第7話
「・・結局ケンドーは貴重な座学で爆睡してたニャ...ドラの目はごまかせないニャ」
ドラがジロッと睨む
俺がシャワーを浴びて少ししてから
遅れてドラは部屋に入ってきた
もちろん兵士に連れられて、だ。
当然こちらから部屋を自由に出ることはできない
どこの監獄だよ
聞くか...?
もうこの際猫だか犬だかどうでもいい
すがれるものには何だってすがりたい気分だ
「あの!ドラさん?」
一応下手に出ておこう
「ここから逃げ出したいんですけど、なんかいい方法あります?」
ドラはフーッと息を吐きヤレヤレだぜ、といった顔でこちらを見る
ていうかいちいちコイツ
一挙一動が人間くさすぎる...
「ドラの話を聞いていなかったのかニャ?脱出は現時点で限りなく不可能だニャ。ユータがいい例だったニャ。壁に穴を空けようとして...もちろん結果は話した通りニャ」
ああ、思いだした!
異世界ハーレムなんちゃらのヤツか!
...たしか魔法を試みたって言ってたよな
「その...明らかにヤバそうな<<終焉魔法>>ってのでもダメだった、ってことですか?」
「ニャ?<<終焉魔法>>は多分発動してたんじゃないかニャ?その後...なんで発動しないんだよ!こうなったらチートスキル<<闘神乱舞>>で壁ごと破壊してやる!とか言ってたニャ」
「その...明らかにヤバそうな<<闘神乱舞>>ってのでもダメだった、ってことですか?」
「ニャ?なんかしまいにゃあ体当たりしてたニャ。そりゃあんだけデカイ音出してりゃ...兵士もかけつけるってもんニャ....何の情報も持たされないまま一足先に戦場行きニャ...」
え?
戦場??
ちょっと理解がおいつかない
ドラはうつむき
「非常に悲しい出来事だったニャ...止めれなかった己の無力が腹立たしいニャ」
「つまりこの部屋の壁は異世界人のチートスキルでも破れない特殊な壁、とかいうやつですかね?」
「ニャ?多分フツーの壁ニャ?」
あれ?
ちょっとタイムタイム...
ドラはふと何かを理解したかのように話しかける
「ああ、ユータの魔法、スキルは名前だけの『飾りスキル』だったんだニャ。この世界はフツーに使用出来る<<アクティブスキル>>、使用できないけど常時効果を発揮しつづける<<パッシブスキル>>、ステータスに表示されるだけで何の意味もない<<飾りスキル>>、持っているだけでマイナスな要素を発揮しつづける<<呪いスキル>>の4種類があるニャ。魔法も似たようなもんニャ」
そしてドラはニヤリと笑い
「・・座学の基本ニャ。ちなみに<<飾りスキル>>、<<呪いスキル>>はステータス横にランクが表示されないニャ」
なるほど...あれ...
ちょっと不安になってきた
俺って元のステータスってどんなんだったか
たしか<<贋作>>でステータスをイジってなかったか...
なんといってもこの<<贋作>>
うわべの名前はどうあれ元のステータスが反映される仕様だった気がする
俺はステータス画面を呼び出す...
そして
『<<贋作>>済みです。解除しますか?』
職業、魔法、スキル、加護。全てに『はい』を押す
犬童誠一
職業:剣聖(C)
魔法:回復魔法(A)
スキル
贋作(C)
加護
なし
あ...
ランクがちゃんとあった
魔法、相変わらず使えないけど
これは職業的な不適合ってヤツか?
ていうか回復魔法Aランク!?
これ、相当いいんじゃ!?
「ニャハ。ケンドーは今もしかして不安になってステータスを見てるのかニャ?」
「見てるもなにもこの通り見てますけど...」
使えないAランクの魔法欄を若干ドヤ顔で指指しながら話す
使えないけど
「こっちからは見えないニャ。実はドラも今出してるニャ。ステータス画面は自分しか認識出来ないんだニャ。」
ドラはニヤリと笑い
「・・座学の基本ニャ。」
「あ...そうなんすか」
なんか対応が適当でもいい気がしてきた
「だからこそこの世界のスキル<<鑑定>>はチートスキルらしいニャ。他人のステータスを問答無用で覗けるとかやりたい放題ニャ。<<鑑定>>スキルがあれば7代に渡って遊べる財が手に入る、といわれてるニャ。ドラも異世界いく時これを取ってれば良かったニャ。ムム...でも<<叡智>>を捨てるわけには...」
「だからあの...トルネオとかいう鑑定士はあんな偉そうだったんすか」
「この世界は出生した新生児はその日のうちに鑑定されることが義務づけられてるニャ。鑑定士はウハウハだニャ。我々も召還されたあの日、デブに鑑定されてるニャ。バッジはもうもらったかニャ?」
「バッジ?ああ!なんかもらった!入院して3日目とかに...あったこれだ」
俺はポケットから
<<斥候>>
<<森魔法>>
<<疾走>>
と書かれた石のバッジを取り出す
小さなキーホルダーくらいのサイズで鎖で3連付けにされてある
3つ合わせてもポケットに入るサイズだ
「ププ...全部石ニャ。オールEランクニャ。うけるニャ」
そう言ってドラは笑いながら首に下げてるバッジをドヤ顔で見せてくる
なんかムカツク...
見ると
<<弓使い>>と書かれた金のバッジ
<<幻惑魔法>>と書かれた銅のバッジ
<<叡智>>と書かれた銀のバッジをぶらさげてる。
猫が弓って
「金のバッジ...ってすごくないすか?」
聞けば金バッジはBランクの証らしい
世界でもなかなかお目にかかれない超レアランクだ
これが異世界人に限っては例外で割にいるらしいが
Aランクにもなるとどれくらいスゴいんだろうか?
俺は期待に胸をふくらます
「すごいニャ。Bランクとか異世界者でもない限りそうそう無いらしいニャ。弓めっちゃ強いらしいニャ。逆に剣は弱いって言われてるニャ。ただドラは弓使えないニャ。」
「えっ?」
「えっ?」
2回言った
「ドラは弓を使えないニャ。」
「えっ?」
「・・ドラの体では見ての通り根本的に弓は使えないニャ。だいたい弓のほうがデカイとかなんの冗談だニャ」
「です...よね...」
腹を抱えて笑いたいところだがとりあえず我慢する...けっこうキツイ
「でも逆に助かったニャ」
「え?」
「異世界者はドラのように高ランク持ちが誕生しやすいらしいニャ。ドラが弓使えてたら即最前線の戦場行きニャ。そうなったら逃げるどころじゃないニャ」
ドラはフッと顔をすまし
「ケンドーが低ランクで良かったニャ...戦闘向け高ランクは戦場、それ以外の高ランクでも強制労働。珍しいランクホルダーなんかニャ実験場で一生モルモットニャ...」
「・・え?じ、実験場ですか?チートスキル持ちは国を挙げて歓迎されるとかじゃないんですか・・?」
「・・既に2人実験場に送られたニャ...」
は?
2人って...
初日のヤツラの中からだよな
俺はちょっと考え口を開く
「で...でも、実験場つってもココよりはマシですよね絶対。激レアなランク保持者ならいくらこの国といっても丁重に扱わざるをえないし...」
ドラはフーッと息を吐き
「うち1人は先日自殺したらしいニャ...どういうトコロかは大体予想がつくニャ?」
...え?
え??
自殺?
自殺ってあの自殺?
それから会話はパタッと止まり沈黙が長い時間支配する
異世界?
これが異世界??
先日脱走しようとしたヤツじゃないけど
チートスキルでハーレム俺TUEEEが異世界のイメージだと割りと本気で思いこんでた
初日のアレだってなんかの冗談で...
そして俺は自分のステータスを見てサーッと血の気が引いていく
回復魔法(A)。
これヤバくないか?
ランク通りだとしたら間違いなくモルモット行きの物件だ
というかAランク
ランク通り解釈すれば...
回復魔法がこの世界で日常的に使われて「ない」魔法、ぽいのもヤバくないか?
怪我、病気=死亡?
無理だ! 無理だ! 無理だ!
こんな世界無理だ!
帰る!! 家に帰る!!
・・どうやって?
俺は急に怖くなってきて...
この先の未来がすごく怖くなってきて涙がとまらず泣いた
猫とはいえ...猫の前で恥ずかしいはずが得もいえぬ不安が止まらずにはばからず泣いた
「ケンドー...なんか悪かったニャ...」
「帰りたい...戻りたい...おうちへ帰りたい」
「ドラだって帰りたいニャ...ご主人に会いたいニャ。きっと心配してるニャ。安心させたいニャ」
「お母さん、お父さんに会いたい。家族に会いたい....」
「ケンドー...こっちまで悲しくなってくるニャ...」
ドラは寂しそうにつぶやく
俺はムッとする
その余裕がある達観したようにみえた態度が腹立たしい
この世界の存在全てが腹立たしい
最悪の気分だ
「悲しい?なんで俺がこんな目にあわなくちゃいけないんだ!猫はいいよなーこの世界にきて喋れるようにまでなって!愉快だろう楽しいだろう?元の世界じゃただのペットがこの世界では俺より偉そうにしてるんだからなあ!」
心にもないことをあたりちらしたところで俺はハッとなる
コイツは...
存在が意味不明だけど、こんな俺にも色々しようとしてくれようとしてるのが痛いほどわかる
ニートでコミュ障のこんな俺に
またやってしまった...
いつも俺は空気を悪くしてしまう
「・・好きでこうなったんじゃないニャ!」
ドラは上げてた顔をうつむかせ声を張り上げ
「ドラだって不安でいっぱいで...ここから存在自体すぐにでも消えてしまいたいニャ!朝起きたらいつものようにご主人がヨコにいて...これが夢だったら、って何度考えたかわからないニャ!喋れる?愉快?そんなん元の世界のペットのほうがいいに決まってるニャ...寂しいニャ!悲しくてニャ!死んでしまいたいニャ!」
ドラもわめきちらす
会って間もないけど
いつも余裕で温和な雰囲気だったからこの時ばかりは驚いた
いや...
こいつも俺と同じだ
そうだ
こいつだって喋ったり仕草が人間くさかったり、猫のくせに俺に優しかったりするけど...
この世界風に言うと賢者の猫とか勇者の猫とかそんなのでもなんでもない
異世界に召還されたただの猫なんだから
年齢だって5歳とか10歳。そんなもんだろう
人間風にいうと子供だ
家に帰りたくないはずがない
俺はあたってしまったことをすごく情けなく感じた
ーーーーーー
それからしばらく元の世界での生活のことをドラと話し合った
ほんとにたわいもない日々の出来事だったことをすごく大事なことのように話し合った
「ウチのベッドで眠りたい...あったかいご飯が食べたい...」
「ご主人...ご主人...ドラは生きてます.....ニャオオオン!」
いつのまにか俺はもちろん、気付けばドラも泣いていた....んだと思う
その日は夜中まで2人で泣いた