一つの物語〜絆編7〜
登場人物
・リュウイチ
特務執政官、リュウイチ・ナルミ部隊隊長で"自分のため"を信念に戦う成年。戦闘時は2本の剣と二丁の魔銃を使う戦闘スタイルだが、基本的に右手だけで剣を扱っている。冷静沈着で頭脳明快であり、戦場に行ってもその性格を活かし、的確な指示を出し的確な行動をとる。そのため部下や仲間達からあつい信頼を寄せられている。ミツキ達を始め、多くの女性に想いを寄せられているが、本人はそれを躱しており本人達にもその気は無い事を断言している。家族関係は兄が一人、弟と妹が一人ずついる。
・ミツキ
幼馴染のリュウイチと同じ特務執政官でミツキ・アサギリ部隊隊長である。リュウイチに惚れており、彼の実の妹にすら嫉妬や警戒心を抱くほど彼を想っている。しっかりしてるがここぞと言う時に詰めが甘い時があり、私生活でもどこか抜けている。容姿端麗、頭脳明快、長く綺麗なポニーテイルが特徴。その容姿と優しさからヘヴンの隊員達には人気が高い、しかし当の本人はリュウイチにしか興味が無い。ちなみに妹であるサツキに劣らないくらいの怪力を有しているが、それを使う事はあまりない。
・サツキ
リュウイチの幼馴染でミツキとは3歳離れた姉妹。一等粛正官サツキ部隊の隊長。並外れた怪力の持ち主で、それが災いして被害を拡大させてしまう事がしばしばある。本人は一応気をつけて行動しているもののなかなかそれが実らない。
姉のミツキ同様リュウイチに好意を寄せているが、時にミツキ達を応援するそぶりを見せたり、リュウイチに迫ってからかったりする事が多く、何を考えているのが分からない時がある。姉に似て顔はかなり綺麗に整っていて、サラッとした茶髪のセミロングが特徴。
・カイ
リュウイチのガード兼親友であり、彼の護衛で彼の良き友でもある。リュウイチと同様剣の使い手で腕前は超一流であり、素早さに特化した戦闘スタイルである。極度の緊張症で女の事になると右往左往してしまい、言葉がたどたどしくなる。が、男女関係なく気さくな性格なので、女は勿論男にも人気がある。
・レイ
カイと同じくリュウイチのガード兼親友。いつも笑顔を崩さない明るい成年で妹にユマリ、弟にジュンがいる。魔法を得意としており、時空間魔法や上級魔法も短い詠唱で発動する事ができる所謂天才であり、本人はそれを誇示したりしない。たまにサツキと一緒になって悪ノリをしてリュウイチに叱られることがあるが、反省はしていない様子。
・ユマリ
リュウイチ直属の一等粛正官で彼の部下兼護衛を務めている。物静かであまり多くを語らない、幼馴染のリュウイチを兄と呼んで彼を慕っているが、その想いは兄としてではなく、一人の男として彼に好意を抱いている。ミツキと同じく少々独占欲が強い。
兄のレイとジュンの事は名前で呼んでいる。彼女曰く、自分の兄はリュウイチだけとの事。
兄に似て魔法も使えるが、基本的に短刀を使い、まるでニンジャのような動きをする。
・ミソラ
特務執政官、キョウコ・ミソラ部隊隊長で短刀を二本使った素早い動きが基本的戦闘スタイル。乱戦になると味方の治癒も行う治癒術師でもあるため、尚且つ優しく人当たりも良く気さくな性格なので、部下や他の隊員にも人気が高い。噂ではミツキと同じくらいのファンクラブがいるとの事だが、本人はそれに少々困っている。
・アンノウン
常にフード被っていて、素顔を見せる事はない。
凄まじい速さで時空間魔法を使いモンスターを出現させ暴れさせている。戦闘力はサツキの攻撃を躱しながら時空間魔法を操りモンスターを出現させるほどで、少なくても一等粛正官並みの力を持つと思われているが、リュウイチはアンノウンは単体ではなく、複数人がアンノウンに扮して行動したいるのではないかと考察している。また、彼の言う情報では"どこかで見たことある戦い方をする"奴もいるらしい。
その場にいたモンスターを一瞬で殲滅し、その実力をイレギュラー達に見せつけるリュウイチ。あの大群を相手にしてきた後にも関わらず、疲労や外傷は感じられない……けど、念のため
「リュウイチ、大丈夫か?」
「当然。お前らも大丈夫のようだな、けど油断するなよ」
やっぱ大丈夫だったみたいだな……でもこの森林に入った直後のあいつの反応、あれは一体……
って、今は考えてる場合じゃねぇか
「フン、あの方が来たか……当然と言えば当然か」
どこまで俺たちのことを知ってるんだ?俺たちは特務隊だぞ、おおっぴらに活動はしてねぇっていうのに……やっぱ奴らが情報を流してるってのか?
「こいつだけじゃなく貴様も僕を"あの方"呼ばりするのか……男に慕われても嬉しくないな」
「じゃあ、女の子だったら良かったの?」
「それはそれで複雑だな」
リュウイチはあの方呼ばわりされても動揺するどころか冗談混じりな言葉をため息と共に吐いた、それを聞いたサツキは更に悪ノリしてリュウイチに問いかける。
……お前ら本当に場の状況考えないよな、その余裕を少し分けて欲しいくらいだぜ
「リュウイチ君、無事で良かったわ。でも少しは戦闘の事を考えた方が良いんじゃない?」
ミソラの言う事は最もだ、けどそれをお前が言うのか……?
「お喋りはそこまでにして、さっさとこいつらを粛正しようぜ。その前に知ってる事全部話してもらうけどな」
「笑止、貴様らにそう容易く教えると思うか?」
俺の発言に大斧のイレギュラーが反応して馬鹿デカイ斧を構える。力じゃ勝てねぇよな、ならこっちはお得意の素早さで翻弄してやるぜ!
「サツキ、無理に前に出るなよ!いくら力自慢つっても攻めだけでどうにかなる相手じゃないからな!」
「大丈夫ダイジョウブ!カイこそしっかり援護してね♪」
はあ……本当に分かってんのかねぇ、こいつは……
「再生の使徒の一人、ガラド!いざ参る!」
「何が再生の使徒だ!お前らのやってる事はイレギュラーそのものだ、俺たちが粛正する!」
行くぜ!
俺は持ち前の素早さで一気にガラドと名乗ったイレギュラーに詰め寄る。向こうは大振りで対応してきた、俺はそれを読んで素早く回避して振りかぶった後の左側に回る。
「はあっ!」
俺の一振りを大斧で防御する、思ってたよりすばしっこいな……でもこっちだって負けねぇ!
「がら空きぃ!!」
サツキの拳が見事に奴の顔面に直撃する。
よっしゃ!
「……フン!生ぬるいわ」
「げぇ!ウソォ!!」
サツキの一撃はたしかにモロに入ったはず、それに耐えやがった!?
「雑魚どもが!散れぇ!」
「チッ!」
「うわっと!」
俺とサツキはなんとかとっさに防御できたが、かなり押し返された。タフな野郎だぜ、まさかサツキの攻撃が効かねぇとはな……
「今度はこっちから行くぞ!裂衝陣!!」
大きく振り上げた斧を地面に向かって叩きつける、その衝撃で離れた俺たちの足場を砕いでみせた。
「くっ!避けろサツキ!」
「言われなくても分かってるよぉ!」
俺たちは同時に飛び、砕かれていない場所へ着地する……と同時にガラドが再び攻撃を放ってきた!
大振りをして出た衝撃波俺たちめがけて放ってくる……力任せだけじゃなく、計算して攻撃を仕掛けて来やがる。筋肉バカじゃねぇってことかい!
「うわっ!!」
「すっごい風圧ぅ!」
俺たちはその衝撃波に押されないよう耐えるのがやっとだった。くそ!
「微塵に砕いてくれるわ!!」
ガラドがそう言いながら突き進んでくる。その時、リュウイチ達のいる方から苦痛の声が聞こえてきた
「ぐああっ!!」
!?
「龍衝波っ」
槍のイレギュラーを吹き飛ばしたと同時にリュウイチがガラドに向けて凄まじい剣圧の放った。
「ぬぅぅぅ!……くっ邪魔をしおってぇ!!」
それをなんとか防ぎ、ガラドが怒号を浴びせる
「わりぃ、助かった!」
「ありがと!りゅうくん!♪」
俺とサツキ態勢を立て直し、ガラドを警戒しながらリュウイチに感謝の言葉を述べた。
『カイは正面から奴をひきつけろ、サツキは隙を見つけて背後からキツイやつをお見舞いしてやれ。気を抜くなよ』
「了解!」
「りょーかぁい!♪」
リュウイチは敵に聞かれぬよう無線で俺たちに指示を出してきた、ガードが主に守られるとは俺もまだまだだな……でもサンキュ、リュウイチ!
にしても、相変わらずすげぇ余裕だな。自分もミツキとユマリを守りながらイレギュラー相手にしてんのに、こっちの援護までしてくるとはなぁ……俺もいいとこ見せねぇと!!
「さて、一気に決めようぜ!」
俺は気合を入れ直しガラドに駆け寄る、サツキもガラドに向かって走り寄った。
「力には自信あるみたいだが、俺の俊速を見切れるかな!」
ガラドの目の前に行くと同時に素早く斬りかかった、こいつに隙をつくらせるまで徹底的に攻めまくってやる!
「ぬお〜!!あたしだって負けないぞ〜!!」
「煩わしい奴らだ、消えろぉ!」
くっ!こっちは二人がかりなのに攻め返して来やがった!けど、素早さじゃ負けねぇぞ!
「くらえ!烈風乱刃撃!」
攻撃で牽制しつつ、土煙りを巻き上げるために乱撃を繰り出す。そうすれば隙ができるはずだ、たとえ一瞬の隙でもサツキなら!
「はあっ!」
なるべく大振りにならないよう、かつ地面すれすれで剣を振るう。そして真正面からだけでなくヤツの四方から攻撃をするっ!
「ちょろちょろと動き周りおってぇ!死ねぇ!」
かかった!!
ガラドが俺に狙いを定めた、ここでこいつの動きをなるべく止める!
大振りの斧を剣で受け流しつつ攻撃を躱す、ヤツの武器を剣で押さえつけてっ!
「ぬっ!?小賢しいぃ!」
正面きってじゃこいつに力では敵わない、けどほんの一瞬だけでもこいつの動きを止めるくらいなら!
「うぉぉぉぉっ!」
動きが止まった!!今だ!サツキ!
「くっらぇぇぇ!!!」
「なにぃ!?ぐおぉぉぉっ!!」
よっしゃあ!直撃だ!!
ガラドは土煙りに紛れ、背後にまわっていたサツキの渾身の一撃を顔面に喰らい、地面に叩きつけられる。
「はぁ……はぁ……ナイスタイミング……」
「っしゃあ!!♪」
地面にクレーターができるほどに叩きつけられたガラドは白目をむいてピクリとも動かない……さすがに効いたみたいだな
「りゅうく〜ん!こっちは終わったよ〜!!♪」
「まったくお前ら姉妹は……敵が倒れても油断するな、最後まで警戒しろ」
サツキがピースサインをしながらリュウイチに向かって声をかけると、リュウイチは呆れたように警戒を促した。アイツの言う通りだ、最後まで気は抜けない。
「ぶ〜〜っ分かったよぉ……」
サツキはふてくされながら倒れているガラドに向き直る。ガラドはまだ身動き一つしない……今のうちに捕縛するか?それともこのまま粛清するか……なっ!?
俺がガラドに近づこうとした時、ヤツが突然消えた!なんだ、なにが起こっ……まさかっ!!
「野郎、時空間移動させたのか!?レイ!!」
俺はとっさにアンノウンの方を見てレイに声をかける。
「ほぼ無詠唱で発動させた!?やはりあの者は……!」
「私とレイ君の攻撃をかわしつつ、離れた場所にいる味方に時空間魔法を発動させた……相当な手練れね。その隙を与えない様に攻撃していたのに」
俺とサツキはリュウイチ達のいる方へ走り寄る、くそっあの野郎そんなに腕を上げてたのかっ!
「リュウイチ、どうする?」
「……みぃ姉、ユマリ。お前たちはカイ達とアンノウンの方へ行け、こいつは僕が相手をする」
リュウイチの指示を聞くと、ユマリとミツキはお互いに顔を向けて頷いた。
「リュウイチ、気をつけてね」
「兄さん、頑張って」
二人はリュウイチに短い言葉をかけ、レイ達の方へ走りだした。
「……リュウイチ"あいつら"を粛正するか?」
「奴らが繋がってるかどうか、今証拠を集めてる最中だ。とりあえずアンノウンにダメージを与えられるだけ与えろ、死なない程度にな……レイにもそう伝えろ、あいつらなら覚悟はできてるはずだ」
俺の疑問にリュウイチは静かに答えた……今はアンノウンだけ、か……
「了解、気をつけろよ」
「ああ、お前たちもな」
俺はリュウイチに僅かながら微笑みを浮かべて、リュウイチに声をかけるとリュウイチは少しだけ顔をこちらに向けて返答した後、すぐに顔をイレギュラーの方に戻した。
そしてリュウイチを置いてサツキと共にレイたちの方へ駆け寄る。
「これで6体1だ、だいぶ部が悪くなったなアンノウンさんよ!」
「……」
アンノウンは黙ったままこちらを警戒しているようだった。時空間の穴は……まだ開いたままか、という事はモンスターが出ないとは限らないって事だな。
「レイ、リュウイチからの伝言だ……アンノウンに出来るだけダメージを与えろ、死なない程度に……だそうだ」
「……万が一の場合いっそうのこと、完全に粛正しようと思っていたのですが、そうですか。生かしておくよう仰られたのですね……」
アンノウンを殺すつもりだったのか……
そう言うレイの後ろ姿はどこか悲しさと硬い決意を感じさせる様だった……俺の気のせいか?いや、でも……
「レイ、私もやるわ……これ以上兄さんたちを危険にさらさないために」
ユマリ……とにかく、戦闘不能まで持ち込んでそれから正体を確認した後、どうするか決めるか。
……あいつに邪魔されないように気をつけないとな。動きにも注意しておかねぇと
「……おし!そんじゃあ始めよう!♪」
サツキが暗い表情を取り払うように元気に号令をかける。
「……………完了しました」
っ?なんの事だ?
突然アンノウンが小さく呟いた。しかしこの声は……やっぱ……
「……!?まずい!皆さん、すぐにアンノウンに向かって一斉攻撃を!!彼は逃げるつもりです!」
なに!?
「っ!?みんな見て!!」
今度はなんだ?キョウコがリュウイチたちの方へ指を指し俺たちはそちらを向く槍のイレギュラーが瞬間移動して姿を消した……はっ!!しまっ!
『全隊員、アンノウンに一斉攻撃!とにかく手傷だけでも負わせろ!!』
リュウイチが無線で大声をはる、それを聞いてすぐ俺はアンノウンに向けて剣圧を放つ!
「チっ!!閃空波!!」
「ファイヤーシュート!!」
「逃がさないわ!」
俺とレイの攻撃の後、キョウコが魔銃を出してアンノウンに向かって発射する。
リュウイチは槍のイレギュラーが完全に消えたのを確認すると同時にアンノウンに向かってものすごいスピードで突き進みながら駆け寄ってきた。
「はあ!」
「……!?」
リュウイチの攻撃が当たる瞬間、アンノウンは完全に消えていた。やられた……逃げられた
しかしまたしてもほぼ無詠唱で術を発動させた、短期間で腕を上げたのか?それとも元々手練れだったのか?
……リュウイチはその場で立ち尽くし、何かを考えているようだった。そして少しした後、ゆっくりキョウコに向かって話しかけた。
「……ミソラ」
「何かしら?」
「お前、魔銃も使うんだな」
リュウイチは鋭い目つきでキョウコに質問している……いや、下手すれば尋問に見えなくもない。それくらいリュウイチの目つきが鋭かった。
「ええ、まあね。遠距離の攻撃もできるように前に特注しておいたの。どう?カッコいいでしょ?」
「ああ、独特のレリーフと形状をしてるな」
「ふふ、ありがとう♪」
リュウイチは目つきを変えずにキョウコの顔と俺の顔を交互に見ている。
……そして俺は、その二人のやりとりを見て剣を握り直す。俺だけじゃなく、ミツキやサツキ、ユマリも武器や拳をにぎり締めている。
レイは顔だけこちらへ半分向けて片目だけいつもの笑顔が消えてキョウコを見つめている。
……………
「……どういたしまして、その魔銃大事にしろよ。さて、空間の穴は消えたし奴らにも逃げられた事だし、そろそろ戻るか」
……はあ……重い空気だった
「そ、そうだな、報告する事がいくつもあるし、俺たちも戻ろう!皆んな、お疲れさん!!」
「本部、こちらリュウイチ。時空間の穴の消滅を確認、イレギュラーたちも姿を消した、これより帰投する。今いるこのポイントに調査隊を送って来てくれ、モンスターは全滅させたが、一応念のためにな」
『了解、現在のポイントに調査隊を送ります。お疲れ様でした』
リュウイチは本部に連絡すると小さくため息をついた。
「よう、どうした?リュウイチ」
「……ちょっと考え事をな。今回もアンノウンは味方や自分を瞬時に転送させた。でもその転送させたのが本当にアンノウンだけのものによる事なのかと気になってな」
一点を見つめてるリュウイチは剣を収めながら、そう自分の考えを吐露する。たしかにいくらキョウコがいたとて、レイは粛正するつもりで攻撃していた……その攻撃をかいくぐって、一瞬のうちに離れた味方たちを転送させ、自分も転送させた。
「アンノウンが腕を上げたか、最初からそれほどの手練れだったんじゃねぇか?」
それにあの声も……
「リュウイチ、アンノウンの声を聞いたんだが、多分、ほぼ間違いねぇ……あいつだ」
「やれやれ……面倒になってきたな」