退院。そして…。
世間の中学校が修了式を迎えた日、院内学級も修了式を迎えた。簡単な式をしている間に私は退院手続きを済ませ、たくさんの教科書や参考書、日用品を車に積み込んで、院内学級のドアの前で翔兵を待った。
「仲良くしてくれてありがとね。」
と退院のご挨拶にと用意した、小さな文房具の入った袋をみんなに渡すと、クラスメイトの表情を寂しさがかすめた。ここでは卒業アルバムも学級写真もなく、自宅の地域もそれぞれなので退院したらばったり会うこともそんなにないからだ。同日に退院する生徒、退院したくてもまだできない生徒、それぞれだ。
「元気でね。」
見送ってくれる声を聞いて、みんなと仲良くやってこられたんだなとホッとしながら廊下を歩く。
「ああ、やっと帰れる!晩ごはん、何?」
退院する日を迎えたことで達成感があるのだろう。晴れ晴れとした表情だ。
そして夕方には原籍校に復帰の手続きと、挨拶に行った。
彼が学校に足を運ぶのは実に一年半ぶりで、これも直前に嫌だと言い出さないだろうかとヒヤヒヤしていたが、制服を着て、スタスタと来客用玄関から入って行った。
「翔兵、お前、背ぇ伸びたなあ!」
会議室に通された瞬間に学年主任が笑顔で声を上げた。学年主任と担任教諭が並んで座り、私たちはテーブルを挟んで向かい合った。
「ご心配おかけしました。今日、退院して参りました。」
「ご心配をおかけしました。これからは体調に気をつけて、がんばっていきたいと思います。」
私の言葉に続いて翔兵がそう言って頭を下げた。おいおい。家にいるときとえらい態度が違うじゃないの?コレがウワサに聞いていた「お外モード」か。お外モードの彼は、礼儀正しい生徒ということで知られているそうだが、初めて見てビックリだ。完全に別人である。
安堵の表情の先生方に見送られて来客用玄関を出ると、翔兵が飛び跳ねた。
「ひゃっほ~い!」
「アンタ、聞こえるよ。せっかくかしこまってきたのに。」
アハハと声を上げて笑う翔兵に苦笑する私。そして苦笑しながらも少しほっとしていた。学生服を着ることも、もうないかもしれないと思っていたのに、今は学生服を着て、笑顔で学校の中にいる。このまま元気になってくれないかな。期待しちゃいけないんだけど。
いよいよ春休みを迎える。




