転校生ファミリア
ちょびっとだけ、学園ものっぽい話になります。
なんで連絡先聞かなかったのだろう。
昨日、コウと別れてから電話番号やメールアドレスを聞いていないことを思い出し、ツバキはずっと後悔していた。
せっかく会えたのにチャンスを不意にしてしまった。
教室で担任が話していても、全く頭に入ってこない。
今、ツバキの頭の中にはコウのことしかなかった。
「それと、今日からこのクラスに新しい仲間が増える」
担任の藤原がそう言うと、クラス全体がざわつき始めた。
「もしかして転校生? 」
「男子? 女子? 」
「可愛い女の子だったらいいな〜」
しかし、ツバキは転校生の話など興味がなく、ずっとコウのことばかり考えていた。
(転校生なんてどうでもいい。コウに会いたい)
「よし、いいぞ。入って来い」
藤原がそう告げると、教室の戸がガラガラと開いた。
廊下からこの学校の制服を纏った1人の青年が入ってくる。
「あいつが転校生……」
「ちぇっ、男子かよ」
「やばい、イケメン」
青年が藤原の隣に立った。
「転校生の真道くんだ。みんな、仲良くするように」
「真道 功です。宜しくお願いします」
ツバキはコウの姿を見た瞬間、心の中で先ほどの「転校生なんてどうでもいい」という発言を撤回した。
(コウが転校生……!)
「ちょうど、御崎川の隣が空いているから、そこに座れ」
藤原に指示されたコウがツバキの方向へと歩いてくる。
そしてツバキの隣の席に着くと。
「昨日ぶりですね、ツバキさん。これから宜しくお願いします」
そう言ってツバキに握手を求める。
「よ、宜しく……」
ツバキはコウと握手をした。
ホームルームが終わった後。
「ツバキさん、昨日の怪我は大丈夫ですか? まだ痛いところとか残ってませんか? 」
「そういえば、怪我してたんだった。痛みも不具合も特にないから、忘れかけてたわ」
2人が会話をしていると、周囲の生徒がチラチラと2人の方を見ていた。
「御崎川さんが普通に話してる! 」
「あの人が藤原先生以外と喋ってるの初めて見たかも」
「あの真道ってやつ、何者だ? 」
ツバキは極度の対人恐怖症で、クラスの誰とも喋らなかったため、周囲の人からは普通に話しているのが珍しく思えたのだ。
更に、ツバキはかなりの美少女で、密かに彼女のことを狙っている者も多い。
ツバキと普通に会話をしているコウは転校初日で多くの敵を作ってしまった。
「ツバキさん、かなり人気者みたいですね」
「えっ⁉︎ 」
予想だにしていないことを言われ、変な声が出てしまった。
「どうしてそう思うの? 」
「周りの人の表情やボディランゲージを見ればわかりますよ。 ほら、あの人は5秒に1回ツバキさんの事を横目で見てる。あそこの人は、僕と目があった時、悔しそうに唇を噛み締めて目を逸らしました。あっちの人なんて、僕とツバキさんが握手した瞬間、一瞬ですが眉間に皺がよって唇が強張りました」
自分が人気者だなんて考えたこともなかった。
それに、人気者だとしても、あまり嬉しくはなかった。
「もしかしてそれって、微表情を読んでるの? 」
「はい、そうですよ。微表情の事を知ってるんですね」
「少し前に、あなたに教えてもらったのよ」
ツバキは少し得意げな顔をした。
ツバキは平行世界でコウと知り合った時から、彼が表情やボディランゲージを読むのに長けていたことは知っていた。
だが、それでもコウの観察力には驚かされてしまう。
2人が話をしていると、1人の男が話しかけてくる。
「御崎川が誰かと普通に話してるなんて珍しいな。もしかして知り合いだったのか? 」
担任の藤原だった。
「何か用ですか? 先生」
「少し話があるんだ。来てくれないか? 」
コウは少し考えた後。
「ツバキさんも一緒に聞いてもらっていいですか? 」
「だが、御崎川は……」
「彼女は、ガレットディーラーです」
藤原の両目が大きく見開かれる。
コウ、ツバキ、藤原の3人は準備室に来ていた。
普段あまり使われていないのか、埃っぽい。
「先生も魔術のことを知ってるんですね」
「あぁ、少しな」
「それで、話というのは? 」
「真道。昨日、鉄を操る魔術師に襲われたと言っていたな。実は、この学校の生徒の中にその魔術師がいるかもしれないんだ」
「そんなっ!、そいつの目星はついてるんですか? 」
「いや、残念だが、2年の生徒だということしかわからない」
ここで今まで黙って聞いていたツバキが質問をする。
「コウ、あいつは何でコウを襲ってきたの? 」
「多分、僕が持っている賢者の石を狙っているんだと思います」
「賢者の石? 」
「これのことです」
そう言うとコウは首に下げている青い勾玉を見せた。
普段は制服の内側に隠しているようだ
「どうしてあいつは、それを欲しがってるの? 」
「賢者の石は、使用者の魔力を無限に増幅させ、あらゆる魔術を強化することができます。あいつは、その力が欲しい。あるいはその力を欲しがっている人物に協力しているのだと思います」
ツバキはコウの話を聞いて何かを考え込んでいるようだった。
「まぁ、充分に警戒していたら大丈夫だろう」
「そうですね」
コウと藤原はかなり楽観的に考えていた。
しかし、ツバキだけは違っていた。
「待って、それだと間違いなく今日中に賢者の石は盗まれるわ」
「どういう意味ですか? 」
コウの表情が険しくなる。
「まず、今日は授業で体育がある。体操服だと賢者の石を付けているのがバレる」
元々この学校の拘束でペンダントを付けるのは認められていない。襟の付いている制服だからバレないだけで、他の教師に見られたら間違いなく外される。
かと言って、体操服のポケットに入れていては、運動中に落としてしまう可能性がある。
「なら、体育のときは教室に置いておいたらどうだ? 体育の時は教室に鍵をかけることになっているから、誰も手を出せない」
「忘れたんですか? 相手は鉄を精製して操る事ができるんですよ? それも、鎖のように複雑な形状のものも一瞬で作って見せた。鍵なんて簡単に作れるはずです。そして恐らく、コウが賢者の石を教室に置いて体育に行くことも相手は予測している。あとはトイレだとか適当に理由を作り、授業を抜け出して、教室に忍び込んで盗むだけ」
「そうでした。 敵の使う魔術を忘れていました。ですが、これだと本当になす術がなくなってしまいました」
「そうだな」
だが、ツバキは疑問に思っていたことがあった。
「賢者の石を先生に預けておくのでは駄目なの? 」
コウはその質問に何も答えない。
何か言いにくそうだった。
そんなコウの代わりに藤原が答える。
「こいつが他人に賢者の石を任せる筈がない。もし、こいつが誰かに賢者の石を渡すとしたら、よっぽどそいつの事を信用している証だ」
それを聞いてコウは申し訳なさそうにしている。
「ごめんなさい。先生のことを信用していないわけじゃないんです」
「わかっている。だが、本当に解決方法が見つからないな」
2人とも途方に暮れているようだった。
しかし、ツバキだけは違っていた。
「1つだけ方法があるわ」
転校イベントって、学園もの書いてるって感じがして、すごくテンション上がりました。
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