第5話
「これは夢じゃないね」
「お前は今更何を言ってるのかニャ?」
目の前のグレーと黒の縞模様のトラ猫
現実世界ではキャットフードのCMにでも出ていそうな整った顔立ちの猫が不思議そうにつぶやく
あの「顔合わせ」から一週間経っている
あの忌まわしき召還された日
もう何がなにやら...
突然刺された人がいたかと思えばしゃべる猫はいるし..
クールイケメンさんはブツブツとふさぎこんでしまうし...
「...で、食中毒とやらはもう大丈夫かニャ?」
・・・そう。
あの後、食事が出されたんだ
食べ物は悪くなかったけど多分水が悪かったと思う
俺を含む大部分の人間がその場で腹痛を訴えたんだった
不安全開の中やっと食事...
のはずがこんな状況だから現場は軽いパニック状態だった
食事を給仕してたメイドっぽい人が
「ああ、やっぱ出たか」みたいな顔をしてたのが忘れられない
ここは危ない海外ですか?いや海外っちゃ海外なんだろうけど...
そしてその食事だが。
なんていうんだろう
俺らの立場がある意味一番思いしらされた要素になったかもしれない
多分この世界の彼らなりの「歓迎」だったのだろう
ごちそうっぽい体裁ではあるが出る料理、食器は貧相にして質素
味もひどく薄かった
貧しい海外の国で出されそうな「奴隷用」のごちそう
...とでもいうんだろうか?
将軍、鑑定士といった偉そうな人達はそそくさと別室にいった
恐らく俺らとは比べものにならない料理を口にしているんだろう
「こんなの...想像してたファンタジーと違う...」
「ニャハハ。鍛え方が弱いからそうなるのニャ。」
対面の猫は口を開けて笑う...
その後キッ、と真顔に戻り...
イヤイヤ
「これはファンタジーでも夢でもないニャ。我々は異国の地になんの情報も持たないまま召還された。...いや。拉致された、とでもいったほうが的確かニャ」
イヤイヤ
「女将軍に刺された男を見たかニャ?女将軍に遊ばれてたヤツを見たかニャ?あれは効いたニャ。一瞬、異世界だニャ!ドラ様のハーレム俺TUEEE英雄譚の始まりだニャ!って思った自分が恥ずかしいニャ」
イヤイヤ
「あれで一気に目が覚めたニャ...」
イヤイヤイヤ...
違和感無さすぎで突っ込むタイミングを見失ってるわけだけど...
こいつが一番のファンタジーなんだが...
「あの...猫さん...」
「猫?ああ、自己紹介がまだだったニャ。米沢ドラ。これがドラの名前ニャ。ドラって呼んでくれニャ。これも同室の縁ニャ。仲良くやろうニャ」
その後、猫...ドラはふと一瞬考えうつむき、改めてこちらを見る
「いや。仲良く、じゃだめニャ。ドラは何に変えても元の世界に戻りたいニャ。そのためには異世界人...ケンドーやその他の者とかつてない信頼を結ぶ必要があるニャ」
「はい。分かりました。ドラさん」
...なんてなるわけねーだろ!
まず
なんで猫がしゃべってる??
せめてそこからでお願いします!
あんたの名前とか信頼とかひとまず置いといて...
そこからですよ! 初めの第一歩は
「ムフフ...やはりまだ信用しきれない...といった顔ニャ?ケンドーが病室で臥せっている間、ドラは1週間この世界の情報を着々と集めていたニャ。困ったことがあればなんでも聞くニャ。<<加護>>持ちのケンドーよニャ」
ーーここしかない!俺は意を決し口を開く
「あ、あの!一ついいですか!?」
「フム...質問を許可するニャ」
やっと...聞ける!
1週間越しのあの疑問がついに!
「なんで猫がしゃべーー」
ガシャン!!
その時隣の部屋だろうか?
大きな物音が鳴り響く
「フム...そろそろ別部屋でもこういうことも起きるとは思っていたニャ...」
は?
別部屋?
ドラが遠い目をして話しかける
「この部屋は元々4人部屋なんだニャ。ほらベットが4つあるニャ...ケンドーより1日早く退院したユータは...ドラの制止もむなしく...魔法<<終焉魔法>>で脱出を試みたニャ...この牢獄のようなとこから抜け出して外でハーレム俺TUEEEしてやるぜ!って言っていたニャ...短髪が印象的なやんちゃそうな小僧だったニャ...」
「え?脱出?ここから抜け出せるんですか?」
「結果は...失敗だニャ...」
クッ、とドラは顔を横に向け目を閉じる
「...まさか...死んだ!?」
「イヤ、死んでないニャ」
「死んでないのかよ!!」