「やっぱり学校に戻ることにした。」
「予定通り三月で退院して、やっぱり学校に戻ることにした。」
退院予定まであと一ヶ月ほどになり、三年生から適応教室に通おうか、元通り学校に通おうか迷っていたのだが、翔兵は行き先を学校に決めた。
聞けば、院内学級の先生に相談したところ、適応教室に通えば出席にはカウントされるのだが、その場合はテストでどんなに良い点数を取っても通知表の評定がオール1になる場合があると言われたんだとか。信頼している先生の言葉だからこそ、彼を後押ししたようだ。
「修学旅行は行ったほうが良いと思う?」
「まあ、行ってみても良いんじゃない?」
先日、担任教諭から修学旅行の話もあったらしい。しかしここで絶対に行ったほうが良いなどと言うことは、今の彼に良くないとジャッジし、この「行ってみても良いんじゃない?」にとどめた。というのは、小学校の修学旅行のときに、些細なことで部屋で、みんなが見ている前で一人のクラスメイトにしつこく蹴飛ばされ、まわりは見ているだけで誰一人助けてくれなかったというトラブルがあったためだ。それを変に思い出させるのは、避けたかった。
本当は、元気に行ってきてほしい。クラス編成も、保健室登校や不登校の生徒は、過去にトラブルがあった相手を避けるなどの配慮がされている。先述の蹴飛ばしてきた生徒とも離してもらえることになっている。できることなら、せっかくだからみんなとワイワイと思い出を作ってきてほしい。旅費の積み立ては、行かなければ返金される。直前に行かないことにした場合はそれは無理かもしれないが、行く気になっているのであれば、そこは目を瞑ろうと思った。お金では気持ちは買えないのだ。だから行く気になったという進歩を尊重したかった。もちろんこのことは夫には言わなかった。単身赴任で状況が見えづらい夫が、これを知ったときに何を言い出すかわからなかったからだ。夫には「学校に戻る気になっている」とだけ伝えておいた。
週末には外泊を重ね、その際、時には両家の実家へも遊びに行き、だんだん元気になってきた。食欲もある。しかし、また元気がなくなってしまうときもあるかもしれない。もしそうなったとしても、元気になれる期間があったのだ。不登校というのはたいていは長期戦なので、急によくなるとは限らないということは、翔兵を見ていてもわかるし、不登校仲間の話からも知っている。
このとき、見守る決意をしたとはいえ、また新学期へのヒヤヒヤ感に胸が重くなったというのも本音である。




