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神の財産とファミリア〜あなたの家族でよかった〜  作者: 飾神 魅影
第1章:ドール教団と人類
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シ◯シア

先日、猫の餌を食べてみた。

味しなかった。

夢を見ていた。

コウがまだ猫として生まれる前、100年ほど昔の前世の記憶。

賢者と呼ばれる女性にコウが拾われ、名前をもらった時の夢だった。


だんだんと覚醒していく意識の中で、一つの異変に気がつく。

自分が今いるのは、自分の家ではないことに。

(見覚えのない場所だ)


猫の状態のため、絨毯や壁紙の色までは識別できないが、柔らかそうなクッションや可愛らしいぬいぐるみなどが置いてあり、女の子らしさが部屋から漂う。


やっと意識がハッキリしてきた時、自分が暖かい何かに包まれていることに気がつく。

背後を見ると、コウを抱きしめたままスゥスゥと寝息を立てるツバキがそこにはいた。


石鹸のいい香りがコウの鼻腔をくすぐり、心臓の鼓動を早まらせる。

(えっ⁉︎ なんで僕はツバキさんと一緒に寝てるの? )


コウは昨日デパートで起こったことを思い出す。

そして自分がツバキに家の場所や連絡先を教えていなかったことに気づき、止むを得ず連れて帰ったのだなと納得した。


(だけどこの状況はまずい。何がまずいって、とにかくなんかまずい)

コウはツバキの腕から抜け出そうとするが、ツバキはさらにホールドを強める。


その時、コウの背中にムニュンとした柔らかい何かが押し当てられる。

(ちょっと待って、ツバキさんノーブラ⁉︎ そうだよね、寝る時はさすがに外すよね。お師匠様も寝る前は付けてなかったし……ってそういう場合じゃない。ツバキさん起きてください! )

「ニャー! 」

しかし猫の状態では、人間よりも声が大きく出ない。

さらに悪い事に、コウはバーミーズという種類の猫で、この種類は皆、鳴き声が小さいのが特徴なのである。


当然そんな声がツバキの耳に届くわけがない。

(こうなったら擬人化してどうにかするべきか? だけど擬人化したタイミングでツバキさんの執事さんが部屋に入ってきたらまずい事になる。確か執事は自分が仕えている人の部屋にノックなしで入る許可が与えられていたはず。それは実にまずい、どうすればいいだろうか)


身体を捻ったり、強引に腕を外そうとするが、コウの今の姿は猫である。

人間の腕をどうこうできるわけがない。

逆にツバキは武道の達人。コウが人間の状態でも、コウを抑えつけて10カウントを奪うことすら容易いだろう。


ツバキの腕の中でもがいていると、部屋のドアが開かれる。

そこには執事服を着た男性、水野が立っていた。

(良かった、擬人化する前に来てくれた。執事さんお願いです、助けてください)

「ニャー」


ツバキの拘束から逃れようともがくコウを見て、水野は意思を察した。

「お嬢様、起きてください。朝食のご用意ができました。あと、それ以上強く締めると真道様が圧死してしまいます」


もがけばもがくほど強くなるツバキのホールド。

内臓やら気道が圧迫され、息が苦しくなっている。


水野がツバキの肩を揺すってようやく目を覚ました。

「ん……おはよ」


水野は軽く会釈をする。

「おはようございますお嬢様。それと……真道様が息を引き取りそうになってます」

「ん? 」

ツバキは自分の腕を見る。そこには、もう限界だと言わんばかりにもがき苦しむコウがいた。


「はっ‼︎ ごめんなさいコウ! 」

ツバキはバッと手を放す。

(はふぅ、やっと解放された……危うく9つしかない魂を1つ失うところだった)


コウが呼吸を整えたのを見計らって、水野は朝食が出来たことを再びツバキに伝える。

「すぐに行くわ」


そしてコウの方へ向き直る。

「今から朝食を食べてくるわ。昨日猫缶を買っおいたから、コウはそれを食べておいて」


コウは申し訳なさそうに首を横に振る。

「駄目よ、魔力がなくなったらご飯を食べなきゃいけないのでしょ? 」

そう言ってツバキは猫缶の蓋を開ける。

それを皿に移して床に置く。

(魔力を回復するために食事が必要だとどこで知ったのだろう)


「もう開封しちゃったから、ちゃんと食べておいてね。この家には他に猫なんていないから、残ったら捨てなきゃいけなくなるから」

有無を言わせないツバキの口調にコウは断れなくなった。


そのままツバキは部屋を出て行ってしまう。

しかし、魔力が殆ど残っていなくて、すぐに食事をとる必要があるのは事実なので、コウは猫缶を食べる事にした。


皿の近くに寄って匂いを嗅ぐ。

そして気がついた。

(この猫缶って、もしかしてシ◯ア‼︎)

ナチュラルフード100%で、自然飼料で育った鶏と高級な部位だけを使った天然魚を、加工から調理まで全て手作業で作られた高級キャットフード。

添加物不使用。味付けはイタリアンで、人間でも安心して食べられる品質は、全ての猫が憧れる最高の贅沢。


1度食べたらもう元のキャットフードには戻れなくなるという幻の猫缶が今、目の前でコウの食欲をダイレクトに刺激している。


気がつくとコウは皿に釘付けとなっていた。


高級な食べ物なので最初は控えめに食べようと思っていたが、一口食べるとそんな自制は効かなくなる。


ガツガツと夢中で◯シアを食べるコウは、その美味しさに感動すら覚えていた。

(添加物がないというだけで味が全然違う。鶏肉も舌触りが柔らかく、魚は1匹から少量しか取れない部位を贅沢に使っているだけあって、他のキャットフードとは風味から違う。何より、敏感な猫の味覚に気を使われた程よいイタリアンの味付けがとても香ばしく、鶏肉と魚を引き立てている! )


気がついた時には既に皿の中は空になっていた。

コウは今、◯シアを食べたことによる幸福感と、高級故に滅多に食べられないという虚しさの中間にいた。


複製すればいつでも食べることができるのだが、魔力を消費して食べ物を出し、食べ物を食べて魔力を回復するのでは本末転倒もいいところなので、魔力回復のための食事は魔術で複製しないようにしている。


(やっぱり複製ようしょく産とは違うな〜)



しばらくすると、ツバキが部屋に戻ってきた。

彼女はすでに学校の制服を着て、髪を後ろで1つに結っている。

残念ながら今日は休日ではないので、あまりのんびりとはしていられない。


「お待たせー。ちゃんと全部食べてくれたみたいね。魔力は回復した? 」

「ニャー(ばっちり回復しました)」

「それはよかったわ(なんて言ってるかわからん)」


ツバキはカバンを背負い。

「それじゃあ学校に行きましょうか」

するとコウがキョロキョロとして何かを探し始めた。

(賢者の石がない)


「探してるのはこれ? 」

ツバキの手には賢者の石のペンダントがあった。

「寝る時は邪魔になると思って外したの」

そうしてツバキはコウの首にペンダントをかける。

不思議なことに、かけた途端にペンダントの紐がシュルシュルと短くなり、コウの首にフィットするサイズまで縮んだ。


外すときもひとりでに長さが変わったため、ツバキは驚かなかった。

今度こそふたりとも準備が整ったことを確認する。

「それじゃあ行きましょうか」

そう言ってツバキはコウを抱き抱えた。

(えっ⁉︎ ちょっと、1人で歩けます。1人で歩けますからー! )


ツバキの顔を見るとクスクスと笑っている。

(あっ、これは僕に意地悪して楽しんでる時の目だ)

そのままコウは何も抵抗できないままツバキに連れて行かれてしまった。


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