表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の財産とファミリア〜あなたの家族でよかった〜  作者: 飾神 魅影
序章:日常を求めて
2/31

今日は昨日の何ヶ月前?

今回は魔術っぽいことやります。

 ツバキが目を覚ますと、見慣れた天井が目に入った。

 そこは自分の部屋だ。


 さっきまでのは夢だったのだろうか。だとしたら、ツバキにとって目覚めの悪い朝だ。

 コウが消えていなくなる夢。それは今日一日を過ごす上でツバキを憂鬱にさせるには十分なものだった。

 

 目覚まし時計は6時40分を指している。

 だが、少し変だ。


 この目覚まし時計は先月壊れてしまったから新しいものに買い替えたはず。

 なぜ古い時計がまだ枕元に置いてあり、そして正常に動いているのか。


(水野が直してくれたのかしら)


 水野とは、ツバキが住むこの屋敷に仕える専属の執事である。

 ツバキの亡くなった父が世界的な外資系企業を営んでいたため、生活水準はそこらのサラリーマンとは三つくらい桁が違うだろう。

 専属のメイドも雇っているくらいだ。


 ひとまず窓を開けて換気をすることにした。

 悪い夢を見たせいで寝汗がひどい。そして何より息苦しかった。

 新鮮な空気が吸いたい気分だ。


 そしてツバキは窓を開けて気がつく。

 外の木に実っている葉が緑色なことに。


(今は秋のはず、昨日まで辺りの木は全て紅葉していたのに、どうしてこんなにも青々と葉がついているの? )


 ツバキは今日の日付をスマートフォンで確認する。

 5月7日。スマートフォンの待受にはそう記されていた。


(おかしい。私の記憶が正しければ今日は9月22日。スマホの故障? )


 ツバキは咄嗟にカレンダーへと目をやる。

 カレンダーは5月のページのままだ。


「どうして⁉ 」


 その時部屋の外から声が聞こえる。

 

「ツバキ? 起きてる? 」


 ツバキの母の声だ。

「はいお母様」

「私はもう仕事に行くから、ツバキも学校に遅れないようにね」


 そのままツバキの母は立ち去ったようで、足音が遠ざかるのが聞こえた。

 

(とりあえず制服に着替えよう)


 そう思い立ち、クローゼットを開く。

 クローゼットの中は春夏ものの服ばかりだ。


 どういうことかわからないが、今は5月らしい。

 だとしたら、昨日までツバキが経験していた出来事は全て夢だったのだろうか。


 夢といえば、今朝見た悪夢だ。

 あれこそ夢であって良かったと思う。

 コウが消えてしまうなんて、考えただけでツバキは胸が締め付けられる思いだった。


 夢にしては鮮明に目に焼き付いているあの光景。

 

(忘れよう、あれは夢なんだ)


 制服を着るためにツバキは上の服を脱ぐ。

 その時、自分の胸元に違和感があった。


 恐る恐る見ると、自分の首にはペンダントが下げられていて、胸元には青い勾玉が怪しくきらめいていた。


 忘れるはずもない。夢の中でコウが消える直前、ツバキに渡したペンダントだ。

 そして全てを悟った。

「夢じゃない‼ 」


 ドール教団、魔術師、戦争、世界の消滅

 今朝見た悪夢が現実味を帯びて鮮明に呼び覚まされる。


「そんな……コウは本当に消えてしまったの⁉ 」


 だが、一つ引っ掛かる事がある。

 コウは世界ごと消滅すると言っていた。なら、いま自分がいるこの世界は一体何なのだろうか。

 

 ツバキは一つの仮説を立てた。

「時が戻った? 」


 有り得ないことかも知れない。だが、ツバキは既に超常の現象を経験している。

 今はこの説を信じる他なかった。


 それに、時が戻っているならもう一度コウに会えるかもしれない。

 ツバキはわずかだが希望を見出だした。


 その時、再びドアの向こうから声が聞こえる。

「お嬢様、朝食の用意ができました」


 執事の水野の声だ。


「ええ、すぐ行くわ」


 ツバキはすぐに制服に着替える。

 ヨーロッパ系の母の遺伝子を強く受け継いだ銀色の長い髪を結いあげ、部屋を出た。


 下の階ではテーブルにパンケーキが用意されている。

 ブルーベリーやイチゴ、葡萄など、たくさんのフルーツが盛りつけられている。

 エッグスタンドにゆで卵が置かれており、グラスに果汁100%のオレンジジュース。


 今日はあまり食欲がないが、せっかく用意してくれたのだ。ツバキは椅子に座り、朝食を食べはじめる。


 テレビが点いており、ニュースが流れていた。

 画面の右上には今日の天気が書いてある、どうやら快晴らしい。

 ニュースでキャスターが殺人事件に関する事を話していた。


『昨日、雲川市で女性の腹部を包丁で刺し、殺害した容疑で逮捕された胸焼 順次容疑者が警察署内で死亡しました。警察の証言によると、取り調べの最中に突然胸部から大量の血を出し、死亡したそうです。検視の結果、まるで巨大な刃物で刺されたかの様な傷だと発表しています。石山容疑者は取り調べの際に「俺は殺していない。気がついたら目の前に女の人が倒れていた。俺は操られていたんだ」と証言しています。』

『いやー怖いですね。これで何件目でしたっけ? 今月に入って十件以上、殺人容疑で逮捕された容疑者が取り調べ中に死亡してますよ。しかもみんな口を揃えて「俺は知らない」「操られていた」って言ってますよ? 』

『事件の真相は全くわからないままですね』

『さて、次のニュースです。友人とふざけ合って家を燃やした疑いで今朝、不知火 悠馬容疑者と弥弥 亞炉執容疑者が逮捕されました。不知火容疑者は取り調べの際に……」』


 ツバキはニュースの内容を聞き流しながら朝食を口に運んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 学校への送り迎えも水野が車を出してくれる。

 リムジンもあるのだが、ツバキが登下校で目立ちたくないと言い、普通の車で送ってもらうようにしている。

 

 ツバキが通っている高校の門の近くで下ろしてもらう。

 

 教室に向かい、自分の席へと座ろうとするが、一瞬自分の席がどこかわからなかった。

 当然だ、今は5月だが昨日までのツバキの記憶は9月だ。

 その期間に席替えくらいはあってもおかしくない。


(確か5月の時点では出席番号順だったはず。ということは……)


 ツバキは自分が窓側の1番後ろの席だった事を思い出す。


 (そういえば、その時コウと隣の席だった)


 だが、ツバキの席の隣には机自体が存在しなかった。

(あ……コウは途中で転校してきたから今はまだコウはいないんだった……)


 時間が戻ってるならコウにもう一度会えるなんていう希望が、一瞬で絶望へと変わった。

 コウに会えるのはまだ先なのだ。

 その絶望はやがて、もう2度と会えないかもしれないという疑念へと変わる。


 ツバキは席に座り、リュックを下ろし机の横にかける。


 ツバキには教室で話せる友達がコウ以外いなかった。

 そのコウがいなくなった今、ツバキは孤独だった。

 

 ホームルームが始まるまであと20分ほどある。

 話す相手がいないとこの20分はとても長く感じられる。


 スマートフォンでもいじって時間を潰そうかとも考えたが、すぐに上の空になってしまう。

 やがて周りのクラスメイト達の声が気になりはじめた。


 時々ちらちらとこちらを見ている者がいる。

 ヒソヒソという話し声やクスクスというせせら笑いがツバキを不安にさせる。

 そこでツバキは自分がマスクをつけていない事を思い出す。


 急いでツバキはリュックからマスクを取りだし、紐を耳にかけ口や鼻を隠した。

 すると不思議なことに少しだけ周りの声が気にならなくなる。


 辺りをキョロキョロと見回していると、不意にクラスメイトと目が会った。

(しまった‼ )


 咄嗟に目を逸らす。


 そう、ツバキは対人恐怖症なのである。

 人と関わるのが極端に苦手で、人と目を合わすことも、人に自分の顔を見られるのも怖いのである。そのため学校で友達を作れないでいた。


 唯一、コウにだけは心を開く事ができた。

 なぜかコウは他の“人間ヒト”たちとは違うような気がしたのだ。


(コウに会いたい……! )


 コウにあって、いつもみたいに見たテレビの話をして笑い会いたい。コウの柔らかい髪をワシャワシャと撫でて困ってる顔を眺めたい。


(すぐ会えるって言ってたのに、コウの嘘つき……)



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 今日最後の授業が終わった時、ツバキは職員室に呼び出されていた。


「どうした? 御崎川。今日は授業中ずっとボーッとして」


 ツバキに問い掛けているのは、清潔感のあるパリッとした白いワイシャツを着た三十代くらいの男性。ツバキの担任の藤原だった。

 どうやらボーッとしていたことを気付かれていたようだ。

 コウの事が頭からはなれず、授業中もずっと上の空だった。


「いえ、得に何も」


 担任の藤原はツバキが家族以外でまともに会話ができる数少ない一人だった。


「まぁ、成績はトップだから文句は言えんが、何か悩みがあったら何でも言えよ」


 ツバキは少し考えた後、ある質問をぶつける。

「先生、明日の国語の授業で漢文の抜き打ちテストがありますよね? 」

「!……誰からそれを」

「一問目から五問目は『竹取物語』で返り点の問題。六問目から十問目は『塞翁が馬』で訳の問題だったと思うんですけど」

「確かにその予定だったが、どうしてそのことを知っている? 俺はまだそのテストをWordに打ち込んですらいないんだぞ。超能力で俺の頭の中でも見たっていうのか? 」


 藤原は冗談っぽく「はははっ」と笑ってはいるが、額から汗が流れている。

「私は一度見たものや聞いたものは忘れません。一度読んだ本も、一度受けたテストの実施日もテスト内容も」

「まるで未来からタイムスリップしてきたみたいな言いぶりだな」


 冗談のつもりだろうが核心に迫る藤原の軽口を、ツバキは無視し

「だけど、明日もっと大事な事が起こるはずなんです。それが何なのか、どういう内容なのか思い出せないんです! 私にとって、人生ががらりと変わるようなとても大事な事の筈なのに‼ 」


 ツバキの言葉には危機迫るものがあった。

 言葉に力が入り過ぎて、周囲の教員が一瞬ビクッとなる。

 言っていることは支離滅裂だが、嘘をついたり人を馬鹿にしようとしているようには見えない。藤原はそう感じ取り、ツバキに告げた。


「落ち着け! 今のお前は冷静な判断ができる状態じゃない。考えが整理できていないのに、何か行動をしなければと焦っている。何があったのかは知らないが、一旦家に帰ってゆっくり休め。その後、冷静に考えれるようになってから行動するんだ。わかったか? 」


 藤原の諭すような言葉に少しだけ冷静さを取り戻す。

(よく考えたら私は冷静じゃなかった)


 「すみません、今日はもう帰ります」

 ツバキは振り返り、トボトボと職員室を出ようとする。

 

 職員室の入口付近で藤原に呼び止められる。

「御崎川! 」


 ツバキは顔だけで振り返る。


「俺はお前の味方だからな」


 ツバキは無言でお辞儀をし、職員室を立ち去った。


 藤原はツバキがいなくなったのを確認するとスマートフォンで電話をかけ

「あぁ、俺だ。神の財産ガレットディーラーを見つけた。……世界の終焉あれを見て、未来から来たに違いない。石も持ってるだろう。……名前は御崎川 ツバキだ」


 そうして藤原は電話を切った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ツバキは街を歩いていた。

 いつもなら水野に迎えに来てもらうところだが、一人になりたかったため歩いて帰っていた。


「はぁ、コウに会いたい……」

 今日何度目かわからないため息をつく。


 ツバキがトボトボと歩いていると胸の辺りで違和感を覚える。

 

「なに⁉ 」


 トクン……!

 

 胸の辺りで何かが跳ねたような感覚。


 ツバキはその違和感の正体を取り出す。


 それは青い勾玉のペンダント。


(そういえば、今朝付けたまま来ちゃったんだった)

 

 ふと、横断歩道の前でちょこんと座っている猫が目に入った。

 黄金色の目をした綺麗な黒猫である。


(なんだろう、この子。もしかして信号待ちしてるのかしら)

 信号待ちする猫なんてツバキは初めて見る。


 その時、ツバキは猫が首に付けているものが気になった。


 青い勾玉。

 猫はまるで首輪のように勾玉のペンダントを付けている。


 まさかと思い、ツバキは猫を抱き上げた。

 人慣れしているようで、すんなり持ち上げられた。


 そのまま首に付けている勾玉を拝見させてもらう。

 

 そして気づく、ツバキがコウに貰ったものと同じだと。

 青地に黄色の斑紋。おそらくラピスラズリで作られたものだろう。


 その勾玉をまじまじと見つめていると、突然猫が暴れ始めた。

 逃げられないようにツバキはしっかりと両手で抱え込む。


 不意にその猫と目が合った。

 魅力的な黄金色の瞳。

 とても透き通っていて、猫の瞳に反射した自分の目に映る、猫の顔が見えそうなくらいだ。


 だが、その時強烈な目眩に襲われる。

 視界が霞み、身体に力を入れることができない。


 刹那、ツバキの意識はブツンっとアナログテレビの電源が切れるように途切れてしまう。



 目が覚めると、手元に猫はいなかった。

 立ったまま気を失っていたようだ。


 ツバキは腕時計を確認する。

(気を失っていたのは十秒ほどか)


 交差点の向こうで黒猫がいるのが見える。

 ツバキはその黒猫を追った。


 信号が点滅し始める。

 しかし渡りきれると確信しツバキは横断歩道を疾走する。


(なんとしてもあの猫が付けていた勾玉を確認しないと)

 偶然では無い。あの猫が近くに現れたとき、ツバキが首に下げている勾玉のペンダントが反応したような気がした。


 猫はツバキから逃げるように歩道を走る。

 傍から見たら滑稽な絵だろう。

 銀髪の少女が制服で黒猫を追いかける。


 だがツバキは至って真剣だ。

(あの猫の付けている勾玉がコウに繋がる手がかりになるかもしれない)


 猫を追いかけている内に、人気の無い公園へとたどり着く。

 猫は公園に着くと逃げるのをやめた。


 どうにか追いついたツバキは黒猫を抱き抱える。


「ようやく追いついた」


 その時、公園に三人の男が入ってくる。

 その男達はまっすぐとツバキの方へと歩み寄る。


 ツバキは猫を抱えたまま立ち去ろうとするが


「待てよ、その猫を置いていけ」


(この猫の飼い主か……? にしては少し物騒だ)


 ツバキから見て左側の男が長身で大柄。

 右側は茶髪で細身だが、歩き方が不自然だ、ポケットに手を入れているからだろうか。いや、それだけじゃない。ポケットに入れた手が浅すぎる。

 細長い何かをポケットの中で掴んでいる。


(おそらくナイフ……刃渡り十五センチくらいか……)


 奥の男はフードを被っていて顔が見えない。


(こんな連中に絡まれるなんてツイてない。猫を抱えたまま走るのもあまり良くない。かと言って猫を渡すわけにはいかない。……それよりも、こんな奴らがこの猫に一体なんの用なのかしら? まぁいい、ナイフを持ってるのなら都合がいい)


 ツバキは男が話しかけても無視をして立ち去ろうとする。


 するとしびれを切らした茶髪の男がポケットからナイフを取りだし

「しかとしてんじゃねぇ! さっさとその猫を寄越しやがれ」


(ふん、馬鹿ね)


 正当防衛というのはかなり判定がシビアで、身を護るために行った暴力でも傷害罪に問われる事もある。

 先に攻撃してしまうと逆にこちらが犯罪者。

 かといって、相手の攻撃を待っていて死んでしまっては元も子もない。

 だが、相手がナイフを持っていたとしたらどうだろう。


 相手は既に銃刀法を違反している。

 こちらに害意が有ることは誰の目にも明白。

 故に、この場合では先制攻撃で正当防衛が認められる。

 

 しかし敵は三人。対してツバキは猫を抱えているため片手が塞がっている。


 ランチェスターの第一法則によると、戦闘技術が全く同じ人間が敵対したときの攻撃力は兵力数×武器性能だそうだ。


 それで考えるとツバキと相手との戦力差は三倍以上ということになる。


 では、この状況では生き延びることは不可能なのか。否、ランチェスターの第一法則の条件はあくまで実力が・・・同じ者・・・同士・・の時だけである。

 (ならば私が彼らより三倍以上強ければ問題はない)


 ツバキは大柄な男との間合いを一瞬で潰す。

 不意の接近に反応できなかった男は次の瞬間には水月に突きを喰らっていた。

 そしてローキック。


 蹴りを受けた脚の痛みで立っていられなくなり、膝を着く。

 姿勢が低くなり蹴りやすくなったところを顔面に横蹴りを放つ。


 遅れて茶髪の男がナイフを手に攻撃をしようとするが、無駄だった。

 ツバキは足をあまり上げず、すり足で間合いを詰める。


 素人とツバキの違いは足捌きにある。

 ツバキは重心をほとんど揺らさず、平行に移動し間合いを詰める。

 これは武道の経験がある者なら誰でも体得している動きで、この動きの特徴は、初動が読みづらく、足が最短ルートを移動しているということである。


 そして重心がぶれないということは、次の攻撃に繋げ安いということ。

 

 相手のナイフを躱しこめかみにエルボを一発。

 茶髪の男はその場に倒れ込む。


(ふん、素人ね)


 ツバキは武道の達人だ。

 柔道二段、合気道初段、日本拳法初段、小学校の時にキックボクシングのジュニア大会でスーパーモスキート級の全国出場経験あり。

 それだけに留まらず、彼女は大の武道マニアで、趣味として様々な武道の道場を巡っている。

 今は中国武術の北派、外家に部類される八極拳の道場に通っている。


 そんなツバキの戦力が素人の三倍以下なはずがない。


(あと一人)


 しかしそれは誤算だった。

 ツバキは確実に彼らの三倍は強いはずだ。

 だが……


「⁉……なにこれ」


 見ると、地面から鎖が生えており、その鎖がツバキの脚に巻き付いていた。

 その鎖に足を取られ、ツバキは移動することができない。


 だが、移動できなくとも近づいてきたところに渾身のカウンターを食らわせることができればまだなんとかなるかもしれない。

 そう考えツバキは身構えるが、さらに思わぬ事が起こる。


「〈錬成ライズ


 フードの男がそう呟くと宙に一本の日本刀が現れる。

 その日本刀がツバキに切っ先を向けると、ツバキに向けてその刃が飛んで来たのだ。


 ツバキはその刀を自身の右腕で防ぐ。

 刹那、鮮血が咲いた。

 ツバキの腕は肘から上が切断され、大量の血が噴き出した。


「ぐっ! ああぁぁぁああああああ‼ 」


 ツバキの誤算とはこの戦闘をランチェスターの第一法則に例えたこと。

 近接武器や弓矢の様な古典的な戦いにおいては第一法則で間違っていない。


 しかし、銃を使った近代戦では第二法則が用いられる。

 

 フードの男が放った、まるで魔術のような攻撃を銃火器と呼ぶことはできないかもしれないが、遠距離の敵を瞬時に拘束、攻撃できるというのは銃に匹敵するとも考えられる。


 そして第二法則での攻撃力は兵力の二乗×武器の性能である。

 つまりツバキと敵の戦力差は実質九倍。いや、この場合は銃火器よりももっと質が悪いだろう。


「何が起こったかわからないか? それもそうだろう。お前は見たことも無いはずだ。これが俗に言う魔術というものだ」


 いや、ツバキは見たことがあった。今朝見たあの夢。魔術師と人類の戦争。あれはまさしく現実の出来事だったのだろう。

 だからツバキは驚かなかった。


 かと言って恐怖が無い訳ではない。


 目の前の男は今まさにツバキの命を奪わんと、その圧倒的な力を奮っているのだ。


 しかしツバキはまだ猫を護ろうとしていた。


「てめぇ、さっきはよくも……」

 茶髪の男と大柄な男が立ち上がる。


 そうして大柄な男が容赦なくツバキの脚を蹴りつける。

「グハァっ! 」


 その|恐怖(痛み)は、|恐怖(生存本能)は、|恐怖(希望)は、確かに声を上げて叫んでいた。


「これでとどめだ」


 フードの男が再び日本刀を生み出し、ツバキに向けて振り下ろす。


「コウ、助けて‼ 」


 何故その名前を叫んだのだろう。

 それは本人にもわからなかった。


 だが、彼は何度も助けてくれた。

 そうして今回も助けてくれるのでは……



 …………………ガキンッ‼


 鈍い金属音が辺りに響く。


 前を見ると、フードの日本刀を一本のダガーで防ぐ青年がいた。

 その青年がツバキの方を振り返る。


 今時の男子に多いメンズのボブカット。

 大きくてどこまでも透き通るような目。

 整った小顔。

 ワインレッドのパーカーが似合う、その青年をツバキはよく知っていた。


「コウ‼ 」

 


コウって……何のために消したんだろう。消えて次話に復帰って、1話の意味が丸々消し飛んじゃいましたねw

コメントやレビュー、ブックマークなど宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ