表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/42

トヨの采配

 抽選の結果を受けた俺達は、割り振られた控え室へと移った。

 試合開始の正午まで、まだ二時間近くある。

 その間に、各自の組座は試合ごとの出場者の決定や、作戦の組み立てなどの準備を進めるようだった。


「さてと、皆も聞いていたわね? 今回の組座戦の内訳は、剣戟戦、幻合戦、極相撲の三つよ。私達の組座には実質三人しか戦える人はいないから、一番相性が良さそうなのに、それぞれ割り振っていくしかないわ」


 畳敷きの広間へと上がるなり、トヨは俺達を振り返って声を張り上げる。

 上座で仁王立ちしながらこちらを睥睨(へいげい)する彼女に、胡坐(あぐら)の上へと背を向けて乗るいろりの頭越しに、俺は手を上げて質問する。


「なあ、その前に、例の三つの試合がどんなのなのか、教えてくれないか? 中身もやり方も分からないままじゃ、こっちは何の準備もできやしない」

「そうね、じゃあ後で極相撲の形式や規則、ご法度(はっと)とかについて教えるわ。他の二つについては、あなたが出る訳でもないし、試合を観ながらでも感嘆に説明するから」

「え、極相撲はムツがやるなのか!? あれって、力比べみたいなもんだから、私が打って付けだと思うぞ!」


 どうやらトヨの中では、既に俺は極相撲なる競技に割り当てられているらしい。

 不意に明かされた内定の情報に、百萌は降ろしかけていた腰を浮かせて反論する。

 決定の内容へと不満の声を上げる彼女に、トヨは決然として首を横に振った。


「確かに、怪力を異能を持つあなたが、普通に考えれば適役ではあるわ。だけど、私達には人員的な余裕は無いの。だから、今回は『誰がどれに最も合っているか』じゃなくて、『誰がどれに入った方が一番不都合が無いか』を重視しないといけないわ。例え、一戦はある程度余裕をもって勝てたとしても、後の二戦がぼろ負けになったら意味はないでしょ?」

「すげえな、お前、ちゃんと考えてんだな。まるで、俺達の頼れる組頭みたいだぞ」

「えへへ、そうでしょ……って、私は本物の組頭だっての!!」


 俺からの茶々に若干ペースを乱されながらも、彼女はすぐに気を取り直し、メンバー配置についての案を披露し始めた。


「まず剣戟戦だけど、これは百萌、あなたに担当してもらいたいわ。剣技を争うこの競技には、刀なんて握ったこともなさそうな陸海には、まず振り当てられないわ。一応確認するけど、陸海あなた、あっちの世界では剣の達人だった訳じゃないわよね?」

「不肖ながら拙者(せっしゃ)、心の剣だけはいつも研ぎ澄ましているでござる」

「はいはい、無いわよね。だから、刀の扱いも心得ているあなたに、これを受け持って欲しいの。助っ人に先鋒を任せてしまうっていうのは、こっちとしても心苦しくはあるんだけど…………」

「そうか、なら分かったぜ! 私が初めに勝ち星を上げて、ムツやクロにも勢いを付けてみせるぜ!」


 切実な面持ちとなって頼み込むトヨに、あっさりと百萌は二つ返事で承諾する。

 彼女の切り替えの早さに舌を巻きつつ、俺はふと疑問を抱く。


「おい、剣の上手さを競うっていうのなら、玄月はどうなんだ? 別に、百萌の腕前を疑うつもりはないが、(うち)の中で一番そっちが強そうなのは、あいつな気がするんだが」

 

 正直、玄月を褒めて持ち上げるつもりはない。

 ただ、確実な勝利のために万全を期すのであれば、彼が剣術っぽい試合とやらに出るのが、最善の策のように思えたのだった。

 

 そんな俺からの提言に、しかしトヨはこちらを薄ら笑いで見下ろし、小さく鼻息を漏らす。

 さながらそれは、不出来な生徒の愚問に呆れる、勝気な新任教師を連想させた。


「あのね、そんなことくらい私も分かってるわ。今回の組座戦で二戦目に入っている、幻合戦。これは簡単に言えば、幻の大軍を率いて戦う、戦術や軍略の知識が必要な競技なの。当然、そこではただの戦闘技術よりも、戦局の把握や、全体指揮の手腕が問われる。そして、それには以前の世界で武将として実戦を経験している、玄月に出てもらうのが一番なのよ。あなたも、異存はないわよね?」


 トヨからの問いかけに、部屋の隅で壁に背を預けて座っていた本人は、無言で答える。

 いつも通りの無反応に、トヨは満足気に頷いていた。


「じゃあ、これで決定ね! 剣戟戦は百萌、幻合戦は玄月! そして、最後の極相撲は陸海にそれぞれ出てもらうわ! これなら、最初の二人で上手く事を運べれば、経験の浅い陸海が出る必要が無くなるかもしれないし、我ながら最良にして最高の策ね! うん!」


 最後に威勢の良い物言いで、トヨは結論を全員へと言い渡す。

 持論の完成度へと高くなった彼女の鼻を、俺は相手に悟られないよう、憮然として睨む。

 大きく首を後ろに反らし、仰向けの姿勢で不思議そうにこちらを見つめるいろりだけが、俺の放つ刺々しい気配に気付いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ