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ラプンツェル野郎、外の世界へ。~その1~

「ねえ。大学まで行きたいと思うんだけど、どうしよう?」


秋が深まってきた10月下旬のこと、突然の一言だった。世間はサンマに脂が乗ったり、ハロウィンで浮かれている時期。

「え?」

このラプンツェル野郎、二十歳までニートだったら、死にます、などと言っていただけに、言っている意味がわかるまでに数秒を要した。

「塾かなぁ。どうしよう?やっぱり学校に戻るべき?」

本当に勉強をするという話なのか?

「学校に戻るほうがやりやすいと思うけど、学校がどうしても嫌なら、適応教室とか、フリースクールに行けば通信制の高校に行って、そこから大学というテもあるよ。」

「勉強が遅れているままで行くのは嫌だ。」

「じゃあ、個別指導とか、家庭教師とか。適応教室で勉強を見てもらったほうがいいね。あ。市民病院の院内学級でも大丈夫だよ。主治医の西村医師せんせい、翔兵が希望するならいつでも受け入れるって言っていたよ。」

「じゃあ、入院する!遅れを取り戻して、大丈夫だと思えるようになったら学校に…あ、適応教室かもしれないけど、戻るかも…しれない。」

暗い暗い年月の中で一筋の光が見えたような気がした。それまでの経緯を思うと、これで万々歳とは言えないが、本人の気が変わらないうちに動かねば。

「じゃあ西村先生医師せんせいが外来診察の日を確認して、病院に行こうよ。電話してみるね。」

「わかった。」


翌々日、言葉通り本当に市民病院に向かうことができた。それだけでも大きな一歩だ。「今日こそ塾へ行く」「明日は学校へ行く」と言いながら行かなかった回数は数知れず。このラプンツェル野郎が市民病院に足を運んだのだって実に一年ぶりだ。病院へは私が一人で経過報告に行くことが続いていたのだ。ここまで来て「やっぱり嫌だ」と言い出すことも私にとっては想定内だ。

受付番号が小児科外来の西村医師せんせいの診察室の入り口のモニターに表示されると、すっと立ち上がり、我先にといわんばかりに診察室のドアを開けて入っていった。

「あら、翔兵くん、久しぶ…。」

「おはようございます。先生、院内学級で勉強したいです。入院させてください。」

翔兵がやって来たことに驚いた表情かおを浮かべている西村医師せんせいが言い終わらないうちにラプンツェル野郎が切り出した。

「…よく、決心したね。じゃあ、いつから来ようか。」

「来週から入院します。」

明日や明後日じゃなくて大丈夫なんだろうか?気が変わりやしないだろうか?

「僕、ママと璃子と三人でスシローに行ってからがいいんだ。」

「スシロー、ですか。」


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