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ラプンツェル野郎、外の世界へ。~その2~

「三人でスシローに行きたい。そしたら、院内学級で勉強の遅れを巻き返す。」

なぜスシローに私と妹の璃子と三人で行くことにこだわっているのかはわからないが、どうしても三人で行きたいらしい。

「じゃあ、何日にする?」

西村医師せんせいは少し驚いていたが、卓上カレンダーを手に取り、翔兵に向き直った。スシローの件も快諾してくれた様子だ。

「お母さんとしてはどうですか?」

「まあ、本人が希望しているので。スシローに三人で行くなら週末なので、来週の入院でお願いします。。」

スシローに連れていくこと自体は別になんでもない。ただ、その間に気が変わるのではという心配があった。大丈夫だろうか。いや、ここまで来たんだから、今回はどちらに転んでもヨシとしよう。今までの行動パターンだと、スシローが済んだとたんに「やっぱり行かない」などということだって充分あり得る。


「じゃあ、当日は院内学級へ通う用意もして来てね。待ってるからね。」

入院は翌週の火曜日からに決定した。

スシローは週末に行くとして、そうだ。璃子の予定も確認しておこう。何よりも、院内学級へ通う準備をしなくては。


「本当に背が伸びたね。」

念のため学生服を着せてみると、見事に小さくなっていた。入学のとき以来、一度も丈直しをしていないそれはウエストなどの横幅はするりと入ったが、上は七分袖、下はクロップ丈。制服を買った店へサイズ直しを依頼する。

引きこもっている間にも、成長していた。睡眠障害が始まった時に飲んでいた薬が災いして、内臓にも食欲にも影響して、成長が一時期ほぼ止まっていたのだ。暴れられても薬を止めさせ、昼夜逆転も放置していた一年間と少し。時間は止まっていたようで確実に動いていた。

「こんなに身長が伸びていたのに、お直しは初めてなんですね。」

「…ええ、まあ…。」

怪訝そうな制服店の店員さんの言葉に曖昧に返事をする。入学して2ヶ月後から登校していないので、仕方ないのだが、店員さんにしてみたら不思議だろう。

二日後、丈直しの済んだ制服を受け取った。サイズ確認のために着せてみると、ちょうど良い。もうこの制服を着ることはないかもしれないと多少なり覚悟していただけに、こうして着ることになっただけでも嘘みたいだ。思わず涙が出そうになるのをこらえる。ここで過剰な反応を示すことは悪影響を及ぼす気がしたからだ。


なぜ数ある手段の中から院内学級を選んだのか。それまでにも翔兵は自律神経失調症で二度、この市民病院の院内学級でお世話になっていて、慣れていること。病院なら体調管理も同時にできる。そして院内学級というのは少人数のため、勉強を見てもらいやすいのだ。という事が理由と思われる。

学校の出席の扱いとしては、この期間は一旦、原籍校からこの病院の地域の学校に転校する形を取る。そのため、原籍校では出席扱いにはならないが、院内学級での出席になる。しかし定期テストなどの扱いは原籍校と相談した上で決定するので、原籍校との連携は欠かせない。そして退院および退級の際は再び原籍校に転校という形になる。


あとはスシローのみ。よくよく考えてみれば、どこかに行きたいと言い出したことだってかなり久しぶりだ。だからこそ、病院に足を運び、さらにスシローに行こうとしただけでも大きな変化である。

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