だわ」
サツキの馬鹿げた発言を私は一蹴した
「うんうん、恋する乙女だねぇ!可愛い♪」
全く意に介していない口調でサツキがそう言うと、少し先を行っていた私に抱きついてきた。
……これが兄さんだったら良いのに
屋敷前の吊り橋を渡っていると、下から川の流れる音が聞こえてきたので、私はなんとなく覗き込んでみた。
流れが早い、もし落ちたら瞬く間に流されてしまうわね……下手すると衝撃で怪我をするか、意識を失ってしまうかもしれない
「もぉ〜!なんでこんなに吊り橋があるの〜!」
「確かに……何度も渡ってると集中力が途切れてしまいそうになるね」
サツキとキラがうんざりと言った感じで文句を言いながら、私の先を渡っている。
……邪魔ね、早く行きなさい
「わわっ!ユマりん揺らさないでよ〜!」
サツキたちを追い抜くために自然と歩行速度が速くなり、吊り橋が大きく揺れた。
「おわっと!ゆ、ユマリ俺たちもいるだから少しは気を遣ってくれよ!」
「怖いですねー吊り橋もユマリも」
更に先を渡っていたレイ達がこちらに振り向いて声を上げたが、私は気にせずそのまま早歩きで先を急いだ。
……情けない男たちね
早く逞しい兄さんに会いたい……
……?
吊り橋を渡り終えようとした時、私はふと歩きながら吊り橋の柱に視線を向けた
……なにかしらこの柱、一般的な柱とは形状が違っている
「この違和感のある柱はなんでしょうね?太い丸太に袋を被せたような……少々不気味な雰囲気を漂わせていますが」
私と同じ事を思っていたみたいね、いつの間にか追いついて来たレイが気安く話しかけてきた。
「あら、不気味なのはレイも同じでしょ、常日頃からニヤニヤして……いい加減その癖治したら?」
「おやこれは手厳しい、あなたも少しくらい笑顔を作った方が良いのではないですか?リュウイチ様があなたを意識し始めるかもしれませんよ」
レイの皮肉めいた返答に、私はそっぽを向いて屋敷へと歩みを続ける。
それくらいで兄さんがおちる訳ないじゃない、彼は私の内面を見てくれているもの
……ここに兄さんを苦しめてる元凶が
屋敷の入り口に辿り着いた私は、他の連中が来るまで僅かな間待機し、その間周囲の気配に気を配る。
……モンスターの気配は感じられない。
何かがおかしい、ここへ来る途中もモンスターに遭遇しなかった。ここはヘヴンの警備外エリアのはず、それなのにモンスターの気配は感じられない上、あの吊り橋やこの大きな屋敷……イレギュラーの住処という訳でもなさそうね、人が出入りした形跡が無い
「うわ、近くで見ると本当にすっごい大きい建物だねぇ」
「隠れんぼするには絶好の場所だな、鬼役は苦労するだろうけど」
サツキとカイが屋敷の大きさに圧巻されながら入り口へと近づいて来た。
どれだけ広かろうが必ず元凶を見つけ出し粛正する。
「みんな集まったし、早速中に入りましょう……僕が先陣を切ります……準備は良いですか?」
キラがドアノブを握り魔銃を構え、私達に目配せを送りドアをゆっくり開けた。
「埃まみれですね……床に足跡は無し……ここにも先遣隊は居ないのでしょうか?」
レイがホルダーからライトを取り出し、埃が積もった床を調べる。確かに足跡は無いみたいね、私もライトを取り出し辺りを見回すが、不気味なほど静まりかえっている。
「だとしたら、どこに行ったんだ?もしかしてまだ森林の中で迷ってんのか?」
「それとも……やっぱりジュン達にやられてしまったのでしょうか?」
カイとキラが周りを調べながら表情を暗くする……ふとサツキの方に目をやると、何やら思いつめた様子で表情を膠着させていた。
……おそらく兄さんとミツキの事を気にかけているんでしょうね
「……どうしたの?」
私はあえてサツキに質問した
「なんか……嫌な予感がして……」
「ミツキがまたバーサーカーになるかもしれないって思ってるの?」
口調はいつもどおり明るかったけど、この子もやっぱり不安なのね……
「みぃ姉の事はりゅうくんがいるから大丈夫だろうけど……あのりゅうくんの容態が気になって……」
……気持ちは判るわ、私も同じ事を考えているもの
傷の痛みは回復するだろうけど、兄さんの頭痛……相当辛そうだった。
私達に心配かけまいと無理をしていたのはわかってた。勿論、自身が足手まといにならないようにあそこで留まった事も……兄さんの事だから、最悪の場合自分を犠牲にする事も考えられる。
……そんな事考えたくもない
「早く片付けましょう、兄さんのために……」
「うん……そう……だよね」
サツキもおそらく、私と同じ心配をしているのだろう俯いたまま煮えきれない返事をした。
「……先に進もうぜ、ここで手をこまねいていたらそれこそ時間がもったいないしな」
「カイ……足元にゴキブリが這ってるわよ」
「なっ!!え?!マジかよ!?」
……兄さん、お願いだから自分を大切にしてね
お願いだから……私を置いていかないで……
「騒がしいですよ、カイさん……おや、これはこの屋敷の見取り図でしょうか?」
レイがカイをたしなめつつ、近くにあった大そうな額縁に入れられた見取り図らしき物を調べた
「あ、ここに大きな広間みたいな所がありますね。ここはえっと……談話室?とりあえずそこを目指しませんか?」
確かに闇雲に行動していたら危険ね、ジュン達が居ないとも限らないし、兄さんの言っていた"嫌な気配"の事もある……
「やれやれ……嫌な汗が出たぜ……き、キラの言う通り、そこに行ってみよう。念のため、リュウイチ達が追いついた時の事を考えてチェックポインターを設置しながらな」
できればそうなる前に元凶を消し去りたいわね、兄さんの苦痛を排除してあげられるし、抱きついても許してくれるかもしれない……キスの方が良いかしら?
「早く行きましょう、この中を調査しながら慎重に……ね」
「……うん、じゃあレッツゴー!♪」
私とサツキは再び歩み始め、二階にある談話室を目指した。
「マップで見たところ、かなり広い談話室みたいですね、富豪の方が作られた屋敷なのでしょうか?」
確かに無駄に広いイメージがある、和風と洋風を合わせたような屋敷みたいで、所々にそれを思わせるような飾りやアンティークがある。どれも高級そうね
「扉だらけだねぇ……見取り図がなかったら迷子になりそう」
確かに、方向音痴なら出られなくなるくらい部屋の数が大量にあった。私は兄さん達が来た時のためにチェックポインターを設置する。
「ずっと気になってたんだが、お前たちってリュウイチの言っていた嫌な気配ってやつ感じるか?俺には感じられないんが……」
「僕も不気味と思うだけで、リュウイチ隊長ほど明確な気配は感じません」
「僕も同じです、辛うじて殺気は感じますが、場所までは特定できません」
「あたしも感じない、確かグリムの時も頭痛がしてたんだよね、あれと何か繋がりがあるのかな?」
あの時は頭痛に加えて兄さんだけモンスターに狙われていた……サツキの言うように何か繋がりがあるのかしら?
せめて兄さんと同じような気配を感じられれば良いんだけど……不愉快だわ
「正体不明の気配に正体不明の屋敷か……なぁ、二手に別れて二階の部屋を全部確認しに行かないか?とりあえず談話室を拠点にして、他の部屋も探索してみようぜ」
「少々危険ですが、リュウイチ様の容態が気になりますし、そうしましょうか」
カイの提案をレイ達は賛同した。
「ここね……談話室って」
私達はマップを見ながら談話室の近くまで着き、先頭のキラが辺りを警戒する。
キラのが頷くのを確認し私は扉をゆっくり開けた。勢いよく飛び出したキラはすぐに周りの警戒をする。
……兄さんだっら堂々と入っていっなかもしれないわね、彼は自信の塊みたいなところがあるから。
「誰も居ないみたいです、クリア!」
「了解……確かに広いなぁ、拠点にするには良い場所だな」
キラが安全を確保し、私達も後に続き部屋の中へ入っていった。
私はくるりと部屋の中を歩き回り、武器になりそうな物、持って行けそうなもの、隠れる場所、その全ての確認を終え、部屋を出て行くために扉に近づく
「お、おい、ユマリ!どこ行くんだよ?」
「あんたが言ってたじゃない、ここを拠点にしてほかの部屋を探索しようって」
私は焦りと不安が我慢の限界が達しそうなのを感じていた、兄さんを早く助けたい、頭の中はそれだけと言って良いくらいだ
「先ずは一息ついた方がいいんじゃないか?ずっと張り詰めてたら疲れちまうぞ」
「大丈夫だよ!あたしもユマりんと一緒に行くから!」
カイの気遣いにサツキが返答すると、サツキが後ろから抱きしめてきた……不愉快だわ
いつも思うけど、私を抱きしめて良いの兄さんだけよ
「……あんたも来るの?……まあいいわ、逸れたりしないでよ?」
「はーい♪」
サツキの無駄なやかましさに、カイとレイはため息をついて呆れたような薄い笑顔でお互いの顔を見た。
「仕方ないですね、精々この薄暗い屋敷に悲鳴を響かせないように注意して下さい」
私は兄さんの口癖を真似て、はいはいと返事をしながらサツキと談話室を後にした。
「じゃあ、私は左側の扉を探索するね。ユマりんは右側をお願いね♪」
「……ええ、気をつけなさいよ。サツキ」
「はーい!ユマりんも気をつけてね!♪ さあ行くぞぉ!」
……兄さんの真似しないで、不愉快よ
数分後……
サツキと手分けしてくまなく調べたにも関わらず、大した情報も得られないまま無駄な時間をついやしてしまった
「ユマりんなにかあったぁ?」
「いいえ、何もなかったわ。次は二階の東側のエリアを調べないと」
私が歩いて行こうとしたら私の腕を組んでサツキが引き止めた。
……時間を無駄にしたくないの、邪魔しないでもらえるかしら?
「何かしら?早く探す事に越したことはないでしょ?」
「そうだけど、向こう側はカイたちに任せよう?多分皆んな、りゅうくんが心配で何かしないと落ち着いていられないのかも……」
……仕方ないわね……
「わかったわ、一度談話室に戻りましょ」
「うん!……ヤッホー!西側エリアの探索終わったよ!今度は男性陣が見回る番だぞ!!ほらほら、早く行け行け!♪」
「び、びっくりした……よし、じゃあ行きましょう!」
談話室の扉をバンと開けて、待機していた男性陣を
急かせるサツキ、それに圧倒されたのか、それとも最初から行く気満々だったのか、いそいそと廊下へ出て行った。
これでなんの進展も無ければ他の場所に行かないと……ごめんなさい、兄さん。もう少しだけ待っていて
それから数分後
男性陣が談話室に戻って来たが、捜索も虚しく結局目新しいものは無く、それに先遣隊も見つからないまま時が過ぎて行く
二階北側も捜索しに行こう
……あら?
そう思っていると、ドアの向こうから気配を感じた。だれ?兄さんの気配じゃない……
バタンと大きな音を上げながらドアが開き、その人物が入ってすぐ、見覚えのある姿が目に入ってきた
「ひぁっ!?なになに!?」
「……ミツキ?」
「サツキ!ユマリにみんなも!良かった、みんな無事だったんだね」
……兄さん?どうして兄さんがいないの……まさか!?
私の体から血の気が無くなって行くのを感じた……
カイ
「一つの物語小話劇場
俺達はリュウイチの行方を追い屋敷の西側へたどり着く、そこには気を失っているリュウイチと、厄介な事にジュン達とも遭遇してしまった。」
レイ
「僕達の前に立ちはだかるジュンとキョウコ、すぐそこにリュウイチ様がいるにもかかわらず、二人は僕達に攻撃を仕掛けようとした。」
キラ
「しかしその直前、屋敷の中で出会ったユリコと名乗る少女が"お姉ちゃんが来る"と呟き、どこからともなく不吉な気配が僕達の元に接近してくる」
カイ
「俺達は三つ巴の状況に陥ってしまうが、何としてでもリュウイチのいる場所へ行こうと躍起になる。果たして俺達は無事にリュウイチを救う事が出来るのか!?」
レイ
「次回、一つの物語〜悲劇編3〜
誰が相手だろうと、僕達は必ずリュウイチ様を救ってみせます!」
キラ
「一体、あの"お姉ちゃん"と呼ばれる女性は誰なんだ!?」




