過去問題集。
「去年の過去問題を解いても、社会だけ点数が取れない。ダメかもしれない。受かる気がしない。」
冬休みが明けたばかりの1月中旬の朝。登校時間の数分前、璃子が登校していった数分後に翔兵がキッチンに来て泣き出した。洗い物を始めようとしていた時だった。
聞けば、直木学院の過去問題を去年の分だけ体験入学の際に貰っていて、それを何度解いても社会だけ点数が取れないとのこと。ナーバスになっているとはいえ泣くほど思い入れが持てる学校ができたことは大きな進歩だが、本人にしてみたらそれを喜んでいる場合ではないだろう。
「受かりたいんだね?誰かに何か言われるとかいうことじゃなく、翔兵が受かりたいんだよね?」
すすり上げながらうなずく。
「過去問題をもっとやってみたいんだけど、手遅れかなぁ。」
真っ赤な目をして翔兵は言った。
「今まで勉強してきた状態のあと三週間なんだから、やってみる価値はあると思うよ。」
「そうかな…。」
「今の時期に何もやっていなくて、という訳じゃないんだから、やれることは、やっておこうよ。」
「うぅ~…。」
泣き続ける翔兵を前にAmazonで検索すると、過去四年分の問題集が三種類ほどヒットした。スマホの画面を見せると、すすり上げながらそのうちの一つを指差した。
「これがいい。今日、本屋で見てきてくれる?」
「いいよ。見てくる。絶対、見てくる。」
そう言うと、うなずいて涙を拭いて登校していった。
普通に考えたらこの状態を弱々しく感じる人もいると思う。最近よく泣くけど、それでも璃子の前では泣くまいとしていること、先ほどのように凹んだ気持ちでも休まずにすすんで学校へ行くようになったという点では少しは強くなっているようだ。
何より、普通の中3男子との差を気にしていては、彼の進歩は見逃してしまうだろうし、彼は進歩できないままだろう。




