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美衣編

 幼い頃からずっと、魂と共にあると信じていた人がいた。

 あたしは贅沢なことに、信じている人が二人いたの。


 どちらも男で、そこだけ聞けば、女の子の一部には「そういうプレイ?」と真顔で聞かれたわ。

 何よ、どうおかしいっていうの。別に、彼氏が二人っていうんじゃあないの、幼馴染みの親友が二人いるってだけよ!?

 幼馴染み二人も、変に思う周囲がおかしい、って表情を常にする。

 龍臣と忠臣っていう双子の兄弟なんだけど、二人とも周囲を「都合の良い妄想が、得意な変態」って呼んでいた。

 周囲は常に、あたしたちを変だ変だという色眼鏡をつけて噂話する。

 変じゃないと叫べば叫ぶ程に、周囲の色眼鏡の度は濃くなっていく。おばさま方があれよこれよと、いいや違うわあれだわ、とかどうでもいい昼ドラみたいな話ばーっかり!

 でも……くだらない話ばかりだけれど、傷つく話ばかり。


 いつからか、あたしは二人と少し距離を置いた。

 最初は「習い事がある」次に「友達と遊ぶから」、適度な距離とやらを探そうとした瞬間に、龍臣が激怒した。

 ある日に近所の公園に呼び出して、滑り台の上からびしっとあたしに指さして告げたの。


「関わりたいか、関わりたくないか選べ! 中途半端でなあなあは一番悲しい!」


 龍臣の口調は厳しいものだったけれど、あたしは嬉しくなったのを今でも覚えてる――。

 どちらか極端だから、人によっては困るものかもしれないけれど、それでもあたしにはたった一つの選択肢しか見えなかった!

 ――関わりたい! って泣いて叫んだものよ。


 月日は経って龍臣と、忠臣と、あたしは高校生になって演劇部に入った。

 最初は発声練習で、脚本家志望である忠臣も一緒に体力作りの筋トレでぜいぜいと息を切らして困惑していたのが面白かった。


 夏に初めての合宿をすることになった。

 あたしは今まで、打ち込めるものがなかった。演劇部に入ったのは、龍臣と忠臣が入る面白くて素敵なところっていう印象だったから。

 初めての合宿に喜び、当日わくわくしながら、民宿の部屋の窓から風を通す。

 初日は海辺で遊んでいいって話だから、皆出払っていて、忠臣も今後海を舞台にした脚本を書くときの参考に、写真を撮りにいった。

 海が近くにあるから、潮風が気持ちよかった――ふと、海辺のほうに不思議な塔が見えた。

 塔は馬鹿高くててっぺんが見えない。蔓が伸びていて、壁にびっしり張り付いている。時々ひび割れてる壁もある、レンガ造りっぽい感じもする。

 時折上っていく人が外からは見える。

 入り口は一切合切ぼやけていて見えない。見えない、というよりは、見ているという認識ができない。注目していたはずなのに、何を見ていたっけ、と頭がくらくらするので見るのをやめたくなるものだった。


「龍臣、見て。塔が見えるの」

「みっちゃん、何を――あ、本当だ、塔が見える」

「ね、嘘じゃないでしょ。さっき忠臣には、熱中症で幻見てるんですかって心配されたんだよ!」

 忠臣の物真似をしたら、龍臣には爆笑されたので満足。

 龍臣は笑いを収めると、興味津々に塔を見つめて、小首傾げた。


「うーん、何だろうね、あの塔――もしさ、物語に出てくるとしたらあの塔をどう使う?」

「上ったら願いが叶う塔なら素敵じゃない?!」

「オレはそうだなあ、塔に案内人がいたら面白い展開しそうじゃないか?」


 悪巧みのように二人で塔についてあれこれ話していた。

 龍臣とは感性が似ていて、同じ物を見て全く同じ回答をしたりする出来事が多かったから、お互いに言葉を略してしまうこともあったりする。


 言葉を交わすのも楽しいけど、既に共感してる箇所が多いのも楽しかった。


 ――ふと、二人でいつの間にか眠ってしまっていた。

 初日の移動からの疲れや、初合宿からのはしゃぎが効いていたようで。初日から眠り過ぎちゃったなぁなんて思いながら目を覚ませば、焦げ臭い。誰かが民宿の中で、「まさか煙草からあんな火が……!」と叫んでいるのが聞こえた。


「嘘よ」


 部屋の中は業火に包まれている、どうして?!

 ゆらゆらとオレンジ色の全景しか見えず、目の前は誰かが私を覆って、熱から隠している。


「みっちゃん、駄目だ、起き上がるな!」

 誰かが身を挺して、崩れゆく柱から庇うように抱き締めてくれた。

 最期まで龍臣は私の、悲しい騎士だった。



 ――瞬けば、塔の中にいた。

 塔の内部は暗いような明るいような。確実に足下は見えるし、今は階段の途中で、先がらせん階段なのも想像できる。少し大きな壁もある。

 思ったより広い階段で、横の広さだけでも六畳分はあるんじゃないかしら。

 窓辺からは月明かりが入り、随分お月様や雲が身近に感じた。地上がとても遠い。灯りが、蛍のようだった。


 あれ、おかしいね、だってあたし民宿にいたんでしょう?

 しかも火事でやばいかんじの場所。


「みっちゃん、この塔って……民宿の外から見えたやつかな」

「そうみたい。……――もしかして、この塔って……まさか、ね。願い叶うかもしれないから、上ってみよう!?」

「いいけど……――ああ、でも。うん、みっちゃん、先に上っていて」

「どうして?」

「後で追いかけるから。ほんとに願いが叶うなら、オレを頂上から呼んで貰ったほうが、ワープできて嬉しいかな」

「あー! 楽をしたいってことね、しょうがない、それなら先に上っててあげてもやらなくはない!」


 あたしは階段を上っていき、頂上の扉を開く!


 頂上には、色とりどりの花や鳥がいて、他にも動物がいる。

 空が華やかに青から黄色になったり賑やかな場所。

 賑やかだけれど、耳障りな音は一切無かった、小さな妖精の歌声ですら優しく泣きそうになる。

 虹もあり、兎に角素敵で素晴らしいところ、って認識を即座にできるほどには、美しい場所だった!


「――ああ、なんて素敵」


 ふらり、と脚がその土地を踏みしめた瞬間――華の濃い匂いに、不幸な気持ちが飛びそう。もう何も悲しいコトなんて、考えられないくらいには、ふわふわとする。

 でも、心の中に一つの気がかりが。


「龍臣――龍臣、早くおいで。どうしてこないの? ここは素敵よ」


 ふわふわとした気持ちの中、ゆっくりとその場にあった華のベッドに眠る。

 塔の頂上にあったのは、楽園だった。

 いつか龍臣がくることを、待ち続け。


 五十年経ってから、忠臣は来てね。ここは、どうやら願いが叶う塔ではないようだから。



 幼い頃からずっと、魂と共にあると信じていた人がいた。

 あたしは贅沢なことに、信じている人が二人いたの。

 一人は、塔の真ん中、一人は地上にいる。あたしは、頂上。

 龍臣をワープする行為はできやしなかった、だから待つしか無い。

 頂上にきてから判ったわ、どこにいても離れていても、あたしたちはずっと親友なの。仲良かった時間まで消せないわ――だからずっと傍にいる。


 心だけでも、隣に。

 いつまでも来ない龍臣に、あたしは龍臣がいつかくると信じて祈った。

 祈りの花束を、毎日作っては、外に落としていく。

 誰かが「花束は地上には届かない」と教えてくれたけれど、それでも贈る。


 龍臣の心が、安らぐように。

 それは、一種、蝶へ捧ぐ華から蜜へのお誘いのようだった。





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