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一つの物語  作者: 世界の一つ
一つの物語〜奇跡編〜
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奇跡編4


ーー数十分後カンナの洞窟入口前ーー



イレギュラー達の収容のため本部に連絡し何機かヘリを要請したので、ホーリーヘヴンの隊員たちが何名か忙しく出入りしている傍らで、僕はその流れを近場の岩に座って見ていた


「お前らいい加減離れろよ……」


「絶対にイヤよ!」


「そーだよ、またいなくなったりしたら大変だし!」


僕は迷子の子どもか!


「兄さんがまたいなくなったら、今度こそ私も一緒にいくから」


"いく"って言う字が"逝く"じゃない事を願うよ

それにしてもリュウガはこんな所で何をしようとしていたんだ?魔物もディランの部下も時空間魔法で転移されていた、わざわざそんな手の込んだことをして一体何を……


「レッカ、僕と別れてからジュンは……他のイレギュラーはいなかったか?」


「いや、あのハゲ頭のイレギュラー以外誰もいなかったぞ。そんな事よりお前はこれからどうするんだ?そう簡単にはホーリーヘヴンには復帰できないのではないか?」


少し意外だな、記憶を無くした僕を世話してくれるだけじゃなく、その先の心配までしてくれていたなんて……記憶が戻ったらすぐさよならだと思っていた。


「その辺はマスターと話し合ってみる、僕がこの先どうするかをな」


「えっ!?リュ……あなたはホーリーヘヴンを辞めてしまうんですか!?」


……これまた意外だ、まさかアカリちゃんからそんな言葉が出るとは


「僕としてはホーリーヘヴンを辞めるつもりはないから、できれば復帰したいところだ。個人的な問題もあるしな」


「ほぇ〜りゅうくんってホーリーヘヴン辞めるつもりなかったんだ……あたし達はてっきりすぐにでも辞めたいのかと思ってた」


「随分長い間勘違いしてたみたいだな、僕は戦いこそ好きではないが、ホーリーヘヴンを辞めるつもりなんてこれぽっちも思ってないぞ。ベルクレア様やヒメカの為にもな」


「そ、そうなの……ヒメカさん……ね……」


……まあ、いずれは分かる事だから今の内に言っておいても良いだろう。


「元々僕がホーリーヘヴンの設立に加わったのは、ヒメカ達みたいな犠牲者を出さないためと、あいつらの思いを受け継ぐ為だ。そうじゃなければ僕は紅として活動していたかもしれない」


「リュウイチがそう言うんだ、多分俺もホーリーヘヴンじゃなく紅に入ってたかもな。多分レイも……いや、アサギリ姉妹やユマリも、かな?」


「そうね、私の行動原理は兄さんだもの」


言い切るやつらだな……まあ、それがこいつらの信念みたいなものの様だから、馬鹿にはできないか


「まあ、そういう訳だから僕個人としてはホーリーヘヴンに復帰したい、そういう訳だ」


「では、再び特務執政官として復帰してはどうかな、リュウイチ君」


っ!?この声は!


「マスター!?あなたはまたなんでこんな所に!少しはご自分の立場というものを御理解なさって下さい!」


この方は本当に……いつか暗殺されるんじゃないかとヒヤヒヤさせられる。


と言うか!


「しかも何を簡単にそんな事を仰っておられるんですか?事はそんな単純ではないでしょう」


「やれやれ、友の奇跡的帰還に大喜びしてここまで出向いたと言うのに、もう少し柔らかくいこうじゃないか、私と君の仲だろう?」


はぁ、なんで僕が間違ってる様な言い方をなさるんだ……


「……では友としてお訊きします、僕は紅のセツナとして活動していた。そんな僕をなぜそんな簡単に復帰を?しかも特務なのですか?」


「紅として活動していた?さてなんの事だい?君はリュウイチ君で紅ではないだろう?それに君が仮に紅だとしても、そんな事実誰が証明するんだね?」


な、なにを!


「レッカ君……と言ったかな?君はセツナ君という者の正体を知っているのかな?」


「……いえ、私は存じません。それに私の知っているセツナは現在行方不明です」


「レッカ!?」


「そういう事だリュウイチ君、約1年間不在だった君をマスター権限においてホーリーヘヴン特務執政官として復職を命ずる。異論や反論は認めない、君の戻るべき場所はホーリーヘヴンだ。良いね?」


……


「認めたまえ、君に戻って来てほしいと言う人は何人もいる、恐らく大多数の者が君の復職を望むだろう。少なくても、私を含めたここにいる全ての者が賛成するはずだ。違うかね?」


「俺は……私はリュウイチの望む方を優先します……が、個人的意見を言わせてもらうとするなら、共にホーリーヘヴンで過ごしたいです」


「私もカイ君と同じ気持ちです、またリュウイチ君達と過ごせたらどんなに嬉しいか」


「私もリュウイチの復帰を望みます」


「あたしも!」


「私もです」


「一応私も、まだホーリーヘヴンでイジメ足りないもの」


「僕もです!また共にホーリーヘヴンの一員として戦いたい!」


「俺もですぜ兄貴!」


「私も……そう望みます」


「さっきの話を聞いたからには、リュウイチにはホーリーヘヴンとして戦う事を私は推奨する」


「ほらね?」


マスター、それに皆んなも……フフ、これは負けたな


「了解……リュウイチ・ナルミ、マスターからのご命令を謹んでお受け致します」


「それで良い、今後も君の活躍に期待しているよ」


しかし大丈夫だろうか?この事でまた賢者共が何か言ってくるんじゃないか?


「ありがとうございます……あのマスター、賢者共は?」


「あぁ、彼らは何も知らないよ、情報収集及び連絡係のレイ君はこの事には一切関与していないからね」


そうなのか、なにか別のことを調査しているんだろうか?

しかし、もしもこの事実を知ったら今度こそ奴らは黙っていないだろうからな……事が荒んだらミナトの事も心配だ


ポワ……


ん?


突如黒百合と白百合が光を放ち、ユリナたちが実体化し始めた。


「あの……ユリナ、実体化するなら僕の膝の上じゃなく普通に……」


「まあ良いじゃない、たまには……それよりマスターにお話があります……その……勝手を言うようで申し訳ないのですが……」


そう言いながらユリナは僕の膝の上から降りて、地に足を着いた


「分かっているよ、リュウイチ君が戻った以上、君達がホーリーヘヴンに在籍する事は困難と言いたいのだろう?黒華である君ならとっくに私の返答は分かっているはずだが?」


「……感謝致します。短い間でしたがお世話になりました」


「うん」と言ってニッコリと微笑むマスターはまさに天使の様な輝きを放っている。ユリナも深々と頭を下げて心は感謝の気持ちでいっぱいの様だ。


「……」


「ん?ユリコちゃん、どうした?」


ユリコちゃんは僕の膝の上で実体化し、そのまま黙って僕を見つめている。なんだろう?


「(……怒らないでね……)」


あぁ、そういう事か。

大丈夫だ、僕はユリナを責めたりしない。元を辿ればユリナが行動に出たのは僕のせいみたいだからな、こいつを責める資格なんて僕にはない。仮に有ったとしても、多分責めたりなんかしないと思う……多分な。


「……ありがとう……」


「ありがとう、リュウイチ」


「ちょっと!また共鳴して内緒話してるの?私たちをのけ者にしないでよね!」


「そうだよ!あたしだってりゅうくんとお話したいんだから!」


「そんなつもりは毛頭無いんだが、それに大した事じゃないから気にするな」


「するわよ!」

「するよ!」

「するわ」


……女って怖いな

ちゃっかりユマリまで否定してるし、これも愛ゆえにって言いたいのかね


「はは、人気者は辛いね。そんな中申し訳ないんだが後日君にお話しがある。勿論ミツキ君たちも来てもらっても構わない、ちょっと急ぎのお話しだから明日にでも私の部屋に来てくれたまえ」


「了解致しました一人で行きます……と言いたい所ですが、数名同行させます」


「分かった、待っているよ」


「マスター、そろそろ」


同行していたリンが小声でそう遮る様に言うと、マスターは黙って頷き「それじゃあ」と言って何機かあるヘリの一機へと歩き、飛び去って行った。

大丈夫か?あのヘリ……撃墜されないだろうな?

と、少し心配したがもしもの時はリンがいるから大丈夫だろう、それに嫌な気配もしないし……と、僕は気を許した。


まったく、あの方はこういう場所でも平然と来るからこちらは気疲れしてしまう


「はは、なんだか嵐が去った様な感じだなリュウイチ。あの方なら大丈夫だろう、俺達もそろそろ帰ろうぜ」


「ああ、そうだな。お前たちは体力を消耗してるだろうし早いところ退散しよう。ちゃんとメディカルルームに行けよ?」


「何言ってるのよ、一番行かなきゃいけないのはあなたでしょう?ちゃんと検査受けてよね、じゃないと安心して眠れないわ」


僕はなんともないんだけどな

まあ、みぃ姉を始めここにいる全員が僕に注目しているし、ここは素直にイブキの所へ行こう。それまで待っててくれよ、ミナト。


「リュウイチ君と話たいのはみんな同じだろうけど、今日はゆっくり休もう、じゃないと本当に倒れちゃうかもよ?」


「ハクの言う通りね、私たちも流石に疲れてるからさっさと行きましょう。ほら行くわよキラ!」


「わわ!ちょっとミラー引っ張らないでよ!それじゃあリュウイチ隊長、また後日に……ってミラー!だからそんなに引っ張らないでってば!」


あいつも大変だな、でもカイに続いてベストカップルだよ、お前らは


「レッカ、お前の処遇だが……」


「構わん、逃げ隠れするのもいい加減飽きた。私は紅としてお前に捕縛されよう……好きにしてくれ」


そう言ってレッカは仮面を外し、その素顔を皆んなに見せる。端麗な素顔と輝く瞳には何か一種の決意の様なものを感じさせる。


「うわ、美人……って、何で敵を褒めてるんだあたしは!」


忙しいやつだな


しかし恩を仇で返す様な感じになってしまうが、なんとかならないだろうか?しかし紅とリュウガが手を組んでいたのは明白な事実だ、それを断罪しない限りこいつらは自由になれないだろう。


「分かった……」


そう返答するのがやっとだ、多分だがマスターが何も言わなかったという事はそれなりに理解して頂いてるのだろうが……さてどうなるだろうな

僕はホーリーヘヴンの隊員を二人呼び止め、レッカを連行させた。とりあえずは明日だ


……帰る、か……僕は本当に生きてるんだな。

レギュレーションの直撃を受けて、瀕死になって記憶が無くなって紅に匿われて……色々あったが、やはりここが一番居心地が良い


本当に間に合って良かった


「さあ、帰ろう」


ーー



ーー



ーー



ーー





ーー数十分後、ホーリーヘヴン・セントラル本部ーー



「リュウイチ様ぁ!!」


うわっ!


ヘリで帰還し早々に出迎えてくれたのは、この声からするとオトネであろう女性だ……しかもご丁寧にギュッと抱きついてきた。僕は両サイドをアサギリ姉妹に、後方はユマリたちにガッチリ固められていたので避ける事ができず、致し方なくそのあつい抱擁を受け入れる事しかできなかった。


「リュウイチ様、良かった……本当に良かった……!」


「お、オトネ、だよな?頼むから早々に離れてくれ、周りの殺気が怖い」


「はい……オトネです……ぐすん……ご、ごめんなさい……でも本当にもうダメかと思ってて……ご無事でなによりです、リュウイチ様」


この子にも心配をかけてしまったみたいだ、それにオトネだけじゃなく周りには多くの隊員達が集まっている。中には泣いている人達もいるみたいだ。

そうか、どうやら僕が思ってる以上の人達が僕の帰還を望んでいるんだな。


「リュウイチ様、おかえりなさい!」


「おかえりなさい、隊長!」


「リュウイチ様!」


パチパチパチ!


皆んな……


「感謝する……わざわざ出迎えてくれたのになんだが、僕たちはこれからメディカルルームへ行くんだ。心配かけてすまなかったな、皆んな持ち場に戻ってくれ」


『了解致しました!』と、一斉に返事をする隊員達、だが名残惜しそうにして中々動こうとしないやつらが多い。やれやれ、参ったな……


「はいはい!みんなどいてどいて!ここからは診察のお時間です!みんなは持ち場に戻りなさーい」


イブキ、ナイスタイミングだ。


「おかえりなさい、リュウイチ君!話したい事は山ほどあるけど、先ずはメディカルルームへ行きましょう。マスターから連絡は受けてるからそのまま来てもらってもOKよ」


「分かった、頼む」と言って僕はイブキやみぃ姉達とともにメディカルルームへと移動した。隊員の何名かも付いてきてるみたいだがとりあえず良いか。


「人気者は辛いわね、リュウイチ君。さあ入りなさい」


「いや、先ずはみぃ姉たちから……」


「ダメよ、リュウイチから先に診てもらいなさい。私たちは大丈夫だから……ね?」


「分かった……」と、僕は頷いてメディカルルームの中へと入っていった。みぃ姉の目、絶対譲らないって感じの目だったな。あぁなると誰にも止められない、やれやれ……まあ今回は仕方ないか


「じゃあ、カプセルの中に入って……んー頭部にまだ治りきってない傷があるわね」


「それのお陰で約1年間記憶障害を起こしてたんだ」


「なるほど、相当深い傷だったみたいね、生きてるのが奇跡なくらいよ」


だろうな、しばらく動けなかったくらいだから

傷が残らなければ良いんだが……


「その顔は何か心配してる顔ね?大丈夫よ私がしっかり治します」


それは助かる


「それじゃあカプセルから出ても良いわよ、こちらに来なさい、直接治癒術をかけるわ」


回復カプセルでも治せないのか?まあいいか、僕は言われるがままイブキの元へ歩み寄った。

イブキは向かい合った僕の顔を両手で包み込む様に触れ、治癒術を発動させた


「本当にリュウイチ君なのね……良かったわ」


「お前にも心配かけたな」


「私は仕事柄、人の死に一番近いから大丈夫よ……と言いたいところだったけど、あなたが死亡したと断定した時は流石に心が痛んだわ。もう二度と会えないと考えただけで……私……」


そう言いながら、イブキの瞳には涙が溢れては流れ出している。女の涙には弱い……僕は「すまない」と、ただ謝る事しかできなかった。


「こうして無事でいてくれたんですもの、それでチャラにしてあげる。それにしてもあの出血量で生還するなんて、本当に奇跡よ?一体どうやって……」


「さあな、僕にも分からない気付いた時にはもう既に紅のベースキャンプだった。直撃を受ける瞬間にシールドを張って反撃した所までの記憶はあるんだが、それ以降はまるで記憶に無いんだ」


謎の空白、それがどうしても分からない。

僕はイブキに治癒術をかけてもらいながら思考を巡らせていた、一体僕に何があったんだ?



サツキ

「奇跡の物語小話劇場!やっほ〜サツキちゃんでぇす♪」


リュウイチ

「違う!一つの物語、だ。小話劇場って言ったらなんか負けた気がするから言わないでおこう」


サツキ

「だって奇跡だよ!?りゅうくんが生きてた奇跡を奇跡と認めずなんと心得るのか!!」


リュウイチ

「なんだその説得になってるようで説得になってない言い方は……だからこう言うんだよ、聞いてろ。一つの物語〜奇跡編5〜……な?これが正解なんだよ」


サツキ

「じゃあ、あたしとりゅうくんが付き合う確率は?」


リュウイチ

「それは……奇跡の物語だな」


サツキ

「ぶ〜!!りゅうくんの意地悪!」


リュウイチ

「何を言い出すんだ、こいつは……」





次回掲載予定日4月10日

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