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お一人様。

翔兵の不登校が始まって以来、家にいると落ち着かなくて、一人でお茶を飲むことを覚えた。いわゆるお一人様だ。

部屋にこもられるのも心配だが、リビングでゴロゴロしては話しかけられるのも疲れるし、こういうときは仕事に集中できないので、買い物のついでにミスドやスタバで一人で寛ぐのだ。翔兵からの電話もたびたびあったが、年齢とともにそれも次第に減っていったのが救いだった。だが学校に行かないということは変わりなかった。


お一人様に特によく利用したのがミスド。ここだとコーヒーがおかわりが自由なので長時間の滞在にはとても便利だった。ドーナツを一個だけ注文して、コーヒーと一緒に少しずつ食べながらスマホとにらめっこをするのが癒しの時間になった。

コーヒーを前に友人からのメールの返信をしたりすることもあったが、執筆の方が多かった。執筆中は自分の小説の中で恋する乙女になりきった。昔のほろ苦い思い出がモデルのこともあれば、経験していない、憧れの恋愛がどんどん浮かぶ。この間は不登校のことを忘れて没頭できた。


画面が急にフリーズし、電話の着信を告げる画面が現れた。自宅からの発信。つまり翔兵からの電話だ。

「あ…。ったく。もしもし?」

現実に引き戻された不愉快を隠すつもりもなく不機嫌そうに電話に出る。

外出先への電話が減ったとはいえ、まだこうして時々かかってくる。

「あのね。お昼ご飯、どうしよう…。」

「ご飯も食パンもラーメンもあるよ。パスタを茹でてもいいんじゃない?好きなもの食べて。」

不登校が始まった頃は、まだ小学生だったしお腹の調子が悪いことが多かったので、昼食を作ってやっていたが、こう長くなるとこちらとしてもやってられないということ、睡眠障害でいつ起きるかわからないという兼ね合いから昼食は自分で用意するということにしていたのだが、時々こうして電話をしてくるのだ。

「わかった。…何時ごろ帰ってくる?」

この質問が一番イヤだった。帰ろうと思えばすぐに切り上げて帰ることもできるし、こう言われるとどこか後ろめたい気分になるからだ。

「もうしばらく。まだ細かい用事が終わってないから。ママを待っている余力、自分で作った方が早いと思うよ。」

「わかった。」

もう!邪魔しないでよね!

イライラと通話終了ボタンをタップする。帰りたくないが、こういう電話があると、まだ帰りたくなくても帰らないといけない気持ちになる。

翔兵は目玉焼きやトーストを自分で用意できる。ペペロンチーノだって作れる。カップラーメンではなく袋入りのインスタントラーメンだって作れる。後片付けもできる。他のものが食べたい気分の時や、さみしい時に電話をしてきていた気がする。

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