早退と養護教諭。
冬休みまであと少しという時期に三人で順番に風邪を引いた。最初は璃子。次は私。そして翔兵がある週末の間に発症。大したことはなかったが、微熱が出て、お腹の調子が悪くなった。
「調子は悪いけど授業を受けたい。」
月曜日の朝にそう言った。確かに三年生の欠席は影響が大きいということなので、できる限りの協力をしてやりたい。
「じゃあ、給食の前まで行って、お昼から早退にする?それなら欠席のカウントからは免れることができるよ。今日なら四時間目の終わるころに迎えに行けれるよ?」
「ホント?じゃあ、そうする。」
先生とのやり取り帳に早退の旨を記入して渡すと、医者で出された薬を飲んで登校。
もう四時間目が終わりにさしかかる時刻に、昼食の簡単な用意を済ませて学校に向かった。約束の場所である、保健室の目の前のロータリーに車を停めると、保健室に招き入れられた。
担任ではない見慣れない教諭とともに翔兵が座っている。何が起こったんだろうか?
「実は書類に不備がありましてね。お迎えにいらっしゃるとのことでしたので、今書き直していただこうと思いまして。」
見慣れない教諭は進路指導の担当教諭だった。
「はあ…。どうもすみません。」
差し出された私立高校の書類を書き直す隣で翔兵も何やら書いている。私立の願書とともに出す封筒に書く住所を市町村の部分を書き間違えたのだとか。書き間違えた封筒には、謎の地名が書かれていて、笑いをこらえる教諭の前で恥ずかしそうに書き直している。
こうしてその日は二人で書き直しをして早退したのだが、帰りの車中で翔兵に驚くことを言われた。
「保健室の先生がね、『あなたのお母さん、妹さんのことになると車を出したがらないのよね。
』って言ってたよ。」
はあ?なんで?そんなことを言われる筋合いはない。確かに璃子の欠席や早退には辟易しているが、そんな言い方をされる覚えもないし、ましてやそれを兄弟に向かって言うなんて。
私は講師の仕事をしているのでレッスン中の場合など、電話を受けてもすぐに迎えに行けない時はある。しかしそのような場合は緊急性を確認した上で「仕事が抜けられないので○時までに伺います。」という返事をしているのだ。翔兵に説明をしたら納得してくれたが、養護教諭の彼女は何を思って「車を出したがらない」などと感じたのか?
そしてまた別の日に、同じように給食前の早退で迎えに行ったときのこと。約束のロータリーに車で入っていくと、保健室から養護教諭が飛び出してきた。
ナニ?教室で授業を受けているはずよね?そんなに調子が悪くなったの?
「妹さんが保健室にいるので、お兄さんと一緒に連れて帰ってください。」
保健室に目をやると、璃子と目が合った。
翔兵の早退を把握しているからといって、ついでにと言わんばかりに早退を認める学校や養護教諭の対応に唖然とした。そしてこんな対応をしておいて『車を出したがらない母親』という扱いをすることにも改めて疑問が湧き、久しぶりに学校に対して不信感を持った。




