「忘れ物したんだけど…。」
一年生が無事に終わり、春休みに入った。しかし休みとはいっても翔兵は補習や部活で学校に行く日が大半。そんなある日のこと。
「もしもし。…あのう、忘れ物をしてね、取りに帰ってまた学校まで戻らなければならないんだけど…。」
私が久しぶりにネットカフェに出かけているときに、部活に行っているはずの翔兵から電話がかかってきた。
「おいおい。勘弁してくれ。」病み上がりの身としてはまずその感情が浮かんできた。久しぶりに体調が良いから出かけてんのに。しかも今から家に帰って学校の往復をしていると、すぐに昼食の支度を始める時間になってしまう。急病やケガなら仕方ないが、コレは自力で動いてもらいたい。しかし「普通の」「優しい」お母さんなら動くのだろう。ほんの数秒の間に葛藤した。
「ええ~?今、外出中なんだけど。」
思わず私の口から出た言葉はこれだった。つまり、「できれば断りたい」。自身が遊びに出掛けていることもあって罪悪感はあったが、私は運転手でも家政婦でもない。部活から帰る時間に昼食を用意するくらいはするが、それまでの時間を、しかも久しぶりに体調のよい時間をつぶしたくないという、自分軸の本音もあった。そして本音からこの一言がでてしまった。翔兵がどう出るか?
「わかった。自分で何とかする。」
翔兵はそう言うと電話を切った。冷たい母親だと思われただろうな。まだ罪悪感はあったが、優しい母親と思われたいという自分の気持ちに気づく。
無理に「良い母」「優しい母」にならなくても良いんだということを思いつつも、こういう時は葛藤する。本当なら、忘れ物は本人のミスなので、私が手を貸す必要もないし、いちいち手を貸していてはいつまでも自立できないであろう。などと正当化する気持ちの反面、やはり罪悪感が募る。それに、翔兵が不機嫌な様子で帰ってくるのでは?という不安もよぎった。しかし、もう本人が何とかするという返事をしたのだから、と家にすぐに戻ることはやめて、そのままネットカフェで過ごした。
が、部活を終えた翔兵はケロッとして帰って来たのでホッとした。常に「いつでも動けるとは限らないからね。」と言い聞かせてきたおかげだろう。
とりあえずホッとした。




