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プロポーズ大作戦!

挿絵(By みてみん)

 私は花束を手に指定された建物の前で、ごくりと唾を飲み込んだ。初めての場所はやはり緊張する。

 しかも、ここは大手「三友(みつとも)貿易商社」。

「よし!」

 しかし、 やっと私は気合を入れ、あのお客様から頂いた名刺と依頼された花束を持って、入り口から受付へと赴いた。


「いらっしゃいませ。どちらへ御用でしょうか」 

 1階の受付で、受付嬢に声をかけられた。

「この方のいらっしゃる部署に行きたいのですが……」

 私は一昨日もらった名刺を提示した。

「花屋「Bouquetier(ブーケティエ)」の新井(あらい)様ですね。高浜(たかはま)から聞いております。7階Bフロアまでいらしてください。これが入室パスになっております」

 そう言われ、パスを渡された私は、エレベーターで7階へと上がった。


(えーと、7階。ここでいいのよね。Bフロアてどこだろう)


 私は、廊下をうろうろしながら、お客様のいらっしゃる部屋を探した。


 その時。


「君!」

 背後から射るような声がした。


 振り向くと、私と同世代と思われる若い男性が、厳しい顔をして私を見据えている。


「君、当社の人間ではないだろう。何をしに来たのかね」

「ご覧の通り、花束をお届けに参りました」

 私は、ちょっとむっとして、強気に応えた。

「何で観葉植物ならともかく、花束なんだ」

 彼は、威圧的に語気を荒げる。

「最近、不審者を見つけた者がいてね。君、とりあえず警備室まで来なさい」

 そう言って彼は、警備室へと電話をかけ始めた。

「ちょ、ちょっと待ってください! これを見て下さい。ちゃんと入室パスだって……」


(ああ、もう約束の4時45分過ぎるのに……!!)


 私は、約束通りに花束を送り届けなければと、必死だった。


 その時。


「あ、花屋さん! ここです!」

 廊下の右側の部屋から、あの男性が顔を出した。

「す、すみません。時間に遅れてしまいまして……」

 私は、平身低頭で、頭を下げる。 

「ああ、素晴らしい花束ですね!」

 しかし、彼は満足げに花束を受け取った。


「あら。素敵な花束」


 その時だった。

 また部屋から一人女性が出てきて、そう声をかけてくれた。


 それは、年の頃はアラサー少し前の26、7歳。

 ダークブラウンのロングの巻き髪を後ろにすっきりと一つにくくり、背筋もピンと張った綺麗な女性だった。


「では、お先に失礼します」

 そう、彼女が言ってその場を去ろうとした時、

「か、鹿野(かの)さん……!」

 彼がとっさに彼女の名を呼んだ。


「あ、あの……。今日、お誕生日ですよね」

 その鹿野という女性は足を止め、怪訝そうに小首を傾げた。

「私ですか? そうですが、何か?」

「あ、あ、あの……」

 わなわなと体を震わせながら、彼は叫んだ。


「け、結婚してください!!」


 その場が、シン…と静まり返った。


「あ、じゃなくて…誕生日、おめでとう…ござい…」

 それはそれは小さな声で彼は呟き、最後は言葉になっていなかった。


(あー、間違ったんだ…… 順番を)


 どうやら、彼は極度の緊張で、「誕生祝」を贈るつもりが、本音の「結婚」を口にしてしまったのだろう。

 見るも無残に彼は縮こまり、真っ赤になって俯いている。


 どうなるんだろうと私は、固唾を飲んで行方を見守っていた。


「……私でよろしいんですか? 高浜さん」


 果たして彼女は、頬を染め、彼を見上げた。


「え、今、なんて……?」

「私でよろしいの?と申し上げたんです」

「貴女でなければダメなんです!!」

「嬉しいです……」

「じゃ、じゃあ。このプロポーズ……」

「はい。お受けします」

「鹿野さん!」


 もうすっかり世界は、それこそ薔薇色の二人きりのものだった。


「はあー」

 私は一気に脱力し、視線を横に逸らした。

 すると今度は、私を不審者扱いした彼とばっちり目を合わせてしまったのだ。


「その……。すまない」

 一言、彼は呟いた。

「わかって下さったらいいんです」

 そう言いつつ、語気には含みを持たせて言った。


「では、私はこれで失礼します」

 そう言って、私はその場を離れた。


 彼がずっと私の後姿を見つめていることには、当然私は気づかなかった。




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