入院生活スタート。
決意を胸に、入院生活が始まった。着替えや日用品と、サイズ直しを済ませた学生服と通学リュック、一年生用と二年生用の学校の教科書、かつて通っていた塾のテキスト等々。たくさんの荷物を持って入院した。院内学級へは入院翌日から通級を開始。通常なら、入院してから一週間ほど経過を見て、医師の許可が下りてからの通級開始だが、翔兵の場合は、経過を見る必要もないし、何より本人の気が変わらないうちにという事で翌日からの通級に決まった。なので私も翌日から毎朝、通級用の水筒を洗濯物と一緒に届ける生活が始まった。
しかし、睡眠障害は甘くない。最初の二日間は朝、病室に行くと「晩ごはん食べずに朝まで寝ちゃってたんだ。」という報告を翔兵から聞いた。
「夕方は来れない?」
朝の院内学級への"登校"を見送る時にそっと訊いてくる。莉乃の習い事の兼ね合いから、夕方はあまり顔を出せないことを彼もわかりつつ、そう訊いてくる。
「ちょっと難しいと思う。」
「そっかあ…。」
璃子には鍵を持たせているからとはいえ、帰宅時に私が家に居ないことは当時六年生の彼女には少々申し訳ない気持ちもあったし、翔兵のことでずいぶんと巻き込んできた分、あまりさみしい思いをさせたくなかった。しかし、今の入院生活に慣れるまでは翔兵にさみしいさみしい思いをさせたくなかった。
そこで、璃子の習い事がなく、下校時刻の遅い曜日には、院内学級が終わる時間に病室、顔を出すようにした。
「また、朝に来るね。」
「うん。ありがとう。」
そう言いながらも翔兵の表情が少しさみしそうに曇る。
「ごめんね。璃子もさみしがるんだ。」
「そっか…。」
「週末は、お昼ご飯、ここで一緒に食べようか。」
「本当?!璃子も来る?」
ぱあっと表情が明るくなる。体調が調うまでー翔兵の場合は生活リズムが昼型に移行するまでーは外泊の許可が出ないのだ。週末に病院に残るということは、どういうことなのか。外泊する友達が多いので、運が悪いと大部屋に独りぼっちの週末を過ごすということなのだ。家族や友人が来ない限り、実にさみしい週末になってしまう。
「予定が入っていなかったら、璃子も連れて来るね。」
「うん!一緒にゲームやろっと!」
翔兵はラプンツェル期のピーク時は本当に家族以外との接触をしておらず、散髪まで任せていた妹の璃子が唯一の遊び相手と言っても過言ではなかった。
土曜日のこと、病院に向かう前に大きなスーパーに寄る。病院のコンビニで調達しても良いのだが、種類の豊富さを思うと、よほど時間のないとき以外はここで調達したい。このスーパーのお弁当やお惣菜は種類が豊富でどれも美味しい。
「何にしよっかな~。」
璃子が嬉しそうにお惣菜を見る。お友達との約束は日曜日にしたのだとか。彼女の優しさもあるが、お昼ご飯は三人で食べたいと思ったようだ。
今回の場合の昼食を選ぶ基準は、「自分も翔兵も好きなもの。」翔兵は病院の食事があるが、少しは違う物が食べたい時もあるので、気が向いた時に分けてあげられる物を選ぶことにする。
「ローストビーフとサラダにしよう。」
ローストビーフの乗ったサラダもあったのだが、それだと汁がサラダの部分に染みだしてなんとも言えない見た目なので、別々に買って、食べるときにサラダの上に乗せる方が良いのだ。あとは握り寿司の小さめのパックと…。
「私は焼き鳥にするね。私もお兄ちゃんが欲しいって言ったら分けてあげられるよ。」
璃子が嬉しそうにパックを手にしている。セルフのコーナーで自分でパックに詰めてきたのだ。今日の場合はたかだか昼食の事だが、この協力的な娘には頭が上がらない。何せ、小学二年生の時から、細かく手を貸してくれているのだ。




