稜雲殿での抽選会
重厚な両開きの扉を潜ると、白い光に覆われた巨大なエントランスホールだった。
大理石のような白石が敷かれた床は、見渡す限りに広々と続いている。
丸みを帯びた高い天井は、どういう仕組みか、陽光に似た淡い光を投げ降ろしている。
それを支えている延々と続く太い木柱の間には、大勢の人影が溢れていた。
街を行き交う人々よりも張り詰めた、如何にも戦士然とした雰囲気を帯びた彼らは、通路に沿って立てられた幾つもの掲示板を眺めている。
横長の板の上には、文字や絵などが書き込まれた紙が、所狭しと貼り付けられている。
どうやら、そのA4程の大きさの用紙こそが、神託とかいうクエストらしきものの告示であるようだった。
「なぁ、あのたくさんの紙って、仕事の募集とかのお知らせなんだろ? 見た感じ、けっこう数はあるみたいだし、あそこから選んで受ければ、別に金とかには困らなかったんじゃないか?」
「あのね、稜雲殿で出されている神託っていうのは、一定の功績を重ねて、ある程度の階級に上がった組座でないと受けられないのもあるの。それと、特定の組座を指定した、特殊な内容のもあったりするから、全部が全部受けられる訳じゃないのよ」
「なるほどな。つまり、俺達は受けられる神託も少ない弱小組座で、指名してもらえる程に名前も知られてないってことだな」
「確かに間違ってはいないけど、身内から改めてそう言われると、余計に辛いわね…………」
現実を知ったトヨが妙に意気消沈する中、俺達は道を右へと折れて、天井の低い通路へと入っていく。
そこから、同じような風景の大広間を六回近く通過した後。
通路の陰から出た俺達を、先行していたウカマド一味が、わざわざ横へと列を作って出迎えてくれた。
「遅いぞ、トヨ君! 実戦を前に、私の組座への脅威を新たにするのは分からないでもないが、既に予定の刻限も間近に迫っている。早く、試合前の籤を引くとしようではないか!」
「はいはい、済みません。すぐに行きますよっ、と…………」
朗々と張り上げた声で窘める彼に、トヨは俺達をその場に待たせ、一人で歩み寄っていく。
ウカマドが待っていた広間には、奥の扉の前を遮る位置に、受付らしき場所があった。
木造のカウンターの中には、白の小袖に緋色の袴の女性が、二人並んで立っている。
共に、長髪を白紙の筒で後ろにまとめた彼女達は、目の前に進み出てきたトヨとウマカドへと、澄んだ微笑みを向けた。
「おはようございます。本日の正午より執り行われます組座戦の、双方の組座の組頭で在らせられます、宇迦真途命様と、豊尾刈比売様でございますね?」
向かって右の受付嬢が投げた問いに、二人は同時に首肯を返す。
それを認めたもう一方の女性は、おもむろに台の下より六角柱の形をした箱のような物を二つ、両腕に抱えて取り出した。
「では、試合に先立ってこちらの籤筐によって、組座戦の内容をお決め頂きます。今回の形式は三本勝負であると承っておりますので、それぞれ三回お振り頂きます。『かな』と『かず』、どちらの筐を、どちらがお振りになりますか」
「僕は、どちらでも構わないさ。トヨ君、好きな方を選び賜え」
「どっちでも変わらないと思いますけど……じゃあ、『かな』の方で」
あっさりとしたやり取りを経て、二人はそれぞれ渡された箱を胸前に掲げる。
そして、部屋中が固唾を呑んで見守る中、彼らはそれをタイミングを合わせて逆さに回した。
反転された箱からは、上部に開けられた小さな穴より、一本の細い棒が飛び出る。
「私のは、『と』ね」
「僕の方は、『拾肆』だ」
棒の先端に書かれた文字を読み上げる二人に、申告された文字と数字を受付嬢の片方が控え、もう片方は後方の棚から何かを探し始める。
それと同じ行為が、続けて二回行われた後。
箱をカウンターの上へと戻した神様達が、それぞれの組座へと戻ったのを見届け、再び並び立った受付嬢達は恭しく頭を垂れた。
「では、籤引きの結果をお伝えします。並びとしましては、初めは『と』の『拾肆』、次に『く』の『玖』、最後が『い』の『壱』となりました」
「なので、今回の組座戦の構成としましては、籤棚から符合する組み合わせの物を上げた結果、第一戦が『剣戟戦』、第二戦が『幻合戦』、第三戦が『極相撲』となりました。皆様の健闘を、お祈り申し上げます」
彼女達の息の合った宣告に、広間にはどよめきが広がった。
離れた位置にあるウカマドの組座からは、当惑や悲嘆、歓声が混然となって届いてくる。
一方、通知を耳にしたトヨも、難しい表情となって小さい唸り声を漏らす。
「内訳としては、無難といったところかしらね…………。新生者でないと厳しい競技が選ばれなかったのは、幸運としか言いようがないけど―――― 」
「極相撲か、良いな! やっぱ力比べとなったら、私の出番か!?」
謎のクジ引きの結果を受けて、トヨは思いを巡らせ、百萌は瞳を輝かせ、玄月は沈黙を保っていた。
三者三様の反応を見せる彼らを横に、全く話が理解できない俺は、じゃれついてくるいろりの両頬を軽く抓って暇を潰していた。
「って、あんたも遊んでないで、真面目に話ぐらい聞きなさい!!」
場の空気を読まない手下に、弱小チームの若い女神は、容赦のない鉄拳を振り降ろした。




