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一つの物語  作者: 世界の一つ
一つの物語〜信頼編〜
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一つの物語〜信頼編〜

「リュウイチー起きなさーい、朝よー」


んん……みぃ姉か……ってこの感覚は……


「おはよ、みぃ姉……と、ミナトもか……あれほど無断侵入はするなと言っただろう?」


「おはようございます、お兄ちゃん!今日は特別大サービスです!」


どんなサービスだよ


「おはよう、リュウイチ……ふふ、良かった。やっぱり夢じゃないのね」


ああ、夢じゃないさ。そして残念ながらミナトが無断侵入したのも事実で夢じゃない……やれやれ

僕はそう思いながら1階へと降りた。


「おはよう、兄さん」


「あ、おはよ〜りゅうくん〜……ふぁ〜安心したら眠くなっちゃった〜……でもお腹空いた〜ユマりんご飯まだぁ??」


珍しく僕より先にサツキが起きていた、半分寝ている感じだが……ユマリはいつも通り、キッチンで朝食を作ってくれている。対象的な2人だな。


「おはよ、2人とも。ほお、今朝はスクランブルエッグか……ん?ユキタカはもう居ないのか?」


「あぁ、ユキタカならもう出勤したわよ。ホーリーヘヴンに復帰してからは、毎日早めに出てメディカルルームへ寄ってるみたいよ」


1階に降りて来たみぃ姉がそう答えた。

なるほど、それなら納得だ。

それとほぼ同時にユマリが朝食を運んで来た、できたてのスクランブルエッグ。美味そうだな。


「そうか、なら丁度いい。今日やる事はあいつにも関係ある事だからな……うん、久しぶりのユマリの料理は美味い」


「おそまつさま」


そう言ってユマリは鼻歌を歌いながら調理器具を洗い始めた。かなり珍しい事だ、そんなに嬉しかったのだろうか?


「(貴方が思ってる以上に嬉しがってるわよ、彼女)」


ユリナ……僕は別に大した事は言ってないのに、そんなに嬉しいのか……まあ、あのユマリが鼻歌を歌うんだから相当なんだろうな。


「……あたしも久々にりゅうくんのために料理作ろっかなぁ」


「ミナトもお兄ちゃんに手料理を振る舞うべきかもしれません!」


「私もそうしようかしら」


「いや、みぃ姉はやめた方がいいんじゃないかな……」


「どういう意味よ……!」


なんか言ってるし……みぃ姉はサツキに睨みをきかせているが、僕は気にしない事にした。下手につっこんだら怖そうだしな


「もう……それよりリュウイチ、今日やる事ってなに?」


「とりあえずアンナ達に挨拶しに行った後、トモカちゃんを起こしに行く」


「トモカちゃんを!?え、えぇ!?どういう意味なのりゅうくん!」


騒がしいやつだな、でもそうなるのも当たり前か。みぃ姉も同じ様に驚いている。ミナトは前に教えてたから大丈夫みたいだ、驚いているより喜んでいるという感じに表情を緩めている。

ユマリは表情に変化は無いが調理器具を洗っていた手を止めてこちらを見ていた。


「あの子が目を覚まさないのはリュウガの因子が原因だ、だから僕がその因子を断ち切る手伝いをする。トモカちゃんの意識に同調してな」


「そんな事が可能なの?」


「多分な。ディランたちの中にあったリュウガの因子を断ち切る事ができたんだから、今回もやれるはずだ」


必ずやれるはずだ。


「そう……まあ、リュウイチがそう言うなら大丈夫よね!」


「ええ、兄さんの言うことに間違いはないもの。大丈夫よ」


「ミナトはお兄ちゃんを信じています!だから頑張って下さいね!」


「理屈とかよく分かんないけど、りゅうくんができるって言うなら、あたしはそれを信じるよ♪」


こんなに信頼してくれてるとはな……なんだかヒメカを思い出す。あいつも僕をずっと信じてくれていたな。


僕にならできる……か……






ーー数十分後、ホーリーヘヴン内ーー




「よくぞご無事で……うわ〜ん!リュウイチ隊長ぉ!!」


「あ、アンナ!頼むから落ち着け、抱きつくのはダメだと前に言っておいただろ!?」


「リュウイチ隊長ぉ!」


「ひ、人の話を聞け!」


マズイ、こんな所をみぃ姉たちが見たら……!


「……」


沈黙!返って怖い事になってるぞこれは!


「も、もう良いだろう?頼むから泣き止んでくれ」


「ひっく……はい……申し訳ございません……でも本当にご無事で良かったです!おかえりなさいませ、リュウイチ隊長!」


「ああ、心配かけたな。これからまた宜しく頼む」


『はっ!』


その場に居た全員がそう返事をしながら敬礼をしたので、僕もそれに応えるように敬礼しかえした。この感じ、なんだか懐かしいな。


「早速で悪いが、僕はこれからメディカルルームへ行ってくる。アンナ、留守を頼む」


「了解致しました!お気をつけて」


これでよし、さあ行くか


「……ってなんでお前らまで来るんだよ」


「俺はリュウイチのガードだからな、職務を全うしてるまでだ!」


カイ、お前は正確にはまだガードとして任命されてないだろうが


「あたしはりゅうくんの彼女だから♪」


アホかお前は


「私はこんな風にリュウイチに変な事を吹き込ませないための見張り役」


もうサツキが変な事を言ってるから遅いと思うぞ、みぃ姉


「私は兄さんのそばを離れたくないし、陰のガードだから」


ユマリは相変わらず妄想の中を突き進んでるみたいだな


「僕は戦闘以外では大所帯で移動するのは好きじゃないんだが?」


「まあ良いじゃない、久々の出勤なんだから今日くらいは大目に見てよ」


それを言われると少し弱いな


「……やれやれ、騒がしくするんじゃないぞ」


「は〜い♪」

「はいよ!」


こいつら、本当に分かったのかねぇ


「にしても、なんでメディカルルームなんだ?まさか、どこか悪いのか?」


「いや、トモカちゃんの手伝いをしに行くんだ。リュウガの因子を断ち切るためには、僕の能力が必要だからな。あの子の意識に共鳴して因子を取り除く」


「ま、マジかよ……普通ならもっと驚く所なんだが、リュウイチが言うんだから可能なんだろうな。俺は応援する事しかできないし、お前に責任を押し付ける形になっちまうが……頑張ってくれ、リュウイチ!」


「僕は今までお前に対して無力だと感じた事はない。応援だけでも励みになってるさ」


そう、それだけでも十分だ。


「あっ!ずるい!あたしもりゅうくんを応援してるからね!なんなら、ちゅ〜してあげても良いんだよ♪」


「コラ」


またなんか言ってるし、公の場でよくもまあそんな事を言えるよな。サツキに羞恥心というものはあるんだろうか?そんなサツキをみぃ姉が軽く叱る。

そうこうしている内にメディカルルームに着いた。アカリちゃん、また怒るかな?


コンコン


「はい?どうぞ」


返答を聞いて僕は扉を開ける。


「失礼、また僕だ」


「あ、あなたは!あの……その……また、来てくれたんですね」


少し意外だ、僕が来た事を少し喜んでくれている様だ。真実を知って少しは心の内にある怒りが溶けてきているのだろうか?少し中の様子を見渡してみると、そこにはアカリちゃんだけじゃなく、トモカちゃんのご両親とユキタカもいた。ユキタカとも和解できているみたいだな、良かった。


「リュウ兄?トモカの見舞いに来てくれたのか?」


「まあそんな所だ、丁度皆んな揃ってる事だし手短に説明する。今から僕のする事に一切手出しはするな、下手をすれば二度とトモカちゃんとは話せなくなる。でも安心しろ、上手くいけばまたトモカちゃんと話せる様になる。だから邪魔はしないでくれ」


「それって……例の件の事ですか?!トモカを目覚めさせるという、あの!」


夫人の言う言葉に僕は頷いて見せると、夫人は涙を流しそうな勢いで僕を見返す。そんな夫人をトオル氏が肩を支えるように手を添えた。

この期待にちゃんと応えないといけないな。


「それって……!あの!」


ん?


「あの……お姉ちゃんを……よろしくお願いします……!」


うむ、勿論だ。


「唐突過ぎて状況がよく理解できてないけど、つまりリュウ兄が何とかしてくれるって事だよな?オレはそれを信じるよ!リュウ兄、トモカを頼む!」


理解が早くて助かる。前もって説明したかいがあったな……しかし、それでも一切不安を抱いていないとは言えない様だ。夫妻もアカリちゃんも少し表情が引きつっている。


「やるぞ……今からは一切話かけるなよ」


パァーー


僕はトモカちゃんの手を握って意識を集中させる……


……


……


……


「(やっと来たね、リュウイチ)」


リュウガ!やはりコイツの仕業だったか


「(り、リュウイチお兄さん!?どうして……!)」


懐かしい声だな、遅くなってすまない。トモカちゃんの心と共鳴してこうして話せているんだ、意識同士が同じスペースで交流してるって思ってくれ。


「(な、なるほど……例の力を発動させてるって事ですね)」


そういう事だ。それにしてもリュウガ因子に侵されているのに正気を保っていられるとはちょっと意外だぞ。


「(私はちゃんと目覚めてユキタカ君と仲直りしなきゃいけませんから……負けられません)」


「(ふふ、あの男にそこまで入れ込むとは、相当惚れているようだね。あんな奴の何が良いのか僕には理解できない、奴は君を殺そうとしたんだよ?)」


「(何度も言った筈です、私はユキタカ君を愛しているし信じていると。あなたに分かってもらえなくても構いません!)」


あいつをそこまで愛してくれているなんて、なんだか良い気分だ。


良い気分ついでにリュウガ、お前は大人しく消えてくれないか?


「(怖いなぁ、そんなに殺気立って言わなくても良いじゃないか。せっかく久々に再会したんだから、もう少し仲良くしようじゃないか)」


仲良くするためにここに来た訳じゃないって事くらいお見通しだろ?なら無駄な会話は省こう、本題に入らせてもらうぞ……リュウガ、まだトモカちゃんを苦しめるつもりなら大人しくここから出ていってくれ、僕だって何千年かけてまで兄弟喧嘩をしたい訳じゃないんだ。


「(これは驚きだな、君の事だから僕を殺す気で来たのかと思っていたのに……本当に君は分からない奴だな)」


殺すんじゃない、排除だ。

話し合いで解決できないなら、早々にトモカちゃんの中から出ていってもらう。1年も苦しめたんだ、相応の扱いだろう?


「(もう迷いは消えたみたいだな、ならやってみるといい。君にその力があるかどうかだけどね)」


「(リュウイチお兄さん、どうやってリュウガの因子を消せるんですか?私は何度やってもできませんでしたが……)」


僕の力をトモカちゃんに共鳴させる、ブランシュ・アローを発動させろ、その矢に僕の力を共鳴させるから、その力でリュウガを撃ち抜くんだ。


「(リュウイチお兄さんの力を? ……分かりました、私はあなたを信じます!)」


そう答えてトモカちゃんはブランシュ・アローを手にした。あとは僕が更にトモカちゃんの意識に同調して……


……


……


……


よし!共鳴できた!


「(暖かい……これがリュウイチお兄さんの力……不思議と気持ちが落ち着く……今ならなんでも出来そう、待っててねユキタカ君!)」


その調子だ、ユキタカは今でもトモカちゃんを愛している。確かに一度はお前を傷つけた。でもそれでもこうしてあいつを信頼しててくれたなら、もう二人を引き離す事はできない。誰にもな。

あいつを……ユキタカを頼む!


「(はい!はああああ!!)」


「(へぇ……ここまで力を増幅させられるのか……良いね)」


チッ……今から排除されるというのに余裕か

僕がここまで自信をつけるのにどれだけかかったと思ってるんだ。


でもこれは僕だけの力じゃない、増幅させてるのはトモカちゃん自身の力だ。やっぱりこの子は相当な精神力の持ち主だったみたいだな。


「(蒼空の矢よ貫け!シエルブルー・アロー!!)」


バシュ!!


トモカちゃんの放った青い光の矢は見事にリュウガの心臓を貫き、そこから青い炎が咲き狂う。

……無抵抗で受け止めるなんて、何を考えているんだ?


「(なるほど、確かに力を上手く使える様になっているみたいだね。まあ良いさ、こいつと遊ぶのも飽きていたところだし、今回はこのまま消えてあげよう。でも、ちゃんと覚悟しておけよ?実際に僕と戦うときはこんな簡単にはいかないぞ。リュウイチ、お前に僕を殺す事なんて不可能なんだ。それを忘れるな)」


1年間もトモカちゃんを昏睡させておいて、飽きたの一言で済ませるとはな。やっぱりお前は僕を怒らせるのが得意らしい、それは痛感したよ。

貴様も覚えておけ、僕は二度と負けない。絶対にな。


「(ふふ、精々簡単に死なないよう精進してくれ……またな)」


リュウガは青い炎に焼き尽くされ、やがて灰になって消えていった……リュウガの因子は完全に消えた様だ……良かった。


「(リュウイチお兄さん……あの……ごめんなさい、ご迷惑をおかけして)」


その発言は撤回するべきだな、僕はトモカちゃんを待たせてしまった上に苦しい思いまでさせてしまった。だから謝る必要なんてない、謝罪するべきは僕の方だ。本当にすまなかったな。


「(リュウイチお兄さんと共鳴してるせいか、今なら気持ちや思いが分かるんです。それを知っても私はあなたを責めたりしません、ユキタカ君を……そして私を救って下さって本当にありがとうございました)」


……僕は僕のやりたいようにやってるだけだ、気にするな


「(ふふ……はい!)」


トモカちゃんはそう言って満面の笑みを僕に向けた。


それじゃあ、そろそろ僕はここから出ていく。トモカちゃんの精神世界に勝手に入って悪かったな、目覚めたらいつか家に来てくれ、腕によりをかけてとびっきり美味い料理かデザートを作ってやる。じゃあ、またな。


「(はい!ありがとうございます!また後でお会いしましょう)」


その返答を聞いて、僕は目を閉じてトモカちゃんの精神世界から出て行った。


再び目を開けた時、そこには病室の風景と僕とトモカちゃんを見つめるユキタカ達の姿が目に映る。


「リュウイチ! ……上手くいったのね?」


「みぃ姉……ああ、勿論だ。もう間もなく目を覚ますだろう……ほら」


そう言って僕はトモカちゃんの方に目をやる……と、ゆっくりまぶたを開けて綺麗な瞳が姿を見せた。


「……ユキ……タカ君? ……それにみんなも……おはよう」


「トモカ……トモカぁ!良かった……!!ごめん、本当にごめんな!俺のせいで……!うぅ!ごめん……!」


「おはよう、トモカ……うぅ……本当に良かった……!」


皆んなでトモカちゃんの目覚めを心の底から喜んでいる様だ、僕もその光景を目の当たりにして、少し力が抜けて近くの椅子に腰をおろした。


「兄さん、大丈夫?」


「りゅうくん、平気?キスする?」


「大丈夫だ、ちょっと脱力しただけだから気にするな」


ふぅ……一件落着、だな。






トモカ

「一つの物語小話劇場、お久しぶりですトモカです……リュウイチお兄さん、本当にありがとうございました」


リュウイチ

「言ったろ?僕はやりたいようにやっただけだ、気にするな。それより、ユキタカとデートしないのか?やりたい事は色々あるだろうが、先ずは家族と一家団欒か?」


トモカ

「そうですね、優先順位をつけたくないので、みんなでお食事したいです。良かったらリュウイチお兄さんも……」


リュウイチ

「せっかくのお誘いだが、僕は遠慮しておく。お二人の邪魔をしたくないからな。次回一つの物語〜信頼編2〜、お楽しみに」


トモカ

「残念です……アカリが喜ぶと思ったのに……」


リュウイチ

「なんでそこでアカリちゃんが出てくるんだ?」


トモカ

「……意外と鈍感なんですね、リュウイチお兄さん……」

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