高校受験その1。
「はぁ?そんなことばっか言うんだったら、ソコの高校、受けるのやめる?」
将兵は真っ赤な目で首を横に振る。
「だったら、あと少しだよ。ここまで頑張ってきたんだから。」
将兵とはウチの長男。中学三年生。約二年という長い不登校の末、家族もすっかりあきらめていたところへ、全日制高校へ行こうと、遅れていた勉強を巻き返しての高校受験だ。
元気に通えるのであれば、通信制でもいいと、私も夫も思っていたし、本人にも伝えていたが、全日制に行くと決意し、頑張ってきた。志望校も自分で決めた。が、受験まであと数日と、目前に迫った深夜のこと、私が独りになるのを見計らってリビングにやってきて泣き出した。
冒頭のように突き放すようなことを言ったのには理由がある。こうして泣きにきたのは、これが初めてではない。それまでは本人の気持ちに寄り添うようにできるだけ話を聞くことに集中し、本人の気持ちを汲み取ってきた。しかし、あまり連日なのと、この日は特にひどかったのだ。後悔はさせたくないが正直、そんなに怖いなら、受けるのをやめることを私は選択させてもよいと思った。
将兵の腹は決まっている。「受かりたいが、受かる気がしない。」「受けるのを逃げたくないが、怖い。」
真っ赤な目をしているわが子に厳しいことを言うのもどうかと思ったが、活を入れることにしたのだ。
そして、試験当日。うなだれて帰ってきた。家に入ってくるなり泣き出した。
「すごく難しかった。もうダメだ。頑張って勉強したのに。」
試験の手ごたえが感じられないことで、休憩時間にも何度も泣きそうになったんだとか。涙をこらえて電車を乗り継いで帰ってきたのかと思うと、私まで涙が出てきた。
滑り止め、本命、第二志望と三日間の試験を終えた数日後。滑り止めと第二志望の合格通知が届いた。そして本命は半ばあきらめていたある日のこと。家に私だけのときに速達の封筒が届いた。本命の学校からの封筒だ。開ける前に封筒の厚さをそっと手で確かめる。わずかな厚みを感じた。
「もしかして…?」
不合格だったら、厚みなんてないはずだ。思わずペーパーナイフを手にした。
「…よ、かったぁ~!」
封筒から出てきたのは、合格通知、入学案内。そして振込用紙。
涙をボロボロと流して一人で声をあげて泣いてしまった私は、いつまで経っても泣き虫母ちゃんだ。
将兵は小学校後半から、五月雨登校を繰り返し、学校側とやりあったこともあった。教育委員会に助けを求めたこともあった。その末いったんは元気になったものの、再度の長い不登校をしたのである。そして、学校の授業の遅れを取り戻すべく勉強をしていたときの涙を見ていただけに感無量である。
よくやった、将兵。あの日の涙は無駄じゃなかったね。そしてこんなにボロボロ泣いている私の姿は、もうこのまま笑い話になりますように。
心からおめでとう。