一つの物語〜みんなのおもい編〜
ーー 同日、一等粛正官ルーム ーー
「……そういう訳でみんな、どうかリュウイチ隊長に力を貸してほしいんだ!」
「はいこれ、リュウイチのシークレット情報がオマケで入ってるお菓子よ。これでもっと理解を深めてね……あぁ、あなたにも。はいこれ」
「共感してくれてありがとう!応援よろしくね!……って、ミラー!そのシークレット情報というのはリュウイチ隊長の許可を得てやっているのかい?」
「はい、あなたもこれどうぞ。リュウイチをよろしくね」
「み、ミラー!聞いてるの!?」
私が菓子折りを手渡しているとキラが大きめの声で制止して来た。もうちょっとでノルマ達成なのに
「もう、別に差し支え無い内容だからイイじゃない。細かい事を気にしてたらダメよ」
リュウイチが聞いたら即止めに入るでしょうけど
「はぁ……あとでリュウイチ隊長がお叱りになるレベルなんだね……ミラー、僕達はあの方の応援をしてるんだよ?君はそれとは逆の事をしてない?」
「リュウイチの事なんだからきっとため息ついてそれで終わりよ。あの子がミッション以外本気で怒る事なんて滅多に無いじゃない、だから平気、平気」
つまんない事で本気になる様な子じゃないもの
そう言った私の言葉を聞いて、キラは顔を渋らせた。
「まあ確かに……でもだからって嫌がる事はしちゃダメだと思う、信頼を無くしちゃうよ」
悔しいけど正論で返された……もう、要らん知恵をキラにつけさせたわね、リュウイチのやつ
「わ、分かったわよ……にしても、流石あの子の部下ね。そういう所、リュウイチに似てきてるじゃない。前のあなたなら有耶無耶にして口ごもるだけだったのに……成長したわね」
素直過ぎたかしら?私らしくもない……
「リュウイチ隊長に?はは、それは少し嬉しいな。そうだ少し休憩しよう、君も僕も声を出しっぱなしだったからね。僕が何か飲み物を買ってくるよ、ミラーは何を飲みたい?」
私の不安を知りもせず、キラは輝いた目で私に明るい返事をした。こういう所は結構可愛いかも?まあここはお言葉に甘える事にしましょう。
「あらまあ、勝手に話を進めちゃってそういう所もあの子そっくり……ミネラルウォーターで良いわ、ちゃんと大きいのを買って来てね」
「あはは、ありがとう!じゃあ待っててね!」
褒めてないのに……ホントにキラは単純ね、嫌味が一切通じないんだから。つまんな……くはないわね、あれがキラのいい所でもあるし。
ボーッとしてる時もあるけど、基本的にはちゃんと私の言う事を理解してくれてるし、何よりあの心の清らかさが好……ってなに考えてるの!?私は別に……そ、そうよ!これは母性的本能だわ!うん、そうよ!
"またキラの事を考えてるのか?顔が緩んでるぞ"
「〜っ!!!」
もうっ!こんな事になってるのはリュウイチのせいなんだからね!あの子があの時、私とキラの間を取り持ってくれちゃったからーー
ーー
ーー
ーー某日・ホーリーヘヴン本部内ーー
「分かった?あなた達。やるからには徹底的によ!」
「あのー……」
……何この子?
「なに?私の話はまだ終わっていなくってよ?」
「す、すみません……やっぱりなんでもないです」
「そう、私が話してる時はちゃんと最後まで聞いててくれるかしら?気分が悪くなるから」
「ご、ごめん……なさい」
謝るくらいなら黙ってなさいよ、女々しい子ね
「フン、まあいいわ、とにかくこの作戦の指揮官は私だという事を忘れないで。手を抜いたり甘く見てたら痛い目にあうだけじゃ済まさないんだから!」
一同
「りょ、了解しました」
うむ、これで良し……ん?あの子は
「ミラー、また悪い女王様みたいに威圧的だな。そんなんじゃ部下に嫌われるぞ」
隊員たちと入れ替わりにリュウイチが作戦室に入室してきた。しかもお小言を言いながら
「あらリュウイチ、またあなたなの?私の上司だからって口出ししないで下さる?私には私なりのやり方ってものがあるんだって言ったはずよ!」
何度言ったら分かるのかしら、理解力のない子ね、まったく
「おいおい、だったら誰の命令を聞くんだ?僕は一応お前の直属の上司だぞ?」
「私、マスターレベルじゃないと上司と認めないの。それもいつも言ってるじゃない、いい加減に理解した方がいいんじゃなくって?」
リュウイチはマスターのお気に入りみたいだけど、私からしたらちょっと仕事のできる同僚にすぎない。実力は認めてあげてもいいけど、やっぱり上司と言ったらマスターよね。
「フン、いつまで経っても変わらないな。そんなじゃまた部下が離れて行くし、他の上層部が目を光らすぞ。僕は面倒事はごめんだからな」
「これくらいでついて来れないなら初めからいらないわよ、もっと気骨がある人はいないのかしら?」
リュウイチに一蹴をくらわせても当の本人は涼しい顔をしている。そういう人を見下した感じ本当に気に入らない!
「リュウイチ隊長、お勤めご苦労様です!」
ちょ、ちょっとなによ!びっくりしたじゃない!急にキャラが変わったように耳に響くような明るい声でさっきの暗い子がリュウイチに挨拶をした
「ああキラ、お前もこの作戦に配属されたって聞いて少し様子を見に来たんだ。案の定ミラーに気圧されてるな、気にせずお前の思っている事を発言して良いんだぞ。お前の方がミラーよりマトモな事を言えるだろうからな」
「なんですって!?」
何よその言い方!私の方がこんな子より劣ると言いたいの!?
「ちょ、リュウイチ隊長!!ありがたいお言葉ですが、あまり刺激しない方が……」
「良い機会だ、キラ、先程言いかけていた意見を言ってみろ。」
「え、でも……」
きーーっ!!何この煮え切らない反応と愚かしい発言は!
「こいつには良い薬になるだろう、ミラーは少しは同期の意見を聞く事を学ぶべきだ。キラお前は信用に足る男だぞ、僕が保証してやる」
「言わせておけば好き勝手言ってくれるじゃない!良いでしょう、何か問題があるのならおっしゃって?」
私の睨みつけに恐る恐る目を合わせながら、やがてキラとか言う子が口を開いた。
「わ、分かりました……そのー……今回の作戦なんですが、負担が大きすぎませんか?もっとこう……」
「もっと何よ!」
「も、もっと自分を大切にしてください!」
「なんですって!?それはどういう!……どういう意……み……??」
え、何を言ってるのこの子……
「この作戦は君の負担が大きすぎるんだ、もっと仲間を頼って下さい!」
「え?え……??」
「大体この進撃方法じゃ君が一番危ない!ここは僕も手伝うよ!勿論他の行動範囲に支障をきたす事はしない、一番危ない進撃のタイミングは一緒にやれば君を守れる……」
「う、うるさーーーーい!!」
「うわっ!?」
私の悲鳴じみた大声を聞いてキラは一瞬にして身を縮めた
その愚かしくもほんの少しだけ愛おしい姿を見て、私は言葉を発する
「なによなによ!いきなりそんな事言って何が望み??私を守る?あなた何様のつもり?!」
「え、いや、だから僕は君の事を思って……」
「だ、だから一体なんなのよ!そんな恥ずかしい事何度も言わないで!!」
「は、恥ずかしい事??え??どこが??」
「全部よ!ぜ・ん・ぶ!!」
「えぇ?!」
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ーー現在、ホーリーヘヴン内ーー
あの時のあの言葉……ほんの些細な事かもしれないけど、私の心を乱すには十分過ぎる破壊力を持っていた……初めて人から大切にされたあの気持ち、私は今でも忘れていない。
誰一人信用せず、信用できるのは自分だけだと思っていたあの時期に、キラの言葉は永く凍りついていた私の心を優しい温もりで少しずつ溶かしていってくれた。今でもずっっと……
「はあ、リュウイチが余計な事しなかったら、今頃私は何をしていたのかしら?」
そう、リュウイチのせいなんだから……もうっ!
「ミラー買ってきたよ!これで良いかい?」
「き、キラ!?帰ってくるなら最初にそう言いなさい!ビックリするじゃない!」
「ええ?!普通に帰ってきたつもりだったんだけど、ごめん……」
「べ、別に謝らなくても……ま、まああなたがどうしても謝りたいって言うなら受け入れてあげる!」
「どうしてもって……なんか変だよミラー?何かあったの?」
「なんでもないわよ、もうシラケちゃった……早くミネラルウォーターを寄越しなさい!」
「僕……なんかしちゃったのかな?でも今は普通のミラーみたいだし大丈夫だよね!」
「ふ、ふん!もしダメそうなら、あなたが守ってくれるんでしょう?」
「ミラー……うん!勿論だよ!!」
屈託の無い微笑みと、心地いい返答……こういう所が私を癒してくれる。冷めきった心を温めてくれる……
リュウイチ、あんたのお陰で得ることができたこの温もりを私は精一杯大切にしてみる。
その借りを必ず返してあげる。だからあんたも良いとこ見せなさい!
お願いみんな!リュウイチに力を貸してあげて!
ミラー
「一つの物語小話劇場!あんたたちの女王、ミラー様よ!平伏しなさい!」
リュウイチ「なんでいきなりそんなに威圧的なんだ?お淑やかにできないのかお前は……」
ミラー
「うるさいわね!一体誰のせいでこんなイライラしてると思ってるのよ!」
リュウイチ
「まったく予想できない、キラとケンカでもしたか?」
ミラー
「してない!あんたのせいよ!少しは自覚なさい!」
リュウイチ
「まったく意味不……次回、一つの物語〜みんなのおもい編2〜とりあえずコーヒーでも飲んで一息つけ」
ミラー
「その他に事みたいな言い方っ!キーー!」