「気持ちをぶつけてこない。」
「七帆さんが気持ちをぶつけてこない、ってお母さんが言っていたわよ。」
電話の向こうで義母が言った。ぶつけてどうなると言うのだ。しかも、それをいちいち第三者に話すとは。どうしてぶつけないのか、見当もつかないあたり、呆れてしまう。
どちらの実家も翔兵の不登校は知っている。誰にも会いたくないと家から出なくなり、床屋すら行かなくなり、散髪は璃子に任せているくらいの日々。そんな中、本人の気が向いた時は私の気分転換にもなるからと、両家とも泊まりで預かってくれることがあった。それには大変感謝している。
一時期、両親は翔兵だけ実家に住んで、そこの学区の学校に通わせては?という提案までしてくれたこともあった。これは本人が望まなかったので実現されることはなかったが、そのようにサポートも考えてくれる。しかし、あまり関わると、実家の近くに住む兄の家の用事に巻き込まれるので、関わらないようにしているのだ。兄夫婦は、仕事の兼ね合いからよく子どもを実家に預けるのだが、実家は手が足りなくなるとこちらの都合もお構い無しに平気で私を巻き込む。我が家は夫が単身赴任で不在なこともあって自分たちのことで手一杯だというのに。そして、兄夫婦からは一言の挨拶もない。まあ、母も私をかり出したことなど知らせていないのだろう。こちらとしても、手一杯で、自分の仕事もままならないのに無理して時間を割きたくない。子どもの世話をしたことに対して金を払えと言っているわけではないのだ。一言の挨拶くらいしてくれても良いのに。言わない兄夫婦にも気分が悪いが、言わせない母にも気分が悪い。だから私は気持ちをぶつけないようになったのだ。
「ったく!いちいち人に話すんじゃねーっつーの!」
義母との電話の後、毒づいていると、インターホンが鳴った。モニターには両親の姿が。
すごいタイミングだ。余計なことは言うまいと玄関に向かう。
「お菓子と野菜を持ってきたよ。」
「あ。ありがとう。」
渡された紙袋を上からのぞくと、見慣れた和菓子屋の箱と、野菜が数種類。子どもたちの好きなものがばかりだ。
「ところで翔兵はどうだ?どうするんだ?」
紙袋をのぞいていると父が言い出した。
「実は明日から入院することにした。院内学級で勉強の遅れを取り戻すって言い出したから。翔兵が今回の入院のことを回りに言わないで欲しい、って言うから連絡しなかったんだけどね。」
「そうか。」
「まあ、どうなるかわからないけど、しばらくは病院の往復でバタバタしていると思うから。」
やんわりと"巻き込みお断りオーラ"で釘を刺す。世話になっておいてこんなことを言うのもナンだが、こんな時でも油断ならないのだ。
いよいよである。もうドタキャンなんてしないと本人は言っているが、入院当日まで油断ならないが。




