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神の財産とファミリア〜あなたの家族でよかった〜  作者: 飾神 魅影
序章:日常を求めて
1/31

幾度も繰り返される世界で

1話書き直しました。

かなり大きく変更しましたよ。

前よりかは読みやすくなったかな?

これから序盤のところをどんどん改変していこうと思います

戦争というのは実に気まぐれで、常に被害者しか生まない。

戦争において加害者や悪は存在せず、互いの正義が衝突するものである。

当然、その衝突は無害とはいかず周囲を巻き込むものだ。

絶対的な悪が存在しないからこそ戦争は理不尽で、狂おしい。


御崎川みさきがわ 翼輝つばきはただ、いつものように学校に行った。

決まった時間に起き、朝食を済ませ、長い髪を結い、ツバキの通う上布森高校の制服に身を包み、車で学校まで送ってもらう。


教室で親友と挨拶を交わし、ホームルーム、授業、昼休みと何も変わりない学校生活だった。

つい最近までこの国は戦争をしていただなんて、皆忘れてしまうほどに。


ドール教団。

その教団は小規模なカルト集団であるが、大規模なテロを施し、政府に圧力をかけてきた。


マスメディアでもドール教団のテロが多数報道されていた。

日本の政府はドール教団の要求を拒否し続けた。

その結果、テロの規模は次第に膨れ上がり、遂に戦争を廃止した国は再び武器を取り、ドール教団と衝突する。


ドール教団はやっている事は大きいが、組織としての規模は国に匹敵するものではない。

いくら戦争をしない国とは言え、自衛隊やSATも飾りではない。


たかが一教団如きに敗北するわけがないと誰もが思っていた。


しかし、その1週間後日本はドール教団の要求を呑むことになる。

その要求の内容までは公表されていないが事実上、政府はドール教団の支配下に置かれた。


しかし、国民のその後の生活が何か変化したわけではない。


そうツバキは思っていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「なに……これ⁉︎ 」

ツバキは教室の入り口で足を止めた。

眼下に写るのは血だらけの床や壁。散らばったクラスメイトの死体。


血の紅と窓から差し込んでくる夕陽の朱が混ざって不快なコントラストを生み出す。


死体の中には原型すら留めていないほどに無残なものまであった。


その死体達の中心によく見知った青年が立っている。

ツバキの親友、真道まみち こうだ。


コウの右手にはダガーナイフが握られており、その切っ先から血がポタポタと滴っていた。


そしてコウはツバキに気がつく。

「あぁ……ツバキさん」


その時ツバキの背筋に悪寒が走った。

いつも見ていた顔で、いつもと変わらないコウの姿なのに、この時だけは怖いと感じたのだ。


その理由はすぐにわかった。

教室にクラスメイトの死体が転がっているという異常な状況下で、いつもと同じ表情で話しかけてくるのはそれこそ異常だ。


ツバキはコウに問うた。

「コウ……貴方がやったの? 貴方がみんなを殺したの? 」


コウは「うーん」と考える素振りをし

「半分はそうです」

「半分? 」


何故この状況でここまで冷静なのか、ツバキには理解できなかった。

本当に目の前にいるのは自分の知っているコウなのかと疑いすらした。


しかし、見れば見るほどいつも通りのコウでそれを実感すると不気味さが増していく。


その時、教室からガサリと音が響く。

音のした方向を見ると、そこには先ほどまで死体と一緒に横たわっていたクラスメイトがそこに立っていた。


ツバキと同じ上布森高校の女子制服を着ているが、その制服は血だらけだ。


(良かった、生きてる人が他にもいた)


その女子生徒はツバキの方へと歩み寄ってくる。

だが、その女子生徒の表情はどこか生気に欠けており、どうにも足元がおぼつかない。

今にも倒れてしまいそうな足取りだ。


まるで死体が・・・歩いている・・・・・かのような・・・・・


その時、コウが叫んだ。

「ツバキさん離れてっ‼︎ そいつに近づいちゃだめだ! 」

「え? 」


次の瞬間、女子生徒はツバキに組み付き、喉元に噛みつこうとする。

平常心を失っていた事と、油断していた事が重なり、ツバキはあっさりと組みつかれてしまった。


どうにか噛みつかれるのを回避するが、未だ組みつかれたままだ。

再度噛みつこうと歯を剥き出しに口を寄せてくる。


目は血走っており、その様子はもはや人間と呼ぶには程遠い。

例えるなら、獲物にトドメを刺そうとする肉食動物のようだ。


ツバキの事を本気で噛み殺そうとしているのは見て取れた。


ツバキは女子生徒を振り払おうとするが、冷静さを失っていたため、上手く振り払う事ができなかった。


ここまでかと思われた時、宙に鮮血が走った。

それはツバキの血ではなく、目の前の女子生徒の血だ。


見ると、横腹にダガーナイフが突き立てられている。

ダガーを刺したのはコウだ。


コウがダガーを引き抜くと女子生徒はゆっくりと倒れ、そのまま動き出す事はなかった。


コウはツバキを見ると

「さっき半分と言いましたが、もう半分は今見た通りです。クラスの何人かが突然人を襲い、襲った人間の肉を貪り始めました」


つまり、クラスメイトが突然ゾンビのように人を襲い始めた。

コウは身を守るためにそのゾンビ達を殺した。

その事から「半分」と答えたのだ。


まるで映画みたいだと一瞬考えたが、実際にその身をもって体験したばかりのため、ツバキはあっさりと理解した。


「ここもまだ安全ではありません。早く逃げましょう」


コウがそう言ったその瞬間。

教室に転がっていた死体が一斉に起き上がり始めたのである。


もはや彼らは人間ではない。

人肉を貪る事しか頭にない獣同然のゾンビである。


「ツバキさん、早くっ‼︎ 」


コウはすでに教室から出ようとしていた。

コウに促されツバキも教室から脱出する。


校内は既に大量のゾンビが徘徊しており、突破は難しいと思ったが、コウはゾンビの間合いに入り込むやダガーを深々と突き立て、仕留める。


他のゾンビ達も足技やダガーで次々と仕留めていく。


その姿は圧巻の一言だった。


確実に仕留められる者はダガーでトドメを刺し、複数が固まっていて邪魔な場合は蹴りで距離を放す。


仕留めきれない者は腕を捻って合気道の要領で組み伏せて時間を稼ぎ、他を狙う。


コウはゾンビから攻撃を受けないように間合いにも気を使っていた。


往なし、躱し、そして突き刺す。


一体どれほど殺しただろう。

だが、あまりにもゾンビの数が多い。


ここを突破すればすぐに外に出られる。

しかしまだ10体ものゾンビが固まっている。


コウはこの数を1人で対処するのは無理だと判断した。

するとどこから取り出したのか、ダガーを持っていない方の手で拳銃を握り、ゾンビに向けて射撃した。


ツバキはコウの姿をずっと見ていたが、コウが手をポケットに入れるような行動を取ってはいない。

拾ったわけでも倒したゾンビが持っていたわけでもなさそうだ。


だが、コウは今拳銃を手にし発砲している。

一体どうやってその拳銃を手にしたのかツバキにはわからなかった。


だが、コウはそのような事などおかまいなしにゾンビを蹴散らしていく。

拳銃とダガーを巧みに使い分け、10体はいたはずのゾンビはいつの間にか居なくなっていた。


どうにかゾンビの群れをやり過ごしたコウとツバキは校外に出る。


だが、そこは校内以上の地獄だった。

逃げ惑う人々。

肉を貪るゾンビ。

ゾンビ達に向け銃を発砲する警官達。


まさに地獄絵面。

このような状況から生き延びる事は出来るのか。


この場を逃げ切っても、助かる保証はない。

もうこの国、この世界には安全な場所なんてないのではと思わされるほどに悲惨なものだった。


そこに警察の機動隊達が現れる。

それだけでなく自衛隊までも。

数は200はいそうだ。


彼らは構えた銃をゾンビ達に一斉に射撃し始めた。

さすがのゾンビもこの数の銃には対抗できないようで、間も無くこの辺りのゾンビは鎮圧されそうだ。


それを見てツバキは一安心といった様子を見せている。

しかし。


「うぎゃぁぁあああ‼︎ 」

突然、機動隊の1人が炎に包まれた。

その機動隊員は悲鳴をあげながら転げまわっているが、火は一向に消える様子はない。


「おい、大丈夫か⁉︎ 」

「どうしたんだ⁉︎ 」

「魔術師だ、魔術師に攻撃されたんだ! 」


炎が突然強さを増し、遂に機動隊員は悲鳴をあげる事すら無くなった。


機動隊も自衛隊も共に警戒を強める。


するとそこに黒いローブを纏った男が現れる。

どうやら、ゾンビではないようだ。


しかし機動隊や自衛隊達はその男に銃を向ける。


ツバキはそのローブを見て気がついた。

「あのローブって、もしかして」

「はい、つい最近までテロで世間を騒がせていたドール教団です」


次の瞬間、信じられない光景がツバキの目に飛び込んできた。


ローブの男は手から炎を出したのだ。

その炎は球形にまとまり、機動隊達に向け飛ばされた。


その火炎球は機動隊達の足元に着弾すると、機動隊達を巻き込みながら巨大な火柱をあげた。


残った機動隊と自衛隊は戸惑いながらも男に射撃を行った。


しかし、弾丸が男に命中する事はなかった。


どういう訳か弾丸は男の前で全て停止ししているのだ。


機動隊と自衛隊が何十発、何百発と打ち込もうと結果は変わらず、男は無傷のままだった。


やがて無駄だと理解し、射撃が止む。

男の目前に浮いている弾丸は一斉に自由落下を始めた、バラバラと音を立てる。


そしてまた男は炎を精製する。

そこからはとても戦いと呼べるものではなく、一方的な虐殺だった。


機動隊、自衛隊達は男の炎によって次々と焼き払われる。

銃を撃ち、抵抗しようとするも男に弾丸は当たらない。


200人はいた機動隊、自衛隊達はすぐに0人になった。


男は周囲に生き残りがいないか見渡している。


数秒の後、男はツバキ達の存在に気がつく。

すると男は手のひらをこちらに向け、炎を精製し始めた。


ツバキはハッとした。

次は自分たちを標的にした事は言われなくともわかる。


しかも攻撃が一切通じず、強力な炎を操ることができるような奴に。


200人を超える武装集団を物ともせず焼き払った化け物が今、自分の命を奪おうとしている。


ツバキが絶望していることを気にもせず男は炎を放った。


その業火に身を包まれ、耐え難き熱量に苦しみながら死ぬ光景が脳裏を過る。

しかし、実際にはそうならなかった。


炎はツバキ達の前で激しく燃え立つが、ツバキ達には炎も熱も届かない。

まるでそこに見えない壁があるかのように。


「……これは⁉︎ 」


ツバキは感じたのだ。

目の前に見えない壁があると。

先ほど男が弾丸を防いだのと似た物が目の前に、確かに存在すると。


攻撃をしかけた本人である男がツバキ達を護る訳がない。

そして周りにはツバキ達以外には人が残っていない。

そしてそれが指す答えは


「もしかしてこれ、コウがやったの? 」


コウは無言で頷く。


「コウは一体……」


目を逸らされるかと思ったが、コウはしっかりとツバキの目を見返し

「今は言えませんが、僕の事を信じてついて来てくれますか? 」


その目はあまりに真っ直ぐで、だが力強くはなかった。

例えるなら、悟りを開いた偉人。

絶望の中で妥協しながら最善の方法を見つけた。

そんな目をしていた。


(コウはきっと、何かを知っているんだ)


ツバキは頷いた。


コウはツバキの腕を掴むと、男がいるのとは逆の方向へ走り出した。


「待てっ! 」

男はコウ達を追おうとするが、途端に足を止めた。


「…………ッ! これは刻印か⁉︎ 」


男の足元には文字とも絵とも形容しがたい紋様が描かれており、それを踏んだ男は謎の力が働き、身動きを封じられていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



街はどれだけ走っても同じ光景が続いているだけだった。

逃げ惑う人々と肉を貪るゾンビ。

異端の力で人々を襲うローブ姿の者。


中にはローブを着ていないが、ローブを着た者達と同じことをしている者もいた。


やがて、人気のない路地裏に逃げ込む。

「そろそろ話して。一体何が起こってるの? コウは何者なの? 」


コウはツバキの目を見て話し始める。

「この世には人間とは別に魔術師と呼ばれる存在が隠れて生きていました」


魔術師、先ほどの男が現れた時も機動隊員がそう叫んでいた。

そしてあの男の異端の力。

コウの言う魔術師とローブの者達は関係があるのだろうとツバキは推測した。


「ですが長年、人間と魔術師は戦争を行っていました。魔術師の存在が忘れ去られた現代でも、裏で密かに魔女狩りは行われ、その報復に魔術師はテロを行う。どちらが最初に始めたのかなんてもはやわかりません。互いに互いを恐れ、殺しあってきたのです」


ここ最近報道されたドール教団のテロのニュース、あれは魔術師が集まり、魔女狩りに対抗して行われたものだった。


「そして、この世界線では魔術師が戦争に勝ちました。ドール教団に政府が降伏した事がきっかけです。その後ドール教団は強力な邪心を蘇らせ、今このように世界を混乱に陥らせています」


コウの話を一通り理解したツバキだが、1つ引っかかる言い回しがあった。


「ちょっと待って、いまコウは“この世界線では”って言ったわよね? まるでいくつも世界があるみたいに」

「はい、存在します。そして、その世界線に干渉できるのは、あなただけなんですツバキさん」


意味がわからなかった。

コウは何を根拠にそんな事を言っているのかさえ。


「もうすぐこの世界は消滅します。あなただけなんです。この戦争をやり直して、正しいパラレルに導く事ができるのは! 」

「ちょっと待って、どういう事な…………ッ! コウ…………身体が! 」


その時、ツバキは気づいた。

コウの身体が透けて、半透明になっている事に。


コウも自身の身体をみてそれに気がつく。

だが、驚いてはないようだ。

「もう、消滅が始まりましたか」

「えっ⁉︎ 待って、コウが消えちゃうの? 私も? 私も消えちゃうの? 」


ツバキは泣きながらコウに手を伸ばす。

だが、その手がコウに触れる事は無かった。

ツバキの手はコウの身体をすり抜けてしまった。


「大丈夫です。すぐにまた会えます」

「本当に? 本当にまた会える? 」


コウはツバキの目を真っ直ぐ見つめ頷いた。

「必ず会えます。だから、それまでこれを預かっておいてください」


そう言って、制服の内側に隠していたペンダントを首から外す。

革紐に青い勾玉が取り付けられたものだ。


「これは…………」

「きっとツバキさんの役に立ちます。次に僕に会った時に、これを僕に見せてください」


ツバキはコウからペンダントを受け取った。


「僕、ツバキさんの事を信じてます。必ず変えてくれるって」


ツバキは涙を拭い、声も出せずに頷く。


「ツバキさん……」

「コウ‼︎ 」


再びコウに手を伸ばすが、やはり触れる事は出来ない。

コウの身体は完全に消え、そこにコウがいたという痕跡は、ツバキの手に握られたペンダントだけとなった。


やがて周囲の建物、地面、人間や生き物までもが消滅を始める。

ツバキただ1人を除いて。


「必ず変えてみせる。だからコウ、約束よ。また会いましょう? 」


そうしてツバキは消滅する世界の中で目を閉じた。



クトゥルフ神話trpgが好きで、グロ描写や魔術はクトゥルフを参考にさせてもらっています。

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