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塾と部活と。

「サインとハンコください。」

翔兵から本入部の登録用紙を差し出された。部活の登録って親のサインや印鑑が要るものなのか。私のときはこんなこと無かった気がするが、私の行っていた高校が緩かっただけかもしれない。

「それから、これも。」

もう一枚の紙を見ると、塾の紹介状を兼ねた体験授業の申し込み用紙。紹介者はお友達の三輪君になっている。三輪君は、中学校は同じだったが、面識はなく、同じクラスになったことで仲良くしている子だ。ちなみに彼は学年でも上位の成績である。そんな三輪君の行っている塾だからこそ行ってみたいと思ったようだ。

学校としては、学校でフォローするから、高いお金を払ってまで塾に行くことはないだろう、という考えのようだが、実のところ上位の生徒は塾に通っているようだ。

「塾はお金の必要なことだから、ママからじゃなくて翔兵からお願いして欲しいの。」

そう。何かにつけて、私が間に入ることが気に入らないだの、どうして子供たちは俺に直接、頼みごとをしないんだ、だのと国際電話で文句を言われたばかりなのだ。確かに、この家の家長は夫である。それはこの単身赴任生活が始まったときから折に触れて話してあるのだが、子供たちは、特に翔兵は夫とあまり話したがらないのでこのような形になることが多い。私に情報が入ってこないものさみしいが、夫としてもお金のことはさておき、それは同じ気持ちだろう。

「返事来た。いいよって。あと、塾に電話して、体験授業の予約をお願い。」

目の前で翔兵がスマホからLINEを入れると、私がサインとしているうちにOKの返事が返ってきた。

「OK。じゃあハンコ押しとくね。」

サインと印鑑を済ませた二枚の用紙を翔兵に返すと嬉しそうな表情かおを見せた。

最近、表情が柔らかくなって、物腰もずいぶん柔らかくなっている。食欲もずっと旺盛な状態が継続している。この状態なら、少し忙しくなっても頑張れるかな。


翌日に塾に電話をすると、すぐに体験授業の日が決まった。授業の時間と塾の場所を確認して、送っていった。授業の時間は8時から10時。少し遅めである。部活に参加してから通える時間帯だ。あとは、この10時までの時間に本人が耐えられるかどうかがキーではあるが。


「楽しかった。わかりやすい。このまま入塾したい。トオルもいたよ。」

「あら。そうだったの?トオル君もこの塾なの?」

「半月前に入ったところなんだって。」

体験授業から帰ってきた翔兵は帰りの車でそう言った。どう楽しかったのだろう?おしゃべりに興じていることは彼の性分から考えにくいが、勉強が楽しいという意識は私からは考えにくいが、どうやら後者の楽しいであったようだ。


そして後日、私は入塾の手続きに塾に向かうことになった。




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