高校受験その2~願掛け~
将兵がいよいよ入学式を迎える。彼は私立高校の本命の合格通知を手にした後、公立高校にもチャレンジし、こちらの合格通知も手にした。不登校の経歴と、内申点がギリギリという状況だったが、本人の希望で受けた高校。
合格発表の日は、本人の帰宅を待って、私立高校の入学手続きをするつもりで送り出した。帰ってきたら「お疲れ様。」と声をかけよう。どんなにショックでも、思い詰めずに帰ってきてね、という不安の中で背中を見送った。
2時間足らずののち、玄関のドアがものすごい音を立てた。その音を聞いて、どう励まそうか、そうだ「お疲れ様。」だ、と息を吸い込んだチキンな私。
次の瞬間のこと。
「う、受かった!」
私の目の前には、親指と人さし指で丸を作り、オーケーのサインをする将兵がいた。
「えっ???」
ダメ元だけに、受験番号を見間違えたのでは?とさらなる不安に包まれる。
「受かった!受かったの!」
「良かったね。頑張った甲斐があったじゃない!」
見間違いではありませんようにと祈る気持ちの反面、言いながら、涙ぐんでしまい、将兵に唖然とされて、我に帰る。いつまでたっても、泣き虫な自分が恥ずかしくなってしまった。
私立受験の後、この残りの受験の期間にできることは何かと考えた。本人の気がすむだけ家庭教師の日数を増やし、食事はなるべくリクエストに応え、愚痴や弱音も私の体調が許す限り引き受け、あとは?何ができる?そうだ、願かけをしよう。ここまできたら、私のできることは、もう他に思いつかなかった。
犬の散歩の時に「落ちている」ものをできるだけ拾った。吸い殻、紙くず、よその犬の落とし物。「落ちるな。受かれ!」と念じながら。今思えば、それは将兵のためというより、私自身の気持ちを落ち着かせるためだったが。
その甲斐あっての合格だと言ってしまうと、この場合は将兵の努力に無礼であろう。
そして、この願かけは今も継続している。
「気持ちが落ちることなく元気に過ごしてください。」という願いを込めて。