信頼編3
「サツキさん、何故リュウイチ様の賢者推薦に反対なのですか?」
「なぜってそんなの決まってるじゃん、危険と負担が大きいしりゅうくんを失いたくないからだよ。ここに居るみんななら分かると思ってたのに、なんかザンネン……」
レイの質問にサツキが肩を落とした、確かにサツキの言う通り気持ち的負担はあるが……
「サツキ、それは私達が手伝えばーー」
「手伝えば良いって言うの?それでホントにりゅうくんの負担が軽減されると思う??」
……なんだか、サツキらしくないな
「あたしだってりゅうくんの力になりたい……でも実際にあのデッカイ兵器を止められたのはりゅうくんだけじゃん。あたし達は何もできなかった……それどころか、下手したらりゅうくんが死んじゃってたかもしれないんだよ!?」
「サツキの気持ちは分かる、けど誰かがアレを破壊しなきゃいけないんだ。それはお前にだって分かるよな?」
段々怒鳴るように言葉を荒らげるサツキをカイは優しく宥める。しかしそんなカイをサツキは睨みつけた。
「分かってる!分かってるよそれくらい!でも、それがりゅうくんじゃなきゃダメって訳じゃないじゃん!」
「なら他のやつなら良いのか?他のやつなら誰でも死んで良いって言うのか?」
「それは……でもあたしはりゅうくんに死なれたらイヤだ!あんな思い二度としたくないんだよ!!みぃ姉達だってそうでしょう!?」
サツキの悲痛な投げかけに皆んなは表情を暗くしている……僕のせいだな、こうなっているのは
「サツキ、もうよせ」
「なにがよせなの!?納得すればいいの?!あたしはりゅうくんを失いたくないのっ!」
そう怒鳴り散らすように声を荒らげるサツキ。その瞳には涙が溢れて潤んでいる。
「分かってる。お前たちに心配かけたのも、お前をこんな風にしてるのも、それは一重に僕のせいだ。僕の力が至らなかったばっかりに……お前や皆んなを不安にさせてしまった、本当にすまない」
「リュウイチ……」
「けど、もうそんな思いはさせない。次こそあの兵器を破壊するつもりだよ、そのためにはお前たちの力も必要なんだ。だからサツキにもそれを手伝ってほしい」
「でも……でも……」
「僕を信じてくれとは言わないし、賢者になるとも今はなんとも言えない。でもレギュレーションは何とかしないといけないのは事実だ、その事実から目を逸らす事はできない……そうだろ?」
今はこう言うだけしかできない……
「サツキ君、私とてリュウイチ君だけに任せたりはしない。勿論私も全力でリュウイチ君達をサポートするつもりだ。それに、彼を賢者に推薦したのには他にも理由がある、私の信頼している人物、そしてそのリュウイチ君が信頼している人達がいるからこそあの兵器……レギュレーションを破壊できると思っているんだ。君たちからしたらとんでもない重責になるかもしれないが、どうか承服してくれないだろうか?」
「あたしは……あたしは……!」
サツキ……
「あたしは、それでもイヤだ!もうりゅうくんを失いたくない!」
ダッ!
「あっ!待ちなさい、サツキ!」
サツキはそう吐き捨て、マスタールームから走り去ってしまった。みぃ姉はチラっと僕の方を見たので軽く頷いてみせた。それを確認しながら、すぐに後を追いかけ走り出す。僕も追おうと思ったが、まだここでやり残した事があったので、その場に残った。
「……マスター、この事はもう少し保留にしても宜しいでしょうか?」
「ああ、勿論だよ」
「それと、一つだけ確約できる事はあります。レギュレーションは必ず私たちが破壊します、それは賢者になるならいとは関係無くお引き受け致します」
「分かった……リュウイチ君、これだけは言っておく、私も君を喪うは耐え難いという事を……」
マスターの表情は真剣そのものだ、普段温厚なだけに尚更深く感じる。
少し考えれば分かる、ベルクレア様が亡くなって一番悔やんで悲しんでいるのは、他の誰でもないその夫であるマスターだ。誰かを喪う気持ちは痛いほど分かっているはず……だからこそ、僕はもう……
「ええ、理解しています。カイ、皆んなと僕の執務室で待ってろ。サツキとみぃ姉は僕が追いかける。マスター、申し訳ございませんが、私はこれで失礼致します」
「分かった、あいつらの事は頼んだぜ、リュウイチ」
カイの返事を聞いた後、僕はマスタールームを退出した。
こんな時ホーリーヘヴン内であいつが行きそうな所と言えば……多分あそこだ。
僕はこの階より更に上にある屋上庭園へ移動を始めた、仕事で落ち込んだりしたら風に当たりたいからと言っていつもあそこに行くからな。
……
……
……
賢者か……この施設を設立する時にマスターに勧められた事があるけど、あの時はヒメカ達の事があって疲弊していたので断って今の地位に就いたが、千年もの時を経て再びこうしてまた巡ってきたか……
「(あら良いじゃない、貴方のやりたいようにできるんだから、絶好の機会じゃない?)」
(ユリナ、賢者になるからと言って好き勝手にできるわけじゃないぞ。むしろ逆だ、今以上に責任ある行動を迫られる。確かに賢者になればマスター以外に干渉される事はなくなるが、僕の行動一つで多くの者を左右する事になる。僕はそんな窮屈な立場はごめんだ)
「(じゃあ断るの?貴方なら分別のある振る舞いができると思ったのだけれど)」
(御褒めの言葉どうも……と言うか、黒華のお前になら先のことが分かるんじゃないのか?)
「(それなんだけど、貴方と一度共鳴できなくなってから何故だか貴方に関する未来が見えなくなったの。最初は一時的なものだと思っていたのだけれど、どうやらそうでもないみたい)」
黒華の能力でも先が見えないのか……それはそれで少し気になるな。
「(私とユリコの力を共鳴しても見れない未来なのよ、他の人の未来はいつも通り見れるんだけど……ね?ユリコ)」
「(……うん……)」
だから僕が死んだと思っていたのか、なぜそんな事に……?
(まあいずれにしても、分からないならそれはお楽しみにって事でいいんじゃないか?僕の未来が見えなくなった事は実害が出た訳じゃないから、とりあえず気にしなくていいだろ)
「(もう、能天気なんだから……でもそうね、今は貴方のこの先を楽しみにしてるわ。黒華の力をもってしても見れない未来……なかなか興味深いもの)」
能天気か……あいつらのが少しうつったのかもな。
とりあえず、先ずはサツキの事だ。一度拗ねたら中々なおらないんだよなぁ……みぃ姉が少しは落ち着かせてればいいが
そうこう話している間にマスタールームから直通のエレベーターに乗り、そこから少し歩いて屋上庭園へ出るためのドアの前に着き、僕は一呼吸おいて認証コードを入力し外へ出た。
さて、サツキはどこかな?
辺りを見回しながら歩き、多分居るであろうサツキとみぃ姉の姿を探す……すると、微かに聞き慣れた声が聞こえてきた。
「サツキ、リュウイチと険悪な関係になってもいいの?」
「ヤダよそんなの……でも仕方ないじゃん、認めたくないんだから……みぃ姉はどうして平気なの?みぃ姉だってりゅうくんに死なれたらイヤでしょ?」
「ええ、嫌よ。考えるだけでも悲しくなるし、実際死んだと断定された時はトラウマになるくらい辛かったもの……でも、彼は生きてた。確かにすごく危険だったけど、ちゃんと帰って来てくれた。それだけでも十分彼を信用できると思わない?」
「それは……そうだけど……」
「リュウイチがもうあんな思いをさせないって言ってくれたんだし、私はその言葉を信じるわ。それに彼はレギュレーションを破壊するとも言ってた……一度言った事は何がなんでもやりとげる、そういう人でしょ?」
「うん……」
「なら、私達はそれを全力でサポートするべきじゃない?例えどんな時でも私達はリュウイチのそばにいるって、昔二人で誓い合ったじゃない」
「でも、あの時……あたしたちはりゅうくんを……」
「そう……失いかけた……だからこそ彼を守るのよ、そしてもう二度と彼から離れない、私達でリュウイチを守り抜くのよ!」
「あたしたちで、りゅうくんを……?」
「あら?私だけのものにして良いのかしら?」
「それは……ヤダ!」
「でしょ?なら、あなたもリュウイチを守るのを手伝って、一人だけ楽をして彼のハートを射止めるなんて許さないわよ!」
「うん……うん!あたしたちでりゅうくんを守ろう!今度こそ絶対!!」
……フフ、やれやれ、僕を守るとはでかく出たな。それに僕がわざわざ来てやったのに、僕の出る幕は無さそうだ。良いんだか悪いんだかな。
「あーあ、やっぱりここに居たのか、急に出て行きやがって後でお叱りを受けるのは僕なんだぞ?少しは礼儀をーー」
って、うわ!
「ぎゅう〜!これ以上言わせないコウゲキ〜!♪」
「お、お前なぁ……うお!?」
間髪入れずサツキの次にみぃ姉まで抱きついてきた……!
「姉妹の力は無敵攻撃ー!♪」
こ、こいつら!
「や、やめろお前ら!姉妹揃って恥ずかしい事しやがって!しかも色んなやつらに見られてるし!!離れろー!」
「エヘヘ♪ ごめんねりゅうくん、チュウしてあげるから許して〜」
するな!何気にみぃ姉まで迫って来てるし!
「僕はやめろと言ってるんだ!」
これはまた変な噂が流れるな……たくっ!バーサーカーの力はこういう時が一番厄介だ。僕もまだまだ修行が足りないな……いや、僕のせいではないよな?多分。
「うふふ、ごめんなさいねリュウイチ!でもあなたが悪いのよ、私達をこんなに惚れさせたからこうなってるんだから!」
なんでなんだ?なんでまた僕が悪い事になってるんだ??いつもいつもこいつらは、自分が悪いって事に何故気付かない!?
「にしても、よくあたしがココに居るって分かったね!」
「あん?それは分かるだろ、お前の行動パターンなんて大体ーー」
「やっぱりなんだかんだ言ってあたしのコト、愛してくれてるんだねぇ!このこのぉ♪」
こいつアボだ、どこまで能天気なんだ……
「あのねぇ!私にだって分かったんだから、リュウイチも分かって当然でしょう!?サツキ、いくらなんでもちょっと調子に乗り過ぎじゃない?!」
「なんでさぁ!?みぃ姉は姉妹としての愛で、りゅうくんのは純粋な愛、ラブってことじゃん!」
大声で喧嘩して……こいつらに羞恥心ってものは無いのか?
「じゃあ本人に訊いてみましょう!リュウイチ、どうなの?」
うわーなんか火の粉が飛んできたー
とりあえずここは穏便に済ますか、これ以上目立ちたくないし
「そんなの決まってるだろ?単純思考のやつの考え方なんて、少し考えれば簡単にーー」
「ラブだよね!?」
普通にシカトされてるー
「じゃない!分かったらさっさと帰るぞ!まったく、世話やかせやがって!」
「あ〜ん!ジョークだってばぁ!ひっぱらないでよぉ!」
「きゃ!ちょっとリュウイチ、私まで引っ張らなくてもぉ……!」
「クスクス……」
「おもしろーい……」
はぁ、明日からどんな顔して出勤すれば良いんだ?
……これも平穏な日常か。
マスター
「一つの物語小話劇場、やあ、久しぶりだね。私だよ」
リュウイチ
「またお仕事をそっちのけでいらしたんですか?しかもリンまでこんな所に……」
リン
「よいではないか、マスターが是非にと言うものでな、だからこうしてマスターの護衛を兼ねてここまで来たんだ。悪いか?」
リュウイチ
「別に……まあ、せっかく来たんだ、ごゆっくり」
マスター
「勿論そのつもりだよ。次回、一つの物語〜選挙編〜なんだい、まだ迷っているのかい?もう観念したまえ」
リュウイチ
「マスター、あなた様もお仕事にお戻りなるのを観念してください……」
リン
「どっちもどっちだな……」