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神の財産とファミリア〜あなたの家族でよかった〜  作者: 飾神 魅影
序章:日常を求めて
7/31

ファミリアという存在

また会話回ですよ。

だけど重要な回なので、ぜひ最後まで読んでください。

その日、学校は休みになった。

校内で死人が出たからだ。


ツバキは担任の藤原を探していた。

職員室にはいなかった。

藤原は進路課の教員なので、進路指導室にいるだろう。


予想通り藤原は進路指導室にいた。

コンコンとツバキは2度ノックした。

「どうぞ」

返事を聞き、ツバキはドアを開けた。

「失礼します」

中には藤原しかいなかった。

「なんだ、まだ帰ってなかったのか」

「少し、聞きたいことがあって」

「なんだ? 」

「コウのことです」

ツバキは、コウから賢者の石を盗もうとした男子生徒に言われたことがずっと気になっていた。

「真道がどうかしたのか? 」

「今日、死んだあの男子生徒……羽田 正志が、コウのことを殺人鬼と呼んでいました。そのことについて教えてもらえないでしょうか」


藤原はとても険しい表情をしていた。

コウと藤原は以前から面識がある。

何か知っているのだろう。

「真道が人間ではないことは知っているな? 」

ツバキは黙って頷く。

「あいつの本当の姿は猫だ。しかもただの猫ではなく、使い魔だ」

「使い魔? 」

「魔術師の中には、特別な儀式を用いて猫やカラスを使役する者もいる」

使い魔は主人からから能力の一部を与えられ、主人と感覚を共有し、敵の情報を主人に伝えるという偵察の役割を果たす。


魔術師に仕えているという事から、カラスや猫(特に黒猫)は中世から忌み嫌われてきた。


「あいつの主人は賢者と呼ばれた伝説の魔女だ」

「コウに魔術を教えたのもその人? 」

「あぁ、だが主人と使い魔と言うには、壁の無い関係だった様に思える。親子の様にも見えたし、姉弟の様にも見えた。主従関係なんてなしにして、本当の家族の様だった。きっと2人とも幸せだったのだろう。だが、ある時賢者は魔女狩りで殺されたんだ」

「魔女狩りって、中世ヨーロッパであったと言う、あれですか? 」

「あぁ、だが魔女狩りは今も存在する。魔女の存在を恐れた人間が秘密裏に魔女を排除しているんだ。その魔女狩りによって、罪の無い魔女たちが何人も殺されてきた。真道の主人もその1人だ」

「そんな……酷い」

「真道はそれで主人を殺した人間を憎んだ。擬人化の魔術を覚え、人間になりすまして、主人を殺した人間を調べた。そしてその人間と、そいつが所属する魔女狩りを行う組織をみつけた。

だが、相手は何十人もの組織。たった1人で敵う相手ではない。しかし真道は、奴らから資金を騙し取り、武器を取り上げて戦力を削いだ。そのあとは酷いものだった。たった1人で敵のアジトに乗り込み、何十人もの人間、魔術師を相手に1人で全滅させた。その戦う姿はまさに鬼神だったそうな。噂はすぐに広まった。あいつは今、とても後悔している。魔術は人を傷つけるものではない。人を助ける事のできる便利なものなんだと、賢者に教えてもらった自分が、賢者に教えてもらった魔術で人殺しをしてしまった事をな」

「……そんなことが」

「あいつは身内がいない。たった1人の家族だった賢者が殺されてから、ずっと1人だ。だから、お前があいつを支えてやってくれないか? 」

「私が……! 」

「俺はあいつの主人には世話になっていた。だからあいつの事を助けてやりたいとは思うが、いつも気を使われてしまう。普通に生きていけるように、この学校に入学させてやったが、それ以外の事で頼ってきたことがないんだ。だが、お前なら真道も素直に頼ると思う。なんせ大事な賢者の石をお前に託したくらいだからな」




コウは靴箱でツバキのことを待っていた。

靴箱の中にツバキの靴があるということは、ツバキはまだ学校にいる。


しばらくすると、廊下から足音が響いてきた。

コウは音のする方向を見る。

ツバキが廊下の向こうから歩いてきていた。

「コウ……」


ツバキの顔は、なにか申し訳なさそうな、悲しそうな表情をしていた。

それを見てコウは直感的に確信した。

藤原先生から自分の過去を聞いたのだな、と。


「先生から聞いたんですね。僕の過去のこと……お師匠様のことを」

お師匠様というのは、コウの主人のことである。

「わかりましたよね? 僕が人殺しだって」

コウは、自分の過去を知ったらツバキは離れていくと思った。

しかし、ツバキはコウの予想を裏切った。

「そんなの関係ない。あなたの過去がどうだろうと、私はあなたの事を信じるわ」

ツバキを見る限り嘘をついているとは思えない。


「どうして、僕のことを信じられるんですか? 僕は人間じゃない。さらに人殺しですよ? 」

「あなたが、信じてくれたから」

「えっ⁉︎ 」

予想外の返答だった。


「私は一度、世界の終わりを見ている。その間際にあなたは、私にこの石を託してくれた」

ツバキはポケットから賢者の石を取り出した。

「今日だって、あなたは私に託してくれた。この石にどれだけの重みがあるのかはわからない。だけどコウにとってこれが、とても大事なものなんだということはわかる。だから私もあなたをあ信じることにしたの」

「ツバキさん……」

コウの表情から強張りがなくなったような気がした。


「この石は、お師匠様が作ったものです。賢者の石は、あらゆる錬金術士の憧れです。しかし誰も作るのに成功したことがありません。ですが、お師匠様は作るのに成功しました。もともとは1つだった賢者の石を加工して、2つのペンダントにしたものがこれなんです。この石は僕とお師匠様が家族だという証のようなものなんです」

「そんなに大切なものを……」


今でも目を閉じると、まるでその場にいるかのように鮮明に思い出せる。


コウに向かって笑いかける、見た目10代後半の女性。

それは、コウのたった1人の家族である。

『おはよう、コウ。朝ごはんにしよ? 』

『どうしたの? コウ』

『もうこんな難しい魔術を使えるようになったの? 頑張ったわねコウ』

『コウ、ずっと一緒よ』

『コウ……逃げてっ! 』


パッと目を開けた。

するとそこは現実だった。

目の前にはツバキがいる。


ツバキが話を続ける。

「ねぇ、これは私の予想なのだけど、この世界ももうすぐ終わってしまう。私が見てきた平行世界のように」

「……気づいていたのですね」

「だから、私たちでそれを止めましょ? あなたの家族が望んだ、平和な世界を私たちで成し遂げましょ? 」

「ツバキさん……でもどうやって? 」

世界を救うなんて、たった1人と1匹にできるような事ではない。


しかし、ツバキの目には確かに自信で満ちていた。

「ふふっ……1つだけ方法があるわ」

そう言ってツバキは悪戯っ子のような笑顔を浮かべた。

しかし、コウにはそれが頼もしく思えていた。

コウの過去を書いてると夢中になっちゃうんですよね。

よろしければコメントやレビュー、ブックマークなどしていただけると嬉しいです。

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