スシローにて。
週末の昼食時、約束どおり三人でスシローのテーブル席に座っていた。
もともとお寿司の好きな璃子は二つ返事でOKして、この日は遊ぶ約束を入れないようにしてくれていた。普通なら昼時を避けて約束してしまえば問題はないのだが、睡眠障害の翔兵がいつ起きてくるか、すぐに行かないとヘソを曲げるかもしれない、という都合を思って予定を空けておいてくれたのだ。
璃子は、翔兵の五月雨登校が小学四年生で始まった頃、つまり璃子が小学二年生のからこうして気を遣い続けている。特に今回は翔兵の入院および学校復帰の決意があるので、璃子はなおさら気を遣ったように思える。この気遣いには頭が下がる。小学生の頃の私に比べたら、バチが当たりそうな位の雲泥の差。
しかしそんな璃子も、翔兵と注文用のモニターの前に向き合って座り、目を輝かせている。
「貝、貝。今日はどの貝にしよっかな~。」
「僕、青魚が食べてみたい。青魚ってどれ?」
翔兵と莉乃がワクワクと声を上げる。ん?翔兵が青魚?
「サンマとかこはだ。あとはサバかな。イワシも美味しいんだけど、今の時期はもうないみたいね。」
珍しいことをいうものだと、タッチパネルを見ながら教えるとどんどん注文していく。そんなに注文して、大丈夫?という勢いだ。
どんどんと届くお皿の寿司を気持ちよく平らげる二人。空の皿がどんどん積み上げられていく。特に翔兵の食べっぷりは素晴らしく、この食いしん坊の私が注文するのを忘れてしまったくらいだ。
「青魚って美味しーい!あ。そうだ。サーモンも食べよっと。」
そういえば、少し前から急に魚が食べたいと言うようになっていた。魚を出すと「今日は晩飯いらない!」と不貞腐れていた時期があっただけに信じられない光景だ。それに一時期、睡眠障害の薬の副作用で食欲が落ち、ほとんど食べなかった。莉乃の方がたくさん食べていたくらいだ。これが普通の男子中学生の食欲だと気づいた時は、やっと薬が身体から抜けたのだと、ホッとした。
「あー。美味しかった!いよいよ入院だね。勉強、頑張ってくるね。」
デザートまでがっつり食べて、スシローから帰る車の中で翔兵が笑顔で言った。莉乃はそんな兄を静かに見ていた。
「そうだね。当日にドタキャンすんなよー?」
軽く言うと、翔兵が笑って言った。
「そんなことしないよ。西村医者に申し訳ないだろ。」
いよいよ入院。本当に行ける?勉強だって、思うように進められる?不安をごまかすようにハンドルを強く握る。ここまで決心しただけでも進歩なんだから。もしドタキャンしたとしても、がっかりするまいと自分に言い聞かせた帰り道だった。




