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知られたくなかった。

「…あの時、サボらずに勉強していればこんなことには…。」

電話の向こうで翔兵が泣く。


あののんびりと昼食の時間をすごした数日後。消灯時間の少し前になって、翔兵が電話をかけてきた。この日は璃子の習い事の兼ね合いで夕方に顔を出さなかった。

聞けば例によって、病室の個室スペースともいうべきカーテンの仕切りの中で一年生の教材を出して勉強をしていたところを違う病室の女の子に見られてしまい、「二年生なのに、どうして一年生の勉強をやっているの?」と聞かれたらしい。大半の子は、特に女の子の場合は仕切りのカーテンが閉まっている場合は、一声かけてくれるので今日のように勉強をしていても教材をサッと隠すことができるのだが、彼女は、友達だからいいでしょといわんばかりにいきなりカーテンを開けるらしく、今日は勉強中にそれをやられてしまったのだとか。院内学級には、できるだけ一年生の教材を持っていかないようにしているらしく、わからないところだけ質問をするようにして、こうして秘密特訓のように一人で勉強をしていたらしい。

「知られたくなかったんだ。不登校だったこと。院内学級のみんなにも話してないのに。」

「知られたくなかったんだね。」

「うん…。」

またしゃくりあげる。

「あの時、ちゃんと勉強していればよかった…。」

「やっちゃったことは仕方ないじゃない。あの時はどうしても学校に行きたくなかったんでしょ?何もしたくなかったんでしょ?」

「…。」

電話の向こうでなにも言わずにまたしゃくりあげる。


「なんとか頑張ろうと決めて、こうして自分から入院を決めたことは、すごいことだと思うよ。スタート地点に立ったんだよ。」

「うん…。」

「結果についてはママは何も言わないよ。とにかくやれるだけやってごらん。また一緒に考えようよ。」

「わかった。」

まだ涙声のままの返事。

「また朝に顔を出すから、ちゃんと寝るんだよ?」

「わかった。ありがとう。おやすみなさい。」

涙声のまま、通話が終わった。私の目にも涙がにじんでいた。


心配だな。これで気持ちが折れなければ良いんだけど。普通に考えたら、この程度で折れるようでは世の中は渡って行けない。しかしやっと決心して始めたところなのだ。なんとか、持ちこたえて欲しい。

引きこもっている間、ゲームをやっては眠り、気が向いた時はキッチンに立つという日々を過ごしているように見えた。しかし実際はたくさん考え事をして、そして今、立ち上がったのだ。


今日は知られたくないことを知られてしまって辛かったね。

でもね、あなたの人生は始まったばかりなんだよ?なんとか歩いてみて。決して悪いことばかりじゃないよ?

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