神の財産のステータス
今回も会話回です。
「1つだけ方法があるわ」
コウと藤原の目が見開かれる
「ツバキさん、その方法とは一体……」
ツバキは一呼吸置いてから話し始める。
「賢者の石を私に預けてくれないかしら? 」
コウが申し訳なさそうな表情をしている。
「ツバキさん、それは……」
「わかってる。昨日会ったばかりの私を信用してくれなんて、無理だと思う。だけど、コウは平行世界で私に賢者の石を託してくれた。私の事を信じられなくても、私の事を信じてくれたコウ自身を信じてほしい」
そう言って、ツバキはポケットから賢者を取り出した。
少しの間、考えた後にコウは決断した。
「わかりました。ツバキさんに賢者の石を預けます」
「いいの? 」
「はい、ツバキさんが嘘をついていないのはわかりました。それに、ツバキさんはなんだか……人として信用できます」
コウは首から賢者の石を外すと、ツバキに渡した。
「ありがとう。必ずこの石を守ってみせるわ」
ツバキは賢者の石を受け取ると、それを強く握りしめた。
「それで、具体的にどうやってそれを守るんだ? 」
「体育の時は、私が女子更衣室に隠しておきます」
「それだけか? 」
「それだけです」
コウも藤原も唖然としていた。
「コウは今日転校してきたばかりで、賢者の石を託せるほど信用できる人が学校内にいない事は相手も知っています。なので、私が預かっているという発想すらないはずです。さらに、相手が男だという事は昨日確認しています。鍵を開ける事ができるとはいえ、女子更衣室に長時間忍び込むのは、精神的に難しいでしょう」
「確かに」
「そうですね。それが1番効果的だと思います」
ふと、藤原が時計を確認する。
時計の針が8時53分を指している。
「お前ら、話はここまでだ。もうすぐ授業が始まる。早く行け」
「「はい」」
コウとツバキは急いで教室に戻って行った。
時刻は13時15分。
体育の授業が終わり、今はちょうど昼休みだ。
体育の授業の間、ツバキは賢者の石を女子更衣室に隠し、無事に盗まれずに済んだ。
学校には食堂があり、コウは唐揚定食とうどんを注文して教室に戻ってきた。
コウが昼食の盛られたお盆を持って教室に入ると、ある女子の3人組がコウに近づいてきた。
その3人のうちの1人がコウに話しかけてくる。
「真道くん、その……良かったら私たちと一緒にお昼ご飯食べない? 」
「えっ⁉︎ 」
コウは今日転校してきたばかりで、誰かと昼食をとる約束などしていない。
ふと、教室を見渡してみると、皆、各々友人たちと談笑しながら食事を楽しんでいる。
だが、1人だけ誰とも話さずにいる女子生徒がいた。
日本人離れした目鼻立。
長く伸ばされた銀色の髪。
その白い肌も相俟って、天使のような印象すら受ける。
ツバキは窓際の席で、外を眺めながらお弁当を食べていた。
ツバキほどの美少女ともなれば、ただ食事をとるだけでも気品が感じられる。
コウは一瞬、その姿に見とれてしまっていた。
「真道くん? 」
「あぁ、ごめんなさい。実はもう昼食の約束をしているんです」
嘘だ。コウは誰とも昼食をとる約束をしていない。
しかし女子生徒はコウの視線を辿って、その先にツバキがいる事に気がついた。
「あぁ、御崎川さんと……真道くんって、御崎川さんと仲良いよね? 知り合いだったの? 」
「えぇ、まあ、そんな感じです」
知り合いと言っても、昨日知り合ったばかりだ。ツバキはもともとコウの事を知っていたみたいだが。
「せっかく誘ってくれたのにごめんなさい」
「ううん、気にしないで。御崎川さんと仲良くね」
なんだか、変な誤解をされているような気はしたが、コウは気にしなかった。
コウはツバキの隣の席に座る。
「ツバキさん、お隣いいですか? 」
「もう座ってるじゃない」
ツバキがにこりと笑う。
こうして見ると、対人恐怖症だなんてとても思えないだろう。
そしてコウも昼食に手をつけ始める。
「そういえば、賢者の石を守ってくれてありがとうございました。おかげで敵の手に渡らずにすみました」
「コウが私の事を信じてくれたから上手くいったのよ。それよりも、昨日のあいつが誰なのかわかった? 」
「いいえ……ただ、このクラスにはいません」
「どうしてわかるの? あいつはフードで顔を隠してたのに」
「最も基本的な魔術の中に〈魔術痕の探知〉というものがあるんです。これは魔術が使用された痕跡を見つけたり、道具の使用用途やその道具に付与されている魔術を知る事ができたり、人に使えばその人の魔術の才能を知る事ができたりします。応用すれば写真に写っている物や人の情報、写真が撮られた場所を特定することもできます」
「便利な魔術ね。それを使ってこのクラスには昨日の奴がいないって調べたのね」
「そういう事です」
ツバキは魔術に関して興味深々のようだった。
もともと好奇心の強い性格のようだ。
魔術という今まで知らなかった存在に触れて、その好奇心は今、とどまる事を知らない。
「ねぇ、その〈魔術痕の探知〉ってのを私に使ったら、どんな事がわかるの? 」
少し考えた後に、実際に使ってみた方が早いかとコウは考えた。
「〈魔術痕の探知〉」
次の瞬間、コウの目にはツバキの魔術の才能が全て見えた。
御崎川 翼輝
魂の価値〈人間〉属性 〈真実〉
性別〈女〉年齢 〈17歳〉
HP 150 MP 100
STR 120 DEX 140
INT 300
スキル
照魔鏡 LV5
瞬間完全記憶 LV5
武道の心得 LV3
見切り LV4
魔術の基礎知識 LV1
「……なんだこれは⁉︎ 」
「どうかしたの? 」
「ツバキさんのINTが300あります」
「INTって、RPGで言うところの賢さよね? 30って高いの? 」
「平均で100くらいです。INTは知能指数と同じ数値です」
「最低でも200はあるって言われてたから、大体予想できてたわ」
「しかも、それだけの知能を持っていながら、魂の価値は人間というのが恐ろしいです」
「魂の価値? 」
生き物の魂には、それぞれ価値が定められている。神>神の財産>魔術師>使い魔>人間>その他の動植物 の順に価値が高くなっている。コウはツバキを神の財産と呼んだが、〈魔術痕の感知〉で見たところ人間と表示されていた。つまり正確には神の財産になる素質を持っていると言うだけで、厳密にはまだ神の財産にはなっていない。しかし転生したら間違いなく知の神の財産になるのは間違いない。
「まだ人間ということは、伸び幅が存在するという事です。転生して本当に神の財産になったら、知能指数が500は超えるでしょう」
「500ッ!」
さすがに500はツバキも予想外だったみたいだ。
異常なのはINTだけではない。ツバキが身につけているスキルもだ。
スキルにはレベルが割り振られる。
LV5が限界で、LV5はそのスキルの境地に達しているという事だ。
既にツバキは〈照魔鏡〉と〈瞬間完全記憶〉がLV5に達している。
〈照魔鏡〉というのは、すべての真実や本性を暴くスキルである。
〈瞬間完全記憶〉は見たり聞いたりしたものを寸分違わず記憶し忘れない能力だ。
もともとツバキは物を覚えたり、推理したりするのが得意だ。
知の神の財産の才能を持っているのならなおさら納得だ。
〈武道の心得〉というのはその名の通り、格闘術の知識や経験の事だ。
〈見切り〉は周囲にいる生き物の気配や動作を直感的に感知する事ができるスキルだ。
これを上手く使えば、死角からの攻撃も躱す事ができる。
〈魔術の基礎知識〉は基本的な魔術に関する知識を得ているという事だ。
魔術の才能を持つものは、生まれた瞬間からこのスキルを身につけている。
「コウは他にどんな魔術が使えるの? 」
「〈魔術痕の探知〉以外に〈物質の複製〉〈催眠術〉〈擬人化〉が使えます。どれも支援向きで、戦闘にはあまり向きませんけどね」
物質の複製は1度見たもの、触れたものと全く同じ物を作り出すことができる魔術だ。
その物質に付与されている魔術も一緒に複製するためには、見ただけでは複製できず、触れる必要がある。
魔術師は物を〈魔術痕の探知〉で見ただけでその物質の組成を把握できるが、魔術が付与されているものは見るだけでは把握ができないため、実際に手で触れて詳しく把握する必要があるのだ。
「〈擬人化〉は昨日話してくれたやつね。〈催眠術〉はどんな魔術なの? 」
「〈催眠術〉を使っている最中に、僕の目を見た生き物の精神にアクセスする魔術です」
「昨日、貴方にかけられた気がするわ」
昨日、交差点の前に猫の姿で信号待ちをしているコウをツバキが抱き抱えた後、コウと目を合わせたツバキは突然気絶してしまったのだ。
「あれは賢者の石を狙っている奴らが近くにいたので、ツバキさんを巻き込まないようにと思ってしたことです。悪気はありません」
「まぁ、それはいいとして。コウは魔術を自分で調べて覚えたの? それとも、誰かに教えてもらったとか? 」
「教えてもらいました」
「教えてくれた人は、コウの親御さん? 」
「親……の様な人です」
「様な人? 」
「親の様な……姉の様な……妹の様な。よくわからない人でした。ただ、とても優しくて、素晴らしい魔術師でした」
「なにそれ」
ツバキがクスクスと笑っていた。
やっとヒロインにして主人公でもある、ツバキの容姿が描写されました。
これまでツバキ視点だったもので、ツバキの容姿を客観的に描写する機会がなかったもので。
銀髪美少女ですよ! ヨーロッパ系ですよ! 名前はツバキだが……
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