一つの物語〜絆編12〜
登場人物
・リュウイチ
特務執政官、リュウイチ・ナルミ部隊隊長で"自分のため"を信念に戦う成年。戦闘時は2本の剣と二丁の魔銃を使う戦闘スタイルだが、基本的に右手だけで剣を扱っている。冷静沈着で頭脳明快であり、戦場に行ってもその性格を活かし、的確な指示を出し的確な行動をとる。そのため部下や仲間達からあつい信頼を寄せられている。ミツキ達を始め、多くの女性に想いを寄せられているが、本人はそれを躱しており本人達にもその気は無い事を断言している。家族関係は兄が一人、弟と妹が一人ずついる。
・ユキタカ
リュウイチの弟で二等粛清官。
お気楽極楽がモットーでいい加減な態度が多いが、戦闘になるとやや好戦的になる。兄のリュウイチとは違い、砕けた物言いが特徴でそれをたまに注意される。
トモカに告白され、一度は破局の危機に陥ったがリュウイチのアドバイスにより本格的に交際するに至った。トモカに告白されただけあり内面には心優しい部分がある。その点は周りも納得しているが基本的には
ヘタレでいい加減な性格をしている。
戦闘スタイルは大剣で相手を豪快に薙ぎ払うが、一応リュウイチと同じくナルミ流を基礎としておりたまに似た技を使う事がある。
・トモカ
ユキタカの恋人でサツキとは仲が良いが、敬語で話す。二等粛清官であり容姿端麗で慈愛に満ちたその性格と容姿から隊員達の間では"戦場の天使"と言われている。穏やかな性格だが、リュウイチ達が認めるくらい芯が強く、他人を見極める能力が高い。戦術は主に魔法と治癒術、弓の様な魔力を凝縮させた独特の武器を用いて戦うので、遠距離支援を担当している。
・ミナト
リュウイチの妹、さらにユキタカとクウガ、二人兄が存在するが、リュウイチだけをお兄ちゃんと呼びあとの二人は名前をつけてお兄さんと呼ぶ。
気配には人一倍敏感であるリュウイチに気配を感じさせず、彼に接近できる特技を持つ。
基本的に家事をしないユキタカと一人暮らしをしているクウガにはあまり懐いておらず、リュウイチを溺愛している一面を見せる事がしばしばある
・アカリ
サツキの後輩でトモカの妹、姉のトモカより先輩のサツキの方に懐いている、そのせいか言う事や話し方がサツキに似ており、リュウイチにため息いをつかせる事がほとんどである。
また、リュウイチの事をりゅういちお兄ちゃんと慕い、自分は未来の妹だと自信たっぷりに言ってトモカとユキタカに、赤面させる。
ヘヴンの隊員研修生であり、戦闘スタイルはサツキと同じで怪力と格闘戦で対象を排除する。
リュウ兄、顔面にアイス押し付けられても怒らないなんて……ちょい意外だったなぁ
俺は残りのクッキーに生クリームをつけて口に運びながら先ほどのリュウ兄の行動について思い返していた。
やっぱアカリちゃんを妹として接し始めたって事なのか?気が早いしちょい照れ臭いけど、なんか嬉しいかも
「あ、ユキタカ君。口元に生クリームついてるよ」
「え、マジで!?悪いな、トモカ……」
そう言うとトモカが自分のハンカチで俺の口元を優しく拭いてくれた。良い彼女だよな、ホント……幸せだわ
「ユキタカお兄さん、顔がとけてます」
「あれは情けない腑抜けた顔って言うんだ、よく覚えておけよ、ミナト」
「腑抜けた顔なんですね、分かりました!」
おい、ミナトに何を教えてるんだリュウ兄!
「ち、違うぞミナト!この顔は幸福の顔なんだ!決して腑抜けではないぞ!」
「あっはっはっは!!ユキタカお兄ちゃん変な顔ー!♪」
ぬぁ!!アカリちゃんまでぇ!!
いかん、ここはいったん落ち着け!リュウ兄たちのペースに飲まれるな!!
〜〜〜〜っっっ!!
……
ふぅ……よし落ち着いた
「イヤだなお前たち、俺はこの愛しのエンジェルと恋人になれてすごく幸せなんだぜぇ?そりゃ顔もほころぶさ!フフ、まあお前たちもいずれ恋人ができれば分かるさ」
……決まったぜっ!
「むーー開き直った」
「フン、まあ良い勉強になったじゃないか」
だっろぉ!!俺だってやりゃできるんだよ♪
「そこにいるお前の"恋人"とやらを恥ずかしがらせるようなアホにはならないように、僕たちも気をつけようじゃないか」
……え?
「なーるほど、りゅういちお兄ちゃんの言うとりだね、気をつけよっとー!♪」
「ミナトも気をつけます!大切なお兄ちゃんに恥ずかしい思いはさせません」
はっ!!!??
そう言われてすぐさまトモカの方を見ると顔を真っ赤にして俯いてモジモジしていたっ!!
す、すまん!トモカ!!
「と、トモカ!?すまん、俺はそのあれだ!つまり、素晴らしい人を恋人にできたから幸せだなぁって!」
そう言って彼女の両肩を持つと、トモカから湯気が出そうなくらい身体が熱い。しまった、逆効果だったか!!
「あーらら、お姉ちゃんオーバーヒート寸前だね!ホントにユキタカお兄ちゃんってばまだまだだなぁ!♪」
「なっ!?ふ、ふーんっ!好きな人もいないアカリちゃんに言われたくないねぇ!」
「は、はぁ!?私はねぇ!!わ、私は……」
凄まじい形相だったアカリちゃんは、段々とその勢いが無くなっていった。な、なんだ?
「はいはい、やかましいから義兄妹ゲンカはその辺でやめろ。パンケーキを作ってあるから、それを食べて少し落ち着け」
「あっ!あの!私もお手伝いします!」
リュウ兄が席から離れてキッチンへ歩いていくと、突然トモカが手伝いを名乗り出た。その顔はまだ赤い……すまん、トモカ!
「いや、温めてハチミツかけるだけだから、お前はアホのユキタカの相手をしてやっててくれ。ウチのアホが悪いな」
「い、いえ!その……私もとても幸せ……です。色々とありがとうございます」
トモカ……ありがとう
「そうか。ユキタカ、お前もしっかり男としてトモカちゃんを守ってやれよ」
「あ、ああ……!」
リュウ兄、やっぱなんやかんや言っても、俺たちの事考えてくれてんだな……これがアキ兄だったら、絶対ひがんでくるか、からかってただろうなぁ……へへっ
「……やっぱり優しいんだ……」
??
アカリちゃんがリュウ兄を見て小さく呟いた。
まあ、この子は兄がいないからな、甘えられる兄ができて喜んでるのかもしれねぇな。
……って!!
「あ、アカリちゃん!俺も一応お兄ちゃん候補なんだから、いつでも甘えてくれて良いんだぞ!!」
「え……あーうん、ありがとう」
あれ??すっげぇ適当に返事してる様に聞こえるのは俺の気のせいかぁ……?!
「み、ミナト!お前も俺にーー」
「お兄ちゃん、お皿持っていくのお手伝いします!」
ミナト〜〜……!
「だ、大丈夫だよ、ユキタカ君が優しいっていう事は皆んな分かってるはずだから」
「くぅ〜!ありがとなトモカぁ!お前だけだ俺の事を分かってくれるのはぁ!!」
うぅっ!トモカ、愛してるぞ〜!!
俺はトモカの両手を握る、やっぱりお前は天使だ!いや、俺だけの女神様だぁ!!
「はっ!ユキタカお兄さんがさっきと同じ顔をしています。お兄ちゃん、あれは"腑抜けた顔"ですよね?」
ふ、ふぬけ……?!
「み、ミナト……今なんて……!?」
「腑抜けた顔と言いました」
Minato〜!!あんなに可愛かった妹がリュウ兄のせいで小悪魔と化してしまったのかぁぁぁぁぁぁぁ!!
「良い観察力だなミナト、さすが兄さんの妹だ」
「黙れぇぇっ!この悪魔めーーー!!」
「お、落ち着いてユキタカ君……!」
リュウ兄……いや悪魔はそう淡白に吐き捨てる。そんな悪魔に向かって迫ろうとする俺をトモカがその華奢な手で慌てて抑えようとする。
「止めてくれるなトモカ!これは男の意地を賭けた戦いなんだぁぁ!!リュウ兄の皮を被った悪魔め、この俺が退治してやるぅぅ!!」
「浅ましい喚き声を出すな、ただでさえ低い評価が更に底辺に近づくぞ。"そんな事"より、アカリちゃんとトモカちゃんは生クリームとハチミツどっちが良い?」
そ ん な こ と だとぉぉぉ!?
家族だけの前ならまだしも、トモカやアカリちゃんが居る前でことごとくバカにしやがってこの野郎っっ!!絶対二人とも俺の事を変に思ってるぞ!!
「私ハチミツが良い!!」
「あ、私は生クリームで……」
……トモカ、少しは気にしてくれて良いんだぞ?いやむしろ気にしてくれ、ほんの少しでも良い頼む……っ!
「ほらユキタカ、いい加減お前も座れ。食事時は神聖なものだと昔から教えてるだろ」
そう言われて、怒りを抑えつつ俺は周りを見渡す……
…………
三人の冷たい視線が俺を襲う……トモカまでも困惑な表情をして俺を見つめていた……それはリュウ兄にバカにされるより心に大ダメージを受けた
「……すんません」
「はあ……?」
「すみません!!」
冷静になってきたのかバカ騒ぎしていたのは自分だけだと知り、俺は急激に恥ずかしさを感じ、一言そう言って自分の席におとなしく腰掛けた……
「ゆ、ユキタカ君……気にしなくて大丈夫だからね……?」
縮こまった俺を天使のようなトモカが俺に囁いてくれた……ありがとうっ!大天使トモカ!!
「つけあがるなよユキタカ、そのまま黙って反省しながら食べた方が身のためだぞ」
……そう言うリュウ兄の眼は鋭く光っているように見た……あの眼はマジだ、マジで脅しにかかってる。あの眼で昔散々……ヤバイ……怖え……
俺はトモカの囁きで再び舞い上がりそうになった気持ちを自制……いや、リュウ兄に抑制されそのまま黙ってパンケーキを口に運ぶ……
「ユキタカ君……手が震えてるよ……?大丈夫??」
「え、え、ええ??DA、だ、ダ、大丈夫だぞ??」
美味しいパンケーキ……のはずなんだが、俺はその食感と味を堪能する事はできなかった
「美味しいっ!!りゅういちお兄ちゃんってこういうのも美味しく作れるんだねー!あーあー早くお姉ちゃんたち結婚しないかなぁ!!♪」
「あ、アカリ!また変な事を……!!」
アカリちゃんの茶化しも、トモカの可愛い狼狽も今の俺の耳には左から右へと流れて行った。
リュウ兄の暗黙の威圧が俺を襲っていたからだ……
「お兄ちゃん、お二人が御結婚してもミナトにもお料理作って下さいね!」
「安心しろ、ミナトにはいつでも作ってやる」
「私にも作って!りゅういちお兄ちゃん!♪」
「確約しかねる」
「なーんでよー!?」
リュウ兄はアカリちゃんのお願いに曖昧な返事をすると、アカリちゃんは不満そうな顔をリュウ兄に突きつける勢いで覗き込む
「お前が実際、義妹になれば作ってやらなくはないけど、なれなかった場合は作る機会がなくなる。だから確約はできない」
「大丈夫!お姉ちゃん達なら絶対結婚するって!!あんなにラブラブなんだし、別れるなんて有り得ないよ!!♪」
……いい事言うなアカリちゃん、その通りだ!!俺とトモカが別れたりするなんて有り得ないさ、俺たちは苦難を乗り越えたベストカップルなんだ!いずれ結婚をして……
そう思いながらふとリュウ兄の顔を見ると、反論するでもなく賛同するでもなくずっと黙って食事をしていた……てっきり茶化してくるもんだと思ってたんだが、俺の被害妄想だったのかな?
「アカリ、もういい加減にしなさい……!ユキタカ君、いつもごめんね……?」
「えっ……い、いや大丈夫ダイジョウブ!俺たちなら大丈夫だよな、トモカ!!」
そう言うと、トモカは恥ずかしそうに顔を赤くして俯いてしまった。くぅー可愛いな本当に!!
「お兄ちゃん、ユキタカお兄さんの顔がまた歪んでますよ」
鋭いっ!!
し、しまったっ!リュウ兄にまたあの目で見られるぅぅぅ!!
……
……あら??
恐る恐るリュウ兄を見たが、なにかを言ってくる気配も無くこちらを睨みつけている様子もなかった。
リュウ兄はただ黙々とパンケーキを口に運び入れている……リュウ兄ってそんなにパンケーキ好きだったっけ?
「……りゅういちお兄ちゃん?」
「……二人とも、あぁいうのは時に無視してやる事も大人の対応の一つなんだ。よく覚えておけ」
なんだよ、ただスルーしてただけかよ……なんかそれはそれでちょいイラつくな……
「なるほど、無視する時もあるのですね。では今からしばらくの間ユキタカお兄さんを無視します!」
「ミナト……それは俺とトモカが仲良くしてた時で良いんじゃないか……?」
「……あむっ!お兄ちゃん、ケーキ美味しかったです!ごちそうさまでした!!」
はははは、すごい無視された!俺ってもう兄として見られてないんだろうなーー!
「あーんっ!!はー美味しかった!ごちそうさま、ありがとね!リュウイチお兄ちゃん!!♪」
あっはははーなんかアカリちゃんにまで無視されてるかもー
トモカ、俺にはやっぱりトモカしかいないよっ!
……ううぅ、トモカーー!!
俺はパンケーキを口にした後、すがる思いでトモカにぴったりくっついた……
「ユキタカ君……!?ど、どうしたの?」
「トモカだけは俺の味方でいてくれるか??」
俺は涙と鼻水を哀れにも出しながら、トモカの両手を持ち彼女に声をかける
彼女は驚いた表情と困惑した表情と恥ずかしそうな表情をしている……すまんトモカ、忙しくして……
「う、うん……私はずっとユキタカ君の味方だよ、ユキタカ君の事信じてるから……」
「あああああああトモカぁぁぁぁぁぁ!!!」
「はぁ……アホな奴だな。お前の皿とトモカちゃんの皿はお前が洗えよ」
「ふぁぁぁい!!」
リュウ兄は呆れながら自分とミナトとアカリちゃんの分の皿を持って台所へ向かって歩き出す。
「あ、りゅういちお兄ちゃん!私も手伝うよ!」
「いや、僕一人でーー」
「み、ミナトもお兄ちゃんのお手伝いいたします……!」
「ミナトまで……分かった、じゃあ僕がホークとナイフを洗うから、アカリちゃんには皿を洗ってもらおう。ミナトは洗った食器を乾燥機に入れてくれ」
「了解です!」
「了ー解!♪」
俺はというと……トモカと一緒に後片付けか、なんか家族感あって良いなぁ……幸せだ。
俺たちはその後、みんなでゲームをしたり映画を見たりして、ささやかだけど暖かな時間を過ごした。
「遅くまでごめんなさい……でも、今日はとても楽しかったです、ありがとうございました!」
「なんだか本当の家族になったみたいでミナトも楽しかったです……ま、また来てください!」
ミナトがそう言うと、トモカは優しい笑みを浮かべて"うん"と返事をした。
人見知りの激しいミナトがここまで心を開くなんて、ちょい驚きだな……でもトモカたちと馴染んでくれたみたいで良かった。
「ミナトもこう言ってるし、たまにはこういうのも悪くないかもな。二人とも気をつけて帰れよ」
「えっ……」
リュウ兄の言葉を聞いて、アカリちゃんが意外そうな反応をした……なんだ?リュウ兄が素直に楽しかった事を認めたから、びっくりしたのか??
「ん?どうしたんだ、アカリちゃん?リュウ兄の反応がそんなに意外だったか?」
俺はアカリちゃんの反応が気になって、とっさに問いかけていた……その瞬間リュウ兄の冷たい視線が俺の背中に突き刺さるのを感じた……すんません、すんませんっ!ごめんなさい、ごめんなさいっ!!
「い、いやまあねー!りゅういちお兄ちゃんまでそう言うならまた来てあげよう!!ね、お姉ちゃん!!♪」
「来てあげようって……あの……またお邪魔して良いですか?」
アカリちゃんが再び明るいテンションに戻り、トモカに抱きついて話を唐突に振られた彼女は、おどおどしながらリュウ兄に質問した。
「失礼な奴らだな、僕をなんだと思ってるんだお前らは……まあいい、あまり頻繁には来るなよ」
「はい……!」
「はーい!!♪」
二人はリュウ兄の返事を聞いて嬉しそうに顔を見合わせた。さすが姉妹、その綺麗な笑顔はとても似ている。
「楽しみにしてるぜ、二人ともっ!じゃあ、俺は二人を近くまで送って行くよ。リュウ兄は夕飯の支度頼むわ!」
「……お前は放っておいてミナトと二人で先に食べてるよ。な、ミナト」
「はい!」
あれ、なんか間違えた……?
「兄に指図するな、まだ教育が必要か?」
……やべ
「申し訳ございませんでした!!お夕飯の準備、何卒宜しくお願い致します!!」
「はいはい、さっさと行け」
リュウ兄と俺を除く三人がケラケラと楽しそうに笑う中、俺は深々とリュウ兄に頭を下げた……惨めだっ
「またねりゅういちお兄ちゃん!それにミナトお姉ちゃんも!!♪」
「お邪魔しました……おやすみなさい」
「行ってきます、兄上!我が妹様!」
二人が家を出て行くのに続き、俺も軽くお辞儀をした後家を出た。
「ユキタカお兄ちゃんって、りゅういちお兄ちゃんに頭上がらないんだねー見てて面白かったよ!!♪」
くそったれ〜人の気苦労も知らないでこの小娘は……!
「お前だってリュウ兄の怖さは聞いてるだろ?」
「うーん……サツキ先輩からそういう事も聞いた事あるけど、実際会って話してみると結構優しくて思いやりがあってカッコよくて素敵なーー」
よくそこまで褒め言葉が浮かぶなと思っていたら、アカリちゃんは途中で言葉を区切った
「あ……そっか……えっとー……す、素敵なお兄ちゃんだと思う……よ……かな?」
「いや、俺に訊くなよ……アカリちゃんは見なかったのか?あの鋭くて冷たくて人を目で殺せるような冷酷で恐怖を震撼させる視線を……」
はぶっっっっっ!!!!??
そ……そこまで言うと、突然腹に強烈で重い痛みが走った……
「あ、アカリ!?ちょっとイヤだ、何してるのよ……!!」
と、トモカが驚きの表情を浮かべている……それもそのはず……アカリちゃんの拳が……俺の腹にくい込んでいる……
「か……かはっっ!!な……なにを……」
「……あ、ありゃ??なんとなく……ついっ!!♪」
つ、つ、つい……!? "つい"だと??!!
と、と言うか……なんて凄まじいパンチだ……さ、さすがサツキ姉の後輩……直伝の破壊力と言ったところか……し、しかも急所を突いてきやがった……
「ゆ、ユキタカ君……だ、大丈夫!?」
「だ、大丈夫……と言いたいところだけど……難しい……です」
その一撃を喰らい、俺は以前サツキ姉の前でリュウ兄をバカにした時の事を思い出した……
その時もこんな風に速攻で腹にワンパンされた事があった……しかもその時は直前まで食べていたケーキをリバースしてしまったのだ……
「えへへ……大丈夫??」
あの時サツキ姉をデビルだとはっきり確信したが今回は……
「ぷ……プチデビル……」
そこまで言い終えると俺の腹の奥底からパンケーキが勢いよく暴れ出してくるのを感じた
ウぅっ!!ウプッ!
「ゲハーーーー!!」
「きゃあ!!ゆ、ユキタカ君、しっかり……!!」
「うぇーーお兄ちゃん汚ーーい!!」
な、なむさん……
ユマリ
「一つの物語小話劇場」
リュウイチ
「情けない弟だな、あいつ昔もサツキのパンチ一発で戻してたし」
ユマリ
「あら、ツッコミ無し?」
リュウイチ
「いや、もう良いかと思ってな……と言うか狙って言ったのかよ」
ユマリ
「冗談」
リュウイチ
「はいはい冗談だよな、はいはい……」
ユマリ
「それよりせっかく兄さんと二人きりになれたんだし、この場を借りて愛の証をーー」
リュウイチ
「次回一つの物語〜不穏編〜
って不穏かよ……今この場も僕にとっては充分不穏なんだが」
ユマリ
「あら、つれない……」
リュウイチ
「はいはい、それも冗談なんだろ」
ユマリ
「本気よ」
リュウイチ
「えぇ……」