猫と人間、どっちの話してるのかわかりづらい
コウとツバキはいつものように教室で昼食をとっていた。
そこにマリが加わり、3人になる。
「コウって魔術いっぱい知ってるわよね? 」
「はい、他の魔術師と比べたら使える魔術は多いと思います」
ツバキはいつもの手作り弁当を食べ、コウはうどん定食。
マリがあんぱんをかじりながら会話に混じる。
「なのにコウくんって、4つしか魔術使ってるところ見ないけど」
「よね。どうして使わないの? 」
とツバキ。
コウは少々難しい顔をした後に
「理由は2つあります。1つは僕が使うのを渋っているのと、もう1つは使いたくても使えないんです」
「と言うと? 」
コウは残りのうどんの汁をずずっと飲み干し、「はふぅ」とため息を吐いた後に答えた。
「まず、僕がいつも使っている4つは自分の力のみで使えるようになった魔術です。ですが、他の魔術はお師匠様に教えてもらいました。僕はお師匠様に教えてもらった魔術を殺人の道具に使うのが怖いんです」
ツバキとマリがうんうんと相槌をうつ。
「そして、その中でも特に強力な魔術が2つあります。それが〈強欲な宝玉〉と〈完全支配〉です。この2つは強力であると同時に危険でもあります。なので生前、お師匠様は僕に約束させました。『この2つは私が許可した時以外は使ってはいけない』と」
そこでマリが納得したように言う。
「なるほど、使い魔の契約において結ばれた約束は絶対。そしてその約束が解かれる前にコウくんのお師匠様は……」
「そういう事です」
ツバキが弁当を食べ終え、蓋を閉めて袋に入れ、鞄にしまった。
「使い魔の契約について詳しく教えてもらえない? 」
「使い魔の契約は、使い魔は生まれつき方法を知っていますが、魔術師は方法を知っている人は少ないです。と言っても、契約書に両者がサインするだけで良いんですけどね。あとは契約中は主従間で感覚が共有されて、片方が見たものをもう片方も見る事ができたりします。さらに主人側が使い魔側に能力の一部を分け与えることもできます」
「ふーん」
その時、ツバキの口角がピクッと動いたのを2人は見逃さなかった。
「ツバキちゃん、今悪そうな顔したー」
しかしツバキは「そんな顔してないわよ」と両手を振る。
「それよりもマリ、ドール教団はどうして国に対して脅迫できる立場にあるの? ドール教団は魔術師がいるとは言え、規模は小さいのでしょ? 」
マリは咀嚼していたあんぱんをスムージーで流し込み
「確かにドール教団ってあまり大きな規模じゃないけど、戦略級神々の陶芸品を持ってるんだよ」
その言葉を聞き、コウは納得する。
「なるほど、それなら国が押されるのも無理は無いですね。戦略級の名を持つ存在は、たった1つで国すらも左右する事ができる……ちなみに、その神々の陶芸品とは? 」
マリはしばらく間をおいた後
「ルアニーナ・グリモワール・ハート」
その名前を聞いて今度はため息を漏らすコウ。
ツバキは話に付いていけず、疑問を口に出す。
「それって、どういうものなの? 」
「〈悪魔の心臓〉の通り名を持つ魔道書です。魔術の始祖、オーネット・K・ウェールスィア氏によって執筆されたものです。あらゆる魔術の原点が記され、魔力次第では戦略級の魔術を詠唱する事も可能です。もとはお師匠様が所持していた筈なのですが……ドール教団の手に渡っていたのですか」
コウとマリの話を聞いたツバキが「なるほど」と呟き
「その魔道書を盗む事ができれば、この戦いにドール教団は勝利できない。つまり人類は滅亡しないって事ね。ドール教団の内部に進入する方法ってないかしら? 」
「んー、あるにはあるんだけどねー。ドール教団の幹部に拠点内の鍵を管理している人がいるんだよ」
そう言ってマリは1枚の写真を2人に見せた。
その写真には30歳くらいの男が写っていた。
「沢城 亮太。この人が拠点内の鍵を全て管理してる。うまくこの人から鍵を盗む事が出来れば良いんだけど、鍵の管理はきっちりしてて、盗んでもすぐにバレる」
ツバキはその写真を見ながら
「ねぇ、この人のプライベートでの人間関係を詳しく調べておいてもらえないかしら? 」
「ほいほーい」
マリは右手を額の前に持ってきて敬礼のポーズを取る。
3人とも食事を終え、談笑していると近くのせきで話をしている女子生徒の会話が耳に入った。
「この前近くの猫カフェ行ったらね、すっごい可愛い猫ちゃんいたんだよ! 」
「へぇー、どの子どの子? 」
1人がスマートフォンで画像を映し出す。
そこには首に勾玉を下げた黒い毛のバーミーズが写っていた。
「きゃー! 可愛い! 」
「コウって名前なんだって」
「真道くんと同じ名前だねー」
「今日も行こうと思ってるから、みんなも行かない? 」
「行く行くー」
その会話を聞いていたマリがニヤニヤと笑いながらコウの耳元で
「コウくん人気者だね」
ツバキに関してはクスクスと笑いながら、スマートフォンでSNSを開き、ある呟きを表示させた。
「あの子が呟いたコウの猫カフェでの画像が既に100件以上いいねを押されてるわよ? 」
コウは机にグデーンとうつ伏せ、
「はぁ、今日マジックキャットカフェに出勤するのが憂鬱だなー」
その時、2人の男子生徒がコウに話しかけた。
「なぁコウ、今日の放課後にカラオケ行かないか? 」
高木と丹下だった。
2人とはトランプをして以来、頻繁に話をするようになった。
「ごめんなさい、今日はバイトがあるのでまた別の日に誘ってください」
「そうか……じゃあまた今度な」
そう言って2人は立ち去った。
そのまま高木と丹下はコウたちから少し離れた場所で
「なぁ、あいつがやってるアルバイトってなんだと思う? 」
「さぁ、あいつのプライベートってよく知らないからな……遊びに誘ってもほとんど断られるし」
そして2人は互いを見合わせ
「「ちょっと探ってみるか」」
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放課後、コウたち3人はマジックキャットカフェに向かっていた。
歩くのが早いコウとツバキに必死について行こうとするマリ。
「コウ、気づいてる? 」
「はい、2人いますね」
「なにこれデジャヴ」
ツバキはポケットから手鏡を取り出し、背後を確認する。
そこには2人の男子生徒が写っていた。
「高木と丹下ね、あれで尾行してるつもりなのかしら」
少しペースを上げてやっと追いついたマリは
「普通はそんな簡単に尾行に気付いたりしないから」
ツバキとコウはため息を吐いた。
「どうする? あの2人」
「適当に撒いておきましょう」
そうして3人は路地裏に入り、早足で駆け抜けて次の角を曲がる。
そのまま速度を落とさず、次の角をもう一度曲がり、元の通りに戻ってきた。
「これで2人は私たちを見失ったでしょう」
ツバキの目論見通り高木と丹下は3人を見失っていた。
それにより2人は焦燥に駆られる。
「おい、見失ってぞ! 」
「あいつらどこ行った! 」
周囲を見渡すが3人の姿はない。
どうしたものかと悩んでいると、2人は同じ学校の女子生徒に話しかけられた。
「あれ? 高木と丹下じゃん。どうしたの? 」
それは2人のクラスメイトだった。
「村上に渡辺か。この辺りでコウを見なかったか? 」
「真道くん? 見てないけど」
その答えを聞いた2人は明らかに落胆していた。
「ちくしょー! あいつらどこ行ったんだよー! 」
「なにがあったか知らないけど、暇なら今からそこの猫カフェ一緒に行かない? 」
高木と丹下は顔を見合わせる。
そして互いに「うーん、そうだなー」と言い合い
「まあ、どうせ暇だしな」
と同意した。
4人はマジックキャットカフェに到着する。
店の戸を開けると店内から「いらっしゃいませ」という景気の良い声が聞こえた。
4人は手早く料金のコースを決め、飲み物を注文した。
すると村上が
「今日はコウいますか? 」
と店員に尋ねる。
「はい、いますよ」
村上と渡辺の2人は見てわかるほどに喜ぶ。
2人の会話を聞いていた丹下が口を挟む。
「コウってもしかして……」
「いや、真道くんじゃないから。ここにいる猫ちゃんの名前だよ」
「へー、その猫かわいいのか? 」
その質問に対して愚問とばかりに
「もう、すっごく可愛いんだよ。毛並みが綺麗で、目なんて宝石みたい」
そうして4人はフロアに入った。
そこで見覚えのある人物を見かける。
「あれ、ツバキちゃんとマリちゃんだ」
ツバキとマリは猫を愛でるわけでもなく、部屋の端で猫たちを眺めていた。
高木が「お前らさっきまでコウと一緒にいたよな? あいつどこ行ったんだ? 」と問いかける。
しかしツバキはアタフタするだけで答えない。
それを見たマリが1匹の黒い猫の元に行き、マリがツバキを指差したかと思うと、その黒猫はツバキの元へと寄ってきた。
ツバキはその黒猫とアイコンタクトを取る。
すると、先ほどまで挙動不審だったツバキは冷静さを取り戻し
「コウならここの裏方でアルバイトしてるわ。私たちはコウについて来たついでに猫を眺めてるの」
村上と渡辺がツバキの足元にいる黒猫に気づく。
「コウだー! 」
2人はその場にしゃがみ、手を叩いて「おいでー」と呼びかける。
「お前らが言ってたコウってこいつのこと? 」
「そうだよー。今日も勾玉が似合ってる」
そう言って2人はコウを撫で回した。
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ツバキとマリは、相変わらず助けを求めるような視線を送ってくるコウを、少し離れた場所から眺めながら笑っていた。
そして高木がコウを撫でながら
「コウってさぁ、コウに似てるよなー」
その瞬間、コウが少しビクッとしたような気がした。
そんな事は気にもせず丹下は
「何言ってるんだお前」
そしてそのやり取りを見ていたマリがプププと笑う。
「天然ぽいこと言いながら核心を突いてるね」
それを聞いたツバキが「まぁ、わからなくもないけど」と呟く。
その時のツバキの目はコウに向けられ、頬と口元が緩みきっていた。
そんなツバキの表情を見たマリがニヤニヤと笑いながら
「ツバキちゃんどうしたの? なんだかすごくいやらしい目でコウくんを見てるけど」
「ちょ、そんな目してないわよ! 」
ツバキが慌てて両手を左右に振って否定する。
その時、店の入り口で「いらっしゃいませ」という声が聞こえた。
誰か新しい客が入店したのだろう。
その客は「今日はコウいますか? 」と店員に尋ねる。
「はぁ、今日もコウは忙しそうね」
ツバキは少し寂しそうに呟いた。




