一つの物語〜絆編5〜
「リュウイチ、朝よー起きなさい」
んん……もう朝か……寒い
「あ、おはようリュウイチ、今朝は寝起き良いわね」
眠い目を開けるとみぃ姉が僕の顔を覗き込んでいた、と言うか顔近いぞ……
「……おかしいな、いつも寝起きは良い方だと思うんだが」
「はいはい、分かったから早く支度しなさいよ。寒いから暖かくして来なさいよ、じゃあ、また後でね」
はいはい
どこか機嫌の良さそうなみぃ姉が出て行くのを見届け、ゆっくりベッドから身体を離す。
一階に降りると、ユマリがいつものように朝食を作り終えており、後片付けをする音が台所からする。
「おはよ、兄さん」
「おはようございます、お兄ちゃん!」
「ああ、ユマリ、寒いから手荒れに気をつけろよ」
……しまった、寒いからつい
ハッとしてユマリの方に目をやると、作業をしていた手が止まり、ユマリが珍しくキラキラとした目でこちらを見つめている。
「……優しい」
そう呟くと流していた蛇口をとめ、手を吹きながらこちらにゆっくり歩いてくる。その間ずっとキラキラとした瞳で見つめてくる
「い、いや、今のは自分の立場になって考えて、更に寒さと寝起きの思考という奇跡的な偶然が続いた結果発せられた……」
「じゃあ、結婚する……?」
くそ、僕としたことがなんてことを。と言うか過程飛ばしすぎだろ、結婚なんてするわけないだろう
「しない、今のは自分の立場に置き換えた僕が想像上の僕に言った言葉だ」
「ふーん……」
信じてないな……くそ、言葉選びを間違えた。ぬかったっ
ユマリは薄笑いをしながら僕の顔を覗き込んだまま離れない、みぃ姉といいユマリといい、顔が近いんだよ
「朝食を食べたいんだが?」
「……どうぞ」
クスリと笑うユマリを押しのけ、僕はリビングへ歩き始める。今日はハムエッグか、そう思いながら席に座るとユキタカがこっちをニヤニヤした顔で見ていた。
「なんだ?朝からアホヅラして、早く食わないと遅れるぞ。女を待たせるものじゃない」
「へへっ!はいはい!いってきまーす!」
嫌味を含めてユキタカに言葉を放ったが、全く効いていない様子で賑やかに家を出て行った。幸せボケしてる奴がこうも厄介だとはな、嫌味が嫌味にならん
「お兄ちゃん、ハムがエッグされてますよ!」
「ああ、ハムがエッグされてるな。ミナト、とりあえず口元に付いてるパンのくずをとりなさい」
僕の注意にミナトは慌てて口元をふくと、恥ずかしそうに笑う。僕はその微笑ましい光景を見てユマリ特製のハムエッグを口に運ぶ。
「よう、リュウイチ」
「おはようございます、リュウイチ様」
ベヴンに着き、自室へ入るといつもの聞き慣れた声に僕は軽く返事をする。
「ああ、今日も寒いな」
「北の方では雪が凄まじいとニュースでやっていましたね」
僕の何気ない一言にレイが笑顔で反応すると、カイもそれに乗ってきた。
「冬の北国かぁ、想像しただけで寒くなるな……と言うか凍りそうだ」
「カイは鼻の下に氷柱垂らしてそうだな、せっかくの面が台無しになるぞ」
北国か、確かに大変そうだな。まあこっちもこっちで大変だからどっちもどっちか
ピーピー
デスクのモニターからコール音が突如鳴り始めた。
少々緩んでいた顔を引き締めて僕はモニターに手を伸ばす
「こちら、リュウイチ」
『やあリュウイチ君、到着早々に悪いのだけど出撃要請発令したい』
確かに早々だな、まだここに着いて一息しかついていない……でも仕方ない。
「了解、ミッション内容をお願い致します」
『場所は東方面のランドル近くの森林だ、ギンガントモンスターが複数出現している。それもこの地区では見かけないギンガントモンスターだ。もしかしたら時空間魔法で出現させたのかもしれないが、なぜか時空間異常は感知されなかった』
……あいつらの仕業か
「マスター、もうすでにご存知かもしれませんが以前にご報告した人物たちによる仕業だと思われます。まだ仮説の域を出ませんが、引き続き警戒しておいてください」
『ああ、分かってる……すまないがリュウイチ君、この件、君に引き続きお願いしていいかい?』
僕の予想を聞いてマスターの表情は引きつった、それはそうだ、僕もできれば考えたくない事だからな。でもだからこそ僕がやらなくては。
「もちろん、むしろこの件に関しては僕が責任を持って専任いたします……何が起ころうと、これだけは僕がお引き受けます。」
『すまない……頼む、同行者としてユマリ君、ミツキ君、サツキ君を連れて行ってくれたまえ……幸運を』
マスターが少々俯いた後再び僕の目を見る。その目は覚悟した目をしていた。
「了解、リュウイチ・ナルミ出撃します!」
ランドル近くの森林…モンスターの気配が多数するな。しかし……なんだろう、いつもと違う気配だ。こんな気配今までで初めてだ、なんなんだこれは……
「……本部、目標座標に到着したこれより警戒と戦闘体制にはいる。」
『了解です、幸運を』
さて、それじゃあ……
「じゃあ、私チームとリュウイチ君チームで二手に分かれてモンスターの掃討に当たりましょう」
……一見すると妥当な判断だ……でも何かおかしい、あいつもそれなりの実力を持っているなら、この異様な気配が分からないのか?とりあえずここは……
「……ミソラ、敵は何か変だお前もせいぜい気をつけろよ」
「御心配ありがとう、それじゃあまた後でね!」
心配など微塵もしてない……
「……ユマリ、サツキ、ミソラの方にまわれ。なにか少しでも怪しいと思う事があったら、すぐ僕に連絡しろ。暗号通信でな……何かあったらすぐ僕がいく、警戒を怠るなよ?」
「えーなんでぇ!?あたしもりゅうくんと行きたい!」
サツキが駄々をこねだした、ユマリは黙って僕を見つめている。けどここで無駄な時間を割くわけにはいかない、僕はサツキの瞳をまっすぐみすえる。
「サツキ、戦力分担としてこれが妥当だ。お前の力を理解しての判断だ、ユマリと協力してモンスターを排除しろ。いいな?」
「むぅ……りょーかい……!」
「……了解、兄さんも気をつけて」
少々納得いかないと言った感じにむくれるサツキは、渋々了承した後、二人は先に行ったミソラを追うために森へと入って行った。
しかしこの気配の正体はなんだ、なんだか人の負の力が干渉しているような……
「カイ、レイ、みぃ姉、お前らも何か感じないか?」
僕の疑問に三人は俯きながら暗い表情をして答える。
「確かにいつも感じるモンスターの気配とは違うな、モンスターの気配も感じるが、それだけじゃない何かを感じる」
「こんな気配は初めてですね、正直気持ちが悪い……」
カイもレイも感じてる、やはり僕だけじゃなかった。ミソラはこの気配に気づいていなかったのか?それとも……
「まあ、先に行ってみれば何か分かるかもしれないわ、みんな、気を引き締めて行くわよ!」
……みぃ姉の言う事が最もだな、先に進んで元凶を殲滅させる。
「行くぞ、リュウイチ部隊前進!」
僕達は森林の中は走り込んでいった。
森林に入ってすぐ、リュウイチは頭痛に襲われる。
「……っ」
「リュウイチ、どうした?」
後ろからついて来ていたカイがリュウイチの異変に気付き、心配そうに話しかけるがリュウイチはすぐに気丈に振る舞う。
「なんでもない、先を急ごう」
リュウイチは再び歩みを始める、カイはそんなリュウイチの後ろ姿を見て、不安げな表情をしたまま彼に続く。
(なんだ……?何かが頭に響くようなこの感じは……)
そう思いながら森林の中を歩み続けるリュウイチ、そして少し先からモンスターたちの呻き声が聞こえて来た。一匹や二匹の数ではない、大量の呻き声がしている。
「来るぞっ」
リュウイチがそう言うと、モンスターの大群が木々をなぎ倒しながら現れた。
(ギガントモンスターの数は……3……6匹か?!)
「なにこの数!サツキたちの方もこんな数だったら……リュウイチ!」
「あいつらならやれる、今は目の前の敵に集中しろ」
ミツキが驚愕のあまりリュウイチに不安をもらす、そんなミツキにリュウイチはなだめるように注意を促す。
「各人、二人一組で迎撃にあたれ。ミツキは……」
「リュウイチを守る!離れないでね!」
(……まだ何も言ってないぞ)
リュウイチはミツキの強引さに呆れつつ、指示を続ける。
「と、言うわけでカイ、レイ、遅れを取るなよ」
「はは、了解」
「了解です」
リュウイチたちは二人一組になり散開する……しかし
「!?」
「リュウイチ!!」
ギガントモンスターを含め、多くのモンスターがリュウイチの方へ向かって襲いかかり、ミツキとの距離が遠のいた。
「な、なんだ!?」
「モンスター達がリュウイチ様を狙っている……!?」
モンスターたちは三人には目もくれずリュウイチに一斉に襲いかかっている。その光景に三人は驚愕した。
「……人気者は辛いな」
リュウイチはおびただしい数のモンスターに囲まれながらも善戦を繰り広げる、カイたちはモンスターたちの中心にいるリュウイチに向かうため攻撃を始めた。
「確実にリュウイチだけを狙ってる、モンスターにそんな意思があるなんて、一体どうなってんだ?!」
「今はリュウイチを助ける事だけを考えて!!」
カイの困惑をミツキが一喝しながらリュウイチがいる中心部へ駆りつづけるが、突如通信が入る
「見ての通りこいつらの狙いは僕らしい、仕方ないから相手をしてやる。お前たちは時空間異常の発生源へ行け」
迫り来るモンスターたちを難なく蹴散らしながらリュウイチが、三人に通信を入れる。それを聞いたミツキがすぐさま返事をする。
「何言ってるの!?こんな大群を一人で相手にするなんて危険よ!せめて私も……!」
「僕からしたら"これくらい"だ。サツキたちの事もある、お前たちは先に進んであいつらと合流しろ」
レイがモンスターたちに攻撃しながら二人の会話に割って入る。
「もしかしたら、他のモンスターもリュウイチ様を狙いに来るかもしれない。いくらリュウイチ様でもお一人では……!」
「そうだ、だからこそ発生源へ向かえ。モンスター達が散開せず、明確に僕を狙って一点集中している内に片付けた方が効率が良い」
リュウイチはそう言って目の前にいた2体目ギガントモンスターにとどめを刺す、そして立ち止まらず続けてモンスターの群れに駆け寄った。
「僕はこいつらの餌になってやるつもりはない、それにこいつらの相手に時間をかけるつもりもない。だからすぐに追いつく、今は効率を優先しろ」
冷静な口調を崩さないリュウイチは、尚もモンスターを葬っていく。リュウイチの言葉を聞いている三人は不安な面持ちでモンスターを攻撃しているが、やがてカイはその手を止めモンスターの群れから距離を置いた。
「……っ!リュウイチ、すぐに発生源を止める!それまで持ちこたえててくれ」
「カイ!?」
カイの言葉に驚くミツキは未だに攻撃の手を止めず、リュウイチの元へ向かおうとしていた。そんなミツキをレイがモンスターを攻撃しながら止めに入る。
「ミツキさん、ここはリュウイチ様にお任せしましょう、あの方なら大丈夫です」
「でも……!」
困惑するミツキにリュウイチはいつもの口調で話しかける。
「みぃ姉、サツキの所へ行ってやれ。僕は大丈夫だ」
そう言いながらリュウイチは4体目のギガントモンスターに攻撃をしかける。そしてミツキは目の前のモンスターをなぎ払い、レイと共に群れから距離をとった。そんなミツキの表情は苦渋に歪んでいた。
「……リュウイチ、あんたに何かあったらぶっ飛ばすからね」
「なんだ追い討ちが来るのか、なら尚更早く片付けないとな」
そう返事したリュウイチの表情はミツキとは真逆でいつも通り穏やかである。しかしリュウイチの攻撃の勢いは止まらない。
三人はリュウイチの言葉を聞き、ほんの少し表情が緩んだ。そして再び表情を引き締めて、発生源の方角に体を向けた。
「リュウイチ、すぐに終わらせるから!」
ミツキはそう言って発生源へ向かって走り出した。カイとレイもそれに続く。
一方リュウイチは、4体目のギガントモンスターを斬り裂いた。
が、リュウイチの中の頭痛は治っていなかった、三人の気配が遠のいたのを確認した彼は安堵した瞬間僅かに苦痛に歪んだ。
(なんなんだこれは……モンスターが近寄ってくる度に勢いが増してくる!これは意識……?モンスターの意識なのか?モンスターが一体なぜ?荒れ狂う意識の塊が頭に直接突っ込んでくる様な……)
リュウイチは困惑と痛みを抱えながら、5体目のギガントモンスターと対峙する。
(……今はこいつらを殲滅する方が優先か、意識の暴風がこいつらによるものだとしたら尚更だな。アサクラたちの事もある、今は痛みなんかほうっておこう)
リュウイチは剣を持つ右手に力を入れ直し、モンスターに向かって一気に駆け寄った