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会場入り

控え室に戻ると、ちょうどトヨオゲ組の他のメンバー達が、退出しようとしていたところだった。


「遅いわよ、陸海! 緊張でお腹の具合とか、気分とかが悪くなったなんて、そんな情けないことじゃないでしょうね!?」

「だが、本当にさっきより、少し調子が良くなさそうに見えるぞ。大丈夫か?」


トヨの非難めいた叱咤(しった)を抑えて、百萌が怪訝(けげん)そうにこちらを覗き込む。

 共に不安そうな視線を向ける二人に、俺は駆け寄ってきたいろりを抱きとめつつ、(つくろ)った笑みから心配は無いと返した。


 トイレでの場外乱闘の件は、彼女達には話さなかった。

 あれがワカメ頭の指示によるものか、はたまた金髪野郎の独断なのかは、分からない。

 だが、直接の挑発と被害を受けたのは俺だけであり、他の面子(めんつ)はそれを知りもしない。

 であれば、受けた借りは、その本人が返せば良い。

 わざわざ、試合の直前に妙な波風を立てて、他の人まで浮き足立たせる必要はないというのが、俺がトイレから帰るまでの間に下した結論だった。

 もっとも、すぐ後に施設側から損害請求が来たら、そんな配慮など無意味だが。


 そうした考えを巡らせていた俺を怪しむ素振りもなく、トヨはさっさと話を切り上げ、全員を急き立てる。


「じゃあ、やっと陸海も戻ってきたことだし早く会場に行くわよ! もう開会の儀まであまり時間はないし、遅刻から不戦敗扱いになんかでもされたら洒落(しゃれ)にならないわ!」


 切羽詰った面持ちで先を行く彼女に、俺達は慌てて後へと従う。

 道中、最後尾の方から冷徹(れいてつ)な隻眼の視線が、俺の後頭部を常に射さして続けていた。

 相手の嘘や誤魔化しを剥ぎ取ろうとするかのようなその眼光を、俺は背負ったいろりという肉壁で、どうにか防ぎ切るしかなかった。


 そうして、背後からの圧に押されながら、前を走る少女達の背中を追い続けること、一分足らず。

 行く手にあった曲がり角を越えた瞬間、急に目の前が開け、(まばゆ)い光に包まれる。

 (ひる)んだ俺は足を止め、細めた目で正面を睨む。

 そこには、城の天守閣の屋根に似た、巨大で荘厳(そうごん)な外観の物体が浮かんでいた。


 まるで和風UFOといったその飛翔体の下には、サッカー場を一回り小さくしたような、正方形をした石畳の床が敷かれている。

 俺の胸もと程の高さがある広い台座は、その白磁のような色彩とは好対照な、墨を流して固めたような地面の上に置かれている。

 二色に塗り分けられた足場の周囲には、金の留め具が嵌められた高い木製の壁と、()(ばち)状に上へと昇る無数のベンチが見渡せた。

 

 頭上には、(まば)らに散った白雲の中央に、真円の太陽が輝く蒼穹(そうきゅう)が、天井一面に描かれている。

 そして、青いドームの内壁に乗せられたその絵は、まるで本物の大空のように揺らめき、燦々(さんさん)とした陽光を投げ降ろしていた。


 偽物の天空と、パンダの色合いをした大地に挟まれた、広大なスタジアム。

 どうやら、この摩訶不思議な場所が、これより行われる組座戦の会場となる、第柒奉技場(ななほうぎじょう)であるらしかった。


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