残酷で非情な天使
※注:人が死にます。
まぁ、黒くはないので、苦手な方は少ないと思い ますが、読む場所、時間を考えてお読みくださ い。尚、普通な殺人事件と変わらない程度ですの で、さほど心配する必要はないかと思います。
「さて、今日はどなたかなー。俺を……」
そして声が小さくなっていき、やがて聞き取れなくなった。
しかし誰かがつぶやいた。
誰がつぶやいたのだろう。
人間ではない『何か』
そして人間の肉眼では見ることができない『何か』
いや、人間の肉眼では見ることができないように姿を調整している『何か』
異世界から来た『何か』
そしてひとつだけ願いを叶えてくれる『何か』
確か……天使とでも言うんだったっけ?
でも似ているのは願いを叶えてくれるところだけ。
願いを叶えてくれるというこの『何か』は天使とは違って冷酷で非情。
求められれば叶えてあげるけど一つだけ。
そしてその結果何が起ころうとも、願いさえ叶えばいいのだ.
また結果に陥るまでに何が起ころうとも願いさえ叶えばいい。
『何か』とはそういう奴だ。
───たとえ願った本人が二度と動けない身になろうとも───
「願い事を叶える?……なるほどね。条件は何?毎日学校に行くこと、クラスメイトと仲良くすること、それとも……。」
『何か』がある少女と話していた。
どうやら少女は不登校らしい。
「もしもあなたが本当に願いを叶えることができれば、まずその力を見せてみなさいよ。」
少女は強気で言った。ごく当たり前の反応だが『何か』の言っていることを信じていないから。
「そうね、無茶なことを言って意地悪をしてあげてもいいのだけれどかわいそうだし。
そうね、なら学校を理想郷にしてみてよ。悪口や陰口のない、決して隠すことのない明るい学校。まぁ、そんなのありえないんだから。それができたら、親や先生の言うことを聞いてあげてもいい。」
少女は『何か』に向かって強気で言った。
確かに不登校少女の言ったことをそのまま、ストレートに捉えれば無理だろう。
人と付き合う以上そんなことができる可能性は皆無。
やっぱり人間は皆信じていない。
当たり前だ。
そして『何か』のことを、この不登校少女も信じていない。
もちろん信じているのなら、そしてこの言葉の裏の意味に気づいたならこんな言葉言えるはずもないが。
だからこそ、不登校少女は『何か』に向かって口にすることの重大さもまだ知らない。
『何か』は意味深な笑みを浮かべ、毎回恒例の決め台詞のようなものを口にした。
「契約完了、取り消し不能。後悔したって知らないぜ。これからは俺の楽しい時間が始まるんだ。俺がお前を、この世界を優しく弄んでやるよ。」
不気味な声でそう言ってから『何か』は姿を消した。
数日後、あるニュースが報道された。
新聞の一面には『女子高生、塾帰宅中に何者かに誘拐』そう書かれた。
そしてテレビでも放送されている。
『昨晩、塾から帰宅中であった○○さんが誘拐されたようです。犯人はいまだ明らかになっておらず警察は依然……』
「はあ、またか。ちょっと由梨、あなたも気をつけなさいよ。……ちょっと、聞いているの?」
「うん、わかっているって。それにしてもこの頃この手のニュース多いね。」
そんな会話が親子で繰り返される。
日本の食卓を覗けば同じような反応が返ってくるだろう。
『またひとさらいか……』
と。
もちろん例の不登校少女もこのニュースを見ていた。
「ふーん、事件がおきたのって□□市か。割と近くなんだ……。」
不登校少女はそうつぶやいた。
感情のない乾いた声で一言。
事件の起こっているのは不登校少女の住まう市なのに。
10日後。
どこに行っても□□市の連続怪奇事件の話で持ちきりだった。
最初のころは確かに誰もが聞き流していたニュース。
怪奇なところはいくつかある。
1つ目は事件の起こっている範囲が1つの中学校の女子生徒に集中していたこと。
2つ目は事件の起こった日が今月の13日、18日、23日だったということ。
つまり、5日置きに遭っているということ。
3つ目は同犯人の連続殺人の可能性が高い事件なのに3件とも凶器がそれぞれ違ったということ。
もちろん最初の誘拐事件も次の日に死体が発見されている。
それも入手が困難な道具で。3件目に至っては死因さえわかっていない。
どうせ私の同族がやったことだろう。
不登校少女の願いをかなえるために。
どうせ、凶器を変えたのも、五日置きに事件を起こしたのもただの遊びだろう。
人の命を簡単にもてあそぶ。
あれは冷酷で非情な天使ではなく、一つだけ願いをかなえる悪魔なのだろうと思う。
しかし、遊び方が甘い。
いつもであれば絶望をもたらすほどの……。
まあ、『あれ』が力をふるうときは甘いぐらいがちょうどいいのだから、無視しよう。
いつもは五人以上殺すような、人間の心を弄んで楽しむ奴なのだから。
「あぁ面倒だ、あぁつまらない。」
そんな言葉を永遠に、無意味に繰り返しながら私の同族が帰ってきた。
それは最初の事件から十一日後である。
同族は私のほうに寄ってきて一言。
「人間とは愚かだ。」
そう、ボソッと呟いた。
「願いなんて叶えなければよかった。」
そうも呟いた。
いつもそうだ。
私の同族は人間がどんなに愚かな生き物なのかを知っていて、
そして人間と付き合うことにうんざりしていて、
願いをかなえた後には後悔することさえも知っている。
それでも叶える。
異常なほどに周りを気にし、責任が取れないような言葉を軽々しく言う、
そんな人間のために。
その後事件のあった学校、いや不登校少女の在籍するクラスには悪口を言うような人たちはいなくなった。
彼女のクラスには悪口や陰口は存在しない。
なぜって彼女のクラスには、彼女以外いなくなったのだから。
クラスメイトの中でも主格だった奴らは事件に遭遇した。
それ以外のやつらのほとんどは学校から姿を消した。
あるものは親戚の家に行き、あるものは転校した。
そして彼女のクラスには彼女以外いなくなった。
まあ、あたりまえのことだろう。
我が子を怪奇事件の出没しているクラスにいつまでも通わせておくわけにはいかない。
まあ、この三件の事件が同じクラスの生徒だったことは関係者以外には秘密だったが。
彼女は当たり前のごとく口にする。
「私はそんなこと願ってなかった。クラスの子を殺してほしいなんて……。」
『何か』が願いをかなえた後にはだれだってそう繰り返す。
人間はなんて愚かな願いをもつのだろう。
願いなんか叶ってしまったら後悔するくせに。
「なぁ、啓太はもしも一つだけ願いがかなうんだったら何を願う?」
「そんなの決まってるじゃん。いっぱい願いをかなえてくださいって願うんだよ。」
二人の小学生が下校中に会話していた。
そしてその光景を見ていた『何か』はつぶやく。
「そういえばあのガキと同じ願いを言って自爆したやつがいたっけ…。」
「さて、今日はどなたかなー。俺を後悔させてくれる愚かな人間さん。」
またひどくつまらない日常が始まる。
いかがでしたでしょうか?
人間のつまらぬ欲望と、それを願う愚かさをテーマとした小説です。
作品に対して、もしくはこのテーマに対してご意見ご感想どうぞ。
ちなみに『何回でも願いをかなえてください』と願った人が自爆したと書いてありましたが、再び短編として投稿予定です。