入学式準備。
私の胸中が重みを感じていようがいまいが一日ずつ春休みは過ぎていった。春休み中に生活のリズムがまた狂うのではないか?新学期になって「やっぱり行かない」と言い出すのではないか?ここまでの進歩を認めたいと思いつつも、欲が出てくる。この欲が重みの原因だ。
私の心配とは裏腹に、春休みの間も、生活のリズムが乱れないように朝はきちんと起きる毎日。本人はいたって元気そうである。
「本当に登校が実現するかもしれない。」
どうしても期待が顔をのぞかせる。毎日が葛藤だった。
そして約二週間後、いよいよ学校に行く日が来た。入学式前日の入学式準備だ。この日は、制服ではなく体育用のジャージで登校し、午前中に作業をして下校してくることになっている。そうそう。ほとんど着なかった体育着も一式買い換えたのだ。最初に買ったそれらをほとんど着ることなく不登校が始まったので新品同様だったのだが、サイズアウトしてしまっていた。もったいないが仕方ない。今度は活用できるといいな。いやいや期待しちゃダメ。そんなことを思いながら翔兵を連れて買いに行ったのがほんの二日前のことだった。
まず、自分で起床できた。ミッション一つ完了。朝食もすませ、ジャージに着替えた。さらにミッション完了。本当に彼は出発するんだろうか。
「行ってきまーす。」
お。玄関を出て行った。ミッションさらに完了。とりあえず行くという目的は、今日だけは果たせた。十分だ。
「四人くらいの男にハグされた。“会ってみたかったよ”って知らない奴にもハグされた。」
数時間後に帰ってきた彼はそう言った。なんでもこの日はかつての二年生の教室に集合することになっていて、最初で最後の二年生の教室に足を踏み入れた彼は、知っている男子やら初対面の男子にハグされたらしい。
「へー。ハグされたんだ。」
目頭がちょっと熱くなるのを隠しながらなるべく平静に相槌を返した。
よかったね。気にかけてくれる人がたくさんいて。将兵、あなたは決して一人ぼっちじゃないよ。みんなの中に飛び込んでごらん。ダメだったら、戻ってきてもいいから。




