トヨの采配
抽選の結果を受けた俺達は、割り振られた控え室へと移った。
試合開始の正午まで、まだ二時間近くある。
その間に、各自の組座は試合ごとの出場者の決定や、作戦の組み立てなどの準備を進めるようだった。
「さてと、皆も聞いていたわね? 今回の組座戦の内訳は、剣戟戦、幻合戦、極相撲の三つよ。私達の組座には実質三人しか戦える人はいないから、一番相性が良さそうなのに、それぞれ割り振っていくしかないわ」
畳敷きの広間へと上がるなり、トヨは俺達を振り返って声を張り上げる。
上座で仁王立ちしながらこちらを睥睨する彼女に、胡坐の上へと背を向けて乗るいろりの頭越しに、俺は手を上げて質問する。
「なあ、その前に、例の三つの試合がどんなのなのか、教えてくれないか? 中身もやり方も分からないままじゃ、こっちは何の準備もできやしない」
「そうね、じゃあ後で極相撲の形式や規則、ご法度とかについて教えるわ。他の二つについては、あなたが出る訳でもないし、試合を観ながらでも感嘆に説明するから」
「え、極相撲はムツがやるなのか!? あれって、力比べみたいなもんだから、私が打って付けだと思うぞ!」
どうやらトヨの中では、既に俺は極相撲なる競技に割り当てられているらしい。
不意に明かされた内定の情報に、百萌は降ろしかけていた腰を浮かせて反論する。
決定の内容へと不満の声を上げる彼女に、トヨは決然として首を横に振った。
「確かに、怪力を異能を持つあなたが、普通に考えれば適役ではあるわ。だけど、私達には人員的な余裕は無いの。だから、今回は『誰がどれに最も合っているか』じゃなくて、『誰がどれに入った方が一番不都合が無いか』を重視しないといけないわ。例え、一戦はある程度余裕をもって勝てたとしても、後の二戦がぼろ負けになったら意味はないでしょ?」
「すげえな、お前、ちゃんと考えてんだな。まるで、俺達の頼れる組頭みたいだぞ」
「えへへ、そうでしょ……って、私は本物の組頭だっての!!」
俺からの茶々に若干ペースを乱されながらも、彼女はすぐに気を取り直し、メンバー配置についての案を披露し始めた。
「まず剣戟戦だけど、これは百萌、あなたに担当してもらいたいわ。剣技を争うこの競技には、刀なんて握ったこともなさそうな陸海には、まず振り当てられないわ。一応確認するけど、陸海あなた、あっちの世界では剣の達人だった訳じゃないわよね?」
「不肖ながら拙者、心の剣だけはいつも研ぎ澄ましているでござる」
「はいはい、無いわよね。だから、刀の扱いも心得ているあなたに、これを受け持って欲しいの。助っ人に先鋒を任せてしまうっていうのは、こっちとしても心苦しくはあるんだけど…………」
「そうか、なら分かったぜ! 私が初めに勝ち星を上げて、ムツやクロにも勢いを付けてみせるぜ!」
切実な面持ちとなって頼み込むトヨに、あっさりと百萌は二つ返事で承諾する。
彼女の切り替えの早さに舌を巻きつつ、俺はふと疑問を抱く。
「おい、剣の上手さを競うっていうのなら、玄月はどうなんだ? 別に、百萌の腕前を疑うつもりはないが、家の中で一番そっちが強そうなのは、あいつな気がするんだが」
正直、玄月を褒めて持ち上げるつもりはない。
ただ、確実な勝利のために万全を期すのであれば、彼が剣術っぽい試合とやらに出るのが、最善の策のように思えたのだった。
そんな俺からの提言に、しかしトヨはこちらを薄ら笑いで見下ろし、小さく鼻息を漏らす。
さながらそれは、不出来な生徒の愚問に呆れる、勝気な新任教師を連想させた。
「あのね、そんなことくらい私も分かってるわ。今回の組座戦で二戦目に入っている、幻合戦。これは簡単に言えば、幻の大軍を率いて戦う、戦術や軍略の知識が必要な競技なの。当然、そこではただの戦闘技術よりも、戦局の把握や、全体指揮の手腕が問われる。そして、それには以前の世界で武将として実戦を経験している、玄月に出てもらうのが一番なのよ。あなたも、異存はないわよね?」
トヨからの問いかけに、部屋の隅で壁に背を預けて座っていた本人は、無言で答える。
いつも通りの無反応に、トヨは満足気に頷いていた。
「じゃあ、これで決定ね! 剣戟戦は百萌、幻合戦は玄月! そして、最後の極相撲は陸海にそれぞれ出てもらうわ! これなら、最初の二人で上手く事を運べれば、経験の浅い陸海が出る必要が無くなるかもしれないし、我ながら最良にして最高の策ね! うん!」
最後に威勢の良い物言いで、トヨは結論を全員へと言い渡す。
持論の完成度へと高くなった彼女の鼻を、俺は相手に悟られないよう、憮然として睨む。
大きく首を後ろに反らし、仰向けの姿勢で不思議そうにこちらを見つめるいろりだけが、俺の放つ刺々しい気配に気付いていた。




