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「アンタ、名前はなんていうのかい?」
「ケール、ですが……」
このおばあさん、とっつきにくい。というか雰囲気が怖い。
「ふむ、ケールというのかい」
そう言いながらその老婆は私を値踏みするような目でじろじろと眺め、何やらぶつぶつ言っている。
「あ、あの、私は用事があるのでこれで……」
「今から村長の家にいくよ。ついてきな」
人の話を聞いてないよ、このおばあさん。私はむっとしたが、怖かったので何も言えないまま手を引かれて村長の家まで連れていかれてしまった。
この人、一体誰なんだろう……。
老婆が村長の家ドアをノックした。
「わしだ、ジェニーだ。村長さんはいるかい?」
少しするとドアが開いて村長が出てきた。
「これはこれは魔導士様、久しぶりですな。今回は一体……。」
村長が私に気づいて言葉を切る。その眉がひそめられた。私はなんだか気まずくなり、うつむいた。
「立ち話もなんですからとりあえず中へどうぞ。」
中へ案内され老婆が席へ着く。私は遠慮してその後ろに立った。
「これくらいしか出せませんが、どうぞ」
老婆の分のお茶が出される。
「単刀直入に言おう。この子をくれないかい。」
私は驚いて目を見開いた。
「一人ぐらいは召使いが欲しいと思っていたところなんだよ。わしも年だからね。しかしなかなか適任がいなくてほとほと困っていたんだよ。どうだい、村長さん」
まさかこの村から出られる日がこんなに早く来るとは。まだあと十年くらいはこの村で肩身の狭い思いをして生きていかねばならないとおもっていたのに。これは、千載一遇のチャンスだ!
そう思い、村長が口を開く前に、
「わ、私は大丈夫です!」
ととっさに答えた。しかしこの言い方だとわたしは早くここから出ていきたいといわんばかりではないか。今まで曲がりなりにも役立たずのこの私を養ってくれた村長に失礼だと思い、
「その、いつまでもお世話になるのも申し訳ないので、私を必要としてくれる方がいるのなら、別に私は……」
ともごもごと付け足した。
それから話はとんとん拍子に進み、このおばあさんに引き取ってもらうことが決定した。
おばあさんのは日が暮れるまでには家に戻りたいということで、私は早々に自分の数少ない荷物をまとめて村を出ることになった。
「準備は出来たかい?」
「はい」
今日は変わったことが多すぎて疲れた。突然のことで実感がわかない。
「何ボケっとしてるんだい。さっさと行くよ。」
いけないいけない。つい感傷に浸ってしまった。
そして私は六年間暮らしたこの村を後にした。